第三話 『怪物少年と化物少女が幸せを探す旅 著・北澤ゆうり』
いつか、描いていた作品が描けるように、そんな事を考えて、いや校閲や編集要員として入ったハズのワシもいつの間にか、ライターにさせられとる。なんでや! ワシは正直筆は遅い。死ぬほど頑張っても一日5万文字かけたらええ方やと思う。 古書店ふしぎのくにに今年、激震が走るんやでぇ!
ビーストと呼ばれたクリスがどこからともなく連れてきた少女は、西の古書店「おべりすく」を荒らし、破り捨てた本。周囲に飛び散った血痕。壮絶な何かがあったその場で丸くなる少女。目をパチりと開いたビーストは、最後に断末魔をあげた女が落としたタブレット端末を拾う。
「あぅ? 『化物少年と怪物少女が幸せを探す物語 著・北澤ゆうり』何これ? マスターやメジェド様が好きそうなWeb小説とか言うやつか、マスターもこの古書店とかに言う人外も、何が面白いんだ?」
ぺらぺらとWeb小説をつまらなさそうに読むビースト。その物語が自分を彷彿させる様な作品である事をビーストは知る。
「死なない不死身の女の子と、人しか食べられない男の子。可哀想な二人だ。ビーストと少し似ている」
クリスの指示が来るまでここで昼寝でもしておこうかと思ったビーストだったが、目の前に極上のWeb小説がある。それを読みながらクリスからの連絡を待つことにした。
「ビーストが食っちまった奴らに、この物語の解説をさせればよかった。この二人はどこか、何かを諦めている。幸せを探すと言っているのに、何か矛盾めいた物を感じる……分からない。ビーストには分からない。Web小説は一人で読むと分からない事だらけだ」
キョロキョロと見回す。誰かとこの気持ちを共有したい。でもそれが間違いなくできるであろう人々は全員手にかけた。
「ここは静かだな。とても静かだ」
コンコンコンとノックされる音。ビーストは喉を鳴らす。何がきたのか分からないから威嚇する。そこに出てきたのはビーストのよく知る女性。
「さわしろ」
「ここにいましたか、ビーストさん。あら? 面白い作品を読まれていますね? アリアお嬢様が大好きな作品の一つです。ある種の風刺めいた短編連作。ジャンルとしては紀行型のグランドジャーニーですね」
「グランドジャーニー?」
「えぇ、このシープとウルフ二人の旅旅は行く先々で完結する様になっています。それを繰り返し、旅のメッセージを読者は楽しむんです。そして、ゆっくりとですが、二人の時間は確実に終着へと向かいます。その終着が幸せかどうかここを予想して楽しむ作品ですね」
ビーストは、寝転びながら体の匂いをこの部屋にマーキングする様に作品に没頭する。
「この二人が求めて、願って、探して、欲するものはどこにあるの?」
ビーストは幼く、そしてあまりにも馬鹿正直な質問であったが、作品の根幹部分に迫る。そもそも、二人の言う幸せとは何なのか? 二人でいる事。と言うのであればそれは完結している。当然、このエンドも作者は一つの道として考えているだろう。
「はっきり言いましょうか? ビーストさん。それは誰にもわかりません。何ならこれは作者すら分からないと答えていい唯一の作品ジャンルなんですよ」
当然、産みの親であり、創造主である北澤ゆうり氏の思い描く道標と言うものがあり、それに沿って物語は核心へと向かうだろう。沢城が言う。分からないと言うのは、目に見えてそして言葉に表せない物。幸せを探す旅であるからなのだ。
「まぁ、私にはこの作品から感じる幸せは見えますよ」
「何だそれは! サワシロ教えろ!」
「作者さんの、本作に対する愛情ですね。これは間違いなく書いている作者さんは幸せを感じています。ですが、それと作品世界で歩むシープとウルフ。本来、共に入れるはずのない羊と狼二人が鳴らす鐘とは違うんですよね」
沢城は哲学的な意見を述べる。これに関してアリアや、セシャト達であれば沢城と議論を繰り返したかもしれない。素直なビーストは違う。
哲学を哲学として抽象的に受け入れた。
「お腹がいっぱいになることに似ていると言うことか」
腹を満たすだけの食事と、どうしても食べたいご馳走、大切な人と共にする食事、それらは幸福値が変わってくる。
「逆に難しい言い回しをされるますね。まぁ、及第点でしょうか? 二人は旅をして、世界を知ると言うことでドレスコードを踏んでいくんです。二人を阻む障害もたくさん出てくるでしょう。でもそれも最高のご馳走。幸せを食べる為に、いいえ。知るために穢されることないその瞳で、自分の頭で答えにたどり着くんでしょう。私たちはその偉大なる旅。グレートジャーニーをご一緒する同行者。それが読者です」
沢城としては作者はツアーではない旅行を用意してくれた作者、そしてその旅行をするシープとウルフ。それに同乗するのが読者だと伝えた。旅行先でどう考えてどう行動するのかは、読者の自由なのだ。
「ある意味、作者を批判して、作者が逆に評価されるジャンルともいえるんです」
「えっ? 意味がわからない」
これからの旅路、シープとウルフの物語において何かが起きたとき、これは違う! これはつまらない、これはダメだ!
その否定的意見をもし出されたとすれば、ツアーではない旅行を用意した作者はほくそ笑んでいい。しめしめ、思った通りだと……そして読者はこう思えばいい。
やられてしまったと……
「総帥もこう言う物語は大変お好きです。ビーストさんもしっかり読めば総帥がお話相手になってくれるかもしれませんよ?」
総帥が話し相手になってくれるという言葉を聞いて、ビーストは目の色を変える。棚田クリス、中々構ってくれないクリスが相手をしてくれる。
「もっとだ! サワシロ、この作品を読み進めるぞ! ビーストなら、こんな事で迷わない。殺したければ食べるし、邪魔をすれば殺す」
「だから、友達いないんですよ。このけだもの……おっと、本音が出てしまいました。しかし総帥に惚れる女の子ってロクな人がいないですね。あんな怪物、どこがいいのか、貴女のお姉さんの方は利口なのに......」
沢城はクリスの事をそう言った。すると、ビーストは据わった目で沢城に襲いかかる。ビーストの異常発達した爪を沢城は掴む。
「うっざ、何ですか?」
「クリスを馬鹿にしたな?」
「いいえ、私の雇用主ですから、褒め言葉ですよ。今世最大の電子の怪物、何を勘違いしてるんです? ビーストさん、仲間内で揉めるのは御法度ですよ? 言付けますよ総帥に、総帥は私の言う事をきっとまに受けるでしょうね」
それを聞いてビーストはしゅんと俯く。そして「ごめんなさい」と謝罪。沢城はゴミでも見る様な目でビーストを見つめる。
「ウルフもシープも貴女と違って大人だから、やらない事、してはいけない事を知っているんです」
沢城は品位の欠片も感じる事ができないこのビーストを見て見下す様に、話す。沢城はシープの様なよく出来たいい子が好きなのだ。そう言う意味では少し猪突猛進なところはあれどアリアも素直ないい子。片や、このビーストはクリスの言う事が法律だと思っている様なクリスの為なら何でもしてしまう悪い子なのだ。そして品もない。
「ビーストはクリスの言う事が正しいって知っている!」
「だからそれが最悪だって言っているでしょう? まぁいいです。貴女は、二人と違って人の心の痛みを知らないんです。シープとウルフはそれを知っているから、優しい人には優しさを返し、悪い人には悪を返す事を学んだんですよ。そんな二人は、ある意味で言えば世界は嫌いにならなくていいものなのか、決別しなくていいのかを値踏みしているんです」
沢城はここで自分の感想を述べた。二人は幸せを探す旅をしている。その幸せとは、この世界は自分たちが生きていく上で優しい世界なのかどうかを見定めているんじゃないかと言う物。なぜ、怪物として生を受けたのか? 何故、化物として生まれたのか? 神の悪戯というにはあまりにも酷い。
「あれか? オリンポスの化け物や仏教のマーラの様なものか?」
「……ビーストさん、よく私が言いたい事がわかりましたね」
ゼウスは醜い化け物を作った。キプロクスやアステリオース。自ら作りながら醜いという理由で手放した。仏教におけるマーラもまた悪として醜い修羅として生み出された。そしてそれは仏門の道によって滅される。何故生み出したのか? 要するに人間の矛盾を意味するそれら。
シープと、ウルフはその矛盾に立ち向かう旅、幸せという彼の彼女の物差しでしか測れないそこに向かおうという何ともいじらしい旅を続けている。そんな重い考えをしていた沢城の思考にビーストが追いついた。だからこそ、沢城はビーストに語る。
「ここには、こんなWeb小説を愛する人たちがいたんです。巨塔を意味する『おべりすく』の人々をあなたは手にかけた。私以上に貴女にこの物語をもっと楽しませる事が出来た人たちが失われた」
ビーストは周囲を見渡す。もう誰もいない荒れ果てた古書店。沢城のそんな言葉を聞いてもそしらぬ顔でビーストは小さく丸くなる。
「クリスが褒めてくれるから、ビーストにいい子、いい子ってしてくれるから、それがビーストの幸せだから」
沢城は狂った人間が都合の良く人間を育てると、こんな猛獣が育ってしまう事に驚きもしない。これが棚田クリスという人間のやり方なのだ。
「ビーストさん、行きますよ? ここはもう不要です」
「いや、クリスが、ここにいる様にビーストに言いつけたからクリスに呼ばれるまでここにいる」
「そうですか、では風邪など引かないように」
沢城は次なる場所に向かう為に移動用のヘリを呼ぶ。それに乗り込み、他のメンツがどこにいるかを調べていると……
ドォオオオオン!
ビーストがいた、古書店『おべりすく』跡が爆破し、吹き飛んだ。きっと総帥の仕業だろうとそう思って沢城はモバイル端末を見つめる。
「それでも、幸せを見つけられましたか?」
『怪物少年と化物少女が幸せを探す旅 著・北澤ゆうり』この作品ってほんま鉄板系の作品やねんな。Web小説やと少し珍しい分類に入ると思うし、何よりキャラクター愛がとても強い。なのに、キャラクターを出しすぎないのもほんまに緩急の付け方がうまいんちゃうか?
読んだてやー!




