草野球の試合①
ウチのチームはタートルズ、相手のチームはラビッツというらしい。
タートルズ対ラビッツの試合が始まった。
さっき梨乃の投球を褒めていたおじさんが打席に入った。
この人が1番バッターだったのか……ていうか怖っ。威圧感が出てる。オーラが出てる。
梨乃はウインクした。
1球目からいきなりカーブを投げるのか。
俺は頷き、キャッチャーミットを構えた。
ギュインッ
ククッ
ズバンッ!
俺が構えたところにぴったりとボールが投げ込まれた。捕りやすくて助かる。俺が捕ったというより柊斗の運動能力反射神経で全自動で捕った感じだけどな。
今のカーブめっちゃ曲がったな。変化球のキレ、コントロールが完璧ですげぇよ梨乃。
これで野球部じゃないとかウソだろ。弓道部だから狙った的に命中させるの得意って言ってたけどそういうレベルじゃねぇよ。どんなスポーツでも一流な梨乃のセンスがすごすぎる。
「柊斗くんすごーい!」
え!? 俺!?
柚希が俺に拍手してくれたけど今のは俺じゃねぇだろ。俺は捕っただけだぞ、すごいのは梨乃だろ……
まあでも、柚希の声援でしか得られない栄養があって、めちゃくちゃ照れるし嬉しい。ありがとう柚希。
―――ズバーン!!
「ストライク! バッターアウト!!」
1番バッターの強そうなおじさんを空振り三振に仕留めた。
すげぇな梨乃。威圧感すげぇおじさんだったのに。
その後も梨乃は快調なピッチングで1回表を三者凡退に抑えてみせた。
この試合に出てる女の子は梨乃だけなのにこの堂々とした活躍。すげぇかっこいいな。
梨乃とハイタッチをして攻守交代。
次はタートルズの攻撃だ。
「栗田君、キミがタートルズの1番バッターだ」
「えっ、俺が?」
「チームで一番足が速いのはキミだからな」
まあ、頭痛は覚悟の上で全力でやるって決めたからな。必要な時はちゃんと走るつもりだ。
俺は打席に立つ。
「柊斗くんかっとばせー!!」
柚希も一生懸命応援してくれてるからな。1ミリたりとも手を抜くものか。
俺は柚希のために打つ。
頭痛は覚悟の上と言ったが、頭痛が起こらないに越したことはない。頭痛が発生するとチームに迷惑をかけるかもしれないからな。
手抜きはしない、頭痛はできるだけ起こしたくない。どうすれば……
そうだ。あるじゃねぇか、全力で走らずに済む方法。
相手のピッチャーが投げた。
カキーン!!!!!!
俺は初球を打ち返した。
打球は柵を越えて近くの川にポチャンと落ちた。
全力で走ったらキツイのなら、ホームランを打てばいいじゃないか。
で、実際に打てた。
打ったのは俺じゃなく柊斗だ。俺はただバットを振っただけだ。栗田柊斗の能力で打てたんだ。
柊斗の肉体になってみて柊斗の天才っぷりがよくわかって恐怖すら感じるほどだ。
「キャーッ!! 柊斗くんすっごーい!! かっこいいー!!」
柚希がジャンプして喜ぶ。胸がたゆんたゆんと揺れる。
ホームランを打って、柚希にかっこいいって言われた。
ヤバイ、超気持ちいい。マスターベーションと同じくらい気持ちいい。
俺は絶頂気分でゆっくりと走り出す。
ゆっくりとジョギングのスピードで1塁、2塁を踏む。
頭痛がしないように慎重にゆっくりと走り、3塁も踏む。
「おい、遅ぇんだよ。もっと早く走れようぜぇな」
相手チームのサードを守る人にキレられた。
怖っ。超怖ぇ。
ただでさえ相手チームは体格良いおっさんばかりなのにその中でも特に体格良くて怖そうなおっさんにキレられちまった。
さすがにチンタラ走りすぎたか。煽りだと思われたかもしれない。
違うんだ、決してふざけているわけではない。頭痛くなるから仕方ないんだって言うべきか? でもそれじゃなんで試合に出てるんだよってなりそうだな。
とにかくふざけてない、次はちゃんと真面目にやってるんだってことを証明した方がよさそうだ……
内心ビクビクしまくりながらもベースを1周し、ホームイン。
俺のホームランで1点を先制した。
「ナイスだ栗田君!」
「ありがとう龍崎さん」
まず梨乃とハイタッチし、チームメイトみんなとハイタッチをした。
ちょっと怖かったけど頭痛は起きてないし、まずは試合に貢献できた。
ホームラン最高だ。
1回ウラが終わり、1-0でタートルズがリード。
2回の守備についた。
2回表の最初の打者も梨乃が難なくアウトに打ち取った。
キャッチャーの方も今のところ順調。
梨乃のコントロールが良いから捕りやすくて守りやすい。
不安は多かったがキャッチャー意外といけるかも……!
キィン!
ゴッ!!!!!!
「ぐぅっ!?!?!?」
意外といけるかもって言ったそばからフラグ回収が早すぎる。
相手バッターの打ち損じたファウルチップが俺の顔面を直撃した。
もちろん顔も頭も防具を装備しているが、それでも硬いボールが顔面に当たるというのはとんでもない衝撃で脳がグラッと揺れた。
「うぅっ~……!!」
「あ、ごめん! 大丈夫か!?」
バッターも審判も心配してくれるが今は返事をする余裕がない。
マジで痛ぇ……首が取れるかと思った……
防具を外し、顔を抑えて悶絶する。しばらく立てそうにない。
「柊斗くんっ!!」
その時、柚希がダッシュでこっちに駆け寄ってきた。
柚希の揺れる胸を見たら、脳が回復していくのを感じた。
「柊斗くん大丈夫!?」
「だ……大丈夫です……」
返事する余裕もないと言ったが柚希が相手なら話は別だ。
ていうか、俺今、柚希に抱かれているじゃねぇか!!
俺の頭が動かないように頭部を優しく支えてくれている。そしてもう片方の腕はぎゅっと俺の身体を優しく抱きしめている。
そして、たわわな胸がむにゅっと押し当てられている。
頭を痛めてる場合じゃねぇ!!
ついさっきまで地獄の苦しみだったのが一転、天使の羽で愛撫されているかのようなふわふわ天国になった。
全体的に柔らかくてめっちゃいい匂いがして、痛みなんかどこかに吹っ飛んだ。
ドスケベでド単純な俺は瞬時に全回復した。回復しすぎて逆に天に召されそうだ。
「あっ、大変! 柊斗くん血が出てる!!」
「えっ!?」
あ、ホントだ。鼻血が出ている。
さっきボールが顔に当たったから出血したのだろうか。
……まさかとは思うが、柚希の柔らかい乳で鼻血出したんじゃ……いや、まさかな。いくら俺がスケベで興奮してるとはいえ鼻血は出さないだろ……漫画じゃあるまいし……いやこれ漫画の世界だったっけ。
「柊斗くん、ジッとしてて」
「え……?」
ふきふき
「……!!!!!!」
柚希はハンカチを取り出して、俺の鼻血を優しく拭いてくれた。
「ちょっ、柚希さん……!!」
「こらっ、動いちゃダメ」
「柚希さんのハンカチが汚れてしまいますよ……!」
「そんなのどうでもいいから」
鼻血が止まるまで、柚希は真剣な表情で介抱してくれた。
「柚希さん……ありがとうございます」
「気にしないで、このくらい当然。柊斗くんは酔っぱらった私をお世話してくれた恩人なんだから」
「…………はい……」
酔っぱらった柚希を介抱したのは、俺じゃないんだよな……
幸せだけどそれと同時になんか申し訳なくなってきた……
「あの~……そろそろ試合を再開してもいいかな?」
審判のおじさんに言われて俺はドキッとした。今試合中なのも忘れるくらい柚希に夢中になっていた。
「あっ、はい、大丈夫です! すみませんでした!」
柚希はそう言ってペコッと頭を下げ、元いた場所に戻っていった。
俺は柚希のおかげで復活し、試合が再開された。




