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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第17章…また会わなくてはならない

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柚希推しの俺と苺推しのサードのおっさん

 サードのおっさんは苺推し、俺は柚希推し。

たったそれだけの話だ。それ以上でもそれ以下でもない。


しかしたったそれだけのことで戦争が起きることもある。ヒロイン論争である。

同じラブコメのファンでも、推しが異なれば仲良くはできないこともある。人それぞれ好みは違うんだから仕方ないことだ。自分の推しこそが一番と思っている人たちが推しへの愛をぶつけ合い競い合う。


ラブコメ『ツンデレお嬢様と幸せになる話』でもネット上で激しいヒロイン論争が勃発していた。それだけヒロインの人気が高かったという証明でもある。


俺の推し、武岡柚希は人気投票最下位でヒロイン論争も圧倒的不利、圧倒的弱者として扱われた。ネットでメチャクチャバカにされて傷ついた。ヒロイン論争なんて死ぬほど大嫌いだ。



「てめぇのせいで苺が負けヒロインになっちまった……勝ち確だったのにまさかの大逆転負けを喫した哀れなヒロインになっちまった……どうしてくれるんだ、俺はてめぇを絶対に許さん、ぶっ殺してやる」


サードのおっさんはとにかく俺が苺をフって柚希を選んだことが気に入らないらしい。俺も前世で推しヒロインが負けてすごく悔しくて辛かったから気持ちはわかる。俺も栗田柊斗は大嫌いだった。でもぶっ殺してやるはねぇだろさすがに。


「別に原作では苺が完全勝利したんだからいいじゃねぇか。柚希が報われて幸せになる世界があったっていいだろうがよ!」


「ダメだね、俺がいる世界で苺が負けたなんて耐えられねぇ……いや、苺が負ける世界なんて存在することすら許されねぇ!」


この野郎……俺と柚希の今までの想い出全否定かよ。



「てめぇをぶっ殺せば苺は負けじゃねぇ。てめぇさえいなければ敗者なんていねぇ、だから殺す!」


「おい待てよ、俺はお前と争う気はない」



ヒロイン論争は大嫌いだ、だから争いたくない。

争ったところで何になるんだ。争うヒマがあるなら愛するヒロインとイチャラブした方がいいだろ、バカバカしい。



「なんだ? 俺が怖ぇのか腰抜け」


「やっすい挑発だな。そんなもんに乗る気はない」


「チッ……なぁ、柚希さん」


おっさんは俺に舌打ちしたあと柚希に視線を変える。



「苺、梨乃、桃香、そして柚希さん。4人はヒロインなんだけどあんたがダントツで人気最下位なんだよね、柚希さん」


「おい、それ柚希に言う必要あんのか!?」


「うるせぇ、お前に言ってねぇんだよ」



「そ、そうなんですか……」


柚希は返答に困っている。まあそりゃそうだ。知る必要なんか1ミリもないことをわざわざ知らされてどうしろってんだ。



「まあ人気ねぇのも無理はねぇよ。苺は強いお嬢様、梨乃はスポーツ万能、桃香は小説家の卵ときて、あんたは乳がでかいだけのヒロインだしな」



―――バンッ!!!!!!


俺はテーブルを両手でぶっ叩いて立ち上がった。


柚希はビクッとした。ごめん柚希。

おっさんは一切動じずにニヤニヤしながら俺を見ていた。ウザい。



「……表に出ろ筋肉オヤジ」


「最初からそう言えばいいんだよ、主人公(笑)さんよ」



どいつもこいつも、柚希のことを乳しかとりえがないみたいな言い方しやがって。褒めるところがエロしかないみたいな扱われ方いいかげんうんざりなんだよ。

しかも今回は柚希がいる場所でわざと侮辱するように言いやがった。絶対に許さない。




 俺たちはファミレスを出て、人気のない場所に移動した。

柚希がそっと俺の袖を引っ張る。


「柊斗、私は全然気にしてないからやめた方がいいよ」


「俺も無視したいところなんだけどあいつあまりにもしつこいから。大丈夫、すぐに終わらせる」


柚希は俺を心配してくれている。だからこそ俺は戦わなければならない。



サードのおっさんと決闘することになった。勝ったところで何も得るものがない、世界一茶番な決闘。しかし柚希を侮辱する奴は絶対に許さない。できる限り早く終わらせたい。早く終わらせて柚希とイチャラブするんだ。あ、なんか負けフラグみたいだからあまり言わないでおこう。



「ハハッ、待ってたぜ。てめぇをぶっ殺せるこの時をよ」


おっさんは拳をバキボキ鳴らしながらやる気マンマンな感じだ。



シャッ!!


!?



気づいた時にはおっさんがもう目の前。何の躊躇もなく殴りかかってきた。

今はまだそばに柚希がいるってのに。このままでは柚希も巻き込まれるかもしれない。


俺は柚希をお姫様抱っこして間一髪でおっさんの攻撃を避けた。


「大丈夫か、柚希!」


「うん、ありがとう柊斗……!」


おっさんのパンチは壁にヒビを入れる威力。これを食らったらひとたまりもない。



「おいおっさん、柚希がケガでもしたらどうすんだよ。女の子を巻き込んでんじゃねぇよ」


「俺が好きなのは苺だけだ。それ以外のことは知るか」


「……あ?」



俺が好きなのも柚希だけだが、他の子がどうでもいいというわけじゃねぇだろう。

俺を許せなくて俺を潰そうとするのはまあいいとしても、柚希を巻き込もうというのなら絶対に悪だ。俺は絶対に許さない。


柚希を巻き込まないようにして、俺はおっさんと対峙する。



「死ね!!」


「死なねぇよ」


柚希がいるから死ぬわけにはいかない。



―――ブオン!!!!!!


ドゴッ!!!!!!


おっさんの蹴りが飛んでくる。俺は躱す。

さっきよりも壁に大きなヒビが入ったえげつない蹴りだ。ムキムキなおっさんの恵まれた肉体は伊達ではない。


おっさんは間髪入れずに攻撃を何度も繰り出してくる。俺は何度も回避する。



「ハッ、さっきから避けて逃げてるだけじゃねぇか。それが主人公の姿かよ? みっともねぇなぁ」


「柚希も見てるしお前を瞬殺して柚希にかっこいいところを見せたい気持ちもある。しかしそれよりも柚希に心配かけないことが最優先だ。俺は何としてもケガしないようにしたい」


「ビビってるだけだろ? 痛いのが怖いだけだろ臆病者が。かっこつけてんじゃねぇよどこまでも虫唾が走る野郎だ」



確かに俺はビビっている。このおっさん人相も顔も体格も怖すぎる。怖いに決まっている。

俺は身体能力に恵まれた栗田柊斗に転生し、山で修業も積んだが、前世であんな弱者だった俺がそう簡単にかっこいい主人公になれるわけがない。


結果俺はおっさんの攻撃から逃げ続ける。心は逃げないけど身体が逃げる。だってあんな攻撃に当たったら死んじまうよ。



―――ズキッ!!!!!!


「ッ……!!」



やはり修業をしても頭痛を完全に防げるわけではない。頭痛に襲われ俺は顔をしかめた。おっさんがこれを見逃すはずがない。



ドガッ!!!!!!


容赦ないおっさんの拳が俺を襲う! 俺はとっさに腕でガードした。危ねぇ……



「無理すんなよ、俺にはわかるぜ。お前の魂が貧弱すぎて栗田柊斗の肉体に全然なじんでねぇんだよ。だから下手に身体を動かすとエラーが出て苦しむことになる」


俺の魂が弱くて肉体になじまない……運動すると頭痛が発生する原因はこれだったのか……


「だが俺は違う! 霊力があって魂が強い! だからこんな屈強なおっさんに転生しても魂がなじむ! お前と違ってどっか痛んで苦しむことはねぇ!」


「……!」


こいつは転生してもノーリスクでこんなに優れたおっさんの肉体を使いこなせているのか……


「わかるか? 肉体を全然使いこなせてねぇてめぇに勝ち目はねぇんだよ」


同じ転生者でもここまでの格差が……

俺は弱く、このおっさんは強い。俺は圧倒的不利。これは事実。


だが……



「柊斗……!」



柚希が見守ってくれている。柚希は俺が戦うのをこれ以上止めようとはしない。俺が勝つって信じてくれているからだ。

そんな彼女の信頼に、応えなくてはならないのだ。


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