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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第17章…また会わなくてはならない

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話し合いをする

 「なぁ、ちょっと中に入れてくれねぇか」


ドアにはチェーンロックがかかっている。今は俺が住んでいるけど女の子の1人暮らしは危ないからな。


こいつはチェーンロックがかかっていても中に入ろうとしてくる。中に腕を入れて、すげぇ形相で睨んでくる。こんなんで中に入れる人はいない。



「聞こえなかったか!? 中に入れろっつってんだよ!」


「中に入れることはできない」


「ふざけんな、なんでてめぇが入ってて俺は入っちゃいけねぇんだよ!? 俺は栗田柊斗だぞ!?」


お前が本当に柊斗かどうかは関係なく、そんな人殺しみたいな目をしてる奴を入れられるか。それに見た目がNTR竿役のおっさんがヒロインの家に入る展開とかイヤだ。マジでイヤだ。



「落ち着いてください。一旦ドアから離れていただけますか」


柚希は冷静に言うと、おっさんは素直にドアから少し離れた。


「柚希さ~ん、俺ですよ柊斗ですって。中に入れてくださいよ今まで何度も入れてくれたじゃないですか」


「私の知ってる柊斗くんは無理やり人の家に入ろうとする人じゃありません。どんな理由があろうと」


「…………」


おっさんが黙った。いいぞ柚希。すごく頼りになる心強い。最高だ柚希。



「あの、場所を変えませんか? 私たちは逃げも隠れもしないので」


柚希はそう提案し、俺も異論はない。おっさんも何も言わず言う通りにした。




 俺たちはファミレスにやってきた。

俺のとなりに柚希が座り、向かい側におっさんが座った。



「で、今日の用件は?」


俺がそう言うと、おっさんは舌打ちして睨みつけてきた。


「前も言っただろうが、身体返せ。それは俺のだ」


「……仮に返すとして、どうやって返せばいいんだ?」


バトル漫画なら魂を抜く術とか魂を元に戻せる能力とかあるかもしれないが、ラブコメ世界じゃそういうのないだろうし、あったとしたらジャンルが変わっちまう。仮に返す気になったとして返しようがないんだが。


おっさんはハッと嘲笑した。



「そりゃあよ、()()()死ねばいいんだよ。

そうすりゃ俺の魂は元の肉体に還れるだろう。俺の魂と肉体は引かれ合っていて元に戻りたいと思っているが、お前の魂が邪魔で戻れなくなってるのが現在の状態。

邪魔なお前さえ消えれば戻れるはずだ!」


「…………」


シーンと静まり返る。

まあ確かにバトル漫画でもよく見るよそういうの。敵に肉体を乗っ取られたり操られたりしたらその敵をぶっ倒せば元に戻れる。

俺、そういう悪霊みたいなものとして処理されるのか? 柚希と通じ合って繋がれたのに……


柚希が静かに手を上げた。



「ちょっと私も聞きたいことあるんですけどいいですか?」


「ん? どうぞ」


柚希を見る時はニコッとするおっさん。イラッとする俺。



「あなた本当に柊斗くんですか?」



俺たちが一番聞きたいことを柚希が真剣な表情でド直球で聞いた。俺が言おうと思ってたが柚希に先を越された。

おっさんは一瞬真顔になったがまたすぐニコッと微笑む。



「やだなぁ柚希さん、さっきからなんで敬語なんですか。俺の方が年下ですよ? 見た目はおっさんだけど高校生ですよ? 今まで通り俺に対してもお姉さんキャラでいてくれませんか?」


「すみません。それで、あなたは本当に柊斗くんですか?」


話を逸らさせない。柚希がおっさんを見る目は変わらない。すごく他人行儀な目のままだ。おっさんが柊斗ではないと確信している、そんな目だ。



「俺は正真正銘栗田柊斗ですよ。そいつが俺になった時期と俺がこのおっさんになった時期は重なる。俺は柊斗のことも柚希さんのことも知っている。これだけじゃ俺を柊斗と認めるには不足ですか?」


「そうですね。何の躊躇もなく死ねばいいとか言える人を、柊斗くんと認識したくはありません」


「俺が柊斗じゃないと証明できるんですか? 一応俺が本物だという根拠は今言いましたよ。俺がニセモノだというのなら、それに釣り合う根拠を示していただけないと」


「ッ……あなたの口調や言動が乱暴すぎます……柊斗くんは殺すとか死ねとかそういうこと言う人じゃありません……!」


「それじゃあニセモノの証拠にはならないですねぇ。それはただあなたが俺を買いかぶっているだけです。俺だって聖人君子じゃないんです、ある日いきなりおっさんにされちまったらやさぐれて人格に影響を与えてもおかしくないとは思いませんか?」


「ッ……」


柚希は言い返せなくなった。現時点じゃこいつを疑うには情報が足りなさすぎる。


おっと、柚希がめっちゃ頑張ってくれてるんだから俺も頑張らないとな。



「確かに俺たちがあんたをニセモノと証明することはできないけどさ。でもどちらにせよやっぱり身体は返せねぇんだ」


「うるせぇ、返してくれねぇなら力ずくで奪い返すまでだ」


「……それは、俺を殺すということか?」


「おう」


おっさんは即答した。柚希が怒りそうになったが俺が肩に手をポンと置いて止める。



「俺は柚希のために死ぬわけにはいかない」


「俺だって元の身体に戻らなきゃならねぇんだよ。身体を奪い返して、許嫁の苺に想いを伝えるんだ。おっさんの身体になってみて、苺がいない生活はかなり辛かった。やっぱり俺には苺が必要だと思い知ったんだよ。俺は苺に告白して、苺と幸せになるんだ」


「…………あー……そのことなんだが……」


「あ?」


ヤバイ、すごく言いづらい。冷や汗がダラダラ出てくる。しかしこいつが本物とかニセモノとかは関係なくこいつが苺を好きなのは本当だと思われるので、必ず言わないといけないことがある。



「俺、苺のことはもうフった。婚約関係も破棄している」



「…………あ……?」


ヤバイ、おっさんがフリーズした。


「……な……なんで……?」


おっさんはなんとか言葉を搾り出した。


「なんでって、俺は柚希が好きで、柚希と付き合ってると言っただろ。だったら苺をキープするわけにはいかねぇだろ。だから苺との関係は切った。苺とはもう口も利かない関係で、ほとんど赤の他人なのが今の状態だ。

あんたが元の身体に戻れたとしても、今からじゃ苺とくっつくことはできない。今さらやっぱりヨリを戻そうなんて言おうもんならぶっ殺されるぞ」


「……ウソだろお前……あんなに可愛いお嬢様が許嫁だっていうのに、そのままいけば結婚して一生上級民族でいられたのに、それを放棄したのか……!?」


「そうだよ。柚希と付き合ったって言った時点で普通はそうだと思うだろ」


「……ふざけんなよてめぇ……何してくれてんだよ……苺と末永く幸せになれるはずだったのに、てめぇのせいで俺の華やかな未来が台無しだよ! どうしてくれんだよ!?」


「ごめん。でももう遅いんだよ。今さら言われても困る」


「殺す……前回みたいに邪魔が入って中断みたいな展開は期待すんなよ? 今度こそ殺す」



―――バッ!


柚希が手でおっさんを遮った。そしておっさんを睨みつける。



「柊斗があなたに責められる筋合いはないですよ? だってあなたは柊斗くんじゃないんですから」


一切の穢れがない純粋な美しい瞳で柚希はハッキリ断言した。


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