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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
最終章 セシャトのWeb小説文庫2020
89/90

棚田クリスの真実と王子登場

古書店『ふしぎのくに』はブラックですか? スケジュールを見る限り、お休みという項目がないのですけれど? 私、とんでもないところに来てしまっていませんか? 

 金の鍵を手に入れたクリスは、自分の屋敷の地下へと向かう。数々のWeb小説を読了したエナジーをイシュタルの門に集め、それを開いた先。クリスの望む世界へと行く為に椅子に座る。そしてクリスは周囲を見渡してそこに誰もいない事に一人で呟く。



「静かだな」



 ここまでくるのに、クリスは色々なものを捨ててきた。実の妹、アリア。そして最後の最後まで自分の為に尽くしたノベラロイドのメジェド。クリスが育てた引きこもりの読者・ビースト。そしてそのオリジナル。ザ・ビースト。セシャトに恨みを持たせた佐倉ヨミ。自分のIT知識の育て親、バレッタ。



「実に役に立たない連中だったな」



 冷蔵庫からペリエを取り出すと、グラスに注いでそれを口につける。手の中にある金色の鍵。何処にでもあるただの鍵。



「純金、五十%、銅、真鍮……ただの鍵にどう言う仕掛けがあるのか分からないけど、実に手間をかけさせてくれたよ。違うかい? 書物の悪魔よ。ミスリルの貼り付け台は気に入ったかい?」



 純度の高いギヤマンに囲まれた大きな筒の中に白金でできた十字架に張り付けられた桃色の髪の女性。その表情には絶望の影がない。むしろ懐かしむように、愛おしむようにクリスを見つめていた。



「ねぇ、クリス。気が済んだ? これでクリスの気が済むならアタシは、どんな目にあってもいいよ?」

「どんな目にもか? 呆れた話だ。神を名乗る愚か者と、大悪魔を名乗るペテン師に僕は人生を壊された。姉さんの書いた作品に僕を連れて行かなかった事。後悔させてやるさ。君たちの残りカスは僕が根こそぎ排除したのだから。ダンタリアン。お前を依代に僕は門の先に至った。そしてようやく僕の魂は創造へと昇華する」



 クリスはそう言うとダンタリアンを囲うガラスを破り、十字架に張り付けられたダンタリアン。その手に打ち付けられた杭を押す。



「くぅうう……」

「痛いか? ダンタリアン。僕の母だった女。そして父だった女。お前は平成の世に残る事を僕への贖罪とした。実に愚かだ。本当に愚か過ぎて感動すら覚えたよ。悪魔め、君はあの神を名乗る愚者の口車に乗せられて、文学という物を知ったお前達。いや、お前達には文学は麻薬だったんだろう。それを人と共有したかった? 馬鹿げている。その結果がこれだ、人間はお前達が思う程、進化していない。特に作家という連中は狂っている。それは、文豪、文傑と呼ばれたような連中でもだよ」



 悲しい顔をするダンタリアン。その髪を掴んでクリスは顔を上げさせる。そしてダンタリアンの唇をクリスは吸った。ダンタリアンは嫌がる。だが、抵抗できない。



「処女というわけでもあるまいし、それともかつての我が子に辱められるのは想うところがあるのか? まぁいいや、お前は人柱だ。僕に少しでも許しをこうつもりながら、喜んで君は創造の礎になれ」

「あぁあああああ!」



 クリスは金色の鍵をダンタリアンの腹部に差し込みそして回した。痛みに苦しむ。その姿を見てクリスは無言で見つめる。苦しみながらもダンタリアンはクリスの頬に触れた。



「もう、大丈夫よ……クリス」

「хуxотоxунихуxакутоxуноберу」



 鍵を中心に何もかもを飲み込んでいく。ダンタリアンの体も、クリスの屋敷も世界すらも飲み込んでいく。ただ一つ、クリスとイシュタルの門を残して鍵はあらゆる物を吸い込んだ。



「さぁ、僕を姉さんの作品の中に連れて行け。僕は大切な物を……全て注ぎ込んだぞ? 大切な妹を、大切な秘書を、大切な僕のメジェドを。さぁ!」



 歯車が回る。世界を吸い込み再構成する。そしてそれは舞台装置のようにゆっくりと開く。



「ようやく……ようやくここまできた……さて行くとするか」



 ゆっくりと歩むクリス。キョロキョロと見渡す。クリスはそこが作品の世界である事を確信し、深呼吸をした。



「なんだこれは?」



 パズルのピースのように、バラバラと崩れて行く。バラバラと崩れた世界。それはハリボテのように跡形もなく壊れて行く。



「なんだこれは?」



 そこは古い書物の匂いが香る。そこはクリスの知っている古書店『ふしぎのくに』。何が出てくるかクリスは予測していた。



「またしても僕の前に立ち塞がるか? 神様。もう君では僕のこの想いは受けきれない」



 クリスが何もない誰もいない店内でそう言うと、クリスの聞いた事のない声でそれは帰ってきた。



「誰が神様だ。人類のお猿さん代表がおもちゃを手に入れてはしゃぐなどと愛らしいが、にくらしくもあるのです。この銀色の鍵を目覚めさせたのだから、それ相応の報いは受けるのです」



 今までいなかったはずの少年がそこにいた。玉座に座り頬杖をつきながらクリスを見下すように見つめる。



「……確かセシャトさんだったかい?」



 目の前の少年は幼い、十二、三歳に見えるが、銀色の髪の毛、真っ白な肌。挑発的な表情。ふぅんと言いながら見下すようにクリスを見る。



「銀色の鍵?」

「あぁ、すまなかったのです下等生物には分かりにくかったですね? 許してください。私はマフデトなのです。セシャト姉様じゃないのです」



 クリスの知識にない存在。神様でもセシャトでも、ダンタリアンでもない。だが、マフデトは牙を見せながら嬉しそうにクリスに語ったのでクリスは胸に手を当ててお辞儀をする。



「僕を下等生物とは恐れ入った。君が、古書店『ふしぎのくに』の主人という事でいいのかい?」

「よいよい、そうやって詮索しようとしなくていいです。人間代表、棚田クリス。レガリアをもつ人類よ。よく参ったのです。本当によく、ここが門の先、さぁ存分に語り合うのです」



 マフデトは数々の作品をクリスの前に並べて行く。それは今までクリスが読み込んできた作品群。それらを資料でも見るようにマフデトは眺めて満足そうに微笑む。その笑みはセシャトの顔そのものだった。



「口が寂しいのですね」



 マフデトがそう言うだけで目の前にお菓子が現れる。箱入りのショートケーキ、それを手掴みでマフデトはバクバクと食べる。上品さの欠片も感じさせずクリスは不快感すら感じる。ペロリと白いクリームを舐めるとショートケーキを一つ掴んでクリスに見せる。



「食べるのです?」

「いいや遠慮しておくよ」



 クリスがそう言うとマフデトはタブレットの画面を見つめて笑いこける。クリスがそこにいる事、いない事関係がないというそんな風に……



「ふふっ、あははは! なんだこの作品」

「君、僕はイシュタルの門の先に至ったハズだ」

「……はぁ?」

「あれだけの代償を払ってそして砂漠の中からたった一つの砂金のかけらを探し出すようなそんな確率を超えて僕はここにきた」

「だから? あの? 私、このクソくだらなくて面白い作品を読んでいるのですけれど? 下等生物は少し煩くて邪魔なのですけど?」



 パチンと指を鳴らす。すると猫の絵が印字されたマグカップが突然現れる。そしてマフデトが「じゅわぁ」と擬音語を語ると底から白い液体。牛乳? いや、ホットミルクが湧き上がった。それにうきゃあと喜ぶとマフデトはそれに口をつける。そんなマフデトのティータイムを見ながらクリスは冷静さを欠いた。



「なんだお前? お前は誰だ? ここは何処だ?」

「お前こそなんだなのです? 私はマフデト、ここは古書店『ふしぎのくに』はい、回答終わりなのです、黙るのです! 喋るななんです! 読書の邪魔なのですよ」



 怒りを通り越して殺意すら覚えるマフデトの言葉にクリスは言葉を失う。このセシャトに似た子供は本気でクリスを取るに足らない者として扱っている。人類の王となるべく生まれてきたクリスを、レガリア。王の器を持つ者と知りながらマフデトは無視を決め込む。



「そうか、君が……門の先なのだな。金色の鍵に対なす銀色の鍵……どうりでうまく行きすぎると思っていた。そうか、そうか……僕はまさか」



 マフデトは何かの作品を読んではゲラゲラと笑う。そして時にしんみりとして鼻をすする。そして真顔になったかと思うと、やや紅潮し作品世界に没頭する。

 同化よりも深いところにいるマフデトにはクリスの声など聞こえない。クリスは自分がやってきた事、自分がやろうとしている事。自分について……ようやく理解した。

 そう、彼は初めて読書の門の先に至ったのである。クリスが読書の神々と悪魔と出会った。そもそもその出会いからおかしかったのだ。



「僕が古書店『ふしぎのくに』に入れなかった理由。それは僕が、Web小説のキャラクターだったからなんだな? 神様が僕に形を与えて、ダンタリアンが自らを人柱に僕という、棚田アリスが書いた弟に似て非ざる者。棚田クリスを生んだのか……なら本当はあの時、何があった? 見せてみろ! 古書店『ふしぎのくに』の管理者!」



 マフデトは喚き散らすクリスに本から顔を出して一言。



「うっせーです!」



 そう言うと再び読書を再開する。唖然としたクリス、ここまで境地に到達して、その境地にいる者は何も示すことはないと言うのだ。惰眠を貪る怠け者よりもタチが悪い。それだけにこのマフデトをクリスは動かす必要があった。



「……かつて、惑星の詩と言うWeb小説。いや、ネット小説と言うべきなのか? それが公開された。これは都市伝説とも言われている。実際にそれが公開されていたサイトはいまだに生きているが、小説投稿部のみ跡形もなく消えている。一体誰が書いたのか? それは小説と呼べるのか? 現代の白鯨とも揶揄されたその作品、知りたくはないか? マフデト君」

「聞きたいのです!」



 食いついた。クリスはジェスチャーも使いながら、古書店『ふしぎのくに』ですらその情報を部分部分でしか持ち合わせていないその作品の完全な説明を述べる。



「突如、2000年台にデビューした某作家に作風がわずかばかり似ていたので惑星の詩を書いたのは貴方ですか? そう僕は尋ねたんだ。するとその作家はなんて答えたと思う? 今尚、本屋でも名前は見るし、図書室や図書館でもほぼ間違いなくあの名前は見るよね?」

「うん。で? その作家はなんて言ったの?」

「そんな作品は知らないって一言答えたよ」

「……違ったのですか」

「違ったみたいだ。その後、あの作家から惑星の詩の完全版の作品が送られてきた」

「は? それどう言う事なのです?」



 マフデトはクリスの話に引き込まれた。そう、クリスはマフデトの心を掴んだ。さすがは王。レガリアに選ばれたクリスと言えるのかもしれない。クリスはマフデトを夢中にさせると言う偉業を成し遂げて笑った。



「とりあえずこれでメンツは保てたかな? 人類代表としてね。さて僕は行くとしよう。真実は教わる必要もない。そう言う事だったんだろう。そして僕は責任を取らないとならないらしい」



 クリスが歩む先、そこにはイシュタルの門の先。それに今まで取るに足らない者としていたクリスの背にマフデトは言う。



「はぁ、仕方がないのですね……」



 片手をあげ、クリスは歩んでいく。 

三年間に渡る、古書店『ふしぎのくに』と重工棚田の棚田クリスとの決着がついにつくのです。というか、クリスという人間。別に取るに足らない奴なのですよ……まぁ、すごく人間の分際でかっこいいのですけれど……まぁ私も大人になればあのくらいは約束されているのです! 12時頃、最終話 セシャトのWeb小説文庫 Web小説の女神。 絶対読まないと、嫌いになりますよ?

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