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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第10章…推しはよしよししてくれる

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教室は地獄と化す

 教室に入った瞬間、俺の不安は的中した。


クラス全員が俺をギロリと睨みつけてきた。殺気がヤバすぎる。

予想はしていたが、俺が思っていた以上にクラスの雰囲気は最悪になっていた。


俺が転生した時点で柊斗と苺はクラス公認のカップルだった。2人の夫婦漫才みたいなやりとりがウケて、クラスは明るい雰囲気のはずだった。

その雰囲気を俺が台無しにした。クラスのみんなは俺が浮気をして苺を裏切ったと思っているだろう。クラスメイトみんなを敵に回し、この教室に俺の居場所はなくなった。四面楚歌っていうのかなこういうの。



そして苺は……

窓側にいる苺の席を見る。


イスに座ったままピクリとも動かない。こっちを見ようともしない。

顔を見なくてもわかる、凍りついたような表情をしていることが。


これは絶対に近寄ってはいけないと、俺の全細胞が警告している。テリトリーみたいなものがあって、それに足を踏み入れたら命はないと思った方がいい。

苺がどんな態度をしようと俺の方から近寄ることは絶対にないからそれくらいの方がちょうどいいかな。


……おそらく、俺と苺は二度と会話することもないだろう。

苺もみんなもわかってくれただろう、これはケンカではなく絶縁ということが。

以前のように苺が許してくれるなんてことはもうありえないのだ。


これでいい。俺が望んでやったことだ、覚悟はできている。



 俺は席につく。

周りのみんなは軽蔑したような目で見てくる。となりの席の奴は俺から机をできるだけ離した。


イジメとしか思えないような状況だが、問題ない。

こういうの慣れてるんだ俺は。前世ガチぼっちの俺をナメるなよ。


俺は気にしない、大丈夫……



「おい、柊斗」


「……善郎……」



今日教室に入って初めて声をかけられた。

柊斗の友達、()()()()()()()()()()()芋山善郎。


目を見ればわかる、こいつブチギレている。

少なくとも友達を見る目ではなく、ゴキブリを見る目だった。



「ちょっと来いよお前」


「断る」



こいつに何を言われるかなんてわかりきってる。誰がついていくかめんどくせぇ。

それにもうすぐ朝のホームルームが始まるだろうが。なんでこのタイミングで連れ出そうとしてんだ……



ガシッ!


「いいから来い!!!!!!」


「いってぇ、何すんだてめぇ……!!」



髪の毛を掴まれ、強く引っ張られた。

そのまま引きずるように連れていかれる。どう見ても暴力虐待みたいな行為だが助けてくれる奴は……いるわけねぇか。むしろみんな善郎の応援をしている。



そのまま連れていかれた先は、人目につかない体育倉庫がある場所。

はぁ……イジメをするのにちょうどいいみたいな場所だなぁ。


俺は校舎の壁に叩きつけられた。


ああ、超うぜぇ。めんどくせぇ。これラブコメだよな? どうせぶっ殺されるならせめて女の子に殺されてぇなぁ。なんで男なんだよ死ねよ。主人公以外の男が出しゃばってんじゃねぇよ誰得なんだよ。



「なぁ柊斗くんさぁ」


わざわざ()()をつけてるあたりガチのマジでブチギレなのがわかる。親や教師に説教された時もこんな感じだった。


「苺ちゃんに謝って仲直りしろって言ったよな俺? それで何なのこれ? なぁ?

てめぇのせいで苺ちゃん泣いてたぞ。どう落とし前つけんだ? あ!?」


胸ぐら掴まれて恫喝される。誰だこいつ。普段はヘラヘラしたお調子者みたいなキャラがここまで豹変するかぁ。これじゃチンピラじゃん。


善郎は苺が好きで、柊斗と苺のカップリングを激推ししていた。だからこそその分怒りも大きいのだろう。それはわかる。わかるが……



「……あのさぁ、お前こそ俺の話聞いてたのか?

()()()()()()()ってちゃんとお前にも言ったはずだぞ。俺は柚希が好きで柚希と付き合うことになった。だから申し訳ないけど苺は断った。それで話は終わりだ!」


「苺ちゃんを傷つけたてめぇを絶対許さねぇ」


「聞けよ!!」



おいこの世界の神様、この苺botをどうにかしてくれ。苺以外の女の子を認識できないようになってるんじゃねぇのかこれ。


俺が苺を傷つけたのは事実だし申し訳ないとは思っている。責められたり殴られたりする覚悟はしてきた。

でも人の話聞かねぇ奴の相手なんかいちいちしてられねぇよ。本当にめんどくせぇ。



……冷静になってよく考えてみれば、元はと言えば神様がすべての元凶じゃねぇのか。神が本当に存在するのかどうかは知らんが、とにかく俺を転生させた()()だ!


俺が()()()()()()で物語の終盤で苺ルートが()()()()()()()()状態だった。

転生させるタイミング遅すぎるんだよ。ギャルゲーとかで複数のヒロインを攻略するための分岐点があるだろ。そこに転生させろよ! 分岐点で転生させて好きなヒロインを選ばせろよ!!


まあワザとだよな。ヒロイン4人いるのに1人しか攻略できない仕様になってるクソゲーだよなこれ。神に寵愛された苺が絶対、それがこの世界の絶対的な法則。

その法則を破った俺に人権はないようだ。いいよ別に。人権がなくても柚希がいればそれで満足だ。



「苺ちゃんを泣かせといてよくのうのうと学校に来れたよなお前」


「苺のことは申し訳ないと思っている。だが俺は柚希がいいんだ、許してくれとは言わねぇがわかってくれ。頼む」


俺は深く頭を下げた。


「無理だね」


「……そうか」


わかってくれねぇか。わかってほしかったが、無理だって言うなら仕方ない。

こいつは親友という設定だったが、もう無理らしい。ならば絶交する未来しかない。柚希を認めない奴なんかいらねぇ。



「てめぇは超えちゃいけないラインを超えた。死で償え。何か言い残すことはあるか?」


「……仕方ねぇだろ」


「は?」


「何度も言わすな、俺は柚希が好きなんだ。

キープするのは論外だし、柚希が好きなのに苺とくっついたって誰も幸せになれねぇだろ。だから仕方ねぇんだ」



ガンッ!!


善郎に殴られた。苺のパンチの方が痛かったが、こいつの強い気持ちが俺に響いた。



「柊斗……お前には失望した。

お前と苺ちゃんが出会った頃からずっとお前らを見守ってきた。お前なら必ず苺ちゃんを幸せにできると信じていたのに……!」



善郎の怒りもごもっともだが……

でもそれ俺じゃねぇんだ。お前がずっと見てきたのは俺じゃねぇんだ。


どうする……こいつにも言うべきか? 俺の正体。俺はつい最近転生したばかりの別人だということを。


一瞬だけ迷ったが言いたくない。

俺が心を許して秘密を打ち明けるのは柚希だけ。柚希以外には誰にも言わない。苺にも梨乃にも桃香にも言わない。柚希だけが特別なんだ。

俺と柚希だけの秘密なんだ。



「俺は柚希を幸せにする」



ガンッ!!


また殴られた。さっきより強く。

抵抗する気はない。俺は逃げないからいくらでも気が済むまで殴ればいい。苺にも善郎にも本当に申し訳ないことをした。こんなんじゃ全然足りないだろうが、せめてもの罪滅ぼしだ。



「何が幸せにするだ……反吐が出る。苺ちゃんを泣かせる奴に何ができるっていうんだ。女を乗りかえるクズの言うことなど誰も信用しないぞ」


「乗りかえてない。()()最初からずっと柚希が好きだった」


「断言するよ。お前はまた浮気して武岡さんも傷つけることになる」


「そんなことはありえない」


「たった今浮気したお前が言っても何も説得力ねぇぞ、おい」


口ではどうとでも言えるから説得力ないのはわかってるがありえないものはありえない。柚希以外の女の子を好きになったらそれはもう俺じゃない。



「本当に最低だよお前。こんな()()()()()のクズ男だとは思わなかった」


「……あ?」


身体目当てだって? それは俺の中にある地雷を踏んづけたぞ。

罪悪感でいっぱいだった俺の中は、身体目当てとかいうたった一言でガラッと豹変した。



「だってそうだろ!? 俺は武岡さんのことは詳しくは知らんが、色仕掛けばっかりしてる人だろ!? そんな人を選んでる時点で、それが身体目当てじゃねぇなら何だっていうんだ!? あぁ!?」


「…………」



柚希はとても魅力的で、一緒にいてとても楽しくて、すごく幸せだから忘れそうになっていたが、他の人からしてみれば柚希はお色気要員でしかなくて、柚希=おっぱいって認識しかない。


柚希の魅力を語ろうと思えば余裕で数十時間は語れる。しかし説明したところでわかってもらえるとは思えない。前にも言ったが口で言うんじゃなく行動で証明したい。

だから俺は何も言わない。



「最低な上に見る目もねぇとか、マジで救えねぇよお前。苺ちゃんの方が絶対いいに決まってるのに。わかんねぇかなぁ?」


こいつにとっては苺が絶対的に一番で、俺にそれを否定する権利なんてない。

反論することはない。


「そんなにおっぱいが好きかよエロ野郎。まあ、お前にはああいう簡単にヤれそうなお下劣な女がお似合いかもなぁ」



バキッ!!!!!!


反論はしねぇが、善郎をぶん殴った。



「柚希のこと何も知らねぇくせに、下劣とか言ってんじゃねぇよ」


申し訳ないとは思っているが、どんな理由があろうと柚希を悪く言う奴は絶対に許さない。それはそれ、これはこれ。


善郎は一発で吹っ飛んで気絶した。こいつは身長も体格も柊斗より明らかに劣るけど、それにしたっていくらなんでも弱すぎだろ。



「…………」


善郎を殴った右手の拳を見てなんだか空しくなる。

善郎は柊斗の親友だったが、友情を完全に壊してしまった。

俺自身はこいつに何も思い入れはねぇが、それでも空しいものは空しい。


すごく短い間だったが、確かにこいつと友達だった。

俺と苺と善郎でテストの点数を見せ合って騒いでいた記憶が浮かんでくる。

もう二度とあの時間は戻ってこない。


覚悟はしてきた、後悔は微塵もしていない。

それでも何とも思わないわけでは決してなかった。


何かを得るためには何かを失うこともあるということだな。

受け入れて、前向きに進むぞ。


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