第八話『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~ 著・三ッ葉きあ』
アヌ兄様、あなたの役目はもう終わったのですよ。もう、ゆっくりと! 冬休みを堪能するのですね! あと飲み過ぎないようにしてくださいね? 古書店『ふしぎのくに』の大人組は少しお酒の飲み方を学ぶべきなのですよ。お酒を飲めない私でもそれがおかしい事がわかるのです!
青年はある少女の家に向かうとノックする。
「おるんやろ! 出てきてーな! 君の力が必要なんや」
青年はこれで四度目の訪問。されど少女は出てこない。青年はため息をついて近くのスターバックスに入ると小さなモバイル端末を開いた。
「何が起きとる? 読者事変はWeb小説のキャラクターと、その作者。そして……魔本少女の犠牲によって終局したハズや……なのに再びエルドラ級の何かが観測された……」
青年はアヌという。かつて、世界に危機に対してその対処にあたるように派遣されたWebノベルエージェント。
「前回と違って、今回はエルドラもあらへん、作者とキャラクターを呼んで守るなんて事はできひんな……さぁどうしたもんか」
アヌはそう言いながら、Web小説を一つ開く。それはかつて、共に戦ってくれた作者とそのキャラクターの関連性の近い作品。
「『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~ 著・三ッ葉きあ』か、きあ姉さんとこの秀貴兄さんにはエクストラキャラクターとして助けてもろたなー、ほんま今回の事件。P×Pに丸投げできひんやろか?」
それはアヌの独り言だったハズ。
『可能かもですよアヌ兄様』
「は? なんやこのメッセ。スパムか、ウィルスか?」
見知らぬメッセージが話しかけてきた。ハンドルネームは妖刀まふでと丸。それはアヌの言葉に反応するようにメッセージが返ってくる。
『まふでいいですよ。そんな事よりアヌ兄様。P×Pに丸投げはできませんけど、助力はしてもらえると思うのです』
「なんやねん。マイク機能切ってるのになんで会話ができるねん……さては近くにおるな?」
高度な悪戯だと思ってアヌはスタバ何でPCやスマホを使っている人々をマークする。とてもポーカーフェイスが上手いんだろうと一人一人声をかけ、店員にクレームを出されてアヌは店を後にする。
『こちらのアヌ兄様は面白いのです!』
「なんやねんこちらのって……なんやこれ?」
それはアヌのしかも二人分の経歴。それをアヌは知らない。大阪の古書店の店員をしているアヌ。そして東京で古書店兼探偵のような事をしているアヌ。
それを冗談と笑えていたら良かったのだが……
『アヌ兄様にはどちらの記憶もあるんでしょ?
「お前誰や? 後、これなんやねん」
『私ですか? 皆さんの王子です! ウサギ印、一緒に読みましょうよ! それに私、きあ姉様とはお友達なんですよ?』
アヌは自分の事を兄と呼ぶこの気色悪い相手に警戒しつつも作品について語った。
「この作品はある種、大いなるノロケや。泰騎のな。理想の王子、理想の主人公。そして誰のものにもならへん……ってお前、自ら王子とか名乗ったんわワシにこれを言わせたかったからやろ? やり方がせこいで?」
ピッと音声の添付ファイルがあるのでそれを開く。すると、それは拍手喝采の音。
『さすがアヌ兄さま、面白い読み方なのですよ。私はもう少し単純に作品を楽しむのですけどね。単純にキャラクター物という。出てくる連中がみんな規格外すぎて扱いに困るけれど、全員が全員そんな感じなのでなんとかなってるスレイヤーズ時代によく見受けれられた作りですよ。アヌ兄様達は深読みしすぎて作品の本来の楽しさを忘れているのです』
アヌはエージェントとしての顔をすっかり忘れて一読者として、この生意気な相手に宣戦布告した。
「ワレぇ! 黙って聞いとったら偉そうに、そんなもん言われんでも分かっとんねん! そういう次元はもう過ぎ去っとるんや、そのキャラクター作品という流れの中でこの作品のテーマ。家族、そして作品を何十ループとしてようやく見えてくるのが、泰騎、そして潤。こうでありたい自分、こんな奴がいて欲しい自分、創作家として、きあ姉さんは一歩先んでとる。だから平気で性癖をさらけ出しとるけど、それよりももっと深い。誰にも気付かせないようなメッセージ。自分に向けて作ってるその作品の根幹部を想像するのがワシらエージェントなんや!」
アヌは何故か、そんな事を言っている自分がどうにも不自然な気がしてならなかった。このメッセージを送ってくる相手は誰なのか……
「悪いけど話は終いや! ワシ、これでも世界救う仕事しとんねん」
強制的に話を終えて仕事に戻ろうとそう思ったアヌに、メッセージの人物は気にせずに次の話題を送りつけてきた。
『アヌ兄様、今回は成山秀貴さんは助けに来れないのですよ? 前回はWeb作家とキャラクターを繋ぐアイテムがありましたけど、今回はそんなチートないのです』
そう、今回アヌは打つ手なしの状態であった。だからこそ、こんな事案に対して対抗できうる人物を一人知っていた。その人物の力さえ借りることができればなんとかできると思っていた。
「まぁ、P×Pは現実世界には存在せーへんからな。この福利厚生やと、今の仕事やめてでも掃除夫でもええから雇ってもらいたわ。現実は世知辛いからな、わしは今できる最善の手を進めるんや」
『アヌ兄様はウサギ印の誰が助けにきてくれると嬉しいのです?』
「そうやな、誰が助けに来てくれても嬉しいけど、ここは社長やな。今回の事案は別の会社の社長が起こした事件や、なんとか社長同士。話でも進めてもらってやなぁ」
アヌは乗せられた事に少しばかりの後悔をしながらコホンと咳払いをして見せた。
『あはは! 今回事件を起こした社長も大概ですけど、ウサギ印の社長も中々の食わせ者なのですよ? そんなの火にガソリンを放り込むようなものなのです』
「まぁ、デートしたいんは恵美ちゃんやけどな。ぶっちゃけ、この作品って男の子メインの小説やねんけど、恵美ちゃん可愛すぎやろ? まぁこれはよくある事やねん。女性作家の作品内に狙っているわけでもなく男子の心を射止める女子キャラクター」
あまりここで例に出すのも忍ばれるが、若くして亡くなったとある女流漫画家の造形するキャラクターには実に萌えを感じさせてくれるキャラクターがあり、本人の意図しないところでそういう対象となる物を当方では黄金比アルゴリズムと読んでいる。
『よく性癖に刺さるというものがありますけれど、それは黄金比に偶然当てはまってしまったからなのですよ』
「そやな! 本作って実は物語の流れ自体はそこまで難しいことはやってへんやろ? 起承転結をしっかり守っとるだけで、キャラクター達が巻き込まれる事件もありそうな展開やねんけど、しっかりと読者が読みたいツボ、今でいうと流れを踏まえてあるんや。だから読んでて面白いと思えるんやな」
この愉快犯はなにも返してこない。ようやく飽きたのかと思ってアヌはもう一度寄るべき場所に行こうかとした時……
『アヌ兄さん、ズバリ本作はエンタメだと言いたいんですよね?』
「そうや、もう話すことないんやったらええ加減行きたいところあんねんけどええか?」
『いいですけど、アヌ兄さん。予言をするのですよ。このカフェから出ればアヌ兄さんの役目は終わりなのです。これ以上の未来はアヌ兄様には用意されていないのです』
訳のわからない事ばかり言う奴だなと思ったが、アヌはカフェを出てから、あたりが不穏である事をすでに気づいていた。皆一様にアヌをじっとみている。この周辺にいる連中は皆、グルなのだろう。
アヌは走った。それに追いかけてくる連中。アヌは笑うしかないと思った。アヌの目の間に羽ペン型のサーベルを持った少女。
「よぉ、魔本少女ゴシックヘカやないか、現実世界でなにしてるんや?」
一言口を動かした。
知りすぎた君を書き終えると、かつて世界を救った魔本少女はアヌの敵となって突然現れては襲いかかる。アヌは逃げるが背中に熱を感じた。これはやばいとそう思った時、偶然スーツを着た女性を見つける。
「きあ姉さん、ええところに! たのんますわ! 助けて」
「えぇ? えぇ! アヌさん、あれって」
アヌは小さなモバイル端末をきあ姉さんと呼んだ女性に渡す。それは小型のローカルエルドラ。一度エルドラを使った事があるのでなにをしたらいいのか彼女には分かっていた。
「とりあえず、ここをなんとかしたらいいですね?」
「そやねん。秀貴先生たのんますわ!」
モバイル端末を持ちながらヘッドギアを付けて、彼女は呼んだ。この状況をなんとかできる存在を……
「なんですかここ? あぁ、貴女が創造主? 僕を変なところで殺して……」
「ごめん水無! とりあえずあの女の子をどうにかして!」
最強のイケメンミドルを呼び出すところが、最狂のアホの子ティーンが召喚された。これは機械の不備というところだったが、出てきたキャラクターならゴシックヘカと相性も良さそうだった。アヌは「ここ任せますわ」と言って後ろでえげつない炎のおうしゅうが行われている事を無視して、一人の少女が住む家を何度もノックした。
「頼む。あと一回だけでええ。力貸してくれ! 小鳥遊翼ぁ! いや、魔本少女スイートセシャト!」
ドア越しからその少女の声が聞こえる。
「どうすればいいの?」
「前みたいに、Web小説の自由を救ってくれたらええ」
それだけを言うとアヌはその場から離れた。壁を背に座り込む。自分の足元へ真っ赤な血が流れ手くるのを目で追った。アヌは薄れゆく意識の中で先ほどまで作品について話していた人物に尋ねた。
「お前は誰や?」
『私ですか? 言ったでしょ? みんなの王子なのですよ。まぁ、強いていえば貴方達のよく知るセシャト姉様の別の可能性です』
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~ 著・三ッ葉きあ』本作ですが、セシャト姉様がかなり初期から好きだった作品みたいですね。女の子はみんな好きそうなのですよ。ウチ男子のメンツだと師匠ちゃんとかアヌバス兄様。サタさん、みんな面白いって言ってましたね。ちなみに、大友くんのモデルになった某男の娘にもおすすめしましたが、男子はみんな泰騎さんが圧倒的に人気ですね。私はまぁ、バスト兄様と同じで潤派ですけど
本作と、去年紹介した某作は、古書店『ふしぎのくに』に入るととりあえず読むように言われる作品だったリスのです。分量もちょうど良いので、年始年末に楽しむといいと思うのです! ちなみに当方で異常なまでの人気を誇る秀貴さんは別作品のキャラクターなので注意ですよ!




