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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
第5章…推しはアルバイトをしている

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アルバイトを頑張っている推し

 俺の推し、柚希はお色気要員としての役割しか与えられてない。この世界の法則でそうなっている。読者を盛り上げるストーリー、設定などが特にない。


それがどうした。ないものは作ればいいんだ。俺と柚希の物語を。


出番がないことには何も始まらないのでまずは柚希の出番を増やしまくる。

そして柚希との確かな繋がりがもっと欲しい。エロい関係だけじゃなくエモい関係を作りたい。


柚希は女子大に通ってるので同じ学校でイチャイチャキャンパスライフ……みたいな展開は不可能だ。


柚希と繋がれるとしたらあとは……アルバイト。

柚希はアルバイトをしている。柚希と同じところでアルバイトできれば……柚希との繋がりを増やすチャンスになる。


好きな女の子と同じバイトをしようとするのはあまりにもキモストーカーな行動だが俺主人公だし柚希も俺のこと好きだしまあトラブルにはならないだろう。たぶん。



だが、原作データによると柚希が何のアルバイトをしているのかは不明だ。

柚希がバイトをしている設定があるというだけで、実際にバイトしている最中の描写はなかった。これからバイトに行く描写とかバイトが終わった後の描写とかはあるんだが……


ちなみにアニメでもバイト描写はなかった。ていうか柚希に関してはほとんど原作通りでアニオリ要素ねぇな。苺や梨乃はアニオリでけっこう描写が盛られてたのに……


原作を読み込んだ俺でもわからない推しの謎。一体何のバイトをしているのだろうか。出番が少ないゆえにまだまだ柚希について知らないことがある。知りたい。柚希のこと、全部知りたい。


こうしちゃいられない、本人に聞いてみればいいだろう。



ドキドキしながら柚希に『今お時間ありますか?』という内容のメッセージを送ってみる。この前送った時は気づかれなかったんだよな。今回返事が来るかどうか……


今回はすぐに返事が来た。1分もしないうちに来た。

『今ヒマだからこれから会おうよ』って言われて俺のテンションは最高潮に達した。




 放課後、柚希ん家の近くにある公園で待ち合わせした。



「柊斗くん!」


むぎゅっ


「わっ!?」



柚希に会った瞬間、柚希に抱きつかれた。

むにゅっとした柔らかい胸の感触で俺の心臓は鷲掴みにされて握り潰されそうになった。



「会いたかったよ柊斗くん……で、今日はどうしたの?」


「いえ、そんな大した用ではないんですが……実は俺、アルバイト始めようかなと思ってまして」


「アルバイト? 柊斗くんが? 柊斗くん家けっこうお金持ちだしアルバイトする必要ないんじゃないかな?」


「それは……社会勉強といいますか……いろいろ経験してみたいと思いまして」


それっぽいことを言ったが俺が勉強したいのは柚希のことだけだ。

前世でも一応バイトの経験はある。すぐ辞めたけど。その時の経験を活かせたらいいなぁ。



「それで……柚希さんアルバイトしてましたよね?」


「ん? うん、してるけど……」


「俺、柚希さんを参考にしたくて。どんなバイトをしてるんですか?」


よし、あまり不自然じゃない感じで聞けた。

柚希はちょっと複雑そうな表情をした。



「うーん……ちょっと恥ずかしいな……」


「ん……?」


「ごめん、私がやってるバイトじゃあまり参考にならないと思うよ。その……()()()()()()()()()()()()()()だから」


「!?」



恥ずかしくて女の子しかいないバイト……だと……!?

まさか、それって……いかがわしいお店……!?


いや、女性だけが働く場所はいかがわしい店だけじゃないのはわかってるが、前世で何度かそういう店にお世話になったことがある俺としてはそういうことしか考えられない。

この前お風呂で裸で抱きつかれたこともあったしなおさらいやらしいことしか考えられない。


いやまさか……この漫画は少年向けだぞ……いくらお色気要員でもそういうバイトをしてるなんてことは……

しかし原作ではバイト描写はない。描写がないということは少年には見せられない、つまりエロい仕事ということ……なのか!?

しかも柚希は成人済みだぞ。ダメだ、エロを否定しようとすればするほど俺の思考はエロ方向に行ってしまう。自分のピンクな頭が憎い。



「じゃあ柊斗くんも私の働いてる店来てみる? 私がバイトしてる時間と店の場所教えるから」


「えっ!? いいんですか!?」


「もちろんだよ。柊斗くんならサービスしちゃう」


「え!?」



サ……サービスだと……!?

俺が客で柚希が姫で、あんなことやこんなことをする妄想しかできなくなった俺はいろんな部分が爆発した。



「あ、でもけっこう高い店だしもちろん無理にとは言わないけど……」


「いえ、行きます。行かせてください」



金は大丈夫。柊斗の家はけっこう裕福だし、前世で底辺ではあるが一応社会人として働いて稼いだ貯金がなぜかこの世界にもある。

前世の貯金引き継げるとか転生最高かよ。都合良すぎて逆に不安になるレベルだ。




―――




 というわけで柚希がバイトしてる日に柚希に教えてもらった場所に来た。

高い店と聞いてるので前世の貯金をありったけ持ってきた。柚希になら貯金のすべてを捧げてもいいと思っている。


ここ繁華街だな……やっぱりいかがわしい店なんだろうか。不安と緊張と興奮が入り混じって複雑な気分だが、柚希がどんなバイトしてても俺は絶対に否定しない。



……ここ……だよな。

柚希にもらった地図を何度も確認する。


ごく普通の雑居ビル。看板を見るといろんな店がある。ピンク系の店もいくつかあって俺の心臓の動きはより一層加速した。


このビルの、地下1階にあるようだ。看板見ても落書きされててどんな店かよくわかんねぇな……

まあいい、行くぞ。俺は薄暗い階段を降りていった。



「ッ……!?」


心臓が止まるかと思った。地下1階に到着すると、扉があってその前にメチャクチャ怖そうなおっさんが立っていた。


怖ぇ……怖すぎる。黒服にサングラスで完全にカタギには見えねぇよ。誰だよ。原作には存在しないキャラだから余計怖い。

次から次へと何もかも怪しい雰囲気じゃねぇか。やっぱり風俗系で働いてるのか柚希……



サングラスのおっさんは俺がいることに気づくとコツコツと足音を響かせながらこっちに来て、俺は心臓がまた止まりそうになった。

こ、殺される……! 死ぬ……!!



「もしかして栗田柊斗様ですか?」


「え!? は、はい、そうですけど……」


なんで俺の名前を知ってるんだよ。恐怖しかない。



「柚希ちゃんから話は聞いております。さあ、どうぞ」


え、柚希?

柚希の名前が出たことに驚いているとおっさんは扉を開けた。



「いらっしゃいませ~!」



!?


中に入ると、10人くらいのメイドに出迎えられた。

しかもみんな猫耳を装備してるじゃねぇか。猫耳メイドさんだ。

そしてよく知ってるアニソンが流れている。


確認しなくてもわかる、一目見ればわかる、この店の正体。

柚希が働いている店の正体、それはメイド喫茶だった。


なるほど、メイド喫茶だったか……柚希がちょっと恥ずかしそうにしてた理由がわかった。風俗系じゃなくてよかった。



「私はこの店の店長です。よろしくお願いします」


「あ、はい。よろしくお願いします……」


怖そうなサングラスのおっさんはメイド喫茶の店長だった。名刺をもらってしまった。

この店は『にゃんにゃん天国』という名前のようだ。ド直球ヒロインの柚希にふさわしい何の捻りもない直球の名前だ。



「あの、すいません店長さん。柚希さんは……?」


今ここにいるメイドさんは可愛い子ばっかりだが、肝心の柚希がいない。

おかしいな、間違いなく今日この時間に柚希が出勤してるはずなんだが……柚希本人からちゃんと確認したし。


「ああ、柚希ちゃんはちょっと今トイレに……少々お待ちください」


「そ、そうですか」



まあ本命は遅れてやってくるのは物語じゃよくあることだな。

メイド服姿の柚希が見れる……楽しみすぎてワクワクドキドキで心臓が口から出そうだ。


数分待つと、店の奥の扉が開いた。



「お待たせしました~……あ! 柊斗くん!」



他のメイドと同じ服装で、猫耳を装備した柚希が現れた。

それを見た俺は、心臓が口から出ることはなかったが、また心臓を矢で撃ち抜かれた。すごく太い矢だ。


猫耳メイドの推し、破壊力が絶大すぎるんだが。

柚希に見惚れすぎて光り輝いて見える。その他のすべてがぼやけて見える。限界オタクの俺はまた壊れた。


俺に気づいた柚希はすぐに俺に駆け寄ってきた。

走った時にたわわな乳がたゆんって揺れたのを俺は一生脳内に焼きつけた。

しかも谷間もチラッと見えている。本当にちょっとだけだがこのわずかなチラリズムが俺の血流を狂わせた。



「柊斗くん、来てくれたんだ」


「もちろんですよ。行くって言ったでしょ」


柚希のためなら宇宙でも火山でも深海でも地底でもどこでも行くぞ。



「そっか、ちょっと恥ずかしいけど嬉しいな。……あ、いけない、今の私はメイドで柊斗くんはご主人様だった。いらっしゃいませご主人様っ!」


柚希は俺に深く深く頭を下げた。


「いや、いいですよそんなにかしこまらなくても……」


「そうはいきません。私はメイドなんですから」


真面目に一生懸命仕事してる……可愛い。

そういうところも好きだ。


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