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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第15章…初体験までがけっこう長い

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木虎さんが荒々しい

 夏祭り会場の階段、俺は柚希を抱き抱えて父さんたちから逃げる。


「待てー!」


「待てー!」


「待てー!」


「待てー!」


「待てー!」


「待てー!」



おい、俺を追いかける声が多いな!

階段を上がりながらチラッと後ろを見ると、父さんと執事が先頭でその後ろを多くの男たちがズラッと並んで追いかけてきている。


いつの間に増えやがった! 知った顔も多い。栗田家の使用人や小雀家の使用人が集結してみんな俺たちを追いかけていた。

まあ俺を捕まえるのに2人だけってことはないよな。権力がある家は駒がいくらでもいる。


ふん、いくら人数揃えても無駄だ。俺の脚に追いつけると思うな。

実際どんどん距離が離れていく。若い執事はともかく父さんはこの階段を全力で駆け上がるのはキツイだろう、無理するな。


大丈夫、追いつかれない! 油断はせずに階段を踏み外さないように気をつければ大丈夫!



「ふっ、柊斗の逃げ足が速いのは対策済みだ……! おいみんな、作戦Bだ!!」


「はいっ!!」



父さんの口から作戦Bという言葉が出てきたのが気になって、チラッと後ろを見る。


!?


使用人たちが一斉に階段でしゃがんで丸くなり始めた。


なんだ? 何をやっている!?

ダンゴムシのように丸くなった使用人たちがズラッと階段に並んでいるのを見て俺はわけがわからなかった。まるで人間の背中で道を作っているみたいな……



シャーッ!!


!?


自転車が、マウンテンバイクが走ってくる。丸まった使用人たちの背中を踏み台にして、マウンテンバイクに乗った使用人が階段を駆け上がってくる。


バカな、マウンテンバイクで追ってくるだと!? 作戦BのBとはbicycleのBだったのかよ!


マズイ、まさか自転車で追ってくるとは……! これでは追いつかれる!!

俺はさらに走る速度を上げた、限界まで。しかしマウンテンバイクのスピードに敵うわけもなく。



「ヒャッハー!!!!!!」


マウンテンバイクに乗った男はテンションがキマッてて俺たちに襲いかかる。

俺の背中を掴まれそうになる。ちくしょう。



「はわわ、階段を自転車で走ったら危ないですよ?」



!? その声、そしてはわわって……

桃香!?


背中を掴まれそうになった瞬間、俺たちの真横に桃香がいて驚いた。

浴衣を着て、リンゴ飴を食べている桃香は、お祭りを普通に楽しんでいる様子だ。髪型も髪色も口調も、いつも通りの桃香だ。

となりに友達らしき子もいて、友達と一緒に祭りに来たのだろう。俺たちが大変なこのタイミングで、たまたまそこにいたのだ。



―――ガシャーン!!!!!!



「えーっ!?!?!?」


俺と柚希が同時に驚きの声を出した。


桃香はなんと、俺たちを捕まえようとしていた男が乗っているマウンテンバイクを、思いきり蹴飛ばしたのだ。

本当に驚いて開いた口が塞がらない。内気でおとなしい性格の桃香がそんな荒々しいことをするなんて思ってなかった。



「ぎゃああああああー!!!!!!」



階段の途中で自転車を蹴飛ばされた使用人の男は、断末魔の叫びを上げながら自転車と共に階段を転がり落ちていく。


「ぎゃああああああ!!!!!!」


その下を走っていた父さんや執事、その他使用人連中も巻き添えにされ、勢いよくみんな階段の下まで転がり落ちていった。



…………


シーン……


賑わっていたお祭り会場が静まり返った。

桃香は何事もなかったかのようにもぐもぐとリンゴ飴を食べ続けている。俺と柚希は何も言えなかった。



「ホラ言わんこっちゃない。危ないって言いましたのに……」


……いや、危ないのはキミじゃないか? ってツッコみたかったけど桃香が得体が知れなくて怖いからやめた。


階段の一番下まで一気に落ちた連中は大丈夫なのか? まあラブコメ漫画の世界だし今のはギャグ描写みたいな感じだから大丈夫か……タンコブが複数できたくらいで済んでるっぽい。



「はわ……大丈夫ですか栗田先輩」


「え!? あ、ああ……」


普通に心配してくれた。原作で読んでた通りのいつもの桃香って感じだが、あんなえげつない行為をしておいていつも通りだとそれが逆に怖いと感じてしまった。



「ついでに、武岡先輩も……大丈夫ですか?」


「あはは、私はついでなんだ……うん、大丈夫だよ私は。柊斗に運んでもらってただけだし……」


柚希は苦笑いした。



「あの……木虎さん、確か3泊4日って言ってたよな? もう今日で帰ったのかと思ってたよ」


そんなに重要な疑問ってほどでもないが、ちょっと気になったので聞いてみた。


「今日はすぐに帰る予定だったんですけど、お祭りがあると聞いたので参加することにしました。お祭りが終わったら帰ります」


「そ、そうなのか……」


「…………」


「…………」



やっぱり気まずいな。柚希そっくりに変装したりザマス口調になったり、そんな桃香が元に戻ってくれてよかったがコロコロ変わりすぎて戸惑いの気持ちもある。



「……まあ、その……ありがとう、木虎さん」


結果としては桃香のおかげで捕まらずに済んだのでお礼を言う。


「……いえ、昨日までたくさん迷惑かけた分をこれで返せたとは思ってないですから……」


桃香は少しずつ階段を降りていく。



「私……栗田先輩に言われた通りに、栗田先輩のことは忘れて、小説だけに集中して頑張ることにしました」


「そ、そうか……頑張ってくれ」


「はい、頑張ります」



こっちを向くことなく、桃香はそのまま階段を降りて去っていった。

昨日までのことはもう起こらないということでいいんだよな……? 俺が歴史を変えたことで歪んでしまった桃香を、少しは矯正できたと考えてもいいんだよな?


それは俺の勘違いという可能性もあるけど、桃香は言う通りにすると言ってくれたんだからそれを信じて、桃香の話はこれで終わり。


これで他のヒロイン3人のことは完全決着ということだ。

あとは柚希を一途に愛し、柚希を幸せにするのが俺のやらなければいけないこと。これだけは何があってもやり遂げなければいけないのだ。



「……じゃあせっかくだから頂上まで行こうか、柚希」


「うん」



柚希をお姫様抱っこしながら、ゆっくりと階段を上っていく。


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