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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第6章…栗田柊斗はスポーツで無双できる

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23/79

推しの膝枕




―――




 その後もサクサクと試合は進み、あっという間に9回に突入した。

スコアは2-3のまま、1点ビハインドだ。


梨乃は3点を取られたもののその後は頑張って投げ続けて追加点を許さなかった。お父さんとの親子バッテリーがバッチリかみ合ってるな。

俺がキャッチャーやるより梨乃パパがやる方が梨乃も抑えられるか。そりゃそうか。最初から親子バッテリーだったらもっと違う展開になってたかもしれない。そんなこと考えてても仕方ないけど。



相手チームの方はというと、怖そうなサードのおっさんが大活躍。全打席ヒットを打ってるし守備も上手いし足も速い。ムキムキ巨体のくせに柊斗と同じくらい速い。ムカつく。

別にマッチョが鈍足って決まってるわけじゃないけどさ、漫画ならマッチョはノロマだろうがよ普通。なんでラブコメ漫画の世界にスポーツ万能俊敏マッチョおじさんなんて出てきてんだよ誰得だよ。モブのくせに、原作には存在しないキャラのくせに。


何か弱点はねぇかなと思って試合中サードのおっさんをちょっと観察してみたけど、ヤバイことに気づいた。


あのおっさん、試合中に苺をチラチラ見てやがった。苺は見られてることに気づいた上でスルーしてたけど。



……まさかあのおっさん、苺に気があるのかよ。

じゃあ俺を睨みつけてたのは、俺が苺の婚約者だから……?


いや、マジで誰得だよ。この世界の展開マジで何なんだよ。いきなりポッと出てきたほとんどモブのおっさんがメインヒロインに恋してるとか誰も望んでねぇだろ。ラブコメでそんな展開やったら炎上するぞ。

おっさんの年齢知らないし知りたくもねぇけどたぶん30代か40代とかじゃねぇのか?

それで女子高生の苺に熱い視線送るとかロリコンかよきっしょ。


…………

いや、それは俺にもブーメランがブッ刺さるな。いい歳してラブコメヒロインに惚れてる俺も全く人のこと言えない。


俺は苺ルートには行かないからおっさんが苺をどう思ってようが俺には関係ないし、とやかく言う資格はない。おっさんが苺を好きだって決まったわけじゃねぇしな。

……が、万が一苺が危険な目に遭うなんてことになったらほっとくわけにはいかねぇよな……それに柚希も安全とは限らないし。

野球的な意味でもそれ以外の意味でもサードのおっさんは警戒しておいた方がよさそうだ。




 9回ウラ、俺は四球で出塁した。2アウト1、2塁の大チャンス。

ここでキャプテンの梨乃パパが外野の頭を超える逆転サヨナラタイムリーツーベースヒットを打ち、タートルズは4-3で逆転勝利した。

1塁ランナーの俺がサヨナラのホームインをした。



「やったあああ!!!!!!」


チームみんなで大喜び。俺も歓喜の輪に加わった。

草野球でここまで盛り上がるとは思わなかった。あまり乗り気じゃなかった俺もすごく熱くなれた。前世じゃこんなに充実した瞬間はなかった。

試合に勝った瞬間、柚希をチラッと見た。飛び跳ねて胸を揺らしながら大喜びしてくれてた。柚希が喜んでくれたのなら今日頑張った甲斐があった。



「ありがとう栗田君! キミのおかげで勝てた!」


「いや、それほどでも……」


できれば俺がサヨナラ打を打ちたかった気持ちもあるが、チームの勝利に貢献できてよかった。



「ああ、今日のMVPは栗田君だ!」


梨乃パパにバシバシと背中を叩かれる。痛い。


「いやMVPはサヨナラ打ったお父さんなんじゃないですか……?」


「いやキミだ! 俺は見れなかったがホームラン打ったんだろ!? バントヒットも打って盗塁も決めたし、チームの全得点に貢献した! キミがMVPだ!」


MVPか……前世の俺には一番遠い言葉だった。

いろいろな複雑な想いがあるが、多くの人に喜んでもらえる、みんなに讃えられる、俺がそんな経験をできるなんて信じられなくて、身体の芯から込み上げてくるものがある。



「どうだ栗田君、助っ人じゃなくて正式にウチのチームのレギュラーにならないか!? 毎週日曜日ここで試合やってるんだ。梨乃は部活もあるから出れないことも多いけど、キミは部活やってないんだよな? 栗田君が毎週試合に出てくれれば我がタートルズは強豪間違いなしだ!」


「……いやーちゃっと……それは厳しいですね……」


梨乃パパには悪いけどハッキリ言ってそんなの冗談じゃねぇや。

今日の試合思ってたより悪くねぇなって思ったけど、それは柊斗の能力が優秀だからだ。本来の俺だったら足を引っ張りまくって死ぬほどつまんなかっただろう。柚希にいいところを見せたくて頑張ったんであって別にスポーツを好きになったわけじゃない。


スポーツをやるのは今回限りだ。別に人数足りてないわけじゃないのはわかったしもう出る理由はない。

頭すげぇ痛かったしもう二度とやりたくない。試合終わったしもう頭痛は起こらないだろうし、さっさと帰って休もう……



―――ズキッ!!



「ッ……!?」


かつてない頭痛が俺を襲った。

サヨナラの時も激走したし、試合中何度もズキズキしてたが、今この瞬間が一番の激痛。今までの頭痛は前座でしかなかったようだ。試合終了後に今までの分がいっぺんに降りかかってきた。


痛すぎて、立っていることもできない。グラグラと身体が揺れる。視界がぐにゃりと歪む。



「……!? ど、どうした栗田君……!?」


「柊斗……!?」


「柊斗くん!?」



梨乃の声、苺の声、そして柚希の声が聞こえてきたが、俺は返事もできずそのままスーッと意識が遠のいていった。


―――……




―――




 「―――はっ……!?」


俺は気絶していたようだ。どのくらい寝てたんだろうか。まだ頭がボーッとしてて意識がハッキリしない。


視界がめっちゃぼやけている。少しずつ視力が戻っていく……



…………ん?

なんだこれ?


俺の視界に最初に入ってきたもの、それは大きな膨らみ。それも2つ。

そしてめっちゃいい匂いがする。すごく心地良くて落ち着くけどすごく興奮するといった、正反対の感情が入り混じるよくわからない感覚。


この匂い、俺は知ってる。大好きな匂い。

さらに痛んでいた頭部を優しく包み込んで癒すような暖かく柔らかい感触……気持ちいい……


これは……これって……



「あ、柊斗くん起きた?」


「ゆっ、柚希さん……!!」



大きな山2つの間からひょっこりと顔を出してきた女の子は、紛れもなく俺が大好きな柚希だった。


この2つの大きな膨らみは柚希の胸。

頭部を癒す柔らかい感触は柚希の太もも。


俺は今、柚希に膝枕されている。


意識をぼんやりさせている場合ではなかった。俺は一瞬にしてシャキーンと覚醒した。



「柊斗くん大丈夫!? 試合後に急に倒れたからすごく心配したんだよ」


「だ、大丈夫です……!」


「よかったぁ……」



柚希はホッと胸を撫で下ろした。


柚希の柔らかい太もものおかげで頭痛はもう治っている。体調も悪くない。

俺はもう大丈夫。しかし俺が見ている景色が大丈夫じゃない。



マジで絶景だ……俺の顔面の上でボリュームがすごいド迫力の乳がたゆんとしている。

パッツンパッツンのチアガール衣装だからでかい乳でユニフォームが押し上げられていて、下から覗き込んでるような体勢だから白い素肌とか、おへそとか、下乳とか、ブラがチラリと見えている……

柚希のチラリズムからしか得られない栄養があって情欲を煽られまくる。目の保養になりまくって視力が上がる。


あ、これ以上見ていたらまずい。魅惑的すぎて理性が壊れる我慢できなくなる。

俺は急いで起き上がろうとした。



「ダメだよ柊斗くん、しばらく横になって安静にしてないと」


柚希はそう言ってオデコにそっと手を添えて俺の動きを止めた。


「だ、大丈夫ですよ柚希さん……! これ以上は柚希さんの迷惑になるので……俺もう元気ですから……」


元気になりすぎて試合で疲れてるはずなのに試合前より元気だ。特に下半身が元気いっぱいになってしまった。



「迷惑なんかじゃないから。遠慮しないでお姉さんに甘えなさい。ね?」


「ッ……!!」


そんなこと言われたら永遠に甘えたくなってしまう。柚希のお姉さんパワーが破壊力絶大すぎて幼児退行しそうだ。

俺はお言葉に甘えてしばらく柚希の下乳を眺める。



ここは河川敷の近くのベンチ。柚希はそこに座って俺を膝枕してくれてたようだ。

もう日が暮れかけていて、長い時間気絶していたのがわかった。


「あの……他のみんなは……」


「みんな帰ったよ。小雀さんと龍崎さんはついさっきまでいてくれてたんだけどね」


「そうですか……」


苺と梨乃にも心配かけてしまったな……あとで謝らないとな。


つまり今は柚希と2人っきりってことか。意識したら心臓の鼓動がまた加速した。



「もう私しかいなくてごめんね。小雀さんと龍崎さんもいてくれた方がよかったよね」


「……いえ、柚希さんがいてくれればいいです」


「っ……!」


柚希の柔らかそうなほっぺたが赤く染まっていく。可愛すぎる。ほんのりと赤くなったほっぺを食べたくなる。



「もう、柊斗くんったら……お姉さんをからかっちゃダメだぞ? そんなこと言われたら私……勘違いして浮かれちゃうよ」


「浮かれていいですよ。勘違いじゃないですから」


「……柊斗くん……」



バッチリ目が合って、恥ずかしくてお互いに目を逸らしてしまう。


その後もしばらく、すっかり夜になっても柚希に膝枕してもらい続けた。

甘い甘い、チョコレートのような時間だった。


今日はいろいろ大変だったけど、柚希の膝枕を堪能できたので今日の草野球の試合に出場してよかったと心から思えた。


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