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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
最終章 セシャトのWeb小説文庫2020
85/90

第五話 『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』

アヌ兄様は神のアバターとなり、民草達と語る。その時間を段々と消費しながら、私は思うのですが、飲みながらのミーティングやめて欲しいのです。ヘカ姉様がドン引きしているのをそろそろ気づくのですよ!

 コンテナの中で、大怪我を負った少女を一人の女性が介抱している。大怪我を負っているのは黒い髪をしたおかっぱの少女。元々顔色がよくはなかった彼女、輪をかけて、彼女の時間が残り少ない事を意味していた。



「図書室塔の少女は……幸せを手に入れたんな?」

「喋っちゃダメっす……」



 大怪我を負った少女は髪の毛に手をやると黒い羽根ペンを取り出した。そして言う。



「外にいる人も入ってくるんな……」



 ガチャリとコンテナに入ってきたのはすらりとして、それでいてグラマラスなスーツを着た女性だった。



「こんな風な形で大先生に会うことになるとは思いませんでしたね」

「……沢城さん、抜け抜けと……」

「いいんよ蘭ちゃん、その女の人も一緒に語るん……『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』。この作品は、希望に満ち溢れているんな? 逃げてもいいん。でも、立ち向かう勇気も教えてくれるん」



 沢城は、黒髪の少女のドレスシャツが真っ赤に染まるのを見て、持っていた包帯を少女の傷口に……



「もういいんよ……そんな事より、メンツも揃ったん。楽しむんな。この作品はボーイミーツガールを期待して読んじゃダメなん」



 黒髪少女の話を聞いて彼女の従者と、沢城と呼ばれた女性は、少しばかり聞き手に回る。



「成長譚にも思えますが、違うのでしょうか?」

「違わないん。でも、それだけじゃないん。この作品は異世界ファンタジーとしてだけ読んではダメなんな?」

「道徳……でしょうか?」



 沢城の発言は当たらずとも遠からずといったところだった。本作は、単純な完全懲悪であったり、冒険譚であったりとそう単純な物語ではない。読めば読む程感じる。



「教訓とかって事っすか?」



 黒髪の少女の前には、二人の天才がいる。そんな二人の天才を手玉に取るように物語を語るのは一重に、黒髪の少女が読んできた時間と、そして彼女の語る切り口が独特であるという事。



「御伽噺みたいなものなんな? ううん、セーラは、ナーサリーから飛び出して、ナーサリーライムになる物語と言った方がわかりやすいんかもしれないんな」



 さっぱり分からないと普通の読者なら思うのかもしれない。が……沢城と、少女の従者は違った。



「確かに、セーラちゃんは最初。完全に保育されている立場だったのに……いつしか、子供達に読み聞かせてあげたくなるような健気で、大きな初めての冒険をする物語っすね……」

「ふーむ、読み取りの新説と言ったところでしょうか? 実に興味深いです」



 少女の話に引き込まれつつある。この物語はそもそもセーラを主体とした。暖かい場所の物語なのである。



「……だから御伽噺なんですね。勉強になりますね。貴女のような方ともっと早く知り合って語る事ができれば、総帥もおかわりになったかもしれませんね」



 それは誰を指しているのか、黒髪の少女もその従者も知っていたが、あえて反応しない。



「当然と言えるんけど、セーラだけじゃなくてタイトルにもなっている通り、ハーミット。隠者であるあのイケメンもまた主役であり、彼がナーサリーライムに至る物語なんな……」



 そしてまた気になる一言。普通に読んでいけば、確かにハーミットは自分の大切な……いや、この場合は、



「置き忘れてしまった過去と向き合う為の物語なんな? これは異論を認めるん。でも、ハーミットはそこまで心の強い大人じゃないん。なのに、セーラの前では本当にいいお兄ちゃんなんな?」



 口元をニンマリとさせて、そう語る黒髪の少女。息遣いがいびきのように深く長いものに変わってきた。それを聞きながら従者の少女は今までに見せたこともないような表情を見せる。



「もう、お願いですから喋らないでくださいっす」



 黒髪の少女の手を握りながら懇願するが黒髪の少女は話を続ける。なぜ、ハーミットはセーラ、いや子供達の前で強者たらんとするのか……



「二人には分かるん? いや……二人にはわかるんな?」



 黒髪の少女の従者はもう、泣きそうな顔をしている。そこに沢城と呼ばれた女性は電話を取り出した。



「わかりますよ。大人は子供の前では弱いところを見せてはいけないんです。なぜなら、大人は……子供にとって絶対に越えられない安心できる壁でいなければならないからです。そして貴女を失うわけには行かないと私は思いました。生きてください」



 沢城が自分の部下を呼ぶ。そしてすぐに救護班が集まってきた。重工棚田における最高の医療チーム。そしてそのリーダーを沢城が務める。



「知っていますか? 蘭さん。世の中の死者という方の半数は助けられるのに、助けていないんですよ」



 人間の延命をする事は実は可能なのである。黒髪の少女に点滴、人工呼吸器、止血縫合の施術が行われる。

 それに黒髪の少女は「無駄なん」と呟いた事を誰も気づかない。



「妖精というものについて、少し考えてみました」

「今はそれどこじゃねーっすよ」

「欄さん、話を続けましょう。今生死の境目を歩んでいるこの方々は極めて人間に近い。ですが、私たち人間とは明らかに違いますよね。皆さん、異様なくらいに整った姿形をしています。完全に左右対称で一致する人間なんていると思いますか? そう、誰かにそう作られたように」



 黒髪の少女の従者は少女を見て前々から思っていたが、見直せば見直す程。彼女は人間離れしている。ありとあらゆる部分が左右対称。



「それって……妖精」

「国や宗教によっては偶像。天使なんて言われますね。妖精というものは、人間に懐き騙される愚かなフェアリー、そして逆に人間を騙し操るインプなどに分かれますが、本作の妖精は前者でしたが、人間に騙され、後者の色を濃く持ちますよね。妖精や妖怪と言うものは、人間に生き方の正しさを教える意味合いも強いです。この作品はこの瀕死の方がいう言葉を借りれば、人間の倫理、即ち聖書に近い事を記載されています」



 Web小説というものが命を塗り込んでいるものと黒髪の少女の従者。欄は言われてきた。この作品が何を言いたいのか、この時の作者の気持ちを述べよ! これは作者にしかわからないが、ひしひしと伝わる。正しい行いをした者は評価され、間違った行いをしたものは然るべきしっぺ返しが来るというそんな倫理。



「自分は、セーラさんやフランさんみたいに綺麗ではいられねーっすよ……十分すぎる程いろんな事はしてきたっす……でもこの先生と暮らしてから少しずつ自分も変わってきたんすよ……」



 それは懺悔でもするように……倫理を教えられても尚、生き方は変えられない。欄は沢城に聞いた。



「沢城さん、ヘカ先生を助けて、総帥に怒られないんすか?」

「怒られるかもしれないですね……いえ、総帥はもうずっと執筆をしていらっしゃるから……もしかすると何も言われないかもしれません」



 救護班が来て、ヘカと呼ばれた少女の顔色がだいぶんよくなってきて欄は安堵したが……ヘカは突然目覚めて髪の中に再び手を入れた。そこから取り出したのは黒いはねペン。



「фцумновн(Web小説疑似書き出し)」



 コンテナに大きな穴を開けるとヘカは蘭よりも身長の高い美女に変わる。そして欄を見つめた。



「ヘカ先生……なんすかその姿」

「欄ちゃん、これがヘカのハイパーモードなんな!」

「声まで変わってるじゃねーすか!」



 笑い合う二人。そしてヘカブチブチと点滴を抜き、人工呼吸器を外すと蘭を突き飛ばして大穴を開けた場所から脱出させる。



「欄ちゃん、お別れの時なんな。沢城たんだったん? 欄ちゃんを安全なところに連れて行くん」

「大先生は?」



 ヘカは腹部に触れて少しばかり困った顔をした。



「流石に一緒に逃げるだけの体力はないんな?」



 このコンテナは何かにターゲットロックされている。それをヘカは何故か察知していた。



「ヘカ先生、何言ってるんすか! 一緒に」

「沢城たん、早く連れて行くん」

「大先生……すみません」



 沢城は欄に触れると電気ショックで気絶させる。そして欄を担いでその場からさっていく。



「医療班のみんなも早く行くん。ありがとうなん。随分楽になったんよ。できる限り、遠くに行くんな」



 医療班の皆も知らず。沢城は察知した。ヘカに目掛けて、重厚棚田の戦術ミサイルが何故かロックされている事。ヘカと共に逃げれば欄も沢城もお陀仏である。



「セシャトさん、ヘカは……それなりにお姉ちゃん、できたん?」



 もう二度と戻らない日々をヘカは思い返す。走馬灯のようにいろんな記憶が入り乱れ、そしてヘカは窓を覗いた。

 そこには、楽しんでいた作品『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』のキャラクター達が、窓の奥。部屋で微笑んでいあ。サリエルとセーラが、フランとハーミットが……ヘカと目が合うと入ってくるように促すが、ヘカは首を横に振った。


 作品は楽しむものだけれど、そこに土足踏み入れていいものでもない。ヘカの姿が元のおかっぱ、小さな少女の姿に戻る。



「神様の爪の甘さにはほとほと困るんな……あぁ……もう少しだけかきたい作品があったんけど……続きはまた後でなんな」



 その二分後。戦術ミサイルが港に設置されているコンテナを吹き飛ばした。跡形もなく吹っ飛ばされたその場所。

 そんな様子を遠くから見ている者を誰も知らない。それは冷静にそして当然の如く悲しみと少しばかりの高揚を抑えながら、その光景を眺めている人物。



「……ひどい」



 手に持っていたクチナシの花を、コンテナがあったであろうところにポイと投げる。鎮魂の為なのか……それとも他に何か理由があるのか、その人物は空を飛んで蒼い月に向かって闇駆け抜ける。



「幸せの黒い鳥は逃げてしまった」

『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』私もこの度読ませてもらったのですが、考察どころ満載の作品でした。日本の教育環境の縮図を考えさせられるというのは飛躍的過ぎかもしれないですけど、高校生とかに読んでもらいたい作品ですね! 私は牛乳とビスケットで楽しみました!

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘカさん?!ヘカさんがああああ…アアァァァァアアアア…… こ…考察満点でしたか…?おお…畏れ多いっす…!ありがとうございます! ありがとうございます… ヘカさん……ぅぅ……
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