読了のカルテットは東京の街で読み直す
さて、もう6月も終わりです。今年はコロナウィルスにまだ引っ張られそうですが、お部屋にいるこの状況だからこそ、Web小説が楽しめるものじゃないでしょうか? 来月から夏本番です! 皆さん引きこもる準備はできましたかぁ?
とめどない青い空、そして土の匂い、青臭い草の匂い。川の匂い。普段、気にする事もないような自然の香り、命の匂いがする場所に四人は立っている。
先ほどまで着ぐるみパジャマだったハズのセシャトとヘカはいつのまにか普段着に着替えており、夜だったハズなのに、かんかん照りの日差しの元。何処かの街道のような場所。
「せ、セシャトさん。これなんですか?」
当然驚く一二三少年。そして空いた口がふさがらない秋文。ヘカはあのナイスバディな大人の姿ではなく、いつも通りのおかっぱに不健康そうな目元。手鏡を見ながらヘカはセシャトに言う。
「相変わらずのチートなんな? ところでセシャトさん、化粧水持ってないんん?」
「持ってるわけないじゃないですか! これは夢、と言ったじゃないですか、では皆さん、最後の作品の読み込みをしようじゃないですか」
こんなところで? とは言わないこんなところだからすべきなのだろう。口を開いたのはヘカ。
「どうして、レイル以外の戦士があれだけクソ強いのかについてアルマがようやく伏線が回収されたんな? しかし六英雄。ロマサガやアークザラッド系譜のゲームの時代に影響されてるんな。作者の生きてきた時代は良質なファンタジーが多かった時代なんな」
ヘカはゲーマーである犯罪者欄と同棲しているので、毎日毎日様々なゲームをしている対戦型ゲームだと敗北したヘカがヘソを曲げるのでロールプレイングゲームをヘカの前でよくプレイングしている経緯からヘカも広い知識をそこから得ていた。
「僕はゲームの事は分りませんが、ここに来て政治戦略の話だった事に僕は驚きを隠せません・・・・・・恐らくはこのラストを考えた上で組み立てられたのかもしれませんね。大きな脅威に対して、同じ脅威をぶつける。両方が討ち死にしてくれればそれで良し、どちらかが生き残れば疲弊した方を次は滅ぼせば良い。僕は・・・・・・この物語は今から始まるという期待感があるのに、もう終わってしまうんですね」
レイルは死んでしまったのか? 否・・・・・・命を削るという邪悪な道具である呪物が身体に組み込まれている事で命を繋げていた。呪いという物の効果を逆手に使った上手い技法。
「皆さん、少し歩きませんか? ここはライザレス王国へと続く、街道のようです。物語を読み終える時、それは高揚感と達成感、そして少しばかりの寂しさのような物を感じるものですよね?」
それが面白いと感じれる物であればある程にそうなのだろう。であればどうなるのか? 知れた事でもある。
「作品は完結させる事で、完成されます。当然のことですが、読書もまた同じです。読み終える事で完成するのです。ですから、またこの皆さんに会いたくなれば、ページを開けば良いんですよ! ただ、一つだけ問題点があります。それは何でしょうか?」
セシャトはウィンクをして、あざとーく、あざとーい表情で三人に質問する。それは何なのか? Web小説にあって、販売、自作された製本と違う大きな一点。
「あれなんよ。Web小説は生き物なん。そして寿命があるん」
Web小説は生き物である。というお話は今までも何度か語ってきたと思う。Web小説は常に更新、編集、なんなら削除もされるからであり、今日読んだ物が明日とは違う物になっている事もあるし、作者の気分で作品そのものが削除、後に読めなくなる事もある。
「ヘカさん、Web小説の寿命ってなんなんですか?」
「ヘカお姉ちゃん! なんな!」
「へ、ヘカお姉ちゃん」
秋文のもっともな質問と気を遣った呼び方にヘカは気分をよくするとない胸を張って語り始めた。
「Web小説の寿命は言葉通りなん。例えば、Web小説は公開さえされていれば、作者が最悪死んでも閲覧し続ける事はできるんな。でも、その投稿サービスや、自身の持っているサイトやブログなどのサーバーサービス終了で、その作品は完全にこの世から消えるん。デジタルデータですらないWeb小説のこれが寿命なん」
それは中々に途方もない時間を要するように思えるかもしれないが、ちょっとしたサーバー故障で数十万のWeb小説の生命が消えるだろう。
そして、いかに長い投稿サービスや無料のサーバーだとしても、いつかは終わりがやってくる。そしてそれこそが、Web小説の寿命。
「だから、私達はその瞬間にその作品を楽しめるんです! そしてふとしたときに思い出してその作品を読み、昔との違いを感じたり、そして思い出のページに残すのですよ」
古書店『ふしぎのくに』で紹介した作品でも、もう読めなくなった物も存在する。いつかはやってくるのだ。そしてそれは、それでロストアートとなっていくのだろう。
古書店『ふしぎのくに』が探しているWeb小説と呼べるのかは分らないが、小説家になろうのサービス開始よりももっと前に某所で公開されていた作者不明の作品、その情報を集める為に、有名な作家、有名な出版業界の力、そしてネットワーク管理者達、有志で集まったそんな連中が捜索しても見つからないのである。
ここで語るべきかは分らないが、作者不明、作品データをその作者が持っているかは不明、そして、サーバーログ喪失。
これが、Web小説の死なのだ。恐らくもう見つからないだろう。そんな話を聞いて、秋文と一二三は今の今まで語っていた『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』を読み返そうとする。
もちろん、今すぐに作品が消えるなんて事はよほどの事がない限りはありえないのだろうが・・・・・・
「あらあら! 皆さん、そろそろ来ると思いますよ」
そろそろ来ると思う。さすがにその言葉の意味が分らない程、秋文も一二三も鈍くない。この街道を通ってやってくるのだ・・・・・・信じられないが、彼らが・・・・・・
ヘカが日差し除けのの日傘をばさりとさしてから呟く。
「来たんな」
来た。セシャトはニコニコと微笑み。そして秋文と一二三はゴクりと生唾を飲む音が聞こえる。続いてハートのサウンドが、どくん、どくんと速くなる。
冒険者と呼べるような男女の二人組が向かい側からやってくる。姉と弟のようだ。
否・・・・・・二人が誰なのか四人は知っていた。少年の方は女性に笑いながら何か話しかけて、ゆっくりと歩む。時折、女性の方は少年の言葉に相づちを返し、時折ぎこちなく笑った。
ソレ違う。二人はこの世界に不格好な四人組をちらりと二人は見る。そして二人も笑顔だが、獲物に手を当てている事が警戒しているのだろう。そんな警戒を解く一言。
「こんにちは、良いお天気ですねぇ!」
セシャトの挨拶。それに、秋文と一二三少年もお辞儀をする。そして何故かヘカだけは偉そうに片手を上げて挨拶。
二人組も軽く会釈をして「えぇ、そうですね」とすれ違った。彼と彼女は何をしにいくのか、それは読者には分かっている。
物語を完結させに行くのだ。そして、物語のその先へと彼らの新しい船出をはじめに・・・・・・今だ興奮冷めやらぬ秋文と一二三を見ながらセシャトはふふふのふと笑う。そして一息ついたところで、金色の鍵を取り出した。
「ではそろそろ戻りましょうか?」
それは、どういう原理なのか? 一二三少年は聞こうかと思ったが、クスりと笑う。これは夢なのだ。大いなる夢。夢にツッコムほど野暮な事もない。セシャトは金色の鍵を持って聞き取れない言葉を述べる。
秋文は何度も見てきたその光景。そしてヘカはつまらなさそうに眺め、一二三少年はそれを分析していた。ある種、巫女の祝詞のようなそんな儀式めいた行動。が、彼の持つ知識内にはそんな宗教はないし・・・・・・Web小説なんてここ30年ほどの文化。
考えが纏まる前に意識が遠くなる。
そしてチュンチュンと小鳥の囀る声が聞こえ。東京ならではの喧噪が後に続く。まだまどろみの中にいると分りつつ、ゆっくりと覚醒しようと身体を起こす。
大きなダブルベットの上で、寝ていた。
不思議だった事は、皆同時に目覚めた事だろう。あえて語らない。あれらは夢だったのか・・・・・・それとも・・・・・・
「皆さん、おめざめですか?」
セシャトの声。心地よくいつまでも聞いていたようなそんな声に、秋文と一二三少年は「おはようございますセシャトさん」と挨拶をかえし、ヘカは挨拶よりも前に持参したエナジードリンクを口にする。
セシャトは既に服も着替え、起き上が三人を見るやモーニングのチケットを見せる。確かに空腹を感じ始めたが、セシャトが見せたチケットに書かれた内容に三人は苦笑する。
パンケーキ、そしてフルーツ食べ放題。朝の糖質摂取は大切ではあるが・・・・・・セシャトは必要以上に食べるんだろうなと三人は身支度を終え、ついていく。
「さてさて、皆さん。レイルさんは一つの願いを叶えました。そして彼の物語は一端の終了を迎える事になります。では、一巡したところで、二周目を楽しみましょうか?」
三人は微笑む。そして頷く事にした。
ちびくろ・サンボも逃げ出す程の山盛りのパンケーキに果物を前にしたセシャト。物語を読み楽しむ事には多くのカロリーを必要とするとセシャトは語る。
朝からそこまで食欲のない三人は自分の皿にパンケーキと生クリームとフルーツを適量取ると、全員スマートフォン、タブレットを取り出して、同じページを開く。
作品名『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』。結末を知っていて尚読み直す事の楽しみ方、より世界を、より設定への理解を・・・・・・
珈琲を片手に、甘い物をお供に・・・・・・中には大きなベーコンにかぶりつきながら、あえてひねくれた読み方をしてみるのもいい。
「web小説は未完結作品を楽しみ、今後を楽しむという素敵な楽しみ方と、完結作を読み返し、理解を深め新しい発見をされるのも実に興味深い楽しみ方ですねぇ」
厨房ではパンケーキをひっきりなしに焼くコック達。東京の銀座に甘い物に目がない妖怪・甘味狂いが出るとは聞いていたが、それがまさか自分達の元に現われたとは信じられなかった。
「では、最終部まで読んだ今だからこそ、最初の冒頭を深く考察しようじゃないですか!」
甘味狂いはパンケーキを光の速さで胃に収めていく。そしてなにやら哲学的な話をはじめる。秋文もヘカもそれに反応し、一二三少年は、上品にパンケーキを口に運び、一通のメールを大企業である重工棚田の総帥直通アドレスに送った。
”セシャトさんの作品紹介に嘘偽りなし”
わずか1秒未満で返事は届いた。内容を見るよりも今はここにいる皆ともっとWeb小説を楽しんでいたい。
「『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』次はアルマにスポットライトをあてませんか?」
そんな風に、今日も一日リゾートホテルで時間を潰すのだろう。皆、議題に対して独自の考察と感想を言い合っていくのだ。
『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』本作のご紹介ですが、本日をもちまして一端の最終回とさせていただきます。完結した作品だから見えてくるもの。考えられるもの、一度読み終わった方も多いと思いますが、もう一度頭から読み直してみてはいかがでしょうか?
そして、斉藤タミヤさん、一ヶ月間ありがとうございました! 大変楽しませていただきましたよぅ!




