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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第6章…栗田柊斗はスポーツで無双できる

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19/79

草野球の試合前




―――




 そしてあっという間に日曜日がやってきた。

試合開始の1時間前には決戦の舞台、河川敷に到着した。


万が一遅刻して怒られたりするのが怖くて早めに来た。偏見だろうけど野球やる人は怖いってイメージがあるんだよ、前世でパシられまくってたからな。俺はビビリでチキンなんだ。

しかしさすがに早く来すぎたか、まだ誰も来てない……


いや、いた。梨乃が一番乗りで来ていた。



「おっ、こんにちは栗田君」


「こんにちは龍崎さん」


「今日は本当に来てくれてありがとう」


「いやいや、こちらこそありがとう」


「え? 私、栗田君に感謝されるようなことしただろうか? 無理言って来てもらったというのに……」


「ハッ! あ、いやいや、その、なんでもないよ!」



梨乃が草野球に誘ってくれたおかげで柚希にいいところ見せるチャンスが到来したんだ、感謝もするさ。



「まあ、とにかく栗田君が来てくれて本当に嬉しい。今日はよろしく!」


「ああ、よろしく」



俺は梨乃とガッチリ握手をした。


……今、梨乃と2人きりだ。梨乃は俺に熱い視線を送っている。

柊斗の実力に期待している、という意味の視線でもあるだろう。それは間違ってない。しかし、彼女の視線は明らかにそれだけじゃない。


ラブコメ的なオーラが発生している。周りの空気がピンクになってるような気がする。

これ以上2人きりでいるのはあまりよくないな。梨乃を傷つけないためにも彼女とラブコメムードを形成するのはよろしくない。

でも別に抱きついたりとかベタベタしたりしてくるわけではないので距離を置こうとするのも不自然だな。どうしたものか。誰か、誰でもいいから来てくれ。



ブロロロ……


キイッ


!?



その時、車が近くに停まった。

車に詳しくないし免許も持ったことない俺でもハッキリ高級車だとわかるレベルのすげぇ輝いた自動車だ。


その車から誰かが降りた。

降りてきたのは苺だった。



「……あら、何握手なんかしちゃってんのよお2人さん」


「こ……小雀さん!? なんでここに?」



苺の登場に、梨乃は驚いていた。

俺も動揺を隠せない。誰でもいいから来てくれとは言ったけどなんで苺なんだ。


苺とは気まずい。顔を合わせづらい。婚約関係を切ったはずだったがまだ切れておらず、中途半端な関係が続いている。

しかも梨乃とはあまり仲良くない。ヒロインレースバチバチコンビが揃ってどうするんだ。修羅場みたいになるじゃねぇか胃が痛い。



「そこの柊斗(バカ)が草野球の試合に出るって聞いてね」


「なっ……誰から聞いたんだ?」


「あたしを誰だと思ってるの? お嬢様の情報網を甘く見ないことね」



ふふん、と勝ち誇ったような表情をする苺。背景に高級車もドーンと構えてあるしでこれでもかというくらい金持ちオーラを出してやがる。



「……で、龍崎さん? あんたはなんでその柊斗(バカ)を野球の試合に誘ったりしたのかしら?」


「……キミには関係ない」


「あら、その柊斗(バカ)は一応あたしの許嫁なのよ? 関係ないってことはないでしょ?」


「……ケガ人が1人出て、選手が足りないから栗田君に助っ人を頼んだだけだ」


「おかしいわね、あんたのチーム20人はいるでしょ? 1人ケガ人が出ただけじゃ選手が足りないってことはないはずだけど?」


え、そうなの? 梨乃の話によると俺が出ないと試合ができないみたいな感じだったんだが……


俺は梨乃をチラッと見る。


「っ……!」


梨乃は冷や汗をかいていた。

苺はフッと微笑した。



「人手不足ってのはウソね。本当はその柊斗(バカ)にいいところを見せたくて誘っただけでしょ? ただの下心ね」


「なっ……!」


今度は梨乃の顔は真っ赤に染まっていた。

そしてすごい勢いで俺の方を見て、俺は若干ビクッとした。



「ちっ、違うぞ栗田君! 違うんだ! 決してそんなんじゃない!」


「わ、わかったから落ち着いてくれ龍崎さん……」


普段クールな梨乃がこんなに取り乱すなんて珍しいな。原作でもめったに見られないレアな梨乃だ。


大丈夫だ梨乃、俺も下心でここに来たんだから。

俺も柚希にいいところを見せたくて来た。まさか同じような目的だったなんて、梨乃に親近感を覚える。



梨乃はキッと苺を睨みつけた。


「そう言う小雀さんの方こそ、栗田君とはケンカしたんじゃなかったのか!?

わざわざこんなに早い時間に車で駆けつけるなんて、栗田君のことが気になって仕方ないようだな!」


わっ、梨乃の反撃が始まった。怖い怖い。


恐る恐る苺を見ると、梨乃に負けないくらい顔が真っ赤になっていた。めっちゃ効いてる。



「バッ、バッカじゃないの!? 誰がそんなバカのことなんか! あたしはただ、そのバカスケベが試合で恥をかく姿を見て愉悦に浸りたかっただけよ! ふんっ!!」


ザ・ツンデレって反応をする苺。さっきからバカって言われすぎてバカという言葉がなんでバカなのかよくわからなくなってきた。


苺と梨乃のバチバチ展開が続く。こうなったらもうどちらも引き下がらない。

この前みたいに距離を置くわけにもいかず、俺は胃痛でキリキリしてきた。



「柊斗く~ん!」



!!!!!!

この瞬間、俺の耳はでっかくなってたと思う。


この声は、この可愛い声は、間違いなく柚希だ。

柚希が来た。彼女の声を聞くだけで胃痛がスッと治っていくのを感じた。


俺は声がした方向を向く。

そこには柚希がいた。柚希が手を振りながらこっちに走ってくる。



「!?」


俺は心臓が破壊されるかと思った。

なぜなら柚希の格好が……


チアガールだったからだ。


いや、なぜだ!? なんでチアガールの格好をしてるんだ!?

衝撃的すぎて混乱するが、俺の細胞すべて吹っ飛ばすくらい可愛い、それだけは確かだ。



たゆん、たゆんっ


「ッ……!!!!!!」



そして、走っているから、豊満な胸が揺れている。

それは俺の股間にドキュンと突き刺さった。


胸を揺らしながら突然現れたチアガールの柚希に、苺も梨乃も言葉が出ずに呆然としていた。



「お待たせ、柊斗くん!」


「いや全然待ってないですけど……試合始まるまでまだまだ時間ありますけど……」


「そうなんだ、絶対遅刻したくなかったからよかった!」


「……で……あの……どうしたんですかその格好……」


「野球の応援といえばやっぱりチアガールでしょ? 私の友達にチアリーディング部の子がいてね、今日のこと話したら衣装貸してくれたんだ」



そうか、友達の衣装か……確かに言われてみれば……

明らかに胸のところがサイズ合ってねぇ。胸がパッツンパッツンではちきれそうになっている。あんまり動くと衣装が破けて乳がぷるんと飛び出すんじゃないかって心配になる。

谷間もチラッと見えてるし、何もかもが股間に悪い。



「せっかくだから柊斗くんに見てもらいたくて……どうかな柊斗くん……似合う?」


「似合います。可愛いです」


「よかった、えへへ、嬉しいなぁ」


青いチアガールのユニフォームに天使の笑顔。何もかもが可愛すぎて直視できない。

この前のメイド服も今回のチアガールも最高すぎる。だからこそ、俺は今回も柚希に上着を羽織らせる。



「柚希さんのその可愛い姿……あまり他の人に見せたくないんです」


「ありがとう柊斗くん。柊斗くんがそう言うならちゃんと上着着るから」



また天使の笑顔を見せてくれる。何回可愛いって言っても足りないくらい可愛い。さらに近寄るだけでいい匂いがするから最強すぎる。


上着を羽織らせた瞬間、バチッと目が合う。

ジーッとお互いに見つめ合い、なんだか恥ずかしくなって同時に目を逸らす。

俺たちは、沸騰するほど顔を赤くしていた。俺は心臓が張り裂けそうなほどドキドキしている。柚希もそうだったら嬉しい……なんて思うのは驕りすぎだろうか。



「しゅ、柊斗くん! まだ試合始まらないよね?」


「は、はい、まだまだ時間あります」


「今のうちにお手洗い行ってくるね」


「はい、いってらっしゃい」



すぐそこに公衆トイレがあるので柚希はそこに行った。

後ろ姿も可愛い。ヒラヒラと揺れるスカートとそこから覗くピチピチな白い太ももに見惚れる……



ジトーッ……


うっ、背後に殺気を含んだ視線が!


後ろを向くと、苺と梨乃がジト目でこっちを見ていた。



「……今のは確か、武岡さんだったか。栗田君、ずいぶんと武岡さんにデレデレしていたな」


「そうね、めっちゃ胸見てたわね。そういうの女にはすぐわかっちゃうのにね。サイッテー」



くっ、2人とも視線が冷ややかだ。ヘタレチキンの俺にはキツイ。

巨乳な女の子がエッチな格好で登場したからな。俺は非常に嬉しいが、まあ女性陣にはウケが悪いだろうな……


確かに俺は柚希のお色気にデレデレのメロメロにされている。俺って超わかりやすくて単純だから誰がどう見てもわかってしまうレベルのデレデレっぷりだ。

柚希はエロだけの女の子じゃないって証明したいのに、俺がこんなんじゃますますお色気要員の印象が強くなってしまう。


世界を変える前に俺自身を変えなきゃならない。もっと余裕がある男になりたい。


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