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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第8章…推しとデート

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デートが楽しみすぎるがいろんな問題がある

 テスト勉強を手伝ったお礼として、次の休日に柚希とデートする約束をした。

今から楽しみすぎて夜寝られるだろうか。


やっぱり楽しみすぎてあまり寝られなかった。デートまでまだ数日あるんだぞ、こんなんで大丈夫か俺。

デートの前にちゃんと学校もあるんだぞ。ちゃんと真面目に学校に行くぞ。学校に柚希はいないけどだからこそちゃんと頑張るぞ。



「おい柊斗」


「ん……? なんだよ、と……父さん」


学校に行こうとした時、父さんに呼び止められた。この人を父さんって呼ぶの慣れないな。



「……お前、いつになったら苺ちゃんと仲直りするんだ?」


「……!!」


そうだった。今の俺は自分の家で暮らしているが、父さん視点では苺とケンカして追い出されていることになってるんだった。すっかり忘れてた。



「お前は苺ちゃんの婚約者だ。苺ちゃんと一緒に暮らさなければならないのだ。なのにいつまでウチにいる気だお前」


「べ……別にいいだろ。ここは俺の家だろ。自分の家にいて何が悪い」


「ダメだね。苺ちゃんがかわいそうだろ。貴重な青春の時間をこれ以上浪費するな。早く苺ちゃんに謝って仲直りして苺ちゃんの家に戻れ。

ハッキリ言うがこの家にはもうお前の居場所はないぞ。あくまでもウチにいていいのは苺ちゃんと仲直りするまでの()()()()だと言ったはずだ。

早くしろよ、邪魔なんだよ」


「くっ……!」



前世で親から邪魔者扱いされてた頃を思い出して胸糞悪くなってきた。


この世界は、俺以外のすべてが苺とくっつく前提で回っている。

この流れに逆らおうとするとかなり厳しい現実が俺を引き裂いてくる。


ちくしょう、柚希とのデートの直前でウキウキワクワクの気分がクソ親父のせいで台無しだ。苺とは婚約を解消したってちゃんと言ったはずなのに、ふざけんなよクソ親父が。

俺が好きなのは柚希だ! 柚希を選んで何が悪いんだよ!!


上等だよ、もうこんな家出て行ってやるよ! 苺以外認めない家なんかこっちから願い下げだ!! 二度とここには来ない! クソ親父のツラなど二度と見たくない!!

でもどうしよう。苺の家にはもう戻れないし住むところがないぞ。俺大ピンチなんじゃないか?




 とにかく今は学校だ。学校に到着した。

これからはもう図書室には行かない。桃香がヤンデレ化して怖いんだ。できるだけ会いたくない。

そして弓道部ももう見に行かない。梨乃はいい子だけどだからこそあまり深く関わりたくないんだ。


まあこの2人は俺の方から行かない限りそんなに会うことはないと思うが……



「柊斗」


「苺……」


しかし、同じクラスの苺はそうはいかないらしい。



「どうした苺」


「いやさっき、自販機でジュース買おうと思ってたんだけど間違ってお茶買っちゃったのよね。だからあんたにあげるわ」


「は、はあ……どうもありがとう……」



またしても普通に苺と会話イベントが来る。柚希が好きって伝えて婚約解消したのに、草野球の時といい、図書館の時といい、そして今でも、苺は普通に俺に絡んでくる。

もう家には戻らないと伝えて以降、家に戻ってこいとは言ってこないけどな。



ところでこのお茶、()()()好きな飲み物だ。

まさかこれ、プレゼントしたってことか? ()()別にお茶が好きなわけではないが。


俺は柚希が好きなのに、苺から物を貰っても困る。もう俺のことなんか見捨ててほしいのに、何なんだよ苺。


いや、苺が悪いわけじゃないな。()()()()()()()()がそういう風にしているんだ。

このラブコメ世界の神は、苺が推しということだな。まあメインヒロインだしな。

俺が柚希ルートに行こうとしても、神は苺を推してくる。柚希ルートに行こうとする俺を引っ張って苺ルートのレールに乗せようとしてくる。

俺は神に平伏すると言ったがやっぱり取り消すわ。


申し訳ないが神の思い通りにはさせない。神に八つ裂きにされても俺は柚希ルートにしがみつく。

まずは苺に借りを作らない。たとえ1本のお茶でもだ。



「苺!」


「何よ?」


「はい、これ」


チャリン


「は? 何よこの小銭」


「さっきのお茶代だ」


「はぁ? いらないわよこんなの。あたしを誰だと思ってるわけ? お茶1本くらい奢ることもできないようなみみっちい女だとでも思ってんの?」


「いいから、ホラ」


お茶代を苺の机の上に置いたまま俺は自分の席に戻った。

苺からプレゼントをもらう資格なんて俺にはないんだ。




―――




 放課後、俺は困っている。

もう栗田家には戻らない。小雀家にも戻れない。


帰る家がない。これからどうしようか……


無駄にいい天気で腹立つ。とりあえず外を歩く。



ドガガガガガガ


ドドドドドド



うるせぇ……工事の音がうるせぇ。

道路工事が行われてて、歩行者通路を歩く。



「…………」


「うげっ……!?」



最悪だ……

工事をやってる土方の中に、草野球の試合で相手チームのサードを守ってたおっさんがいやがった。

目が合ってしまい、ガンを飛ばされた。俺は不快すぎて顔を歪めてしまった。


んだよこいつ……野球の試合の時も今もすげぇ感じ悪い。俺そんな怒らせるようなことしたかよ。

苺のことで怒ってんのか? 勘弁しろ、俺は苺狙いじゃねぇのに……



まあいい、無視だ無視。あっちも仕事中で絡んでくることはねぇだろ。

俺はさっさと通り過ぎた。


あんなおっさんは死ぬほどどうでもいい。このラブコメ世界にあんなもんいらん。

苺の件もまだ解決できてないけどできる限り早く決着をつける。


とにかく今は家がない、これだけは早急になんとかしないといけない。


新しく住む家が見つかるまではネカフェに泊まろうかな。ちょうどよく目の前にネカフェがあるし。前世でも親とケンカして家出してネカフェで暮らした経験がある。

一応それなりに裕福な家の息子だからサイフにそれなりの金はある。その気になれば1ヶ月くらいはネカフェで過ごすことは可能だ。



 ネカフェの個室に入る。

漫画読み放題、アニメ見放題だ。俺にとって聖地のような場所だ。前世でもよく利用していた。


漫画の本棚を眺めてみると……

おおっ、前世の世界には存在しない読んだことないラブコメ漫画がいっぱいある。


時間はいくらでもあるので読み尽くした。

いろいろ読んだ結果、おもしろかったけどやっぱりお色気要員の年上のお姉さんキャラが本命ヒロインという作品には出会えなくてショックな気持ちもあった。


ちくしょう、俺は絶対柚希を幸せにするからな。




 アニメを観まくって、気づいたら22時を過ぎていた。

そろそろ寝るか。その前にトイレ……

俺は個室を出た。



「柊斗様、こんなところで何をなさっているのですか」


「ッ……!?」



小雀家の執事が個室の前に立っていて俺は死ぬほどビビった。苺の側近を務めている執事で、オールバックの20代のお兄さんだ。



「な、なぜここに……」


「柊斗様のことはずっと監視しておりました」


「監視……!? 苺に言われたんですか?」


「そうですね、私はお嬢様の命令は絶対ですので。あなたが小雀家を出て行かれてからずっとです」



そうか……苺のヤツ……『お嬢様の情報網を甘く見るな』とか言ってやがったけど、そういうことか。

執事がずっと監視していたから草野球の時も図書館の時も俺がいる場所に現れた。



「それで、柊斗様? ここで何をしているのですか? お嬢様の婚約者ともあろうお方が、こんな夜遅くにネットカフェのご利用とは……高校生がネットカフェで宿泊などしていいとでも思っているのですか?」


「え……ダメなんですか……?」


「ダメですね、未成年が深夜に利用するのは法律違反です」


あ、そっか……今の俺は未成年だった。前世の感覚で普通に利用してしまった。



「柊斗様……お嬢様もとても寂しそうにしてらっしゃいますよ。そろそろ家に帰ってきてはくれませんか」


「申し訳ないんですがそうはいかないんですよ。苺にもちゃんと言ってあります」


「イヤだというのなら力づくでも連れて帰ります」


「…………」



逃げよう。

俺が全力ダッシュで逃げた。



「お待ちください!!」



当然執事も追いかけてくるわな。執事もすごく鍛えられてて身体能力がものすごい。気配を消して監視することもできる。だが、栗田柊斗のこの足の速さについてこれるかな?


ズキッ!


くっ! 運動すると頭痛がするんだった! しかし今は走らないわけにはいかないのだ。

俺は頭痛に耐えながら必死に執事から逃げた。


クソ親父に家を追い出されるし、うざいおっさんに睨まれるし、執事に監視されて追いかけ回されるし、大切な柚希とのデートを直前に控えてるってのに災難が多すぎる。


上等だ、たとえ災害が起きようとも、俺は必ず約束通りに柚希とのデートを決行する!!


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