カロリーモンスター現る
さて、ようよう暑くなってきましたねぇ!
いつまでステイホームをしなければならいのか? いいえ、逆転の発想ですよぅ! 涼しいお家でお好きな本を心ゆくまで楽しみましょうね!
この世界において、人間と獣は対等ではない。獣は早く走れる足があるし、大きく吠える声、骨をも砕く牙と顎を持っている。
そんな獣相手に人間が対等に語り合うために必要な物は罠であり、猟銃。そう、知恵と道具を使わなければ人間は獣と並ぶ事はできないのだ。
私はどうだ? 私には罠どころか何もない。後で食べようと思っていた飴玉があるだけ、猟銃なんて持っての他である。
がま口や、駄菓子屋共が、夢の中
★
「セシャトさんってさ、エジプトの神様の名前だよね?」
「あら? そんな神様はいませんよぅ! さて、そんな事より一息つきましたし、続きを楽しみましょうか? サリエルさんはとてもお優しい方ですよね? いつもセーラさんを気遣い、そして一番に考えています」
「うん、逆にサリエルが可愛いんさ。ちぃもクチナワは大好き。昔はかわずやクチナワと遊んだもんさね。泥だらけになりながら、懐かしいんさ」
可愛らしい男の子だが、赤はやんちゃそうだ。泥だらけで走り回る赤の事が目に浮かぶようで、セシャトは微笑む。蛇は苦手な人も多い。猫なんて驚き逃げ回る。されどよく見るとつぶらな瞳で可愛らしい顔をしていたりする。
「サリエルみたいに、話して見たいと思ったね。セーラもハーミットもお互い分らない者を前にしてるんだよ。そりゃ不安さね。人間は知らない物に対して不安と恐れを抱き、時には迫害する。ちぃはそれは悪い事だとは思っていない。理解の問題なんさね。なんでもそう。昔はらい病は伝染する不死の病として、迫害されたんさ。大陸(中国)でも、日本でもね……でも世界中の人は理解したさ。この病気、怖くないものだって、知る事は大事。セーラは伝承、言伝を調べるお勉強をするんだね。それはとても素晴らしい事なんさ」
赤の脳裏では、セーラが本を広げながら、妖精。この場合はインプではなくフェアリーを想像している様子を考える。
「そうですねぇ! 伝承といえばアイヌは文字を持ちませんでしたから、言伝のみで伝わっています。それを本土の人達が絶やさないように文字に起こしました。私も毎年イオマンテには参加しているんですよぅ!」
赤は、アイヌラックル神話を思い出し、セシャトを眺めていたが、まさかなと作品に意識を沈める。
「妖精の王様……こういう異世界のお話は、その世界の歴史が本当にあった事のように思うんさね……これはなんていうんだったかなオーバーなんとか? それにしてもセーラはいいなぁ、マァマが優しそうなんさ」
「あらあら、赤さんのお母様も大変お美しくて、お優しいじゃないですか!」
セシャトの知る赤の母親、異様に若く、モデルのような女性。赤程の大きな子供を産んだとは思えない。漢方、中華四千年の謎。
但し、少し教育ママである。赤をいい学校にいかせ、いい職につけさせたい。読書をするという意味でここに来る事を許されていはいるが、スマホを含め、ゲーム機などは一切与えられていないのである。
「優しいよ。セーラのマァマは、セーラの話を聞いてくれるんだ。それに相槌を返して、包んでくれるんさ! 理想のマァマ……これも小説の作者の勝利なんだね」
そう、いいなぁと思える学園生活、いいなぁと思える学友。そしていいなぁと思える理想の両親や兄弟。
「ふふふのふ! 術中にハマってきましたねぇ! ハーミットさんの見事な魔術に見惚れるセーラさん。そんな様子に嫉妬するサリエルさん、これはそういう間を感じますねぇ! セーラさんは、サリエルさんというコミュニケーションをとってくださる図書室の守護者といることで、世界に隔離される事はありませんでした。そこにもうひと方お優しいハーミットさんと出会い。彼女は成長します」
「あぁ、うん。そうね……学校になじめないのに学校案内はハードモードなんさ……ソースはちぃ」
強迫神経症の一つ。
何故かそこいるのが辛い。しんどい、何に追われているのかまでは自分では理解できないのだが、セーラもこの症状に酷似した状況に陥る。ハーミットは何気なく、道具の場所をセーラに尋ね、そしてその場所までの案内を頼んだ。
「このチョイスは、ハーミットさんの距離がとてもセーラさんに近づいているという点です! それ故に、セーラさんという女の子についてハーミットさんは知ることになります。これは……理解のお話ですね? 本作のネタバレになるのでは多くは語りませんが、本作の一つのテーマは“理解“と言っても過言ではありません」
セーラさんを理解し、セーラさんもまた周囲や世界を理解します。人間という者は考える葦であると言った昔の方は中々鋭いですねぇ。
「パスカルね。哲学者って連中も理解によって、物事の理に迫ろうとする中々の歌舞伎者達なんさ、でもセーラが欲しい言葉は哲学でも教育学でもないんだ。サリエルの言う。大丈夫だよ! ってあの言葉。これは心をケアするロボット、ベイマックスもそうなんさ」
子供を安心させてあげる事が大人の、強いて言えば国の義務である。子は国宝。全ての人間が幸せになれるようにとまでは傲慢なことは言わないが、全ての子供くらいは幸せにできる神がいてもいいじゃないか……喉から出そうになった言葉を赤は引っ込める。
男子なのにポニーテール。それを揺らしながら擬似小説文庫を手に、そのページを広げる。
「少しホットな気持ちになったところで、ふしぎのくにのイチゴジャムサンドを食べてみませんか?」
「イチゴジャムサンドなんてどれも同じじゃないんですか?」
セーラのお母さんが作ってくれたサンドイッチ、胸が一杯で中々食べられないセーラ。セシャトは赤が想像しているイチゴジャムサンドの認識を崩すそんなスイーツを作ろうとしていた。
「ふふふのふ! セーラさんにも是非味わって頂きたい、当方のレシピです」
セシャトは母屋の長いテーブルに自家製のイチゴジャム、そして耳を切った食パン・・・・・・そして大きなカップの・・・・・・
「アイスクリーム?」
「ふふふのふ! ドナテロウズのジェラートですよぅ! この三つとフライヤーを使って、ふしぎのくにイチゴジャムサンドを作ります!」
知っている人は知っている。セシャトが作るとんでもない高カロリーモンスター。耳を切った食パンの中にイチゴジャムを端1cmを残してまんべんなく塗りたくる。そしてイチゴジャムコーティングの真ん中くらいにドナテロウズジェラートを落としてこれも伸ばす。そして二枚の食パンを合わせて、周囲を牛乳で湿らせて固める。
「あとは、フライヤーの中に二十秒程入れてから揚げますよぅ! 狐色になったところでお皿に乗せて、いちごの蜂蜜漬けと粉砂糖をかけてできあがりですよぅ!」
「お、おう! なんさ・・・・・・」
ナイフで切り分けると、溶けた冷たいジェラートがいちごジャムと混ざり合い、それに揚げたパンをつけて食べる。
「は、はっひゃああああ!」
「んまぁいんさ!」
ひとしきり、二人はいちごジャムサンドを食べながら続きを読む。不穏な空気を感じ始める第一章のラスト・・・・・・
「なんか、セーラのマァマが何処か悪いみたいなのやめてほしいね・・・・・・セーラはもっと優しくて綺麗な世界で生きていてほしんさ」
赤はもう、セーラが実在する少女のように、サリエルや、学園長、ハーミットやフランのように気に掛け、ある種愛でる気持ちすら感じていた。
だからこそ、セーラには辛い目に遭って欲しくないと、そう胸に手を当てる。セシャトは赤が作品にどんどんと同化していく様子を嬉しそうに見つめ、そして語る。
「では・・・・・・この時の読者の気持ちを書いてみましょうか?」
感想文は生き物なのだ。フレッシュであり、脚が早い。全部読み終えてから書いていては悪くなる。今感じたその気持ちを、心から溢れる意見を、思った時に書き出していくのだ・・・・・・「そうさね・・・・・・セシャトさんがいなかったら、ちぃは多分ずんずんと読み進めてるんさ、こんなところで止められるなんて、生殺しよね!」
9月に赤は、他の日本人の学生とは違い、学年が上がるイベントが待っている。今、赤は古書店『ふしぎのくに』で時間を潰しているが、学校に行くべきなのか・・・・・・どうなのかはセシャトには分らない。
「ハーミットさんは、色んな実験道具を用いて何をしようとしているんでしょうね?」
「魔法のある世界でも、こういう道具があるのは、魔女の釜だね。あれはちぃずっと不思議だったんさ!」
魔法が使える魔女が、ぐるぐると謎の壺に謎の材料を入れて作り出しているシーンは想像に容易いだろう。これはいくつか仮定できるのだが、魔法を使える魔女は悪魔の側面としての魔女であり、なにやら不思議な薬を作る魔女は森の民・ウィッチ。それらの話が色んなところでごっちゃになり、今や我々のよく知る魔女が形成され、魔法という概念が作られているのかもしれない。
どんな世界でも法則がある限り、物理や化学は存在する。そして恐らくは魔法で出来る事、できない事。いわば魔法の得意とする動作と、人の手により調整しなければならない事があると思えばハーミットが何かをしようとしているのも容易に受け入れられる。
「そうですね! サリエルさんよりも何かに気づき始めているハーミットさん、そして幸せそうなセーラさんとそのお母さん・・・・・・ここで、一端物語は幕を下ろします。第二章という次のステージの為に、役者である皆さんは、控え室でお色直しです!」
セシャトは物語を演劇に例えてみた。セーラやハーミット、サリエルにフランは第二公園を前に準備をしている。
「・・・・・・セシャトさんはロマンチストなんさね・・・・・・もう十八時前、ちぃが家に帰る時間。この本貸してくれん?」
普段のセシャトであれば、快くそれを承諾するハズだったが、セシャトは笑顔で、指を×にしてみせた。
「抜け駆けはダメですよぅ! 第二章はそうですねぇ! 日曜日にお越しください! 何かお菓子をご用意して待ってますよぅ!」
そう言ってセシャトは疑似小説文庫を赤から受け取ると、首からかけている金の鍵を取り出して神のスペルを呟く。
『нобачуxотосеа(疑似文庫Web変換)』
不思議な本は、不思議な文字となり、スマートフォンの画面の中に吸い込まれていく。魔法、それは赤には魔法にしか見えなかった。
「セシャトさんは魔法使いなの? ちぃも魔法使いたいんさ!」
「私は魔法使いではありませんよぅ! 私は古書店『ふしぎのくに』の店主のセシャトです! では、玄関までお送りしますね!」
セシャトは赤を玄関まで送ると手を振った。赤は、古書店『ふしぎのくに』の店が霞んで見えるようだった。なんとなく手を振って言葉にする。
「さようなら! セシャトさん」
『隠者と図書室塔の少女 著・祥之瑠于』皆さんは感想文書かれていますか? 当方ですが、とある児童文庫を一つ今年の課題図書として感想文の提出をしあう事になりました! ふふふのふ^^ 私は文章とか苦手なので恥ずかしいですが意外と書いてみると楽しいですねぇ。皆さんも是非、本作の感想文を書かれてみてはいかがでしょうか?




