2人きりで勉強①
テストが始まるまでの1週間、俺は毎日学校帰りに柚希の家に通って2人っきりで勉強した。
そしてテスト直前の休日。
「よし、明日がテストだ! 気合い入れていくぞ!」
柚希の言葉通り、気合いいっぱいの表情だった。柚希はハチマキをしていた。はい可愛い。萌死にしそう。
「柚希さん気合い十分ですね」
「そりゃそうだよ、柊斗くんが教えてくれるんだから!!」
「俺なんかでお役に立てるかどうか不安ですよ」
「大丈夫! 柊斗くんのおかげですごく頭が良くなってる気がする!!
今まで勉強サボりまくってた私だけど、今回はガチで頑張ってテストで満点取って、柊斗くんにいいところを見せたいんだ!」
「いいところ……ですか?」
俺にとっては柚希の何もかもすべてがいいところなんだけどな。
「うん。あのね、この前の野球の試合で見た柊斗くん、超かっこいいって思ってさ」
柚希にかっこいいって言われて超嬉しいけど、あれは柊斗の能力であって俺の実力とは違うからちょっと複雑だ。
いや、俺はあの柊斗を超えるって決めたんだ。あれよりももっとかっこいい俺になるんだ。
「柊斗くんがホームランを打った時とか、かっこよすぎて漏らしそうになっちゃった」
「漏らしそうになったんですか!?」
『漏らしそうになった』だと恐怖を感じたみたいな言い方じゃないか。『濡れそうになった』って言いたかったのか?
濡れた柚希を妄想して勃ちそうになっちまった。落ち着け俺。
「柊斗くんのいいところいっぱい見れて幸せだったからさ、今度は私が柊斗くんにいいところを見せる番なんだ!」
「そ、そうですか……嬉しいです。テストの結果楽しみにしてます……」
俺今すごく顔真っ赤なんじゃないだろうか……まともに柚希の顔を見れない。
「それで、今日は図書館に行って集中して勉強しようと思うんだけど、どうかな?」
「いいですね、行きましょう」
というわけで柚希と一緒に図書館に来た。
柚希の家から近い図書館で、かなり大きな図書館だ。本の数が多すぎる。
「せっかく図書館に来たんだから勉強の参考になりそうな本借りてくるね!」
「俺も手伝いますよ」
柚希と二手に分かれて本を探す。
本棚をめっちゃ探すが本が多すぎてなかなか見つからない。
これはちょっと時間がかかりそうだな……
「柊斗くーん、本いっぱい見つけてきたよ!」
「えっ、もうですか? 早いですね……」
柚希は大量の本を抱えて俺のところに戻ってきた。
俺まだ1冊も見つけてないのにもうこんなに……探し物得意なんだな。原作では描写されていない柚希のいいところがわかってすごく嬉しい。
「……ッ……!!」
「ん? どうしたの柊斗くん」
「いえっ、なんでもないです……!」
積み重なった本の上に、柚希のでかい胸が乗っている……!!
本の厚みが柚希の胸を置くのにものすごくちょうどいい感じになってる。
大きさや柔らかさがこれでもかと強調されていて、たゆんっ、ボインッって音が聞こえてきそうなボリュームだ。
俺は慌てて目を逸らした。
今日は真面目に勉強するからお色気展開はないと思っていたが、スキあらばお色気で俺を悩殺してくる。
「じゃあ勉強始めるから、今日もご指導のほどよろしくお願いします、柊斗くん」
「は、はい、よろしくお願いします……!」
本を探すの手伝うとか言いながら全然役に立てなかった。いや、これからだ。勉強はここからが本番だ、これから挽回してやる。
柚希の隣に座って一緒に勉強する。
集中して真面目にやらなきゃいけないのはわかってるが、柚希が可愛すぎてどうしても脳内が不純になってしまうな……
柚希のために頑張って教えているが、俺は絶対に教師の才能はない。
勉強を始めて30分くらい経った頃。
「あら、ずいぶんと幸せそうな顔してるじゃない、お2人さん」
「えっ……苺!?!?!?」
いつの間にか苺が目の前にいて、俺はひっくり返りそうになった。
「今まで赤点ばっかだったあんたが、テスト終わった後だってのに急に真面目に勉強しだすなんてね、どういう風の吹き回しかしら?」
「い、いいだろ別に……」
「武岡さんと一緒だからやる気出しちゃってるわけ?」
「う……うるせぇな……」
苺の威圧感に萎縮した俺は『うるせぇな』という言葉が消え入りそうになっちまった。
なんだよこの状況。浮気がバレて修羅場みたいな空気になっちまってる。
ふざけんな、これは断じて浮気じゃねぇ! 柚希が本命なんだよ! 柚希に一途なんだよ俺は!!
「それより、なんで苺がここにいるんだよ!?」
「あんたが最近、武岡さんの家に毎日通ってるって聞いてね。しかも今日は武岡さんと一緒に図書館に行ってるって聞いたの」
「誰に聞いたんだよ!! 誰にも言った覚えはねぇぞ!!」
「お嬢様の情報網を甘く見るんじゃないわよ」
またそれかよ……情報網っていうか誰かに監視されてるんじゃねぇのか、怖ぇよ。
まあ俺は小雀家にマークされててもおかしくない状況だけど。俺は苺と婚約関係だったのにそれを捨てたんだ、下手すりゃ殺されるかもしれない。
「あんた武岡さんの家で何してたのよ。いやらしいわねこのスケベ」
「うっ……」
柚希の家のお風呂で裸で抱き合ったことを思い出し、下心があるのは事実だし何も言い返せない。
「違うよ、柊斗くんはずっと私に勉強教えてくれてたんだよ!」
柚希は俺を庇ってくれた。こんな俺を信じてくれてありがたい。
「……ふーん、まあいいわ。とにかく、あんたは今ここで勉強してるのよね?」
「そうだよ。柚希さんがテスト近いから、協力したいんだ」
「ねぇ、だったらあたしも一緒に勉強させてもらってもいいかしら?」
「え!?」
俺は苺との関係を終わらせて離れたつもりだったが、この前の野球の試合といい今回といい、苺は今でも柊斗に絡んでくることが多い。
かつての読者であり神の視点である俺は柊斗が他の女の子と一緒にいるのを見て苺が嫉妬しているのをわかっている。
しかも今回は俺が柚希の家に通ってることが判明したからなおさら嫉妬の気持ちは強いだろう。
わかってはいるが、わかった上で苺の想いに応えるわけにはいかない。
「ねぇ、いいわよね別に。勉強の邪魔は絶対しないし、人数多い方が楽しいわよきっと」
苺の想いには応えられないが……まあ確かに、俺と柚希は今勉強しているだけであって、苺が参戦しても別に何も問題はない……一緒に勉強するだけなら苺の気持ちを弄ぶなんてことにはならないし……
俺は柚希をチラッと見る。苺も柚希に視線を向ける。
「あの、いいですよね武岡さん?」
「えっ?」
苺の気迫みたいなものに柚希もちょっと押され気味になっている。
「もしよかったらあたしも武岡さんのテスト勉強協力しますよ。あたし、柊斗より成績良いし、たぶんお役に立てるかと思います」
「あ……うん、もちろんいいよ! ありがとう、よろしくね小雀さん!」
急に現れた苺を柚希は快く受け入れた。柚希はニコッと笑顔を見せた。
だが、柚希の満面の笑顔を何度も見てきた俺にはわかる。今の柚希の笑顔に、ほんの少しだけではあるが、陰りが見えることを。
柚希は優しい女の子だから『邪魔だ』とか『あっち行け』なんて絶対に言わないけど、恋に全力だからこそ恋のライバルである苺を歓迎することはできない。
柚希は自分に自信がなくて、苺と同じ土俵に立ったら絶対に敵わないと思っているから、心の闇が漏れ出ている。
俺は、柚希の笑顔を曇らせないと誓った。他のヒロインにどう思われようと、柚希のためならどんなことでもやる。
「苺!」
「な、何よ」
俺は苺の正面に立ち、深く深く頭を下げた。
「ごめん! 俺は柚希さんと2人っきりで勉強したいんだ!」
言った後さらに深く頭を下げた。なんなら土下座もする覚悟だ。
「……何よ……あたしがいたら邪魔だっていうの?」
「そういうわけではない。俺が、柚希さんと2人っきりでいたいだけだ」
「…………」
苺はしばらく沈黙する。俺は頭を下げたまま苺の顔を見れない。
「……あっそ……邪魔してごめんなさいね」
「……殴らないのか?」
「何言ってんのよ、殴らないわよ。そんなに真剣に頭下げられたらおとなしく引き下がるしかないじゃない……」
苺はそう言って去っていった。
苺の表情は見れなかったが、声を聞くだけで無理してるのがわかって心が痛くなった。
本当にごめん苺、柚希には常に晴れていてほしいんだ。




