ホテルに泊まる①
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海バイト初日終了後、日が暮れた頃。
俺と柚希はホテルのロビーでいろんな意味で火照っていて、今頑張って冷ましているところだ。ホテルは空調が効いてて快適。
「本当にごめん柚希」
「私の方こそごめん……柊斗疲れてるのに抱きつくというかタックルみたいなことしちゃって……」
お互いに謝りつつ、お互いに恥ずかしくてものすごくぎこちない。
さっきとんでもないことが起こったから仕方ない……
……見てしまった……柚希のおっぱいを……
原作は少年漫画だし、乳首加筆修正とかもなかったから柚希の生乳をハッキリ拝んだのはこれが正真正銘初めてだ。
ありえないくらい美しかった。俺は、柚希に金を払わなければいけないんじゃねぇか……と思うくらいにはキレイだった。前世で見たAV女優や風俗嬢の乳とは比べものにならないほどキレイだった。
大きくて、すごく形が良くて、白くて、張りがあって、乳輪の色も形も俺の好みすぎて……俺は何度も柚希の乳を想像していたが、その想像を遥かに凌駕するパーフェクトな乳房だった。
この世界の神が俺の好みを完璧に把握した上で柚希に与えたとしか思えない。なんで神様の野郎が俺の好みを知ってるんだよ。神様だからか。全知全能か。
ちくしょう卑怯だぞ。俺は二度とここの神を崇めないと誓ったはずなのに、柚希の乳には抗えない。俺は手のひらをクルクル大回転して神にひれ伏したくなった。
……いややっぱり待て、執拗に柚希を辱めようとした神を許すわけにはいかない。
俺の好みとか興奮とかはどうでもいい、そんなことより柚希が大切なんだ。やっぱりひれ伏さない! また手のひらを回転してなんとか思いとどまった。
でも柚希のおっぱい最高で最強だった……でも神は許さん……
いろいろ葛藤があったが結局、柚希のおっぱいは宇宙の真理で無敵という結論に帰結した。当然の帰結である。
とにかく今の俺は相当ヤバイぞ。柚希のおっぱいを見てしまった結果さっきからずっとスケベ脳が覚醒している。
俺の脳内はもうおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいだ。
おっぱい以外のことを考えようとしても他に思い浮かべる言葉は胸、乳、乳房、乳房、たわわ、メロン、双丘……どっちにしろ結局おっぱいのことしか考えられない。
「柊斗、大丈夫……?」
「っ……あ、ああ……!」
柚希が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
もうビキニじゃなく服を着てる。しかし夏なだけあって露出が多い。今の格好も十分すぎるくらいエロい。
チラッと覗く谷間。下を見るとピチピチの太もも。
おっぱいを見てしまったあとに普通に服を着た姿を見ると、それはそれで裸を妄想するのが捗って興奮する。
「水分補給もしっかりしてゆっくり休んでね」
すごく恥ずかしくなってる時でも、柚希はいつものように優しい。こんな性獣かつ害獣の俺にもこんな穏やかな笑顔を向けてくれる。
バイトの疲労も相当あるはずなんだが、柚希のおっぱいを見たら疲労とかどっかに吹っ飛んでしまった。元気すぎて理性を保つのが大変なんだが。
……今日はもうバイト終わったが、明日以降もバイトしなければならないんだ。
このまま脳内が柚希のおっぱいで埋め尽くされているのはマズイ。明日から集中するためにも、そして柚希の名誉のためにも、おっぱいを見てしまったことは速やかに忘れなければ……忘れろ……忘れろ……
…………
無理だ。忘れられるわけがない。脳内に焼きついて消えない。
忘れようとすればするほど柚希のおっぱいを強く意識してしまう……というか俺の本能は一切忘れる気がない。確かにせっかく見れたおっぱいを忘れるのはもったいないとは思うけどさぁ……
「おっ、お疲れさん栗田君」
「お疲れ様です……」
店長さんの友人で、ホテルの経営者さんが来た。
「どうした? 2人ともすごく真っ赤じゃないか」
「うっ……」
「いくら暑いとはいえ、キミたちは赤すぎるぞ大丈夫か?」
「まあ、いろいろありまして……体調悪いとかではないので大丈夫です」
「なんだよ、もしかしてセックスしちゃったの?」
「!!!!!!」
俺も柚希もドキッと飛び跳ねた。
「いいねぇお熱いねぇお2人さん。まあこっちとしても仕事さえちゃんとしてくれれば何しててもいいんだけどね。2人の部屋は用意してあるからごゆっくり楽しんでね。はいこれ部屋の鍵」
俺に部屋の鍵を渡して経営者さんは去っていった。
なんかすごい核弾頭をぶち込まれた気分だった。
「と……とにかく行こうか柚希」
「う、うん」
俺と柚希は部屋に移動することにした。
移動中、俺はすごく悶々としていた。
柚希のおっぱいを見てしまった後にセックスというド直球単語を叩き込まれて本当に俺はヤバイ。
セックス……柚希とセックスか……
柚希と付き合い始めたけど、まだシていない。
当然もちろんシたいと思っている。前世は素人童貞だった俺は好きな女の子とのセックスに強い憧れを抱いている。今だってヤりたくてヤりたくて、ヤりたすぎて身体がねじ切れそうになっている。
しかし身体目当てヤり目だと思われたくない。純粋に柚希のことが好きで、すごく大切にしたいから焦らずゆっくり柚希のペースで行きたい。
……とかっこつけてはみたけれど、もし柚希に嫌がられたら生きていけないから怖くて何もできないというただのヘタレなだけである。
まあ、柚希の家で一緒に暮らして一緒に寝てる時点で嫌がられたらどうしようなんて考えるのはバカのバカだとは思うが。
何度も一緒に寝てるのにまだ手を出してないんだから身体目当てではないことは証明できたと思うんだが。たぶん。
でもやはり、まともな恋愛経験がない俺はうまく動けない。
いろいろゴチャゴチャ悩んでみたが、柚希とのエッチの話は超重要だがそれを考えるのは今じゃない、今はバイト期間中。結局ずっと柚希のおっぱいのことを意識しているがそれでもバイトを頑張らなきゃいけない。
焦って手を出すのは厳禁、柚希とはゆっくりじっくり純愛する。
一応は考えがまとまったところで部屋に到着し、鍵を開けて中に入った。
「わぁ、すごーい!」
ついさっきまで恥ずかしそうにモジモジしていた柚希が瞳を輝かせて一気にテンションを上げた。
確かにすごい。キレイな和室に、海を眺められる絶景。
あくまでもバイトで来ている俺にはお客様用の部屋より狭い部屋を与えると経営者さんが言ってたが、俺にとっては十分良い部屋だ。
柚希も嬉しそうにしてくれてよかった。
「いい景色だね、柊斗」
「ああ、そうだな」
夜空と海、本当にいい景色だ……エロで染まった俺の脳内が少しではあるが浄化されていく……
「泊まり込みのバイトなのはわかってるけど……なんだか新婚旅行みたいでドキドキしちゃうな……」
「ッ!!」
少しは浄化されたと思っていた俺の心に大きな大きな矢がまた突き刺さった。景色は本当に素晴らしいが柚希の魅力に勝てるわけがない。
確かに……バイト期間中とはいえ今はほとんど旅行と同じ時間を過ごしている。
柚希と初めての旅……俺も純粋にドキドキと心臓が高鳴ってきた。
「……柚希……新婚旅行はもっともっといいところに連れてってやるよ」
「……! うん、楽しみにしてるね」
あ……自然に出てきた言葉だが、俺たちが結婚するのが大前提というわけで……
夜風にも負けないくらい、また顔が熱くなるのだった。




