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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第19章…柚希とカラオケデート

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デュエットで愛を誓う

 そして、次は俺が歌う番だ。

柚希からマイクを手渡される。柚希が使っていたマイクを俺が持つというだけでも心臓の反応がうるさい。


「頑張ってね、柊斗!」


柚希はとても嬉しそうだ。ものすごく期待されているのがわかる。俺も嬉しいけど緊張も高まる。


友達いなくてカラオケに誘われる経験もなかった俺は、人前で歌った経験なんてないと言っていい。

まあ間違いなく歌が下手であろうというのはわかる。前世で家で1人でノリノリで歌ってたら父親に『うるさい!』って言われたことがある。聴くに堪えない不快な歌声だったんだろう。


そんな俺の歌を柚希に聴かせて大丈夫なんだろうか、という不安はある。しかし歌わない選択肢などない。どんなに下手でもこの状況で歌わないのは空気が読めない奴だ。


頑張って歌う。恥ずかしがってロクに声が出ないというのだけは避けたい。自分の全力を出し切る。



タッチパネルを操作し、曲を選ぶ。

音楽のラインナップが前世とあまり変わらないんだから、知ってる曲がなくて詰む、なんてことはないはずだが……

最近の流行りの曲とかに疎い俺ではあるが、それでも知ってる曲は少しはある。


何を歌おうか……カラオケ初心者のこの俺が、歌うならこの曲!! みたいな十八番があるわけもなく、悩む。

せっかく柚希が聞いてくれるんだから、選曲にもベストを尽くしたいという思いから余計に悩む。


せっかくだから俺も『ツンデレお嬢様と幸せになる話』の曲を歌うってのも選択肢にあったんだが、あれはみんな女声優さんたちの歌で、バリバリ女の子の歌って感じで、俺が歌ったら曲を汚してしまうんじゃないかって思った。別にそんなの関係なく歌う人は歌ってるってのに、我ながらバカみてぇなオタクだ。



「柊斗、歌う曲は決まった?」


ハッ……!



柚希はメロンソーダをストローで飲みながら無邪気な瞳を俺に向けてきた。

一瞬でも柚希が使っているストローになりたいなんてことを考えてしまった俺は本当に時と場合をわきまえないカスだ。


それより、柚希を待たせてしまってるだろうが、早く曲を決めろ。優柔不断は嫌われるぞ。



 俺が選んだ曲は、めっちゃ歌いやすい曲だ。学校の授業でも何度か歌ったことがあるヤツだ。まあ、ハッキリ言って安パイに逃げた。この曲なら下手な人でも大きな失敗をすることはないだろう。その代わりこの曲じゃ女の子をメロメロにすることもできないだろうけど。


とにかくさっさとミュージックスタートだ。



ピッ


~~~♪



「わぁ、懐かしい!」


柚希の反応もいい感じだ。この曲を選んでよかった。ドキドキする心臓を抑えながら大きく息を吸って、さあ歌うぞ。

さあいけ俺、声を大きく出せ!



『ボエェ~~~♪』



声を大きく出すのやめとけばよかったと、歌い始めた瞬間に後悔した。そんなにテンション高い曲じゃないし、控えめに歌えばよかった。


俺の歌は控えめに言ってドブの水のようだった。あくまで自分の感想だが本当にひどい。下手なのはわかってたけどここまでとは。栗田柊斗のイケメンボイスを持ってしてもここまでひどい歌になるのか。俺の魂穢れすぎなのかな。


こんなにひどい歌を柚希に聴かせてしまって申し訳ない……申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら歌ってる途中にチラッと柚希を見た。


柚希はものすごく笑顔だった。いつも笑顔を絶やさない女の子ではあるが、特に笑顔だった。



 曲が終わった。歌いやすい上に短い曲であったが、それでも俺の歌はドブの水であった。



パチパチパチ


柚希から大きな拍手が沸き起こった。



「すごかったよ柊斗! 本当にすごかった!」


「あ、ありがとう」



俺の歌が()()()()とは言わない。柚希はウソは言わない。まあ点数の表示も無慈悲だしな。

でも柚希の言葉は心に沁みてとても嬉しかった。歌うの不安だったけど歌ってよかった。




 その後も俺たちは交代で何度か歌う。俺もようやく慣れてきた。



「歌ってると喉乾いちゃうね」


「そ、そうだな」


そう言いながらメロンソーダを飲む柚希が妖艶で俺は見惚れる。



「柊斗も飲む? メロンソーダ」


「い、いいのか?」


「もちろん。はい、どうぞ」



俺に差し出される、柚希の飲みかけのメロンソーダ。

柚希の唇に接触していたストローが、俺の目の前に……かなり近い。


心臓バクバクになりながらも、ストローにそっと口をつけて、少しだけ飲んだ。



「おいしい?」


「あ、ああ……おいしいよ、ありがとう」



柚希との関節キス……この甘さはメロンソーダだけの味ではない。

俺はこの味を一生忘れない。



「キスはもう何度もしてるのに……なんだかすごくドキドキしちゃうね」


「あ、ああ……そうだな」



上目遣いでまっすぐ見つめてくる柚希の瞳が、この世の何よりも蕩ける甘さ。柚希が思ってるより100倍以上、俺はドキドキしている。




 「あ、そろそろ終わりの時間だね」


「え、もう?」


60分コースだったけどあと5分で終わりか……あっという間だったな。



「ね、柊斗。最後はデュエットしない?」


「! ああ、やる!」



最後に2人でデュエット曲を歌って終わりにすることにした。

俺たちは並んで手を繋ぐ。2人の共同作業な感じがする。2人で選んだ曲が始まった。曲はガッツリなラブソングだ。



『~~~♪』


柚希が歌う。天使の歌声である。



『ボエ~~~♪』


次に俺が歌う。ゲロの歌声である。


どう聴いても俺が足を引っ張りまくって釣り合ってない、あまりにも。人に聞かせたら男いらねぇって絶対に言われる。


こんな俺の歌声でも、柚希の可愛い歌がしっかりカバーする。俺の歌が足を引っ張る分も補って余りあるほど、柚希の歌は美しく素晴らしかった。

柚希の声と相性良すぎだなぁこの曲。柚希の魅力を最大限に引き出し、となりで歌う俺も彼女の歌で悩殺された。



『愛してる♪』


ドキッ


柚希はこっちを向いて俺をまっすぐ見つめながら愛の歌詞を歌う。



『……ぁ……愛してるっ……♪』


柚希の熱い視線に心を奪われ、俺は一瞬歌うのも忘れてしまった。

ハッとして、遅れながらもなんとか歌を続けた。



『ずっとずっと、永遠に、愛してる♪』



一番盛り上がるところでハモらせる。俺の心も一番暖かく熱く盛り上がる瞬間だった。こんなの、心が躍らないわけがない。



曲が終わった。

終わった瞬間、気持ちが抑えられず俺たちは唇を重ねた。


ずっとキスを交わした。永遠に愛してる、二度と話さない、ずっとずっと一緒だ、それを証明するように。


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