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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第9章…推しの家に住む

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すべてを話さなければならない

 「ごちそうさまでした」


俺は柚希が作ってくれたチャーハンを最後まで食べた。柚希が最後まで食べさせてくれた。


柚希は天使の笑顔で俺に微笑んでくれた。



「すごくおいしそうに食べてくれて嬉しかったよ」


「そりゃあもうすごくおいしかったですから。嬉しかったのはこっちのセリフです」


「ふふっ、これからは柊斗くんの分も作らなくちゃだから腕が鳴るなぁ。献立を考えたりとかお買い物したりとかも今までとは変えなくちゃならないから頑張らなきゃ」


「えっ!?」



俺がこれから柚希の家に住む前提で柚希は話をしている。俺はまだ住むとは一言も言ってないのに。



「いやだから、柚希さんに迷惑はかけられないんですって! もう俺のことは気にしなくていいですから」


「ねぇ柊斗くん、私の料理食べたよね?」


「えっ……」


柚希は妖艶に微笑した。さっきまでの天使の笑顔とはまた違う、色気のある笑顔。

そして俺の頬を軽く摘んで軽く引っ張った。彼女のしなやかな指の感触が、俺の股間にグッと響く。



「……食べ、ましたけど……」


「さっき私の家のお風呂も使ったよね?」


「そう……ですね……」


「じゃあもうすでに私のお世話になってるわけだよね? 迷惑かけられないとか今さら言ってももう遅いと思わない?」


「うっ……」



確かにその通りで何も言い返せない。

普段はアホの子でポンコツキャラでも、年上のお姉さんとしての余裕を見せつけられて、また俺の心臓に太い矢が深く深く突き刺さる。



「何度も言わせないでね、迷惑なんかじゃないから。迷惑とか甘えるとかじゃなくて、これは私からの恩返しなんだよ」


「恩返し……?」


「そう。柊斗くんにはいっぱいお世話になった。酔い潰れた私を介抱してくれたり、私に勉強教えてくれたり……

だから今度は私が柊斗くんのお世話をする番なんだよ」


「……」



()()()()()()()()()()()()というのは、俺じゃない。

勉強を教えたのは俺の功績といっていいのだろうか。しかしそれくらいでは家に住まわせてもらうという大恩にはあまりにも釣り合ってない気がする。せいぜいジュース奢るくらいのことしかしてないと思う。



「ね? 柊斗くん、遠慮しないでここに住んでいいんだよ」



非常に恐れ多いが、ここまで来たからには断る方が失礼な気がしてきた。

そして好きな女の子と一緒に暮らせる大チャンス、逃したくなくなった。

俺が静かに頷くと、柚希はニコッと微笑んだ。



「ふふっ、これからよろしくね柊斗くん」


「はい、よろしくお願いします……と言いたいところですがその前に、ちょっといいですか」


「なに?」


「ものすごく大切な話があります」


「え? 話ってもう終わったんじゃないの?」


「まだあるんです。絶対にお話ししなければならないことがあるんです」


「……うん、わかった」



柚希の家に住まわせてもらい、柚希の世話になるというのなら、どうしてもケジメをつけなくてはならないことがある。



()()()()()()()()()()()()()()



()()()だ。()()()()()()()()()、すべて。

()()()()()()()をするのは限界だ。隠し事なんてもうしてはいけない。俺の中にあるものすべてを柚希にさらけ出す必要がある。


真実を話して嫌われたらゲームオーバーだが、そうなったら潔く運命として受け入れる。

ラブコメの主人公に転生したのにヒロインの誰ともくっつけられずにすべてを失うかもしれない。俺が選んだのはそういう道だ。


すべてを失っても絶対後悔しない。短い間だったけど柚希と一緒にいろいろなことを経験できてとても幸せだった。夢のような時間だった。これからどうなろうとこの大切な想い出はニセモノなんかじゃない。

今さら怯まない。覚悟はもう決めてある。



「柚希さん、この話を聞いたらあなたは俺を嫌いになって前言撤回して家から追い出したくなるかもしれないですね」


「……ふぅーん?」


柚希がジト目だ。俺が言ったことに呆れ返っている感じだ。可愛い。



「なんでそういうこと言うのかな。私はこんなにもキミが好きなのに。

たとえキミが妖怪だとしても、私はキミが好きだよ」



ちょっ……すごく照れる。恥ずかしくて目を合わせづらくなる。心臓の脈動の加速でものすごく話しづらくなる。


妖怪か……そうかもしれないな。

栗田柊斗に憑依して、自分のことを人間だと思い込んでいる妖怪という可能性もないとは言い切れない。



「柊斗くんがそこまで言うくらい深刻な話だということだね。ぜひ聞かせてほしいな」


「はい」



さあ、話すぞ……


…………

怖い。せっかく柚希といい感じな関係ができてきたのにそれを台無しにしてしまうかもしれないのが怖い。後悔しないはずなのに。覚悟はちゃんと決めたはずなのに。それでもやっぱり怖いものは怖い。

どこまでもヘタレで往生際が悪いな俺は。どのみちいずれは話さなければならねぇんだ。早く言って楽になりたい。さっさと言え。



「実は俺、本当は()()()()()()()()んです」



「…………うん……」



……あれ?

てっきり『はぁ?』とか言われると思ってたんだけど、柚希は静かに相槌を打っただけだった。


これだけじゃワケわかんないはずだ、もっとちゃんと話さないと……

柚希がどう反応するのかを見るのが怖くて柚希の表情を見れず、視線を下に落とす。そうすると視線が豊満な胸に行ってしまうので慌ててさらに視線を下げる。

大切な話をしているのに相手の目を見れないのは俺の悪い癖だ。



「本当の俺はアラサーの平社員で、彼女いたこともないキモいオタクなんです。

それで俺、転生したんですよ。死んだら栗田柊斗になっていたんです。

前世の名前も思い出せず、前世の自分を捨てて栗田柊斗のフリをして、女の子にモテまくっていた卑劣な男なんです……!!」



「…………へぇ~……そうなんだ」



…………


……


軽っ!!!!!!

え、なんで!? リアクションめっちゃ薄くないか!?

俺とんでもないことを告白したと思うんだけどなんでそんなに冷静なんだ!?


もしかしてくだらないジョークを言ってると思われたんだろうか。見た目は完全に栗田柊斗なんだし普通に考えたら素直に信じるわけないか。



「……まあ、いきなりこんなこと言っても信じてもらえるわけないですよね……」


「ううん、信じるよ?」


「えっ!?」



マジで!? こんなにあっさり信じてくれるのか!?

信じるならなおさらおかしいんだけどその反応。どういうことだ!?


俺はてっきり嫌悪感を持たれたり軽蔑されるものと思っていた。

しかし今の柚希からはそういうマイナスな感情は一切伝わってこない。きょとんとしているだけだ。


なんでだ。なんでこんな軽い空気なんだ。わからない。



「どうしたんですか柚希さん……!? 混乱してるんですか!? 落ち着いてください!」


「柊斗くんの方が混乱してるよ、落ち着いて! 3分くらい休憩しよっか」


「は、はい……」


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