柚希とデート③
「さあ柊斗様! 白状してください!! お嬢様という婚約者がありながらなぜ他の女の子と!? あの女の子は柊斗様の何なのですか!?」
「あれ? 苺から聞いてないんですか? 苺にはちゃんと話したはずなんですけど……」
「お嬢様にも聞きましたけど教えてくれないんですよ。私はただこの目で見たものをそのままお嬢様にお伝えしているだけで何も知らないんです」
マジかよクソめんどくせぇ。苺にも苺の父親にも言ったはずなんだけどな。なんで執事に伝わってねぇんだ。
今デート中だってのにいちいち説明しろってか!? 冗談じゃねぇや。
俺は答えずにさっさと行こうとする。
「柊斗様! 教えてくれないのなら女の子の方にお伺いすることになりますが」
「……」
俺と苺が婚約していたこと、小雀家と栗田家以外は誰も知らない。もちろん柚希も。
柚希に隠し事はしないと言っておきながら隠し事だらけだな……
いつかは必ず言う。俺自身がちゃんと伝える。
だから執事はすっこんでろ。俺はともかく柚希に関わろうとすんな。
めんどくせぇが、こいつにもちゃんと言わなくてはいけないようだな。こいつに言ったら最後、小雀家にも栗田家にも知れ渡るであろう。
それでいい。俺が好きなのは柚希だということ、今度こそハッキリとみんなにわからせてやる。
「彼女は武岡柚希さんといって、俺の好きな女の子です」
「は……!? いや柊斗様にはお嬢様が……」
「苺じゃなくて柚希さんが好きなんです。今は柚希さんと動物園デートをしてるんです、邪魔しないでいただきたい」
「浮気ということですか!? 見損ないましたよ柊斗様!! お嬢様を傷つけるのであれば私は絶対あなたを許しません!!」
「浮気じゃありません」
「浮気ですよ! お嬢様と婚約してる方がなんてこと……!!」
「もうすでに苺とは婚約を破棄しました。だから浮気ではありません。俺は柚希さんと純愛しています」
「なっ……なんですと……!?」
執事は衝撃のあまりひっくり返りやがった。マジで何も知らなかったのか。
この世界は本当に苺が中心。苺以外の女の子を選ぶなど、相当おかしいらしい。
「あの、もういいですか? 柚希さんを待たせてるんですけど。
そういうわけなので、小雀家とは縁を切りました。なのでもうあなたが俺を監視する理由はないでしょう。二度と俺をつけ回さないでください」
「しょ……正気ですか……!?」
「正気ですけど何か?」
「……柊斗様は見る目がないのですね。失望しました」
「……あ?」
こいつに失望されたところで死ぬほどどうでもいいけど、マジでいきなり何を言い出すんだこいつ。
「武岡柚希さん……とか言いましたっけ? あのようなはしたない格好をしてる女の子の何が良いのか全く理解できません」
「…………」
こいつに理解してもらおうなんて微塵も思ってないが……黒板を爪でひっかくような不協和音が俺の心の中を渦巻いた。
確かに柚希は、お色気要員設定だからいつも露出が少し多い。
今日も谷間がチラッと見えてて太もももスラリと伸びた服装だ。
可愛いだろうが。ゆるふわな雰囲気、ヒラヒラと揺れるスカート、最高だろうが。
こいつにはわかんねぇかな。まあ見るからに厳格な雰囲気だもんなこいつ。
「あんな売女みたいなのを連れて歩いてたら柊斗様の品格が損なわれますよ。今からでも遅くありません、どうか考え直してください。
あの子はやめといた方がいいです。お嬢様の方が絶対柊斗様の相手にふさわしいと思いま……」
ガシッ!
着ぐるみの頭を思いきり掴んだ。
「お前に柚希さんの何がわかるんだよ!!!!!!」
ああ、煽り耐性低いな俺も。でも柚希のことになると良くも悪くも感情が乱高下する。
この執事が本当に苺を大切にしてるってことはわかってる。執事からしてみれば俺を許せないのもわかる。
だがどんな理由があろうと柚希を悪く言われる筋合いはない。俺は柚希が好き。この気持ちだけは何があっても譲れない。
何が品格だよ、俺にそんなもんあるわけねぇだろ。損なう品格なんて最初から持ち合わせてないんだから別にいいだろ。
「何度も言わすな! 俺はもう婚約者じゃねぇ!! わかったら二度と俺に近づくな!!」
それだけ吐き捨てて、俺はトイレから出て行った。
心の底に害虫が湧いてるようなたまらない不快感だった。どうしてくれるんだ、この不快感はそう簡単には払拭できないじゃねぇか。
「すいませんお待たせしました」
「お帰りなさい柊斗くん!」
「ではいきましょう!」
「うん!」
柚希を一目見ただけで不快感などいとも簡単に払拭できた。柚希の笑顔は心の傷を必ず癒す特効薬だ。
俺の方から柚希の手を握り、柚希も照れながらもそっと握り返してくれた。
執事のせいで無駄にされた時間を取り戻すためにその後もたくさんデートを楽しんだ。
「あーっ! 柊斗くん!!」
デート中、柚希が大声を出した。すごく興奮している様子だ。
「どうしました柚希さん」
「動物ふれあいコーナーだって! いこっ! 絶対にいこっ柊斗くんっ!!」
すごく無邪気にテンション爆上げしてて超可愛い。俺も釣られてテンション上がる。
動物ふれあいか……確かに動物園に来たからには動物触ってみたいな。
「ウサギさんだ! ウサギさん!! 可愛い!」
柚希はウサギを見てぴょんぴょん飛び跳ねる。可愛すぎる。柚希が。
でかい胸がたゆんたゆんと揺れて俺の視線はそこにしか行かなかった。せっかくウサギがいるのに。
「もふもふであったかーい!」
柚希はウサギを優しく抱っこして、優しく可愛がった。
ウサギは柚希の胸に顔を埋めてモゾモゾしている。死ぬほど羨ましい。次に生まれ変わったらウサギに転生したい。
器小さすぎだ俺。ウサギに嫉妬するんじゃなくて今はウサギを愛でるべきだろう。
俺も1匹のウサギを抱き上げた。
ウサギはジッとこっちを見てくる。何もかも見透かされているような目。
バタバタ
うわっ、暴れる。なんか嫌がられている。
なぜだ。別に嫌がるようなことはしてないはず……たぶん。
でも動物って普通は人間に触られるの嫌がるか……ウサギはそんなに嫌がるイメージないんだけどなぁ。
でもホラ、柚希に抱かれているウサギは気持ちよさそうにうっとりしてるぞ。なんで俺の方のウサギはこんなに嫌がるのだ。このウサギが気難しいタイプなのかな。
「柚希さん、ちょっとウサギ交換してみませんか?」
「うん、もちろんいいよ!」
柚希が抱いてるウサギと交換してみる。
「わぁ、こっちのウサギさんも可愛い~!」
さっきまで俺を嫌がってたウサギは柚希の胸の中でリラックスしている。
さっきまで柚希に懐いてたウサギは俺に抱かれてジタバタと暴れる。
これは……ウサギの性格とかそういうのは関係なく、ただひたすら俺はウサギに嫌われているということか。
わざわざ言うまでもないことだが、そりゃ触られるなら俺なんかより柚希の方が絶対にいいに決まってる。柚希は優しいし可愛いし柔らかいしいい匂いだからな、当たり前のことだ。俺がウサギなら絶対に柚希に愛でられたい。野郎に抱かれるとか気持ち悪すぎる。
でもだからといって、さすがにここまで露骨に態度を変えられるだろうか。別に動物に好かれたいとは思ってないがさすがに傷つくぞ。
……ウサギにすべてを見透かされているような目で見られた……
まさか、俺が本当はこの世界の人間ではないこと、ウサギに気づかれている……?
動物は人間より第六感的なものが優れているらしい。俺は別の世界からやってきて転生しているから、なんか気みたいなものが他の人間とは違うのかな……なんて漫画の読みすぎか?
でもこうして現にウサギに嫌われている。俺一応主人公のはずなのに、この世界で生きてちゃいけないって言われてるような気分になる……
「きゃっ、もう、ウサギさん……くすぐったいよぉ……」
「!!!!!!」
柚希に抱かれていたウサギが、柚希の服を引っ張って中に潜り込もうとした。
谷間とブラジャーが見えた。それを見た俺はさっきまで考えてたことすべてが吹っ飛んでどうでもよくなった。




