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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第12章…俺は海で働く

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海の監視員の仕事①

 夢が叶った。

前世の頃から長年憧れて焦がれていた夢が叶った。


彼女に水着を着せて一緒に海に行くという夢。前世で彼女ができそうな気配が1ミリもなかった俺にとってはいくら手を伸ばしてあがいても届かなかった夢。それが今叶った。感無量だ。


ああ、ずっと柚希と海で遊んでいたい。ずっと海デートしていたい。


しかし残念ながら俺は遊びに来たわけではない。仕事で来たんだ。

柚希のために頑張るんだ、しっかりしろ。


水着姿の柚希にデレデレのゆるゆるにされた俺だが、そんな自分に喝を入れるため自分の頬をバチンと叩いて気合いを入れた。

きっちり切り替えて集中モードに入った。




 というわけで海の監視員のバイトが始まった。

海水浴客で賑わう海辺を歩いてパトロールする。柚希も一緒に連れて歩く。


バイトをするのは俺だけで、あくまで柚希は客だけど、この海で柚希を1人ぼっちにするわけにはいかないからな。海には危険がいっぱいだ。サメとかが出る可能性もゼロではないしな。


それに、柚希を1人にしたら飢えた男どもにナンパされまくるだろう。そういう輩から守ってみせる。好きな女の子1人守れないような男に海を守る仕事が務まるわけがない。



「柊斗、私にできることがあったらなんでも手伝うからね」


「ありがとう柚希」


嬉しいけど気持ちだけ受け取っておく。この仕事は俺だけでやりとげる。柚希のお手を煩わせるわけにはいかない。



「…………」


視線を感じる。俺にではない。

周りの男たちの視線が柚希に集まっている。


柚希がジロジロだったりチラチラだったり見られているのがわかる。俺の感覚すべてが柚希に捧げられているからわかる。

その視線のほとんどがいやらしいスケベな視線であることもわかる。俺もスケベだからスケベな男が考えていることはよくわかる。


俺の思った通り、柚希が飢えた男どもにロックオンされている。彼女であろう女の子がすぐそばにいるにも関わらず堂々と柚希を視姦している男もいる。彼女っぽい子が明らかに機嫌を悪くしているのによくやるわ。

やっぱりナンパしてきたりとか漫画でよくある展開来るんだろうか……俺は最大限警戒する。



「おい見ろよ……あの女の子おっぱいでけぇ……」


「ホントだ、でけぇ……」


「おっぱいすげぇ……」


「すげぇおっぱいだ……」


「いいおっぱいだ……」


「おっぱい……」


「おっぱい……」



…………

周りの男たちのヒソヒソした話し声が聞こえてるんだよ。俺の聴覚は前世より優れているみたいなのでよく聞こえる。


どいつもこいつもおっぱいおっぱいおっぱいって……いや気持ちはよくわかるけど、確かに柚希の胸は極上だけども、どいつもこいつもそこばっかり見やがって。


ずっと前から思ってたけど、やっぱりこの世界では柚希は乳しかとりえがないってキャラにされてるんだな。この海でも、モブにもそう思われてる。どこに行っても一緒。



「柊斗、波が冷たくて気持ちいいね!」


「え? ああ、そうだな」


周りの男たちの注目を浴びている中、柚希は波に素足を突っ込んで無邪気に笑っていた。

視線に気づいてないのか? それとも気づいてるけど気にしてないのか? まあ柚希ならこのくらい慣れてるのかもな。とにかく柚希が楽しそうならそれでいいんだ。

俺はこの柚希の笑顔を守り抜いてみせる。



「なぁ、あのおっぱいでかい女の子よくね!? あのピンクの髪で、サイドテールにしてる子!」


「ああ、めっちゃ良い。ちょっと声かけてみようかな」


「おう、話しかけてみようぜ!」



近くにいる男2人組の会話をバッチリ聞かせてもらった。ピンク髪でサイドテールって言ってるから俺の勘違いってことはない。間違いなく柚希を狙っている。

なんだコラ、お前らの目は節穴か? 柚希のすぐそばにこの俺がいるのが見えてねぇのか? 俺のことは無視か?


漫画やアニメなら、ヒロインがナンパされて主人公が撃退というのがお約束なパターンなんだろうが、ナンパする気すら起こさせないようにしてやる。

柚希に笑顔でい続けてもらうために、男が話しかけてくるというイベントすら回避してやる。



グイッ


「えっ、柊斗……?」


「ごめん、柚希がイヤだったらすぐやめるから」


「ううん、全然イヤじゃないけど……」


「じゃあしばらくこのままでいてほしい」


「う、うん……」



俺は柚希の肩を掴んでグイッと引き寄せた。

肩を抱いてぴったりと寄り添って歩く。柚希もコテンと、俺の肩に頭を預けてくれる。柚希のいい匂い、柔らかな感触。今、俺の理性は全力を振り絞って戦わなくてはならない。



「うっ……なんだよ彼氏いたのかよ……」


柚希をナンパしようとしてた男2人組もしぶしぶ諦めて去っていく。これだけベッタリしとけば手を出そうとする男もいないだろう。


寄り添ってくっついて歩いていくうち、柚希にスケベな視線が向けられていたのが俺に対して嫉妬と憎悪の視線を浴びせてくれるようになった。

これでいい。柚希は俺の彼女だ。俺のだ。それを堂々と周りに見せつける。俺にかなりヘイトが集まっているがそんなもんどうでもいい。柚希を守れればそれ以外のことなど取るに足りん。



 さて、俺自身が虫除けとなることで男が寄ってこなくなったが、俺は今監視員の仕事をしているのだ。ちゃんと働け俺。


ずっと海をパトロールしているが、特に何事もなくみんな平和に遊んでいる。

実にすばらしいことだ。このままずっと平和な海でいてほしいって心から思う。でもこれだけ人数がいればそういうわけにもいかないよな。



「うええええええん……うええ~ん!!」


そう思っていると泣いてる子供を発見した。子供1人だけ、迷子のようだ。

監視員の出番だ。迷子を迷子センターに預けるのも監視員の仕事だ。



「どうした? お母さんとはぐれたのか?」


俺はしゃがんで子供の目線に合わせて話しかける。子供は俺を見る。

俺を見た子供の目には、さらに涙が溜まっていった。



「びええええええんっ!!!!!!」


俺が話しかけた結果、子供はさらに激しく泣き出した。

マジか……怖がらせてしまったようだ……


まさか俺は……子供にも嫌われているのか……? 動物に嫌われているのは確認済みだが、子供にも無条件で嫌われるのはちょっとショックを隠せない。


子供って大人より第六感的なものが優れてるみたいだからな……彼も本能的に俺のことをヤバイ奴だと判断したんだろうか。


とにかく彼が泣き止む気配は全くない。どうしよう。前世でほとんど1人ぼっちだった俺は子供と接した経験とか皆無で、前世の経験が役に立たない。子供が泣き止まない時どうすればいいのかマジでわからん。マジでどうしよう。



「ボク、どうしたの? ママとはぐれちゃったの?」


「えええんっ……えぐっ……ぐすっ……

……? ……!」



俺がうろたえていると、柚希がしゃがみ込んで子供に話しかける。

すると、あんなに大泣きしていた子供がスッと泣き止んだ。


すげぇ、柚希。こんなにあっさりと泣き止ませるなんて……

柚希の優しさが、子供にちゃんと伝わった。俺も心地良くなるくらい、とても優しい声色だった。どんな子でも泣き止ませる聖母だ……



「ママがいなくなっちゃったから、さがしてるの……」


「そっか。あそこに行けばきっとママに会えると思うから、行こっか!」


「うん!」


柚希は迷子センターを指差し、案内する。子供も素直にトコトコと柚希についていく。


…………

柚希の手を煩わせず俺1人で仕事をこなすと決めてたのに、さっそく柚希に助けてもらってしまった。ていうか柚希が全部やってくれた。俺超役立たずだ。



迷子センターで運良くお母さんと会えた子供は、嬉しそうにお母さんに抱きついていた。よかったよかった。



「ありがとうおねえちゃん! ばいばい!」


「うん、ばいばい!」



子供は笑顔で柚希に手を振って、柚希も笑顔で応えていた。

当たり前だが俺が感謝されることはなかった。あの子、一度も俺と目を合わせてくれなかった。

まあ役に立てなかったし仕方ない……仕方ないけど、子供に全否定された感じなのが切ない。


明らかにズーンと落ち込んでいる俺を見た柚希は、ニコッと微笑んでくれた。



「気にしないで、柊斗。子供が泣くのは決して嫌われてるとかじゃないから!」


「ああ……ありがとう、柚希。でも俺がガチで嫌われてるのは間違いないんだ。動物にも完全に避けられてたし、ライオンの時だってただ引かれてただけだったし。

転生した人間は動物や子供に嫌われやすいみたいなんだ」


「へぇー……そうなんだ。でも私はキミが好きだよ」


「ッ……!!!!!!」


「いろんな子に嫌われているというのなら、その分私がいっぱいいっぱい柊斗のこと愛する。だから大丈夫だよ、柊斗」


「……柚希……!」



情けなくも俺は感激して涙が出てしまった。

俺の心が少しでも曇ろうものなら、柚希の天使の歌声がすぐにでも晴らしてくれる。


本当に俺は、柚希に救われてばかりだ。


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