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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』
62/90

数十年越しの感想文

さて、気がつけば8月が終わります。驚きです。ついこの前2020年になった気がしていたのですが、もうあと4ヶ月で今年も終わってしまいます。そんなたけなわ。皆さん体調を崩さないようにしてくださいね^^

 ちぃは、古書店「ふしぎのくに」にやって来た。

 それはそれは嬉しそうに……



「セーシャトさーん! あーそーぼ」

「あら赤さん、とってもご機嫌ですねぇ」

「友達ができたんさ。だから、学校にちぃは行くんさね! だからここには毎日遊びに来れなくなるんさ! 今日は沢山お話してほしんさ」



 セシャトは嬉しく思う。赤は学校に自ら行く。もちろん、古書店『ふしぎのくに』にくる頻度が減るのは残念だが、時折遊びにきてくれた時に楽しい学校のお話が聞ける。それは素敵な事だ。



「では、本日で読了。感想文の完成ですねぇ」

「うん。大陸では相手を恨んだり、呪ったりすると、相手に似ていくという考えがあるんさ? 婆ちゃんが言ってた。そしていつしか死霊になってしまうんさ。だから、人を許す心が必要なんさ……人を呪わば穴二つ、日本の考え方は面白んさね。でも……理不尽でもあるとちぃは思うんさ。ネイサンが尊敬した魔術師はもう何処にもいない。これは本人だけじゃなくて、ネイサンにも大きな痛みを与えたとちぃは思う」



 人を呪わば穴二つ、平安時代に儒教の教えが混ざり、人を恨んではいけませんよ? 呪ってはいけませんよ? という崇高な考え方だ。簡単に、相手に嫌な事をすれば倍になって返ってくる。だが、ちぃは違った。この場合はネイサンにもそれなりの心の痛痒を与えた。三倍。穴は三つ穿ったとちぃは言うのだ。

 ちぃは優しい子なんだろう。セシャトは黙ってちぃの話に耳を傾ける。話上手は聞き上手なのである。



「でも、ちぃは世の中にはどうしょうもない人がいる事も知ってるんさ。悪を悪と思わず、人の不幸を空気のように吸う人達」



 ぐっと手を握り、ちぃは自分の目の前でリナリアが消え、それを冒涜されたかのように苦しそうな顔をする。同化、ここに極まれりである。そんな赤にセシャトは尋ねる。



「ちぃさんは、どうお考えになりますか? 腹立たしく、仕返しをしたいとそう考えますか?」



 セシャトはこういう瞬間がとても好きだった。読者百面相。読者により、様々な感想や意見がある。赤は、呪ってはいけない、憎んではいけないと先程言っていた。だが、確実にセスに対して大きな怒りを持っていた。赤は頷く。



「ちぃは……きっとできないんさ。呪っていいのは、怒っていいのは、同じ感情をぶつけられる覚悟がないと出来ないんね。だからフランは凄いんさ、小さいのに、騎士である誇りを持ってるんさ。ここは少し胸がチクチクするんさね」



 実際の話である。日本でも神の末裔と呼ばれる血筋の方々は子供の頃からある種の覚悟を持っている。騎士、旗本。それらはどれだけ落ちこぼれていようとある種の精神を叩き込まれているのだろう。赤は少し凹んだ。学校に行けない自分。覚悟が足りない自分。そんな赤を見てセシャトは少し遠い目をすると話す。



「赤さん、大人でも逃げていいんです。迷っていいです。間違っていいんですよ?」



 ガチャリと扉が開かれる。あらとセシャトが、そして赤は目を丸くして、そして母屋に入ってくる人物を見て嬉しそうにする。



「よぉ」



 そこにいたのは一欄台学園文芸部の紅一点。茜ヶ崎理穂子。セシャトと赤を睨みつけるように据わった目で見つめながら入店。



「あら、理穂子さんいらっしゃいませ」

「うん、セシャトさんこんにちは。ちぃ。お前に話がある」



 赤は少し考えて下唇を噛んで、そしてにへらと笑うとこう言った。



「理穂子ちゃん、それより一緒に『隠者と図書室塔の少女』読むんさ」

「そんな事より」

「そんな事じゃないんさ! 一緒に」



 チっと理穂子は舌打ちするとスマホを取り出す。カクヨムのページにアクセス。そして、言う。



「二年ぶりくらいか? お前とこうしてこの作品読むのは……私らはつい少し前に完結したこの作品をめちゃくちゃ楽しんだ。ちぃさ? セスの事どう思う?」

「何言ってるんさ? それにセスの事どうって? 嫌な奴なんさ! 怖い奴なんさ、悪魔みたいで、みんなを不幸にして許せないんさ!」



 セシャトは見事に作品に同化しているちぃに驚いていると理穂子は別方面からの意見を述べた。



「でもそれって凄くね? 私は文章を書くから、こんなヤベェ気持ちにさせる奴を書き込めるんだなって思った。セシャトさんに前教えてもらったんだ。主人公やサブメインは作者が命を込めて書き込むんだ。だから魅力的で応援したくなる。でもヴィランはそんなキャラクターと並ぶ、あるいは超えなければならないんだぜ? 同じくらいの熱量を込めてかかれてるんだ。だから、セスはヤベェんだよ」



 考えたこともなかった。いや、本来はヴィランの設定よりもその前、作品の根底にある部分を読むなんて普通の読者はしない。理穂子の話を聞いて赤はう〜んと考えてから尋ねる。



「フランはそんな熱量のあるヴィランに勝てるんさ?」

「炎の力は地上最強だからな。自らを焼き全てを焼き無にしてしまう。何だよ! 泣くなよ。お前は男だろ?」



 感極まった赤はフランが生きる事を放棄しそうになる事、妖精王が何としても生きて欲しいと願う部分に同化して涙を流した。理穂子は赤の頭にポンと手を載せる。赤のポニーテールがピクンと動いた。



「お前もフランも普通の子だ。私は多分、自分の炎で誰彼焼き消しても何とも思わねー。それ見て作品の題材にしちまいそうだ……人に太陽は操れないけど、自分の力くらいは操れるもんだ。感情だって同じだ。心もな? できる時にすりゃいいさ。それが成長って言うんじゃねーの? やばけりゃ逃げりゃいい」



 学校に行けないことも、自分が弱い事、他と違う事も自分の中にあるもの、それを受け入れ一歩踏み出せる時に踏み出せばいい。



「よがっだぁんさぁ! フラン助かったんさぁ!」



 感受性が異常に強い読者である。どれだけ同化してもここまでになるだろうかとセシャトは思っていたが、理穂子はその答えを言ってのけた。



「すげぇな、二世代違う読者って連中はさ……私たちより、物語を素直に受け入れる」



 書いてある事をそのまま受け取るのが、三十年、四十年前の人々と言われている。清純派アイドルの心ふるわせ、青春ドラマをこぞって見る。素直な人たちだった。その世代の読者は本を、物語に怒り、悲しみ、そして大いに感動する。時代が進み、人々が失ってしまった物の一つ。

 物語は胸を透くような大円団を持って完結する。まだ完全に全てが良い方向に動いたわけではないのだろう。



「すげぇよな。この比率みてーなのがさ、最後の方はセーラじゃなくて、フランの物語じゃね? って錯覚させやがんのに……これはハーミットの過去を乗り越え、そしてセーラが成長する物語である事に気づくんだ」



 パチンとセシャトは指を鳴らして微笑む。



「さすが理穂子さんですねぇ! そうなんです! 一貫してセーラさんの成長の物語なんですよ……そして本作は時間軸の超えた続編を期待してしまいますねぇ」



 それを理穂子曰く、二世代違う読者である赤はわからない。が、頭を抱えて理穂子は頷く。最近の流行。



「作品世界が同じで、別の物語な」

「な、なんなんさ? それ」

「要するに、フランが伝説になり、セーラが神話の時代を生きていた少女と言われるような遠い未来。サリエルやジニアしか読者が知るキャラクターがいないような状態から始まる。新しい作品だ。これを続編って言うんだよ」

「いあ、楽しかった。読みたいんさ! ちぃも読みたいんさ!」



 続編が今後書かれるかは分からない。可能性はあり得るかもしれないが……理穂子は黙る。たとえ続編が書かれようと、そこにちぃは存在し得ない。図書館で調べてきた。ちぃが三十年以上前に還らぬ人になっている。普通に考えればありえない。だが、今三十年前のちぃがここにいる。それが何故か?


 それまでは理穂子の今の頭脳を持っても証明はできない。ここは集団催眠なのか、不思議な事が起こる場所。古書店『ふしぎのくに』世界線という言葉がある。こことは別の世界が存在しうるというもの。

 それではちぃを助けられない。対象A世界の喪失に対して対象B世界での補完を理穂子が賭けたとして、対象B世界にいない理穂子にはその結果を知る術がない。それはすなわち対象A世界の喪失と変わらない。

 理穂子ができる事。対象A世界におけるちぃの喪失をなかった事にする。選択肢分岐未来の喪失。



「もし、そう思うならちぃ、お前。もう学校いくな」



 ちぃを学校に行かせない選択。それで熱中症にならない世界を選択。もちろん形状記憶している運命はそれを許さない。他の方法でちぃを世界から取り除こうとするなら、理穂子はありとあらゆる可能性を先読みしてそれを回避する。ちぃが生き残れる可能性を……ペンと紙を持ち出して、脳が軋む。鼻血が出る。目の血管が切れる。

 関係なしに可能性を・・・・・・生存可能性0.00000000000001%の未来を見つけ出す。

 何かに取り憑かれたように理穂子は三十枚以上にわたる紙に書いたちぃの生存戦略をちぃに渡す。



「お前の未来は私が守ってやる。ここには本の妖精と、執筆の騎士がいる。だから、この作者の最新作をまた一緒に読もうぜ」



 理穂子が一人でそういうのをセシャトもちぃも意味が分からない。解釈の通じない世界があるのであれば……通らぬ通りもないはずだ。

 理穂子の痛々しい表情を見て、何かを察したちぃは微笑む。



「うん! 理穂子ちゃんがいうならちぃ、これに書かれた通りにしてみるんさ! じゃあ今日はもうマァマがカンカンに怒ってるかもしれないんで帰るんさ」



 赤いポニーテールが犬の尻尾みたいに動き、古書店『ふしぎのくに』からちぃはかけていく。



「セシャトさん、何か飲み物くれねぇ?」

「はい! では理穂子さん。たまには二人だけで『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』最初かお話ししませんか?」

「あぁ、いいねぇ」



                    ★



 ある日、理穂子は図書館で過去の新聞を眺める。ちぃが熱中症で亡くなったニュースは見当たらなかった。助かったのかもしれない。だが、ちぃは理穂子達の学校に結局通わなかったのかいない。いつも通り、屋上や食堂、そして部活の日々を送っていると校内放送で呼び出しを受ける。


“茜ヶ崎理穂子さん、すぐに職員室に来てください“



「ウルセェ! いくかボケェ!」



 屋上でカップ麺でも食べようかとジュニアバーナーを取り出しているとガチャリと屋上の扉が開けられる。そこで見た少年に理穂子は口に咥えていた割り箸をポトりと落とす。



「ちぃ……マジで?」



 少しだけ背の伸びたちぃ。中学生の制服を着ている事から理穂子より少なくとも二つは年下。



「理穂子さん、なんさ?」

「お前は誰だ?」



 よく見ると少し違う。似ているけど、雰囲気も自分の名前を呼ぶ発音も色々と違う。男なのにポニーテール。

 よく似ている。瓜二つと言ってもいい。



「僕は、朱と書いてちぅなんさ。ちぃはパァパなんさ。一昨年、交通事故で亡くなったんさ。最後の文字が読めなくてってわけわからない事を言ってたんけど、パァパはリーベンに来て理穂子さんにちぅに会うように言われたんさ」



 そう言って渡された紙と何かの原稿用紙。自分が少し前に書いたちぃの生存戦略。それは擦り切れた紙として、インクが滲み。最後は何を書かれているか読めなくなっていた。

 そしてもう一つ、達筆な時で書かれた『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』の感想文。



「車に1週間は乗るなだ……馬鹿。それに、これ何年掛けて書いたんだよ・・・・・・馬鹿野郎。おい、ちぅ。お前さ、父ちゃんに何か教えてもらった事あるか?」



 ちぅは頷くとスマホの画面を見せる。やっぱり、読んでたんだなと理穂子は空を見上げて、運命を完全に変えることができなかった事に対し神を呪った。それが二つの穴が返ってくる事だとしても……されど同時にちぃが人としての幸せをある程度真っ当できた事に対しては謝辞を述べる。



「よし、じゃあいずれウチの部に入る後輩に、私が作品の話をしてやるか? とりあえずそこ座れ! あとカップ麺食うか?」



 日本に来て初めて受けた授業が理穂子の小説紹介だった。ちぅの首からぶら下げているロケットにちぃの母とちぃとちぅが笑って写っている写真が納められているのを見て理穂子は嬉しそうに笑う。

 そう、そんな夏が終わるある日の物語。

『隠者ハーミットと図書室塔の少女 著・祥之瑠于』本作のご紹介ですが、本日をもって一端の終了とさせて頂きます。さて、物語の終わり彼らはどんな生活をしているんでしょうね? エンディングのその先は皆さんの心の中でしょうか? ちぃさんの想いは受け継がれ時代を紡ぎます。さぁ皆さん感想文はできましたか? 提出は9月1日ですよぅ! 一ヶ月間、祥之瑠于さん。ご紹介ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] よかった…よかった~!赤くんを助けてくれて、理穂子さんありがとうございます…! 最後の一文字読めてたら…そこはすごく悔しいですけど、でも赤くんの人生を何十年も救い続けた理穂子さんのメモ、すご…
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