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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
最終章 セシャトのWeb小説文庫2020
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第六話 『最競クインテットは最果ての街を往く・著 斉藤タミヤ』

さぁ、師走だ! 踊れ踊れ! 先生! 師匠が走る程、忙しいというけれど、間違いなくお医者さんは大変だろうね。私たちはそんな人たちに助けられて生きている。一日くらい、何かを我慢する日があってもいいと思うのです。

「逃げて、レシェフさん……」

「全く君は疫病神か何かかい?」


 名古屋某所にある古書店『あんくくろす』そこは爆破され、何もない。普段は女子高生。そしてもう一人の人格に変わったレシェフ。


「人間風情がボクの住処を破壊して、これだから嫌いなんだよ人間。早く滅びればいいんだ。行くよいろは。あのドブ臭い人間どもから逃げればいいんだろ?」


 そう言ってレシェフはインカムをいろはに渡して、そしてレシェフはセシャトのマスコットがついたオートバイの鍵を見せる。

 隠してある排気量750ccのバイク、セイバーに跨ると、首をクイっと動かしていろはにも乗れと言う。いろは恐る恐るレシェフの後ろに跨ると、レシェフはフルスロットル。さらに後輪を空回ししてからUターン。レシェフを狙っている連中が追いかけてくる。

 レシェフがいろはに渡したのインカムは走行しながらでも話すことができるから……


「いろは、君を空港にまで送れってさ。ボクの主人格の方がうるさいから今回は特別さ、代わりに何かWeb小説の話をしなよ。セントレア空港に行くと見せかけて県営名古屋飛行場から、千歳に行きなよ。あとは向こうでロシア人の知り合いが亡命させてくれる」

「……ありがとレシェフさん」


 レシェフをぎゅっと抱きしめるいろはにレシェフはフンと鼻を鳴らしてから言う。


「何か面白いWeb小説ないの?」

「『最競クインテットは最果ての街を往く・著 斉藤タミヤ』とか、すごく面白かったけど」

「あーあ、あの作者のね。比較的良い文章を書くね。今の時代にあっているかどうかは別としてさ。この作品はどこが好きなんだい?」


 二人は県道、国道を超えて高速道路に入る。何度か、レシェフを狙ってきた追跡者達はいたが、レシェフのドライビングテクニックは神がっていた。


「決して最初から、最後まで主人公が強すぎるわけじゃないことかしら? むしろ登場人物達の中ではかなり弱い。そんな自分の現在の技量を知っているから、命を蝕む力を使ってその最競の仲間達と並んでるところにどんどん惹かれていくの」


 冒頭で死にかけた主人公レイルは狂戦士の眼という力を移植され、著しく戦闘能力を跳ね上げる。代わりに自らの人間としての何かを失う。


「まぁ昔から代償のある力というものは魅力的なものだ。何だったか? 欠損なんとかっていうんだよ。情に訴えるような。あの馬鹿神やセシャトさんの言うところで同化しやすいんじゃない?」


 二人乗りで七半を操るレシェフはよく喋った。それにいろはは少し気づく。


「レシェフさん、もしかして『最競クインテットは最果ての街を往く・著 斉藤タミヤ』すごく好きだったりするの?」


 黙秘。それは肯定を意味する。それにいろははレシェフの背中を強く抱きしめる。


「レシェフさんってわかりやすいわね。とても可愛いわ。レシェフさん、この作品にヴィランに関してはどう思う?」


 レシェフはそれに関して少し考える。いろははこのレシェフが辛口に見せて意外とWeb小説という物を心から楽しんでいる女の子である事を知った。自分が楽しんでいる作品を一緒に楽しめる事程幸せな事はない。

「悪役にとって、永遠の命というものは一つのステータスなんだよ。もちろん創作上本当に不死だと攻略のしようがないから、未完であったり、不死そのものを無効化させるようなギミックが登場するわけだよ。体をいくらでも変えたブラッドだってその限りではなかった。でも良い散りざまでラスボスよりボクは嫌いじゃないね」


 キャラクター造形の好き嫌いは人によるところが大きいかもしれないが、確実にブラッドという冒頭からラスト付近まで主人公レイル達に立ち塞がったヴィランの方がイメージに残る。


「何となくレシェフさんの言っている意味がわかるわね。RPGゲーム何かをしていて、物語の黒幕だったラスボスよりもその前の敵の方に感情移入しちゃうことってあったわ」


 それは嬉しい誤算なのか、もしかするとやってしまった系なのかもしれない。実際制作元や作者がどう考えているかは受けてには若からないので、永遠に決着のつかない問題ではあるのだが……


「元々、誰が手柄を立てるか……という話だったことがややぶれだしているのはWeb小説らしい側面でもあるとボクは思うよ」 


 最競クインテッドは各々、ブラッドを倒す事で望む報酬があった。だから彼らは最強の戦士であり、パーティーであり競い合う相手なのだ。なのに、皆年少のレイルを弟分として見始める。


「レシェフさん、でも人間らしくて私は好きよ」

「ふん、いろは、しっかり捕まってるんだ。馬鹿野郎が追いかけてきてる」


 レシェフのセイバーを追いかけてくる。

 赤いバイクの集団。


「クッソ……あの社長。ドゥカティ軍団を送り込んできやがった……こっちはニケツの旧車なんだよ……空気読めっての」


 レシェフの運転するセイバーは旧車。それに対して最新型のリッターマシン。それも運転している連中は超一流のドライバーであり、暗殺者。ドライブレコーダーに映る事なんてお構いなしに大型のハンドガンを取り出した。


「レシェフさん!」

「飛ぶぞいろは」

「えっ?」


 レシェフは高速道路からバイクに跨ったまま落ちていく。それに刺客達は持っている銃を発砲するが風に流されて当たらない。アクセルをフルスロットルで回しながら着地。セイバーは壊れながらもアクセルが回っていることで姿勢をまっすぐにしたまま大破した。


「ごめんね。ボクのセイバー。今までありがとう……まっ、ボクのバイクというより、宿主のセイバーなんだけどね」


 いきなりとんでもないことを言ってのけるレシェフにいろはは呆れながらレシェフに言った。


「今度弁償するわよ」

「次はゼッツーでも買ってあげて、いくよ? いろは」


 いろはの手を引いて走るレシェフ。そしてキョロキョロと見渡してからスマホを取り出して電話をかける。


「ボクだ。今から走る先に車を回せ……あぁ、貸し一でいい。小僧。一度だけ君のいうことを聞いてやる」

「レシェフさん、誰に電話をしてるの?」

「アルマ……とでも言えば笑えるかい? まぁ残念ながら女王ではなく王子とか自分で言ってたね……さぁ、アヌが今の車を乗る前に乗っていたスパイダーだ。良いチューンをしてある。これで空港までハネムーンだ」


 ポルシェ・スパイダーのドアを乱暴に開けると、レシェフはナビシートに座るように言ってエンジンをかけた。


「さぁ、続きの話といこうか? レイルは狂戦士の瞳を手に入れていなければ、持たざる者とアルマに言われている。このもたざる者って何だろうね? いろはにはわかるかい?」


 それにいろはが答えようと思った時、ガン! ガン! と車体に異音が響き、ガラスが割れる。


「頭を低くして、じっとしてて……っ……」


 レシェフは静かに呻くと、運転を続ける。そしてグングン速度をあげていく。メーターは220キロにも達し、公道で出す速度を大幅に超えている。パトカーが当然追いかけてくる。


「レシェフさん、これ大丈夫?」

「公僕は壁だよ。それにしてもアヌの奴、こんなおもちゃみたいな車じゃなくて、なんでGTRとか乗ってないんだよ……クッソ」


 アヌは車好きではあるが、別に速い車が好きなわけじゃない。レシェフが文句を言いながら運転しているので、そんなレシェフの機嫌を取るようにいろは話した。


「もたざる者……これは力がないとか、そういう意味じゃないのよ。今から何でも掴める人ってことだといろはは思うの……レシェフさんもいろはもそうよ。まだまだこれからがあるわ」


 警察に追いかけられる事で追ってが追いかけてこないとそうレシェフは思っていたが、平気でパトカーに車体をぶつけて追いかけてくる。ボルボ。


「ははっ……あの総帥には参ったね……でも、ボクらの勝ちだ! チケットはちゃんと取ったね? もう一度言うけど千歳にいくと君の事を保護してくれるロシア人がいる。とある忍者の末裔だ。今から車を急停車させるから、このまま走るよ?」


 ギュン! タイヤの焼ける音。ブレーキ、クラッチの焼ける匂い。そんな匂いを撒き散らして綺麗に整備されていたスパイダーは見る影もなくバラバラになりながら停車する。そして、レシェフはいろはの手を引いて搭乗口を目指す。


「レシェフさん、これダメよ。飛行機が飛び立つまで時間がある。飛行機に乗っても追っ手がくれば……」

「ボクを馬鹿にしているのか? いろは……そんな連中、ボクが少しくらい何とかするさ……ボクもいろはももたざる者だろ? また、こっちに来る事があれば続きを話そうじゃないか……ボクらは英雄には慣れやしないし、レイルのようにそんな連中と肩を並べることもないだろう……ボクもいろはも突き詰めていけば悪だからな……でもさ、そんな名もなき悪が歴史を作るんだ」


 レシェフはいろはの背を押した。


「レシェフさん、ちゃんと逃げてよ!」

「当然だよ。ボクが人間風情にこんなことをするのはただの気まぐれなんだから……」


 レシェフは空港内の通路に男達を誘き寄せると、小さなマシンガンを持った男達の前に立つと両手を上げた。


 バババババババババ!

 バババババババババ!


 音がしない。そしてレシェフも悲鳴すらあげない。大事になればフライトされない。両手を上げて一歩一歩、男達に向かってくるレシェフ。その表情に男達は息をのむ。そしてもう一度、引き金を引いた。どれだけ時間が経っただろうか? レシェフは横目にいろはが乗った飛行機が飛び立つを見て安堵する。


 ゆっくりと男達は近づいてレシェフを見て言った。


「死んでる。ミッションコンプリートだ」


 男達が帰り、レシェフの身体からじわりと赤い血が流れる。そして、それを発見した女性は絶叫した。

 いろはは飛行機の機内で再び作品を読み始めた。やんちゃなレシェフはレイルに少し似ているのかもしれないと、また会う時までどんな話をしようか、考えながら……


 そんな旅客機に対して、重工棚田のスパイ衛生は見逃しはしなかった。ピカリと光ったかと思ったら、旅客機が爆散した。

『最競クインテットは最果ての街を往く・著 斉藤タミヤ』を読んで思った事。なんというか古き良きハイファンタジーを思い出しました。こういう作品どこかで読んだことがあるなというそんな気持ちにさせてくれる。気持ちのいい作風だったね! 年末年始はどうだろう? こういう作品を楽しんでみては?

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