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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第9章…推しの家に住む

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最初は緊張しすぎてぎこちない

 俺は柚希とお付き合いをすることになった。

そして柚希と同棲することになった。


柚希と一つ屋根の下、さっそく押し倒してあんなことやこんなことをしてみたい……

……という願望は大いにあるが、いきなりそんなことはしない。


身体目当てじゃねぇしヤリ目じゃねぇからだ。彼女はお色気要員という役をされているが、だからこそ大切にしたい。この物語はエロじゃなくて純愛なんだ。

すごく大切だからこそ、焦らずじっくりと少しずつ関係を進めていきたい。



交際を始めたからといって急にベタベタイチャイチャ恋人っぽいことをすることもできず、お互いにちょっとギクシャクしている。むしろ付き合う前の方が恋人っぽいことしてたのではないかと思うほどだ。



「ごめんね柊斗くん、なんかすごく緊張しちゃってぎこちなくて……」


「いえ、俺も緊張しまくってますから……」


「いざ好きな人と付き合えると思うと、どうしても意識しちゃって思うように動かないな……」


「俺も全く同じです……」



裸で抱きついてきたり、えちえちメイド服で誘惑してきたり、チアガールで応援したり膝枕してくれたり、デートで密着してくれたりした柚希。

今目の前にいる彼女と同一人物とは思えないくらい超積極的だった。


今まで何度も濃厚な肉体的接触を行ってきた柚希がいざ付き合い始めるとピュアでシャイでよわよわになるの可愛すぎる。一生眺めてられる。

あああ、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いてモジモジしている柚希が凄まじい破壊力の可愛さで俺を萌え殺した。


これが()()()()()()()()()()()()ではない、()()としての柚希……

原作では決して見ることのできない柚希がたまらなく愛おしい。



「私が年上のお姉さんなんだから、もっと柊斗くんをリードできるようになれればいいんだけど……」


「いえ、俺がもっとしっかりしないといけないんです」


「あ、待って。柊斗くんホントはアラサーなんだっけ? じゃあ柊斗くんの方がお兄さんか!」


「あ、いえ、前世のことは無視していただいて結構です」


前世の分をカウントすると俺40代とかになっちまうのかな。いや別に足す必要はねぇよな、赤ん坊の頃からやり直したわけじゃねぇんだし。

柚希は年上のお姉さん属性だ。俺の実年齢とかは一切関係なく、お姉さんヒロインであることに変わりはないのだ。



「安心して柊斗くん。私、アラサーでも守備範囲だから」


「そ、そうですか。嬉しいです」


無視していいって言ったのに無視せずに前世の俺も受け入れてくれる……柚希らしいといえばらしいけど。



「柊斗くんが大学生レベルの勉強を教えられたのはそういうことだったんだね、納得したよ」


「成績は常に下から数えた方が早かったですけどね」


「ううん、頭良い柊斗くんが彼氏になってくれてとても心強いよ」


「俺も……柚希さんが彼女になってくれてとても幸せです」


「……柚希」


「え?」


「柚希って呼んで」


「……!!!!!!」


切なげに揺れる瞳で見つめられながらそう言われて、俺の心臓がドクンと激しく高鳴った。



「私たち恋人なんだからさ、気軽に柚希って呼んでよ。

それと敬語もいらないから。柊斗くんの方がお兄さんなんでしょ?」


「そ、そうですね……あ、いや、そうだな、うん!

改めてよろしく、ゆっ……柚希……!」


「ふふっ」


つい声が上ずってしまった俺を見て、柚希は優しい微笑みを俺にくれた。


今まで心の中では散々柚希って呼んでたくせに、いざ本人の前で呼ぶだけでこんなにも緊張してしまうのか。


できるだけ早く慣れろよこれくらい……柚希は俺の()()なんだぞ……

名前を呼ぶくらいでいちいちうわあああ、あわわわ……とかなってたら話にならねぇぞ。


とはいえ、前世を含めても人生初の彼女だからな……舞い上がって意識しすぎてテンションがおかしくなるのも無理はない。心の中の俺は全身全霊で踊り狂っている。



「それでさ、私も……柊斗、って呼んでいいかな……?」


「あ、ああ、もちろんだよ! 何度でもいくらでも呼んでくれ!

キミにならゴミクズって呼ばれても嬉しい!」


「あはは、なにそれ」


俺という奴は緊張しすぎて錯乱して、言う必要のない余計なことも言ってしまった。

そんな俺でも柚希は優しい笑顔をくれる。



「……柊斗……」


「~~~!!!!!!」


推しに呼び捨てで呼ばれた俺は尊すぎて無事に昇天した。

原作に存在しない柚希の姿をまた見ることができた。破壊力すごすぎだろ、兵器かよ……




 その後もしばらく柚希と話をした。

何の内容もない意味のない会話。


でもそんな話でも柚希と一緒にいられる時間が何よりも充実していた。

楽しすぎて、あっという間に夜となった。ようやく慣れてきて落ち着いてきたかな。



「そろそろ寝る時間だね」


「……!! あ、ああ……」



すごく今さらだが、俺は柚希の家にお泊まりするんだった。


それを意識して、せっかく落ち着いてきたと思った心臓がまたバクバクと暴れ始めた。


落ち着け、これからここに住むんだぞ。初日からこんな心臓が壊れそうになっててどうするんだ。

あくまで文字通り()()()()だ、リラックスだ、リラックス……



「じゃあ私の部屋に来て」


「ッ……!!!!!!」



いや落ち着けるわけがない。好きな女の子に部屋に来てとか言われて意識しないわけがない。

ガチガチのギンギンになりながら俺は柚希の部屋に入った。


女の子らしい部屋で、とてもいい匂い。

すぐにベッドが目に入って、俺は思わず目を逸らす。

ここが、柚希がいつも寝ている場所……邪な感情しか出てこない。



「ごめんね、ホントは柊斗専用のお部屋を用意したかったんだけど、寝る部屋はここしかなくて……」


「ああ大丈夫、ちゃんとわかってるから」


ボロいアパートで1人暮らしだからな、都合よく俺の部屋が用意されているわけがないのはわかっている。


というわけでこの部屋で寝ることになるわけだが……



「ベッドは一つしかないわけだけど……いくら恋人だからってさすがにその……いきなり2人で使うのはちょっとハードルが高いよね」


「まあ、そうだな……」


俺の理性が絶対に死ぬ自信がある。心臓と股間が絶対にもたないと断言できる。

いつかは2人でベッドを使いたい気持ちは大いにあるが今はまだ早いな。



「じゃあ柊斗が私のベッド使っていいよ。私は床で寝るから」


「いやなんでだよ、逆だろ。俺が床で寝るから柚希がベッドで寝てくれ」


「いやでも……」


「でもじゃない。居候の分際で女の子を床で寝かせるわけねぇだろうが」



柚希のベッドにダイブしていい匂いをたっぷり吸い込みたい願望があるが我慢だ我慢。


俺は床で、柚希はベッドで寝ることになった。

しばらく野外で寝てたから家の中で布団で寝るのは久しぶりだ。布団で寝られるのがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。


幸せに浸りながら消灯して寝よう。



…………


……



わかってはいたが、ドキドキして全然眠れない。

初めて柚希と同じ部屋で寝ると思うとどうしても意識する。意識しないようにするのは無理なので諦めるしかない。



「……柊斗……起きてる?」


「……! ああ、起きてるぞ」


「私ドキドキして全然眠れなくて……」


「俺も」


柚希も同じなのとても嬉しい。



「ホントに、夢みたいだよ……柊斗と付き合えて同じ部屋で寝れるなんて」


「俺も全力で同意する」


「今日は記念日だね。一生忘れない」


「ああ、俺も忘れない」



()を知ってもなお俺を受け入れてくれた柚希との記念日、死んでも忘れない。

愛しい柚希、もう二度と負けヒロインとは言わせない。


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