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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第6章…栗田柊斗はスポーツで無双できる

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梨乃とバッテリーを組む

 「……で、あんたは武岡さんのことが好きなのよね?」


「っ……!」


苺にそう言われ、俺はドキッとする。

確かに苺には自分の好きな女の子を伝えたが、梨乃の前で言うな。めんどくさいことになりそうだ……



「なにっ!? そ、そうなのか栗田君!? 武岡さんが好きなのか!?」


「うっ、そ、それは……」


思った通り、梨乃もめっちゃ追求してきた。

俺はしどろもどろになる。


ええい、どっちにしろいつかは必ず梨乃にもちゃんと伝えなきゃいけないんだ。伝える機会ができて好都合と考えるべきだ。



「あ……ああ、そうだ。俺は柚希さんが好きだ」



「ッ……!!」



伝えた瞬間、梨乃の顔色が青くなって、俺はズキッと胸が痛んだ。

試合前に言うべきじゃなかったか……でも聞かれたからちゃんと答えないと……



「そ……そうか……確かに武岡さんはすごく美人でスタイルも良い……私じゃ到底敵わない……」


いやお前の方が人気あるだろうが、って言いたくなったけど読者人気の話なんてしてないか。


それより明らかに梨乃の士気が下がってしまった。これから試合なのにマズイ。


俺がなんとかしようと思った時、苺が梨乃の背中を叩いた。



「何動揺してんのよ龍崎さん。……まさかあんた、この柊斗(バカ)のことが……」


「わーっ!!!!!! ち、違うぞ!! そうじゃなくてだな、私は負けず嫌いなんで、女として武岡さんにも負けたくないと思っただけだ、うん!」


大声出して慌てふためいている梨乃。普段はクールな無表情だけど柊斗のことになると恋する乙女モードになる。これは人気出るのも納得だな。



「と、とにかく、今日は草野球の試合なんだ! 一緒に頑張ろう栗田君!」


「あ、ああ、頑張ろう」


今日はこの試合に集中しよう。

柚希も応援してくれることだし、全力を尽くして必ず勝つぞ。




―――




 試合開始直前、梨乃のチームと相手のチームが全員揃った。

この試合を戦う選手たちは、梨乃以外全員知らない人だ。梨乃と俺以外マジで誰だ。原作に存在しない人ばかりで緊張感が出る。


無駄に体格良いおっさんばかりだ。みんな自己紹介してくれたが肉体労働系の仕事してる人ばかりだ。筋肉モリモリで金髪だったりグラサンかけてたり日焼けしてたりして、失礼だけどNTR漫画の竿役みたいなデザインだ。俺NTR展開でトラウマ受けたことあるからこういう人ちょっと苦手だ。


草野球ってもっとゆるい雰囲気で適当にやるイメージあったけどなんかガチ勢多いじゃねぇか。全体的に筋肉率高くてラブコメ感全然ねぇよこれ。バトル漫画の空気出てるよ。


なんか勝てる気がしない……俺は萎縮した。



「柊斗くん頑張って~!」



!!

柚希が声援を送ってくれて俺は元気モリモリに復活した。

上着を羽織ったチアガール姿で笑顔で手を振ってくれる。もちろん俺も手を振り返した。



「…………」


ジー……



うっ……

柚希の近くに苺もいる。氷のような視線で睨みつけてくる。油断してたら背中を刺されそうな威圧感がある。

ま、まあ一応苺も応援してくれるってことでいいよな……? 気に入らないならさっさと帰ればいいものを残ってくれてるんだから。



「あれ? お父さんは? お父さんはまだ来てないのか?」


梨乃はキョロキョロしながらそう言った。

そういえば梨乃のお父さんがチームのキャプテンって言ってたな。全員揃ったと思ってたけど肝心のキャプテンがまだ来てないのか。



「梨乃ちゃんのお父さんなら仕事の都合でちょっと遅れるって言ってたよ。試合開始には間に合いそうもないってさ」


「そ、そうですか……」


チームメイトのおじさんにそう言われて、梨乃は残念そうにした。



「すまない栗田君、お父さんがちょっと遅れるらしい」


「ああ、大丈夫だよ」


「最初はお父さん抜きで試合をしないとな……人数は足りてるからまあ大丈夫だけどな。お父さんが来るまで頑張ろう」




 試合開始直前、チームみんな集合して作戦会議が始まった。

キャプテン不在で梨乃が代理のキャプテンをやる。



「さて栗田君。野球のルールはわかっているよな?」


「ああ、大丈夫……」


()()全然詳しくないけど()()()野球のルールをしっかりわかっている。柊斗の知識が()()()にも引き継がれているようだ。転生便利すぎるマジでありがとうこの世界の神様。だからルールがわからなくて足を引っ張ることはない。たぶん。



「で、キミにやってもらいたいことがある」


俺は何をやるんだろうか。やっぱりピッチャーかな……野球漫画の主人公ってピッチャー多いからな。



「キミにはキャッチャーをやってもらいたいんだ」


「キャッチャー!?」



俺がキャッチャーやるんか? キャッチャーってめちゃくちゃ重要なポジションなんじゃないか? 柊斗の知識があるとはいえ初心者の俺に任せていいんか!?



「実はケガした主力はキャッチャーなんだ。他にキャッチャーできる人はいない」


「俺じゃなおさらできないと思うんだが……」


「いや、栗田君ならできる! 絶対大丈夫!」


どこからその自信が出てくるんだ……

俺が主人公だからか? 主人公だから大丈夫って感じなんだろうか。



というわけで試合開始直前で俺はキャッチャーをやることになった。

もっと早く言ってほしかったが……ぶっつけ本番の方が物語的に緊張感が出やすいからわざとそんな展開にしやがったのか。


プレッシャーがすげぇ。前世じゃまずありえなかったプレッシャーだ。

落ち着け俺、草野球なんだからそこまで深く考えなくても……いや、弱気になるな。全力で勝ちに行くと決めただろうが。

草野球だろうとキャッチャーはかなり大事なポジションだ。そんな大事な役割を任されたのは初めてなんだ。ひねくれオタクの俺でも期待されるのは嬉しいんだ。絶対に期待に応えたい。


……それによく考えてみるとキャッチャーって基本的には座ってるから比較的激しく運動するポジションではないな。そうなると頭痛はあまりしないかもしれない。キャッチャーに選ばれてラッキーだったかもしれない。

ポジティブに考えてプレッシャーを若干軽減することに成功した。



「で、ピッチャーは私だ」


「龍崎さんピッチャーなのか」


「ああ、私は弓道部だからな。狙った的に命中させるのは私の十八番だ」



えーと、梨乃がピッチャー、俺がキャッチャー。

つまり梨乃とバッテリーを組むことになるのか。


柊斗の知識によると、キャッチャーは女房役とも呼ばれ、ピッチャーとの深い信頼関係が重要……

これからのことを考えると梨乃とあまり関係を深めたくないんだが、今は余計なことを考えずに試合に集中するべきか。



梨乃はマウンドに立つ。俺もマウンドに行き戦い方についてコミュニケーションを取る。



「栗田君、簡単なサインを教える」


「ああ」


「私はカーブを投げる。カーブを投げる時はウインクするから私の顔をよく見ておいてくれ」


「ウインク?」


「それ以外はすべてストレートを投げる。とりあえずこれだけ覚えておいてくれ」


「わかった」



俺はホームベースの後ろに座り、梨乃の投球練習を受ける。



―――ズバンッ!!


「うおっ……!」


梨乃が投げるボールは、普通に速い。

柊斗の能力が優れてるから難なく捕れるけど、目を瞑りたくなるほど超怖ぇ。


俺は梨乃にボールを投げ返す。

梨乃、すげぇ集中してるな……普段からクールだけど鉄仮面のように表情を一切変えることなく淡々と投げてくる。


ヤバイ怖い。こんな剛速球を受け止め続けるとか、キャッチャーってこんな恐ろしいポジションだったのか。



「すごいな梨乃ちゃん、130キロは出てるな」


対戦相手のおじさんがバットを持ちながらそう言った。

ていうか130キロ!? 女子高生の女の子が!? ヤバすぎじゃねぇか。いくら漫画でももうちょっとリアリティある感じにしてくれ。


キャッチャーミットちゃんと着けてるとはいえ、俺の左手大丈夫なんだろうか。死ぬんじゃないか。



「柊斗く~ん!」


まだ試合始まってないのに柚希がめっちゃ声援を送ってくれる。



「…………」


苺は微動だにせず梨乃以上の鉄仮面表情で見てくる。



不安はたくさんあるが、柚希の声援に勇気をもらって、ついに草野球の試合がプレイボールだ。


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