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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第六章『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』
50/90

湯けむり事件簿 妖怪と少年は作品の軸を読む

さて、この前のミーティングで大分怒られてしまいましたよぅ^^ 古書店『ふしぎのくに』も色々変わりつつ有りますねぇ! 是非私の仕事のタスクを軽くしていただけると嬉しいですよぅ!

「うわぁ! 誰もいないや!」



 秋文はだだっ広い温泉を独り占めしているとそう思っていた。ちゃぷんと肩までつかって今日一日の疲れを落としながら、セシャトに出してもらった疑似小説文庫をジップロックに入れて読む。



「知性の有る獣って・・・・・・」



 ブラッドにより、操られているのか、明らかに正気じゃない兵隊に対して使われたその表現。実のところ場面に合っていない。



「多分、創作の熱量が勝った結果の渾身のミスでありんすな! これまでがいい表現だっただけに、逆に面白いかや」



 秋文は一瞬、目のやり場に困った。黒に紫の混じった長い髪を纏める美少女。そんな人物が何故か男湯に入って、お猪口を片手にお酒を嗜み頬を染めている。



「うわっぁ・・・・・・って汐緒さん?」

「やっぱり秋文君かや! コロナウィルスのステイホームでお店も閉めているから、慰安休業でありんすな! ここの湯泉は悪くないかや・・・・・・ところで、秋文君。こんなところでもWeb小説でありんすな? ふむふむ、『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』でありんすね! オーナーとも大友君とも一緒に楽しんだでありんすよ」



 汐緒はブックカフェの店長代理。セシャト達並みに作品について語れる人物なのだ。そんな汐緒は間違いなく、本作にダメだしをした。



「汐緒さん、さっきのどういう事ですか?」

「表現したい事は重々伝わってくるでありんす。だけど、ここにいるブラッドの兵隊に関してはややブレてるでありんすな。知性があるのかないのか分らないでありんす。覚醒剤のような高ぶりではなく、アルカロイド系の中枢作用みたいな描写でありんすよ。見た事ないでありんすか? テレビとかで、危険薬物に手を出しておかしくなった人間。あれに知性という言葉は合わないかや。もちろん、ここはダールとリゼがいかにして優れているかを読むシーンかや、それ故にここはそれが後を引くでありんすな」



 ここはいい意味でWeb小説ならではの矛盾とでも言っておこうか、逆にいえばこんな面白い作品でもこういった描写が見られる。そして、多くのWeb小説、並びに出版物でもこういった表現とシーンはあったりする。

 冷静に考えると、この兵隊達は、今どういう状態なのか? と・・・・・・ふしぎのくにに所属する某編集は突っ込んだわけである。それを言われるまでライター並びに他のメンツも何も感じずに読んでいたわけだが・・・・・・面白いシーン故にピックアップさせていただいた。


 ちゃぷんとお湯の温度で汐緒の身体が赤く染まる。蜘蛛の大妖怪。そんな事を知らない秋文は異様に色気のある汐緒に困りながら作品について尋ねてみた。



「汐緒さん的にこの作品の楽しみ方はなんですか?」

「色々あるかもしれないでありんすな。でもこの作品は普通に主人公レイルの活躍を素直に楽しむのが順当かや・・・・・・かたいバケット。日本では中々おめにかかれないでありんすよ。旅好きのオーナーに見せて貰ったんでありんすが、フランスパンの本場では、地下に保管庫があるかや、パン屋さんで購入した熱々のフランスパンはその場では食べないでありんすよ」

「そうなんですか?」



 レイルが老人からもらった数本のバケット、いわゆる漫画飯シーンに汐緒は食いついた。秋文はフランスパンは少し固めのパンで焼いてバターを塗ったりジャムを塗ったりそんなイメージが強かったのだが、どうやら本場は違うらしい。



「本当にカチコチに堅くなるでありんす。焼きたての柔らかいパンは地下に保存してかわりに硬いパンを地下からもってくるかや、そしてそれをスープで戻してたべるのが普通でありんすよ。翁は堅いパケットは食べられないと言うでありんす。食べ物を奪い合う程の環境かや、バケットを調理する環境もままならないのかもしれないでありんすな? しかし、レイル。食べ物を粗末するのはいただけないでありんすな」



 そう言って汐緒はウィンクする。レイルとイザクの掛け合いは実にいい、読んでいて気持ちが良くなる程度にいいバディである。恐らくはイザクは愛されたキャラクターなのだろう。作品を作っていく上で、気がつくと主人公ばりに映えるようになるキャラクターが現われる。



「イザクさんってなんか格好いいですよね! 強いのに、頭もいいし。なんだか、レイルのお兄さんみたいですよね」



 そう、事実レイルの兄貴分なのである。作品において不思議と人気が出やすい兄貴キャラ。安心感であるとか、頼りがいがあるとか、一歩離れたところからの魅力を感じさせやすい。

 そういう意味では本作のイザクの完成度は中々のものである。



「レイルは主人公らしい主人公でありんす。そして、イザクはアルマ共々、この作品によく合ったキャラクターかや、普通と言うと語弊があるかや。でも最近はキャラクターの造形に作品世界相応の造形があまりされなくなってきてるでありんす。こういうハイファンタジーに近い作品においては王道を突き詰める事がコクを出すでありんすよ。秋文君、どうせなので背中を流してくれりょ?」



 ざぶんと湯船からあがった汐緒はその真っ白な身体をピンクに染め、そして後ろを向く。背中から尻にかけて大きな痣のようなまだら模様。

 秋文がそれを見つめていると汐緒は少し苦笑する。



「それでありんすか? まぁ蒙古斑みたいなものでありんす。さぁさ、あちきの肌に触れられるなんてオーナーか大友君くらいしか、ないかや。存分に磨いてくれりょ?」



 上目遣いに汐緒はそう言うものだから、秋文は男の子同士だというのに、少し赤面してタオルにボディーソープを塗る。



「秋文君、レイルとイザクの殿さんは領主の屋敷に到着したでありんす。そこでフラグ立って、新しいクエストが産まれるでありんす。この流れは言わずと知れた国産ゲーム。ドラゴンクエストから変わらないクオリティでありんすな?」

「ゲームですか?」



 ドラゴンクエスト。竜王を探す旅と銘打たれたそのゲームの事をプレイした事がなくとも大体の日本人がご存じだろう。冒険・クエスト・イベントの繰り返しは今のソーシャルゲームにも受け継がれている命脈である。

 そして、そんなゲームを元に、あるいはコンセプト、オマージュに多くの国産異世界ファンタジーは量産される。



「酒場と領主は、いつの世も物語の分岐に関わってくるでありんすよ。そしてここで、レイルは馬鹿かもしれないけれど、愚かではないという事がよく分るでありんすな?」

「実は冷静に考えてる事ですか?」

「そうかや! でなければ今まで生き残ってはこれなかったでありんすよ。レイルは本当によく出来た主人公。少しだけ、弱点があるとすれば、不快感が少ないところかや?」



 汐緒は面白い事を言った。不快感が少ない主人公が弱点であると言う。秋文は何故? と理解が追いつかない。



「レイルみたいな主人公は、いい意味で読者を不快にさせる無鉄砲さや、無神経さを持っている方がいいでありんす。これは難しいところかや、Web 小説の読者はマイナス表現に関して異常な程に神経質なところがありやんす」



 一概には言えないが、多くのWeb小説の読者の傾向はプラス表現に肯定的でマイナス表現に否定的である。

 それ故に、俺TUEEEEEジャンルが一つの文化として産まれたわけなのだが、どうしても物語に深みやスパイスを与えようと思うと、読み疲れを与えるというのもまた一つの技術である。

 が・・・・・・それは客離れもまた選びやすく某作家くらい自由に好きな物を書く人間以外には難しいのかもしれない。



「確かに、レイルってもっと猪突猛進なイメージがあったんですけど、この話だと凄い冷静ですよね」

「イザクの焦りと対比させる為にわざとかもしれないかや、恐るべきはブラッドでありんすな? どのキャラクターも超がつくほど飛び抜けているでありんす。実のところ、口伝や文章でしか読者はブラッドという存在について殆ど知らないハズなのに、何度も反芻して、ブラッドが危険だ。強いと思わせ、気がつけばそうなんだとあちき達も想ってしまっているでありんすな?」



 繰り返し、同じ情報を読者に与える事で、伏線にしたり、あるいは作者に近い感性に擬似的に持っていく。



「これって・・・・・・もしかして」

「おや、秋文君知っているでありんすか? インプリとあちき達が読んでいる技法と現象でありんす!」



 インプリンティング、作品に魅入ってしまい夢中になる事を当方では同化と読んでいるが、それを意図的に仕込む方法をインプリ。誘導同化と読んでいる。

 広い意味では伏線の類いもこれに近い反応を与える事が出来るが、何度も口を酸っぱくして与える情報は頭に残る。幼少期に繰り返し暗記した事を未だに覚えているものでる。長期記憶に残っているからであり、恐らくはその人物の成長や生き方に少なからず影響を与えているだろう。



「秋文君は沢山のWeb小説を読んでいるでありんす。それらは秋文の深層心理できっと影響をあたえているでありんすよ」

「・・・・・・そうなのかな? でもそうかもしれないです。ふと有るときに呼んで来た作品の文章や台詞を思い出す事があります」

「この作品でいえば秋文君的にはイザクの殿さんでありんすな」



 素直に格好いいと秋文は思い。彼の活躍を追っていた。そんな彼が彼の魅力である冷静さと計算高さを捨ててまで一心不乱になる怨敵。



「それもまた、ブラッドがどんな奴なのか・・・・・・きになるでありんすな?」

「はい・・・・・・僕は、イザクに幻滅するより、イザクがこんなになっちゃうブラッドって・・・・・・つてずっと思って読んでました」



 そう、当然そう読ませたいわけなのだ。秋文は完全に本作のインプリンティングに嵌まり、そしてハマっていた。



「汐緒さん、セシャトさんとヘカさんと、一二三君っていう僕の友達と一緒にここに来てるんです! この後も一緒にお話しませんか?」



 秋文の申し出に汐緒はウィンクをしながらペロりと舌を出す。それはそれは、あざとい顔で秋文の申し出をやんわりと断った。



「ヘカさんがいるんでありんすな? なら、ごめんかや!」

「ヘカさんの事嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないでありんす。苦手なんでありんすよ。じゃああちきはそろそろ、おいとまさせてもらうでありんすな」



 汐緒はその綺麗な身体をわざと秋文の前に晒すとやや上目遣いに秋文を見つめ、そして脱衣所へと向かう。



「秋文君、レイルの持つ力。代償がないわけがないでありんす。それをどう読ませてくれるかを楽しむのが醍醐味でありんすよ」



 そう言ってブックカフェ『ふしぎのくに』店長代理は「ひやしあめでもいただくでありんすな」と独り言を呟いた。

『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』何度読んでも実の読ませてくれる作品ですねぇ^^ メッセージにて感想を頂いていますが、皆さん中々素晴らしい考察をされています!

 作品の楽しみ方は十人十色ですから、間違いなんてありませんよぅ! 是非、楽しい感想を共有していきましょうね!

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