最終回 Web小説の女神
人類を現実世界に戻すのも私の仕事なのですよ。
全員というと、アレなので今回は古書店『ふしぎのくに』なのです。
セシャト姉様、コストコの大きなスイーツを一人で食べるやべー奴なのです。
ヘカ姉様、みんながお洒落じゃなさすぎて、会うと買い物に連れて行かれるやべー奴なのです。
トト兄様、何をしているかわからないやべー奴なのです
「いらっしゃいませ! 古書店『ふしぎのくに』へようこそ!」
そこには銀髪、褐色の美少女店主が出迎えてくれた。
「セシャトさん……すまない。僕はとんでもない事をしでかしてしまった……姉さんの作品に僕が入るという事は……僕が作品に戻るという事だったんだね。それは脳死している僕を殺すという事だったんだ。ははっ、いい道化だよ。姉さんは僕、いや本当の僕の死を受け入れられなかった。そこで神様とダンタリアンの力を借りて、僕を生み出した。自らの命という代償を払ってね」
神様がセシャトに口を酸っぱくして、Web小説のキャラクターに深く関わるな。話を変えてしまってはいけないと言っていた理由はこの事があったのだろう。セシャトは微笑む。
「クリスさん、実は私。一月に本当のクリスさんとお話をした事があるんです。今のクリスさんよりずっと余裕がある方でしたよ!」
「……是非もないね」
「きっとクリスさんのお姉さんは、今。私の目の前にいるクリスさんが理想の弟さんだったんでしょうね。お姉さん大好きで、頭がよく狂気的。猪突猛進になれる弟さん」
「チープでバタくさい、語彙力のない腐女子が考えそうな。クソキャラクターだね。まさに僕の姉さんだよ……ははは。失った物を取り戻す事はできないけれど、僕が消える事でできる限りの世界の修正を……」
クリスの提案にセシャトは首を横に振る。
「いいえ、クリスさん。もう貴方には待っている人がいるんです。ですから元の世界に戻りましょう。代わりに私が押したリセットボタンが保留中なんです。これが動き出せば元通りです」
クリスはリセットボタンについてセシャトから聞いて怒鳴った。
「そんな物! セシャトさん。貴女がいなくなる。それも誰も覚えていない……そんな事。そんな犠牲」
セシャトはかちゃかちゃと紅茶を入れて、ケーキを冷蔵庫から出すとそれをクリスに差し出した。
「いいんです。私はWeb小説もそれを書く方も、読む方も、そんな方々全てのファンであり、サポーターでありたいと思っています」
Web小説の女神、セシャト。そんな彼女を世界から喪失させてしまう。それにクリスは絶望し、倒れ込む。セシャトがクリスを支えようとした時、第三者の声が響いた。
「全く、セシャト姉様も、クリスもバカちんなのですよ! なんでそんな方法しか考えないのですか」
クリスとセシャトが振り返ると、豪華な椅子に腰かけている少年。500mlの牛乳パックに口をつけてゴキュゴキュと飲んでいる。
その姿を見て二人は、
「確か、マフデト君」
「マフデト兄様……ですか?」
マフデトは両手を上げてから不敵に笑う。
「けーい、おーす!」
「けいおす?」
「カオス、宇宙の事ですね。このマフデト君は多分……ダンタリアンの系譜を持っていると確定で言えるよ。このテンション、頭が痛くなってきた」
クリスが苦手とする人物はセシャトが知る限り、一人。ヘカだけだった。そのヘカを完全に凌駕するのが会った事はないが、前古書店『ふしぎのくに』店主のダンタリアン。
「よくわかりましたね。クリス。ダンタリアン母様は私を生み出した本人です。でもまぁ、私は母様程やべー奴じゃねーのですよ。神様が生み出したセシャト姉様。そしてダンタリアン母様が生み出した私。ベースは全く同じ物なんですけどね。誕生日も同じですが、私は少しばかりダークサイド側なのですよ」
自らの生みの親をやばい奴呼ばわりし、自らダークサイドであるとか戯言を平気で言うマフデト。されど、マフデトはこんな面白発言をする為にここにきたわけではない。
「クリスのやらかした戦犯は驚くばかりなのですよ。指名手配犯のランの殺害未遂、外宇宙への遺物の横領未遂、大陸の殺し屋・木人の暗殺未遂。佐倉ヨミを巧妙に操り、セシャト姉さまを恨ませる。ザ・ビーストこと、一文字いろはを、直系であるバレッタを人質にとり爆破行為を繰り返させる。そしてそのいろはのクローン。ビーストを作る。その研究結果を元に妹という名の、姉の遺伝子を持ったアリアを生み出した……うん、もうほんっとうに、明日やろうはクソ野郎なのですよ。神様とダンタリアン母様に育てられただけはあるのです」
滅茶苦茶身内をディスるマフデトにクリスよりもセシャトが気になって尋ねた。
「マフデト兄様、その心は?」
「クズとバカの子供はクソなのですよ」
滅茶苦茶口が悪い。マフデト。それにセシャトも閉口しているとマフデトは牛乳をもう一飲みしてから話し出した。
「そんなことよりも、どうするかこうするか、というお話なのですよ。私なら大円団に持って行くのです。まぁ、天然で素敵可愛いセシャト姉さまは仕方がないとしても頭でっかちのクソ野郎であるクリスには考えつかないでしょうけどね。私とセシャト姉様が二人でそのリセットスイッチの代償のなるのですよ。そして……クリス、今君はこの全ての世界を掌握しているんですから、君が結末を書けばいいのです。そうすれば、私とセシャト姉様は世界から半分存在を失うだけです。毎月交代で出現すればいいのです。そしてクリスはこのくだらない作品の結末をどんなWeb作家も絶対に行わない禁忌の終了方法を取ればいいのです」
ご静聴ありがとうございますなのです。
と言ってビスケットを齧り目を瞑る。マフデト。彼は滅茶苦茶な方法で因果の歪みを正す方法を提案した。本来消えるべくセシャト。それを全く同じベースであるマフデトが半分補う事で、セシャト一人分の代償を払うに等しい。そして数々の人々の怨恨や憤怒、そういう物への処理をクリスにさせてしまう。
「マフデト君、まさかそんな……僕にそんな物を書かせると言うのかい? この僕に?」
「今更何、童貞みたいな事言ってるんですか? それが一番でしょう? むしろ、他のWeb作家ができない事をするんですから、偉業も偉業なのですよ!」
そう、マフデトの提案する方法を取れれば確かに全てが綺麗にまるっと解決する。そしてそれは伏線回収等も一切しなくても矛盾が出ない方法なのだ。
が、それを作家でもあるクリスはなかなか良しとは思わない。
何故ならそれは……
「僕に、全部『夢』でした。だなんて夢オチを……これが贖罪……辛すぎるね……でも、案外お祭りが終わる時と言うのはそう言う物なのかもしれない」
クリスは手の中に筆を出現させるとサラサラと一文字を書いた。
そんな夢を見たんだ……と
★
セシャトは目を開ける。
「ふむ、夢オチで片付けてしまうと言うのは実に、盲点でしたねぇ」
「本来この令和三年には存在しないハズのダンタリアン母様とかも連れてきてしまっているので、完全に元通りにはなってはいないのですけどね……覚悟はした方がいいのです。すごく面倒な大悪魔ですから」
マフデト。偉そうな見た目は年下に見えるが、同い年の兄であり、弟。もしかすると、マフデトが元々表舞台に立ち、セシャトが裏でそれを支える側だったかもしれない。
ある別世界の可能性のセシャトとも言える。
「マフデト兄様、今回は本当にありがとうございました!」
「いえいえなのですよ。でもセシャト姉様。一応、療養と言う形でしばらく休んでいるのですよ! 私はマフデトなので偶数月を、セシャト姉様は奇数月を……一月は冬休みという事で私がお店番を来年は行います」
「あらあら、そこまで甘えていいのでしょうか?」
マフデトは豪華な椅子に座り、そして自分の頭に乗っている王冠の位置を直しながらくふふと笑う。
「いいのですよ! 三年間。よくまぁ一人でこんな特殊な空間の店主をほぼお休み無しで営業していたのです。セシャト姉様は尊敬以外の何者でもないのですよ。Web小説の女神そのものです。私もそんなセシャト姉様のようになりたいものです」
そう言ったマフデトをセシャトはぎゅっと抱きしめた。
「ふふふのふ、来年もマフデト兄様の期待に添えるような私でいれるように頑張りますね!」
そんな二人の古書店『ふしぎのくに』に、誰かがやってくる。それはセシャトに瓜二つの片眼鏡をつけた少年。嫌に真っ白い不健康そうな少女。そしてその少女の従者。
「いやぁ、僕はアメリカにいたので大惨事を聞いていましたけど、夢でよかったですね!」
わざとらしくそう言うトトに、
「ヘカなんて木っ端微塵にされたんな! 夢で良かったん。ね? 欄ちゃん」
そして遅れてお菓子の詰め合わせと酒瓶を大量に持った二人組。
「ぬぉおおお! 信じられん事にそこの商店でダンタリアンがおった。因果変わりすぎであろう? あっ、これお菓子の? 喧嘩せずにわけよ」
「神君。ひっさしぶりの現世だから、今日は飲み明かそうね? 宇宙の方にカナメも呼んでるから、クリス坊やも呼び出して吐くまでのもうよ!」
神様に、元店主のダンタリアン。ダンタリアンがスマホで、クリス一味を全員呼び出している。トトは自分の店の従業員である汐緒に大友に木人。神様のスマホにラブコール。関西古書店・おべりすくが今飛行機で羽田に向かっているとかいないとか、外でバイクのエンジン音が聞こえ、消えたかと思ったら、高速を飛ばしてやってきた中京古書店・あんくくろすのレシェフ。
「気がつけば、かなりの大所帯なのですね? セシャト姉様」
「そうですねぇ。私のとても大切な人たちです。マフデト兄様もきっと仲良く慣れますよぅ!」
マフデトをセシャトが紹介し、誰が、と言うわけでもなくパーティーの準備が始まる。色々とあった2020年が終わる。あけましておめでとう、今年もよろしく。そしてその頃にはセシャトはしばらくバトンをマフデトに預ける。
そんな新しい日々が始まる事に胸躍らせて、古書店『ふしぎのくに』2020年の営業は静かに終了する。
そして、その大円団を見て、死んだような目をしている少女が空の上から眺めていた。
彼女は小鳥遊翼。魔本少女とも言う。本来この未曾有の事態をなんとかする為に飛び出してきた……が、自分は不要だった事をしる。とりあえず置いてきぼりは嫌だと、古書店『ふしぎのくに』の扉をやや強めにノックした。
“ 我々、古書店『ふしぎのくに』が歩みを止めると思ったか? それは人類、我々を甘く見過ぎだ。
いや、ありがとう。君もこの人類の文字で書かれた歴史を読んでいるという事は当店の大事なお客様なのだろう。
ならばあえて言おう。我々は、単純にWeb小説というものが好きなのだ。貴方の書く、そして貴女の書く作品がね! 来年もまた新しい作品発掘に、当方の新キャラクター達と一緒に語り合おう。“
セシャトのWeb小説文庫2020の結としたい。(原文まま、初代ダンタリアン様より)
セシャト姉様引退! と歓喜していた連中、残念でしたね! セシャト姉様超忙しいので、私が目覚め召集されたのですよ。今後は1、3、5、7、9、11をセシャト姉様。2、4、6、8、10を私マフデト。今年に限り知名度を上げるのに一月も私なのです。12月は一緒に行うのかもしれないです。まだ未定なのですね!
人類、来年も紹介しに行くので覚悟するのですよ!




