欠落した天才達の物語
最近図書館のソーシャルディスタンスが大変重要でして、その場で読まずに貸し出しで近くのカフェで読む事が多くなりました。当方、紙の本は自腹になり、電子書籍であれば古書店ふしぎのくにの経費で落ちるのですが、やっぱり本は紙媒体でも読みたいですよね^^
赤は翌日、勇気を出して、一蘭台学園中等部の学び舎の門の前をうろうろしていた。その手には勇気の塊、勇者の剣とも言える。擬似小説文庫『隠者と図書室塔の少女 著・祥之瑠于』
「うー、どうしよう。とりあえず読むんさ!」
いざ、学校の目の前まで来ると入れない。もう既に心は帰ろうと思っている。それにページを開くと、突然フランとハーミットはピンチなのだ。一体何が何だか分からない。
「なんなんさ? 場面が変わったんさ?」
どういう事か理解できないでいる赤。何故だか今にも泣きそうなそんな時に頭の上から声がかけられる。
「なんだその物語?」
上を見上げる。器用にというかどういう体幹をすればそれができるのか、サイドテールにした少女が門の塀の上にしゃがんで赤を見下ろしている。
「ぶおっ! なんなんさ! 君は誰なんさ?」
「あぁ? 俺か? 一蘭台学園中等部二年の茜ヶ崎理穂子だっつーの! ただいま絶賛サボタージュ中!」
敬礼ポーズにウィンク、そしててへペロ。どうやらこの少女は赤より一歳年上らしい。それにしては小学生のようで……同じように半分登校拒否をしている赤は自分を差し置いてこう言った。
「だ、ダメなんさ! それに……その見えてるんさ」
「あぁ? ……テメェ! このやろう」
ボカンと殴られる赤。なんという横暴な女の子の先輩なのか。だが、不思議と嫌じゃない。
ぴょんと塀から飛び降りる。
「おい、お前名前は? 私が名乗ったんだからお前も名乗れよ! オラ!」
「ち、ちぃはちぃなんさ、呂赤」
「ローチー、麻雀みてーな名前だな。まぁいいや! ちー。面白そーな話読んでんじゃねーかよ。私にも見せろ」
これは、カツアゲ。ドラえもんに出てくるジャイアンがよく使う手法である事を赤は知っている。
「い、嫌なんさ! これは大事な本なんさ!」
「チッ、なんか私が弱いものイジメしてるみてーじゃんかよ。まぁいいや。読めよ。それ聞いてやる」
授業に行かなくていいのか? と聞けばもう一発殴られそうだったので、赤は震える声で恐る恐る読むと理穂子はあーとうなづく。
「それ、同人誌だろ? 文章うまいけど、今お前が読んだところ、作者の頭の中だけで完結しているから、少し違和感あるんだよ。場面のスイッチとしては問題ねーけど、前説明がやや足りねーんだ」
誤差である。フランが、目覚めてからの項目に関して前ページと何度か読み直す。違和感はないが、もう少し前ページの説明を足していないと、中高生の頭には入ってきにくいらしい。(ふしぎ調べ)、大人は意識の先入観に対して一つの答えを持つが、子供の意識は誘導され、書いてあることをそのまま知とする為らしい。理穂子にそんな難しい話をされた後、次読め。次と囃し立てられるが悪い気はしない。そこで赤はうなづいて進める。
「フェアリーか、ある意味神みたいなもんだよな。そして悪魔でもある」
妖精王について理穂子は一人で納得する。赤は自分だけが何故か取り残された気がしてその意識に追いつこうと読み進める。
「フランはすごい力を持ってるんさ」
「燃やすっつてるから、炎の力か? 炎の力はエレメント的には最強だからな」
自然界において上昇限度無限に等しい炎を上回る力は存在しない。水も雷も風も熱に弱く、大地ですら溶かす力。異能力最強の力が炎。人間が知識と共に手に入れた最初の道具とはなんとも感慨深い。
「だから、炎も神なんだぜ。日本は日の国、火の国ともいうだろ?」
「何言ってるんさ。お姉さん」
「理穂子でいいぜ一年坊」
第二ボタンまで開けている理穂子の淡い緑のキャミソールが見えて赤面する赤。それに母親とセシャト以外の女の子とこんなに喋ったことがない。
「理穂子ちゃんなんさ」
「おうよ。ちー! さぁ読め。今日はいい暇つぶしができたぜ。妖精ってさ。とても正直で嘘がつけないとか、人間を騙してイタズラ好きとか、色々あるんだろ? これって何をモデルにしてるか知ってっか?」
赤は考える。天使かな? それとも妖怪、あるいは神々。
「神様とか?」
「いや、多分子供じゃねーか? エロースとかロリータとかさ、そもそも幼児性愛って滅びの美学と一緒で子供の内にしかない芸術を見出してんだろ。いたずら好きで、素直で、そしてひたすらに可愛い。永遠に成長しない美しい子供。そんなものを創作したのが妖精じゃね? 知らんけど。フランは見るからに妖精をみて、瘴気で変質した人間だと思ったのは、妖精の概念が自分と違うからだろ」
赤はそこを突っ込もうと思っていた。妖精という者が伝承や図鑑などで伝わっている世界において、妖精王を妖精と思わない事はおかしいと思っていたが、瘴気で変質してしまう生物がいるという先情報により、フランの知識は上書きされていた。
「あっ! それで……」
「そういう事だ。フランのエビテンスは更新されてる。まぁ、にしても素直すぎだけどな」
偉そうな態度、そして本人は知らず知らずに着崩した事で露出の高い制服。短くしているスカート。指定のローファーではなくサンダル。そして白い肩掛けバックが起こしているパイスラッシュ。要するに偉そうでエロい。ちぃはう〜んと悩んでい言った。
「理穂子ちゃんは、妖精王みたいなんさ」
「は? なんでだよ」
「……偉そうなんさ」
ボカン!
「偉そうじゃねーんだよ! 偉いんだよ! 私は良い子、元気の子だ!」
赤はふと、楽しいとそうおもい出している自分がいた。妖精王がフランを見つめている気持ちはこんな気持ちなんだろうかと思いながら理穂子に同意を求める。
「とりあえずこれで妖精の泉の水が手に入ったんさ。セーラのお母さんが助かるんさね」
「ゼルダだと体力全壊するからな。でも目はなおらねーんだろ? ここは現代医学と魔法の融合しかねーだろ?」
理穂子は外科手術を話す。現代医学でできない視神経をつなげる方法を魔法で代用し、眼球移植を提案した。
「そ、それはどうなんさ?」
「無理矢理でも人間は争うもんさね。だから私は私よりも知能の低い教師の授業を受けないのだ! この妖精の泉。万能薬でいいんじゃね?」
赤は理穂子が薬やその他について妙に詳しいことに舌を巻いた。万能薬とはあらゆる病を治せる薬ではない。広い範囲に対して効果がある薬を万能薬と言うのだと。
「要するに、抗生物質、ステロイド剤、抗癌剤なんかがそうだな。あと母親の手当てとかな」
科学的に母親に手を当てられるだけで症状が緩和する。所謂病は気からとは実在する。理穂子が中々ロマンチックな事を言いながらこうも付け足した。
「あえて否定しているのは、昨今のなんでも叩く文化だろーな。とりあえずキャシャーンか! というくらい叩いて壊すのが大好きだからな」
鉄の体を叩いて砕く。キャシャーンがやらねば誰がやる? タツノコの有名なヒーローで実写映画化もしたが当然、赤は知らない。ポカーンとした顔をしながら赤は「何言ってるんさ? 理穂子ちゃん」と引いてるので理穂子は苦笑する。
「まぁガキにはまだはえーって事だ。それよりフランの能力の伏線はどうなるんだろうな? メインに絡んできた勇気あるガキかと思ったらちゃーんとすげぇ力がある……っつ……そういう事か、ちーと私みてーなもんだな」
気づいた理穂子。おそらくギフテッドだろうと。目の前の赤は多分、賢い子だろうと理穂子は何度か話して知った。そして自分は壊れた天才と言われている。幼児期は神童と囃し立てられ、あらゆる事を瞬時に理解するその頭脳に体と心が追いつかない。結果、アウトローに落ちた。
日本ではこのギフテッド。欠落した天才と呼ばれた人々への認識が随分甘い。コミュニケーション障害だったり、自閉症の一部の人々はギフテッドである可能性が高く、どんな素晴らしい結果を将来及ぼしてくれるか未知数の国にとって有益な人材なのだ。フランが微妙に自分が違うと感じる。そしてこの大いなる力、理穂子の結論はでた。
が、それを赤には言わない。
「なんなんさ理穂子ちゃん」
「うるせー! ちょっとジュースでも買ってこい! 私とお前の分な」
そう言って五百円玉を投げつける。そして赤が置いていった本をもちその材質、そしてそれをペラペラとめくる。
「出版社名も、印刷所の情報もねぇ。なんだこの本。ハードカバーでもない。そもそもなんだこの紙。あいつ、どこでこの本手に入れたんだ? にしても、失意の中、オヤツだけ食べてるのってリアルだな……医者か、私の大嫌いな連中だ」
セーラの母親の主治医はまさに病院の先生。できる事を行ってくれる。先に話したまさに手当をしてくれているのだ。人の心を治すのも医者と最近言われているくらい彼らは徳が高い。が、かたや白か黒かで切り捨てる医者もいる。これは決して間違ってもいない。期待をもたすまいと、あえて嫌われ者を演じるタイプである。
「この学園長の言う事も一理あるな。正直、私はフランを森に連れて行くハーミットの神経は理解できねぇ。子供なんてなんもできなくて当然だ。甘えるか、喚くか、ワガママ言ってりゃいいんだよ。それが許されるんだからよ。ここで学園長は一言言ってやりゃいいのにな。セーラが大人になって、自分やハーミットにフランが困った時は助けてくれってな」
優しいギブアンドテイクとでも言えばいいだろうか? 出来るから行っている。だから君も出来るようになったら返してくれ、それは救いの一言でもある。理穂子に何があったかはまた別のお話だが、彼女は一時間足らずで本作との同化を果たした。
「理穂子ちゃーん! ジュース買ってきたんさ」
赤の手にはジャングルマンと7アップ。それを見て理穂子は手を伸ばす。すると赤はジャングルマンを理穂子に渡した。
「分かってんじゃねーか、学園長。優しい嘘ってやつだな。でもこれたまに炎上するから使い勝手を間違えたらヤベーよな」
赤は何を言っているのかと話を読み。あぁと自分も覚えがあった。大人の良かれと思ったこの各々に少し違った情報を与えて誘導する手法。これはフランやセーラのような素直な子には激しく効果的であるが……
理穂子はジャングルマンのペットボトルを赤の7アップの缶にコツンとつけて乾杯。そして言う。
「私やお前みたいな。人をそもそもあんまり信用しねー人間には逆効果だよな」
「なんか、その言い方嫌なんさ」
フランにはセーラの為に動いて欲しい。セーラにはフランの為に動いて欲しい。彼らはお互いを想い素直に頑張ってくれるだろう。だが、これを理穂子と赤で行えば、悪気はないのだが当然「お前(君)の為にやれと言われたからやった」の一言を告げて、喧嘩になる。
「これは学園長の魔法にかかったって書いてあるんさ。ある意味、形のない薬なんさ」
「まぁ、そうだな。私たちと違ってセーラとフランは汚れてねーって事だ」
クスクスと笑う理穂子。眩しいくらいに可愛い。次のページでセーラの母親に薬が効いている事。それに二人はほっと胸を撫で下ろす。
「これでクエスト完了ってとこか……できっちり次に繋げてきたな。ハーミットのお家問題が片付くのか、それともこれを結に持っていくのか、予想しながら読もうぜ……なんだ幕間の物語か、なぁちぃ。お前さ? いきなり本だらけのところに放り込まれたらどうする?」
フランの今の環境だろう。もしそうなら、自分なら……
「とりあえず読むんさ」
「気が合うな。じゃあ、このクソ学園の図書室行かねーか? クソな教師にクソな生徒ばっかりのクソ学園だが、図書室だけは小中高一貫だけあって飽きねーぜ」
「えっ?」
笑う理穂子。そして手を伸ばす。赤は勇気を出してその手を伸ばした。そしてそれを掴む。引っ張られ理穂子は赤の肩を抱いてしししと笑った。
「何硬ってんだよ。女同士でよ」
「ぼ、僕男なんさ」
「は?」
ポニーテルの少年、赤を見て理穂子は密着していたことに離れて一発殴る。そしてもう一度赤の手を握る学園、図書室へと向かった。
その瞬間、擬似小説文庫が赤の手の中から泡のように消えた事を赤はまだ知らない。
『隠者と図書室塔の少女 著・祥之瑠于』さて、皆さん今回のお話ですが、中学生の理穂子さんが登場ですねぇ^^ 理穂子さんは本来高校二年生で当方古書店『ふしぎのくに』に遊びにこられている方です。さぁ、どういう事なんでしょうね。赤さんは疑似小説文庫も無くします。本作の結末と、紹介小説の結末とどう絡んでくるのかお楽しみに^^




