彼女の投げキッス
―――
次の日の朝。俺は目覚める。
柚希はまだ眠っている。
今日の柚希の寝顔も超可愛い。昨日の柚希の寝顔も超可愛かったし、今日の柚希の寝顔も超可愛い。ああああああ!!!!!! って叫びたくなるくらい可愛い。朝早いし近所迷惑だから叫んじゃダメだけども。
俺の方が先に起きて、柚希の寝顔をじっくり眺めるのも最高に幸せだけど、柚希に起こしてもらいたい気持ちもある。
アニメとかでよくあるじゃないか、ヒロインに『コラッ、起きなさい! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!』って起こされるようなシチュが。俺もそういうの憧れまくっていたんだ。
今日は早めに大学に行くって言ってたから、もしかしたら今日は柚希が先に起きて起こしてもらう夢を叶えられるかもしれない……と思っていたが今日も俺が先に起きることになった。
まあいい、柚希の寝顔を眺められるのも叶った夢の一つなんだから何の問題もない。可愛すぎてつい頬が緩む。可愛いって何度言っても足りないくらい可愛い……
…………
いやちょっと待て。このままずっと柚希の寝顔に見惚れていたいところだがそうはいかないんだ。
柚希は今日は早めに大学に行かなきゃいけないんだから起こしてあげないと。万が一柚希が遅刻とかしたら俺のせいだぞ。家に住まわせてもらってるんだからそれくらいちゃんとしろ。
「柚希、今日は早いんだろ? 起きてくれ」
柚希の肩を軽く揺すって起こそうとした。
「……ん……んんっ……」
「……ッ……!!!!!!」
色っぽい声出すな。俺の股間に響くだろうが。
揉みたい……覆い被さりたい……といった邪な心と必死に戦いながらなんとか柚希が起きるまで頑張る。
ついつい柚希の胸に視線がチラチラと行ってしまうが、それでも頑張って起こし続ける。今日のパジャマはポロリの心配はなさそうだが、それでもたわわな膨らみは扇情的すぎる。
「柚希、起きろ」
「……ん……」
普通に揺すってもなかなか起きないな。昨日はもっと簡単に起きてくれたんだが、時間があまりない今日に限って深い眠りについているようだ。
どうせ寝てるなら愛の言葉をぶつけまくってみようか。
「……柚希……好きだ」
「…………柊斗……?」
いや、起きるんかい。
何度も揺すってみてもなかなか起きなかった柚希だが、好きだって言ってみたらすぐに目を覚ました。なんか恥ずかしい。
「おはよう、柊斗」
「おはよう、柚希。今日朝早いんだろ?」
「うん、起こしてくれてありがとう」
「早く支度しよう。手伝えることがあれば俺も手伝う」
「……ん」
「ん? なんだ?」
あまり時間がなく、早く身支度した方がいいというのに、なぜか柚希はベッドから起き上がろうとしない。それどころかせっかく開いた美しい瞳をまた閉じてしまった。
「……? どうしたんだよ柚希。早く起きないと……」
「おはようのチューして」
「ッ!?!?!?」
「チューしてくれないと起きない」
「~~~ッ……!!」
瞳を閉じたのはキス待ちだったのか……
俺の彼女は超可愛い上に超甘えん坊で、ハチミツよりもシロップよりも甘い。その甘さに俺のすべてが蕩ける。
昨日元気なかった俺におやすみのキスをして癒してくれたんだから、柚希が望むならもちろんキスを返す。本音は柚希とキスしたいだけなんだが。
チュッ
「うふふっ」
俺がそっと柚希の柔らかい唇にキスを落とすと、柚希はスッと起き上がり、顔を真っ赤に染めて照れて俯きながらも素直に喜んでくれた。
俺も今、柚希に負けないくらい顔が赤すぎるだろう。マジで股間に悪すぎる。
俺は柚希に背を向けて、股間を両手で覆って丸くなった。
着替えも朝食も済ませて、柚希は身だしなみを整え始める。
女の子にとってとても大切な時間だろう。
ピンクの長い髪をまとめて、サイドテールにする。いつもの髪型の完成だ。
髪をまとめるだけでもすごい色気だ。長く美しい髪が揺れるだけでそんなに近くにいるわけでもないのにふわりといい匂いが漂って俺の鼻を幸せにする。
髪をまとめて髪を持ち上げた時に彼女のうなじが見える瞬間がすごく扇情的で、俺の何もかもが狂わされた。
そして柚希は鏡の前でメイクを始める。
どうしても気になってついチラチラと見てしまう。彼女の動き、一つ一つすべてを。
すっぴんでも超可愛いのにナチュラルメイクを施して神のように可愛い。
柚希は唇にリップを塗っている。
リップを塗る女の子、めちゃくちゃエロい……色っぽい。なんかすごく好きだ。ドキドキしてそそられまくる。
もともとぷるんと潤ってて形の良い柚希の唇が、リップを塗ることでもっとぷるんと柔らかそうに艶やかに潤っている。吸いつきたくなる。
柚希とキスしたのを思い出して、グッと情欲を煽られる。あの唇で搾り取られる妄想をしてしまってすごく股間が熱くなった。
鏡越しに柚希とパチッと目が合った。
さすがにジロジロ見すぎで怒られるかと思ったけど、柚希はクスッと妖艶に微笑んだ。
「どう? 可愛いかな?」
クルッとこっちを向いて直接見つめられ、心臓を直接鷲掴みにされたような感覚が。
「……すげぇ可愛い……」
「やったぁ、柊斗に褒めてもらえると嬉しいな」
特別なメイクをしているというわけではなく、いつも通りの可愛い柚希だ。
俺はメイクとか化粧とか全然わからないけど、女の子は毎日こんなに時間かけてメイク頑張ってるんだなぁ。すごいなぁ。
オシャレの努力を怠らずに常にベストに可愛い柚希がたまらなく愛しい。抱きしめたくなる。
「その……爪とかもすげぇ可愛い」
「あ、そこも見てくれるんだ。ちょっと恥ずかしいけど嬉しい」
柚希は照れくさそうに両手の爪も見せてくれた。派手な感じではなく落ち着いた感じでしっかり手入れされた綺麗な爪。
本当にいい女は指先まで完璧に美しい。爪も艶やかで美しくて思わず見惚れる。この爪なら引っ掻かれても痛くなさそう、むしろ気持ちよさそう。柚希の爪だけで何発でもイけそうだ。
ジッと見つめていると柚希は指先まで真っ赤にしていた。
「……ごめんね柊斗、私そろそろ大学に行かないと……」
「あっ、そうだよな! ごめん」
このままずっと柚希を眺めていたいところだがそうはいかない。さすがに見すぎたか。
柚希は玄関に移動し靴を履く。俺も玄関までついていく。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
「……あ、柊斗……」
「ん? なんだ?」
―――チュッ
「!!!!!!」
柚希はウインクをして投げキッスをした。
完璧にメイクを完成させた艶かしい唇での投げキッス。
言うまでもなく俺の心臓をドキュンと貫いた。俺は心臓を抑えて悶える。
「―――私も好きだよ、柊斗」
柚希を起こす時に『好きだ』と言った。それに返事をしてくれた。
柚希はそれだけ言って、出かけていった。耳まで真っ赤になってたのを見逃さなかった。
俺も耳まで真っ赤になっている、間違いなく。可愛すぎて愛しすぎて心臓が過労死しそうだ。俺はポーッとしてしばらく動けなかった。見るに堪えないくらい俺は柚希しか見えず、柚希にデレデレしまくっていた。
―――……
ハッ!
柚希に夢中になりすぎて自分の朝の支度を全然してなかった!
早く俺も支度して学校に行かなくては……
柚希の投げキッスを受け取った俺はフルパワー全開になり、一気に気を引き締めた。絶対に、死んでも彼女を幸せにする。
柚希は大学を頑張っている。俺も彼女のためにもっともっと死ぬ気で頑張ろうと誓った。
もちろん学校も頑張るし、それだけじゃなくちゃんと働くぞ。




