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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第8章…推しとデート

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柚希とデート②

 動物園といえばやっぱりパンダかな。

そう考える人は多く、超行列が並んでいる。これは一目見るだけでも大変だな。


配布されたパンフレットを読んでみたが、ここにいる動物は前世にも存在する。前世との違いがわからないくらい違和感を感じない。

前世で動物園に行ったのは小学生の頃一度行ったきりだったが、その記憶と比べてもほとんど変わらない。


もしかしたら見たことない生物とかいるかもしれないと思ってたが、そういうことは特になさそうだな。

テレビや新聞で見た時も思ったが、この世界はやっぱり前世とほとんど同じ世界なんだな。



「どうしよっか。どの動物から見ようか」


「柚希さんは見たい動物とかありますか?」


「そうだなぁ、うーん……カメさんとかどうかな」


「カメ……!?」


「うん、イヤかな?」


「いえ全然イヤじゃないですけど……女の子はウサギとかクマとかが好きなのかなと思ってたのでちょっと意外に思っただけですよ」


「ウサギさんやクマさんも好きだけどさ、カメさんも可愛くて好きなんだ!」



そうか、柚希はカメが好きなのか……

柚希推しなのに知らなかった。いやだって原作じゃそんなこと言ってなかった。


柚希はカメが好き……

カメ……

亀……

亀の頭……


やめろ、最低なことを考えるな。一瞬でも俺のカメさんも好きになってくれるかな、なんて考えてしまった最悪な俺を殴りたい。

言い訳になるけど柚希の色気がすごいから何を言っても卑猥に聞こえてしまうんだよ。


それより、動物に『さん』をつけて呼ぶ柚希可愛すぎかよ。

オトナっぽくて色っぽいお姉さんキャラなのに幼い少女みたいな言い方もするとか反則だぞ。



「わかりました、まずはカメを見に行きましょう。確かゾウガメがいます」


「うん!」



というわけで最初はゾウガメのところに行った。



…………

ゾウガメを観察しているが、全然動かない。

ムシャムシャと草を食ってるだけだ。


ゾウガメを見ているお客さんは少ない。あまり動かないからつまらないと思われてるのかもしれない。



「わぁ、可愛い~! カメさん可愛いね柊斗くん!」


「そ、そうですね」



柚希は瞳をキラキラと輝かせてすごく楽しそうにしているから俺もとても楽しい。


その後も10分くらい見ていたが、ゾウガメは結局動くことはなかった。

動かないならそれはそれでじっくり観察できたからよしとしよう。



「柚希さん、次は何の動物を見に行きましょうか」


「ゾウさん見に行きたいな!」


「ゾウさんっ……!?」



カメの次はゾウ……またしても下品な連想をしてしまう動物が……

いや、カメもゾウも決して下品な動物ではない。下品なのは俺の頭だ。


ゾウは動物園の看板を張れる動物だ。動物園に来たからには必ず見ておきたい動物だ。柚希がゾウをご所望でも何も不自然ではない、うん。これ以上変なことを考えるの禁止だぞ俺。



俺たちはゾウがいる場所に移動した。

見物客すごく多い、さすがゾウ。


長い鼻を使って器用に食べ、ズシンズシンと威圧感たっぷりに歩く、期待通りの動きをしていた。



「わぁ、可愛い~! ゾウさん可愛いね柊斗くん!」


「そ、そうですね」



柚希はさっきのカメの時と同じように喜んでいる。

どの動物でも楽しそうにはしゃいでいる柚希は本当に天使にしか見えない。



「見て柊斗くん! あのゾウさんすっごくおっきい!」


「……っ……そ、そうですね……!」


「あのゾウさんはすっごく元気だね!」


「そ……そうですね……!」


「長いお鼻がブラブラしてるね!」


「……そう、ですね……」



柚希は無邪気だ。純粋に清らかな心で、ありのままのことを言ってるだけなんだ。

でもごめん、柚希の言い方がもう、変なことを考えないようにするのは無理だ。

俺の脳内が汚染されすぎてて自己嫌悪に陥る。柚希と並べると自分の汚れ具合ががものすごく際立っている。

柚希があまりにも元気いっぱいで楽しそうに言うもんだから俺も違うところが元気になってしまった。見た目をラブコメ主人公にしてもごまかせないくらい醜悪な自分が悲しい。


どれくらい醜悪かって、今だって俺のゾウさんもおっきいって言ってほしいなんて最悪なこと考えているからな。

ゾウさん、下品な風にしか見れないバカな俺でごめんなさい。




 「ゾウさんすごかったね柊斗くん!」


「そうですね、よかったです!」



俺は下品だったけどゾウがすごかったのは事実で大満足だ。俺の脳が下ネタなのは死なないと治らないのでもう諦めるとして、柚希と動物園デートできて死ぬほど楽しい。



「柚希さん、俺ちょっとトイレに行ってきてもいいですか」


「うん、いってらっしゃい。ここで待ってるね」


「はい」



柚希とのデートは今のところは何事もなく順調ですごく幸せ。ドキドキしすぎて心臓がヤバイからちょっとトイレで落ち着かせたい。膀胱もそろそろ限界だし。



男子トイレは空いてて小便器がズラッといっぱい並んでて、ラッキーだと思った。

特に意味はないけどなんとなく一番奥の小便器の前に立ち、チャックを下ろして排尿を開始する。


ジョロロロ……



「柊斗様、ここにいらしたのですか」


「…………」



苺の執事……

幸せな気分だったのに台無しにされた。イヤな予感はしてたがやっぱりまだ追跡されていたようだ。

ついさっきまで気配を消してたんだろうか? 気配も足音もなく、いつの間にか俺の真横に出現しやがった。


あのさあ、話しかけるタイミング最悪すぎるだろ。

俺今放尿中なんだけど。なんで今なんだよふざけんなよ。

まあ、わざと嫌がらせしてるんだろうな。苺の家を出て行ったし執事から逃げたし、執事が俺にムカついててもおかしくない。



「あの、柊斗様ちょっとよろしいですか」


「よろしくないです。見てわかりませんか、俺今用を足してるんであとにしてください」


「そうですか、ずいぶんと勢いの良い放尿ですね。漏れそうだったんですか?」


「ちょっと黙ってくれませんか」


「柊斗様、なかなか立派なゾウさんですね」


「…………」



邪魔すぎるこいつ。殺してぇ。

お前にゾウさん褒められても嬉しくねぇんだよ。このシーン誰得だよ。


このゾウさん《《今は》》俺のゾウさんだけど柊斗のゾウさんだし。

前世の名前も覚えてねぇのになぜか前世のゾウさんは覚えてるんだよな。で、前世のより明らかにでかいゾウさんになってて複雑な気分だ。

そういえば冷静に考えてみると実質他人のゾウさん触ってるんか俺。気持ち悪くなってきた。



ジョロロロ……


くそっ、尿の量が多くて時間がかかる。放尿中とか超無防備じゃねぇか。ヤバイな、今は絶対に逃げられねぇぞ。緊張感が高まって焦る。


ジーッ……


執事の視線が不快感強すぎる。ていうかツッコまないようにしてたけどなんでクマの着ぐるみ着てんだよこいつ。何が悲しくてクマに見られながら小便しなきゃならねぇんだ。嫌がらせにしてもタチが悪すぎる。


やっと尿を出し終えて、洗面台で手を洗う。執事もピッタリとついてくる。



「あの、柊斗様……」


「その前に何なんですかその格好」


執事の格好なんて別にどうでもいいけど着ぐるみの存在感が強すぎてスルーしづらい。


「ここが動物園ということで目立たないように動物の変装をしてるんです」


余計目立つだろバカなのか。



「柊斗様、最近のあなたの生活を見させていただきました」


「懲りずにずっと監視してたんですね。ヒマなんですか?」


「ヒマではありません。しかし柊斗様ともあろうお方がホームレスのような生活をしてるなんて決して見過ごせません」


「そんなの俺の勝手でしょう」


「わざわざ底辺のような暮らしをするなんて……そんなに小雀家に戻るのがイヤなんですか!?」


「別に小雀家がイヤというわけではないんですが、戻りません。迷惑なので監視するのも金輪際やめてください。

これ以上あなたと話すことはありません。それでは」


今は柚希とデートしてるんだ。柚希を待たせてるんだ。こんな奴と話してる場合じゃない。時間の無駄すぎる。



「お待ちください!」


「しつこいですよ」


「柊斗様、女の子と手を繋いでらっしゃいましたね。

いや今日だけじゃない、ここ最近ずっとその女の子と親しげに……一体どういうことなんですか!?」


「…………」



まあ、ずっと監視されてたんなら、柚希とデートしてるところも当然見られてるよな。柚希の家に通ってることも苺にバレてるんだしすべてこいつに筒抜けというわけだ。


別に何も問題ないけどな。監視されてる可能性があることもわかった上で堂々とデートしてるんだよ俺は。デートをコソコソ隠れてするなんて絶対ごめんだし。


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