テストの結果が返ってくる
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次の日の月曜日。
登校中に梨乃と会い、昨日の試合後に倒れてしまったことを謝った。
そしてもう試合には出ないことを伝えた。
教室に入る。
「柊斗」
「苺……」
教室に入ってすぐ、苺が声をかけてきた。
「昨日は大丈夫だったの?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「ホントに?」
「ホントだって」
「そう、ならよかったわ」
いつも気が強い苺が今日はなんかしおらしい。心配してくれてたんだな。いやそりゃそうか。
まあ俺の方は本当に心配はいらない。運動を避ければ頭痛がすることはない。
「苺の方こそ大丈夫か?」
「は? 何が?」
「いや、なんでもないならいいんだ」
昨日の試合で相手チームのサードを守るおっさんが苺をいやらしい目で見てたからな。警戒した方がいいかもしれないと思ってたところで倒れちまったからもしかしたら苺が何かされたかもしれないと気がかりだった。
「……ああ、そういえば昨日の試合であたしのことをジロジロ見てきたおっさんがいたわね。マジでキモかったわ」
「あ、ああ。もしかしたらそのおっさんが何かしてくるかもしれねぇって思ったんだ」
「何? もしかしてあたしのこと心配してくれてたの?」
苺がニヤニヤしながら俺を見てきた。
スキあらばからかってくるんだよなこいつは。
「まあ、そりゃな」
本命は柚希だが、だからって他のヒロインがどうでもいいわけじゃねぇし。わけわかんねぇおっさんに取られるヒロインなんて見たくねぇし。
「なっ、何よ! 普通に肯定してんじゃないわよ! なんか照れるじゃない!」
このくらいで照れてんじゃねぇよ。チョロインかよ。
「……まあ別に、心配はいらないわ。あたし可愛いしお嬢様だし、キモい男が寄ってくるのなんて日常茶飯事。あたし護身術習ってるしボディーガードもいるし、痴漢やストーカー対策はバッチリよ」
確かに苺に何かあったら小雀家が黙ってないか。その気になれば小雀家の権力でおっさんの人生を終わらせるなんて容易いだろうし。
苺自身もすげぇ強いし俺が心配するまでもないか。
よし、誰得おっさんの話題もう終わり。俺もう草野球の試合に出ないしこれから先あんなムカつくおっさんと関わる機会なんてないだろ。
高校生に転生した俺には避けて通れないイベントがある。
テストだ。生徒たちの悲鳴が聞こえる中、中間テストが行われた。
1週間後、テストの結果が返ってきた。
返却されたテストの点数を見る。
…………まあ、こんなもんか。
結果を見て特に何も思わなかった俺は自分の席に戻ろうとする。
「柊斗~」
「なんだよ善郎」
善郎が俺を見ながらニヤニヤしていた。
「なぁ柊斗、お前何点だった? 見せてみろよ」
「……まあいいけど」
自分の答案用紙を善郎に渡す。
「おっ? なんだあっさり見せてくれんのか。いつもなら見せるの嫌がってたのに……どれどれ、柊斗の点数は……
…………な……なん、だと……」
俺の点数を見た善郎は真顔になった。さっきまでのニヤニヤ面はどうした。
「おい苺ちゃーん! 大変だ! 柊斗の点数を見てみろ!!」
「何よ……なんであたしがこのバカの点数なんて見なきゃならないの……
…………な……なんですって……!?」
苺も俺の点数を見て青ざめた。なんなんだよこいつら。そんな驚く点数じゃねぇだろ。
「う……ウソでしょ……いつも赤点まみれのバカ柊斗が……こんな……」
え? 赤点まみれ……? 柊斗が……?
あれ、おかしいな。俺が知ってる柊斗はそこそこ頭良かったはずだけど……
あ、そうか。運動得意って設定足されたからその代わりにアホにされたのか。
主人公が優秀すぎてもつまんないから調整入ったんだな。もう完全に別人だな。原作の柊斗は忘れた方がよさそうだ。
読書好きで図書室によく行って桃香の作品を評価してるなんて優等生っぽい設定あるくせにバカというよくわかんないキャラになった。ラブコメ主人公ってわりと頭良い奴多いのにな。
「な……71点だなんて……!! 今日は災害でも起きるのかしら……」
……そんな大した点数じゃねぇだろ……バカにしてんのかおい。
「おい柊斗、どういうことだ。まさかカンニングしたのか!?」
「してねぇよ」
善郎にカンニングを疑われたけどな、どうせカンニングするなら100点取るわ。
「じゃあなんでだ! なんで赤点マンのお前がこんなにいい点取ってやがる! 俺お前に負けるの初めてだ!! 死ぬほどショックだ!!」
なんでって……俺一応大卒だし……
大卒といっても全然大した大学じゃねぇし、小学生の頃からずっと成績は下から数えた方が早かったけどな。
人生2週目なのに、強くてニューゲームなのに、それで71点ってしょぼくねぇか? みんなより圧倒的に有利な状況でこの程度の点数しか取れないってのが俺のしょぼさをハッキリ証明している。
中間テストの順位表が廊下に貼られている。生徒全員の点数と順位が晒されている。漫画やアニメの世界ではよくある。
1学年297人中、俺は114位だった。うん、しょぼい。
真ん中より上なのは俺史上初めてだがしょぼいもんはしょぼい。
高校生活やり直しても113人に負ける俺、マジでしょぼい。
やっぱりランキングは大嫌いだ。
めっちゃ騒がれたけど俺がすごいんじゃなくて善郎がバカなだけだ。善郎は258位だ。今までこれに負け続けた柊斗やべぇな。
ちなみに苺は俺より上の89位だ。俺より上のくせに俺の点数見て騒ぎやがって。すげぇバカにされてて腹立つ。
梨乃は22位だ。文武両道だなぁ。
……ん?
下級生の順位も貼られてるんだな。ちょっとこっちも見てみるか。
……!!
『3位 木虎桃香』
桃香3位かよ……すげぇ。さすが小説家の卵。やっぱりすげぇ頭良いんだな。
原作で桃香に勉強教えてもらう回あったっけ……柊斗が小説読んでアドバイスして、そのお礼に桃香が勉強教えてくれるって感じで……くっつかなかったけどいい関係だったな柊斗と桃香って。
「あ、栗田先輩……」
「! 木虎さん!」
いつの間にか桃香が後ろにいてビックリした。
成績を見に来てる生徒はいっぱいいるし、桃香が来ててもおかしくないか。
「木虎さん3位なんてすげぇじゃん」
「はわわ、ありがとうございます……でも、まだまだです。私は小説家になるんですからもっともっと勉強しなくてはなりません」
ストイックだなぁ。いつも努力を怠らず勉強を頑張ってる桃香の姿を俺は知っている。漫画で読んだからな。
努力……俺に一番足りない言葉だ。
スポーツは大した努力もせずに柊斗の持っている能力のおかげで活躍しちゃったけど勉強はそうはいかないな。俺自身が頑張らないと。
俺は柚希にふさわしい男になるんだ。そのために自分磨きを頑張りたい。
「栗田先輩も今回はすごいですね」
「…………いや、全然すごくないけど」
「すごいですよ! 前回より100以上も順位上げてるじゃないですか! 頑張ったんですね! すごいです!」
……順位上げたんじゃなくて別人に変わっただけなんだよ。
「栗田先輩の順位大幅アップした記念にお祝いしますよ! 何か奢ります!」
いやなんでだよ。3ケタ順位でお祝いってなんだよ。悪気はないんだろうけど煽りみたいになってるぞ。頭良いんだけどなんかズレてるんだよな桃香って。
「……ああ、気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「遠慮しなくてもいいんですよ? いつも小説読んでくれているお礼でもあるんですから」
「ごめん、そろそろ戻らないといけないから……じゃあまたね」
「そ、そうですか……わかりました……」
気持ちは嬉しいけど柚希一筋の俺は他のヒロインとのイベントをできるだけ起こさないようにしたい。
柚希ルート1本道を突っ走る。寄り道はしない。




