黒髪は語る。読者を掴む、離すの1話
最近、DMでの対応が増えていますねぇ^^ 私はオープンですが、さすがに小説一冊分をDMされるのは読むのに困るのでURLにしていただけると助かりますよぅ!
さて、そんな古書店『ふしぎのくに』ですが、今月も平常運転です!
異様なくらい艶々の黒髪おかっぱに何日寝なければそうなるのか、心配したくなる目の隈を携えた古書店『ふしぎのくに』自称絶対エースのヘカはセシャトが淹れてくれたコーヒーに持参した黒糖で出来た角砂糖を一つ入れると口につけた。
「んまぁいん!」
言動と態度のわりにはソーサーごとカップを持ち上げ、中々に行儀良く珈琲を飲むその奇人にうたかね、秋文共に釘付けになっていた。
「『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』なんな。これはヘカが物書きだから言えるんけど、この作者。分る人には分る物を書くんな」
ヘカの言う分る人には分るというのは読者を選ぶとはまた違う。パズルのピースがはまるような経験という物をした事があるだろうか?
落語などの高度なギャグ、意味が分ると面白いというようなものに対して、何故か自分だけは分るのだが、他は中々その本質を理解しないというものである。
その自分だけが本質を理解する。それが分る人には分る作品というもので、例えば本作で言えば・・・・・・
「唐突に過去表現を入れてくるんな。そもそもが説明の多い固めの文章からは違和感を感じるん。二人はどうなん?」
いいかげんそうなヘカが新品のiPadを前にそう尋ねる。ヘカは目の前にある山盛りの東京ばななを見て「あいかわらずセシャトさんはイカれてるんな」と言いながらそれを一つ摘まむと口の中に放り込んだ。
「んまぁいん!」
ぱっと見関わりたくない側の人間に見えるヘカ、事実とんでもない少女である事を秋文は知っていたが、こと作品を語る時はセシャトとは別の読み方を教えてくれる。何か答えようとした時、この店の店主セシャトが語った。
「そこは笑うところだからでしょうか?」
「ふふん、その通りなんな。大半の読者はちゃんとそう読めるんよ。ただし固めの文章なんから、何割かは理解せずに読み進める連中もいるんな? その表現や伝えたい事に関して完全に認識がカチっと嵌まる部分が出てくるんな? それが分る人には分る表現ってやつなん」
やや羨望の眼差しを向ける少年達を前にヘカは自身満々でない胸を張ってから珈琲をすする。
「ヘカはショタには興味ないんな! 六年後に出直してくるん!」
「あの、ヘカちゃん?」
まさかのちゃん付けにヘカは珈琲を吹き出す。セシャトとは違い、ヘカはくだらないプライドの塊なのだ。それが作家という者の本質を体しているからなのかもしれないが・・・・・・
「生意気なガキなんな! ヘカはヘカお姉さんなん!」
秋文がうたかねの耳元でごにょごにょと耳打ちする。それにうたかねは頷くと少し呆れながらヘカに質問をしなおす。
「ヘカお姉ちゃん」
ヘカの紫の瞳、そしてその中の漆黒の瞳の深淵。瞳孔が大きく開く。そしてやや隈が薄くなると頬を染めて目を瞑る。
「ヘカお姉ちゃん、いい響きなんな! なんなんショタ2号」
「うたかねです」
「厨二みたいなキラキラネームなんな? で、なんなん?」
こほんとうたかね少年は咳払い、普段着として本来着るような服ではない軍服ゴスのヘカの服装を珍しそうに眺めながらうたかねは尋ねる。
「ヘカお姉ちゃんとしては、この作品の第一章に関してどう思いますか?」
ヘカはお姉ちゃんという中々ヘカを見ても呼ばれないそのレアな名称にテンションを爆上げしていたが、うたかねの質問を聞くと立ち上がって母屋にある冷蔵庫を開ける。
そこにはセシャトのプリンと神様のお酒と、ヘカのエナジードリンクで埋め尽くされていた。ヘカはモンスターエナジーを一本取ると片手でプルトップを開ける。
ごきゅごきゅごきゅ。
魔剤が喉から胃、そして脳に響き渡るそのシンフォニーを一時楽しみながらヘカは呟く。
「モンエナはいずれ万病に効くんな。根拠はないんけど。うたかね君の感想を述べるならヘカとしては、この第一章は序章と取るんなプロローグの続きなん。ざっくりとキャラクター紹介を一話ずつかけて行ってるん。メリットは作品としての理解がより進むんな。物語をいざ読み始めるんに、作者が丁寧に用意してくれた説明書を持って、本編に入れるんよ」
第一章まで読み終えると、誰がどんなキャラクターで、どんな風な役割なのか、という事がある程度分る。それは作品の透過性が薄れ、想像力はより形になりやすい。
これは小説らしいと言える構成である。かつて存在した某ラノベはキャラクター紹介に文庫本二冊を使った物も存在したが・・・・・・それは時代というものなのだろう。
そこまで話すとうたかねは聞きたくなる。
悪い方。
「じゃあ、デメリットはなんですか?」
「スロースタートなんよ。これが完結作として今読んでなければ、続きが気になるという作りでは第一章はないんな? 何故なら短編連作のごとく、一話完結してしまってるん。人間の心は面白いんよ。食事前は食事が楽しみなんけど、終わると食事の事なんて覚えてないん。だから、連載時に第一章の三話までしか公開されていなかったら、読者はそこで満足して、ごちそうさまなんな。逆に一章の最終話はレイルの活躍と、そしてやらかしと、イザクとの絡みとで、次回につながるん。読みたいん! て思うん。これが読者を掴むか手放すかの一話というやつなんな。一概には言えないんけど、人間心理なんて大体同じなん。だから大体、起承転結起承くらいで話を毎回終わらせてるんが、Web小説ではよく見られるんな」
Web小説は発行されている小説とは似て非なる物であると散々語ってきたが、作品構成・文章表現・魅力的なキャラクターそれに+αが必要になってくる。セシャトはそんな熱の入ったヘカの講釈に補足する。
「ヘカさんは、ライター目線での話をしていただくと、実に興味深いお話ですが、私が完結作品として本作を選ばせて頂いたのは、最後まで読み切って、本来の小説の読了感と余韻を楽しんで頂く為ですよぅ! それに、第一章でのレイルさんは、最初の活躍を覗くと、他の個性的なお仲間に一歩劣るところがありますよね? それは経験であったり、年齢であったり、そして年相応の無鉄砲さ、主人公を主人公たらしめる魅力をめいっぱいここで記憶に刻めます。彼はこれから、どんな風に成長し、そして意中のアルマさんを落とす事ができるのか?」
セシャトはやや役者ぶってそう語る。本作に限らずWeb小説のファンタジーはどれを読んでもよく考えられて作られている。
実際、書店で並ぶ作品と遜色ないレベルではないかと当方は捕らえている。『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』はそんなファンタジー作品でどれを読もうかと思っている読者に丁度お勧めしやすい作風でもあるのだ。
読者を選ばない作品というのはファンタジー物においてはほぼ存在しない。Web小説をはじめて読む人はセシャトのWeb小説文庫2019の第九章等と言ったざっくりとしたオススメは出来るのだが・・・・・・合う合わないの話になると、我々全書全読の神でも連れてこないと確定した選択はできない。
「セシャトさんは、こういうパッケージ性の高いのが好きなんな? 心情を表現したり、ある程度先が見えるけど、期待できるものなん」
セシャトはふふふのふと笑うと東京バナナを一つ摘まんで食べる。そして少し悦に入った顔をした後に話した。
「ヘカさんは、読者置いてきぼりのバトル物が好きですよね?」
「当たり前なんよ! そういう作品は心を塗り込んであるん。読んでいて同化しやすいんな?」
話が進むに連れ、ヘカのいうような描写が本作でも進めば散見される。本作の作者が影響を受けている作品という物を考えながら読み進めてみるのもまた面白いかもしれない。
「しかし、東京ばななばっかりとか、セシャトさんらしいと言うべきか、狂ってると言うべきか・・・・・・なんなんこれ?」
一行に減らない東京バナナを前にヘカが呆れていると、秋文とうたかねが申し訳なさそうに頭を掻く。
「ヘカさん、それ・・・・・・僕達が」
「はい、ヘカお姉ちゃん。持ってきた物なんです」
ヘカは秋文とうたかねを見て、同じように照れるセシャトを見てモンエナを一口、口の中で転がしながら呟く。
「大体理解したん」
ヘカはふしぎのくに刻印の入ったiphoneを取り出すと、どこぞへと電話をかける。そして出た相手にこういった。
「欄ちゃん、ジローにお金払っておいて欲しいん! いまから食べに行くんよ。欄ちゃんは来れないん? まぁしかたないんな」
そう言って電話を切るとヘカはセシャトとうたかね、秋文にふふんと笑ってから席を立つ。
「飯を食いながら続きを話すんな! それにしても今日は二人ともアレなん? こんな狭い古書店に泊まるん?」
ヘカが気になった事として、秋文とうたかねの荷物が多い。わざわざこんな神保町の古書店に来るのに大きなリュックサックなんて不要である。手土産だって袋に入れてもってくればいい。
結論。お泊まり会なのである。まさかとは思ったが、秋文とうたかねは顔を見合わせて首を振るので違ったかと思った矢先うたかねがチケットを見せた。
「僕のお父さんが知人から貰ったレジャーホテルのチケットを頂いたので、秋文君を誘って今日はそこに泊まる事になってます!」
セシャトはそれを見て「あら」とヘカはそこに書かれている。宮廷中華食べ放題という文字に目が入った。
「それは、子供だけは心配なんな! 偶然四人までそこは入れるって書いてあるん!」
ヘカがそう言うとうたかねは目をつぶってこう語った。
「大丈夫です。僕のお父さんの知人とは・・・・・・」
うたかねの知り合いの話をしようとする中、ヘカはうたかねに顔がくっつきそうなくらい近づいてからもう一度言う。
「子供だけでは心配なんなっ!」
「・・・・・・そ、そうですね」
「セシャトさん、宿泊の準備なん! 着替えとか用意するんよ!」
「そんなヘカさん、邪魔しちゃ悪いですよぅ!」
ヘカはうたかねの持つチケットに書かれていた絶品デザートに指を添える。それを見てセシャトは「はひゃうぅ!」と衝撃が走る。そんなセシャトを見て秋文がうたかねを見つめ、うたかねも何かを察したように頷いた。
「じゃ、じゃあ今日は夜遅くまで『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』のお話聞かせてくださいね!」
セシャトがお店をクローズにして、四人はキッチン・ジローへと向かう。その数時間後、店に入れなくなった神様の絶叫が神保町の街に響き渡る事を誰も知らない。
『最競クインテットは最果ての街を往く 著・斉藤タミヤ』皆さん、1周ほど読まれましたでしょうか? ここ最近新しく入られた師匠ちゃんさんという方が、ファンタジー小説の編集をされていたのですが、今回は師匠ちゃんさんも協力頂、読み込みを進めていますよぅ!うたかねさんと秋文さん、小学生だけでお泊まり会だったんでしょうか? それは・・・・・・いけませんねぇ!




