Butterfly Effect~此の道を進めば~
コロナウィルスの緊急事態宣言が解除された事で6店舗珈琲の飲み歩きをヘカさんと行ったのですが、ヘカさんに「セシャトさんは病気なんな!」と言われてしまいました。本屋さんめぐりと一日付き合ってもらったんですが、今度ヘカさんとお洋服を観に行きますよぅ!
「その、社長の乳母さん? 本当に役に立つの? 欄・シャディンも木人も社長の下からいなくなったんでしょ? そんな五体不満足なオバサンで」
パンクな服を着て、棒付きキャンディをしゃぶる少女に青年は優しい顔でこう呟いた。
「二度とバレッタの事をオバサンと言わないでくれるかな? 次は、君を処分せざるおえなくなる」
青年にそう言われて、パンクファッションの少女は瞳孔を開きながらガタガタと震える。そして俯いて、青年に謝罪の言葉を述べた。
「ごめ、ごめんなさい」
青年の隣には女子高生、そしてアンドロイドの少女。彼女等が冷たい視線を送る中、青年は少女の頭を撫でた。
「分ってくれればいいさ、ビースト。君は素敵なレディだけど、少しマナーを勉強しなければいけないね? じゃあ、僕等も『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』を読もうじゃないか! 凄い面白くって、可愛くて素敵な物語だよ?」
青年は子供みたいな表情でそこにいた全員にそう言うので、そこにいたメンバーはヘッドセットをつけると、『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』にアクセスする。
「さぁ、ノベルズダイバージェンス。スタートだ」
★
パンと音が鳴る。それはバレッタの手打ち。
トトとレシェフは再び小屋に戻ってきた。少し頭が痛いとトトは感じながら、バレッタとレシェフを見る。そして『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』の物語について語る。
「シープさんとウルフさんのバイクにサイドカーをつけて、これで旅がはかどりそうですね?」
「あれ、結構疲れるんだよ? 滅茶苦茶風受けるし、子供の村から大人の村。これはキノの旅にも同じような話があったね・・・・・・いやどちらかといえば銃夢かな?」
「そうですね。キノさん自身が旅に出る切っ掛けとなった話でもありましたね。これらの、大人になる為の異常とも言える通過儀礼の系譜話はロードムービー物のテンプレートと言えるかもしれません」
はっきり言うと、本作の”ある子供の村”、”ある大人の村”に関して何処かで読んだ事があるような話なのだが、源流に関しては不明と言っておこう。
当方でも菊池秀行などのSF作家が最初ではないか? いや、やはりキノの旅も恐らくは多大な影響を受けた松本零士の銀河鉄道999だろう!
いやいや、ダニエル・キースが最初ではないか?
古書店『ふしぎのくに』で貯蔵している参考文献40万程度の作品情報では足がつかなかった事実をこの場を借りて告白しよう。
「二人は沢山、ご本を読んでいるのね! 知識が増えると逆にそんなループに陥ってしまうものよ! 単純な話なの。物語の源流を探すと、かならずたどり着くのは宗教、そしてその前にある人間の営み、経済、風刺、さらにつきつめていけば生きる事そのものかしら? そして最終的には人間は知的好奇心を満たす事が好きな生き物なの」
そう、当方古書店『ふしぎのくに』が何度となく考え伝えている事に、テンプレートというものが尊いという話をしている。何故なら、この世の中にある小説の全てはなんらかの影響を受けている。いずれにしても似るのである。
「だから私はこう思うのよ! この作品は、何かに似ている。それって、それだけこの作品が優れているって事じゃないかしら? 文章的に、さらには登場人物の立体感、親近感、私はね? トト君、レシェフちゃん。嗚呼、楽しいな、次を読みたいなぁ・・・・・・そして”ある大人のむら”で行われている事は許せないなって思うの」
トトとレシェフはやられてしまったと思う。
本当に、虚を突かれた。知識量を増やせば増やす程に、心の視野が狭くなる事がある。所謂目の肥えた読者というものである。
もちろん、目が肥えているにこしたことはない、作品をより楽しめるわけだが、それ故にどうでもいい事に意識が取られやすくなり、結果として同化できなくなるのだ。
「バレッタさん、貴女は僕の知る限り、最高の読者様の一人です」
「あぁ、バレッタ誇るといいぞ、ボクもまたこの神の使徒と同じ事を考えた。そして君をボクが独占するのはズルすぎるな。そろそろ変わろう」
レシェフは目を瞑る。そして目をあけると、雰囲気が優しく変わる。そう、ただの女子高生であり愛知県の古書店「あんくくろす」店主。レシェフに変わったのである。
「おはよう、もう一人のレシェフちゃん」
「あ・・・・・・おはようございます! さぁ、”ある獣のむら”をよみましょう!」
「レシェフさん、誠に申し訳ないのですが、もう僕等は・・・・・・」
絶叫。
随分長い間、裏レシェフに意識を奪われていた事。それに気が動転している表レシェフの頭を撫でてバレッタは微笑む。
「もう一人のレシェフちゃん、とーってもいい子だったわよ」
「あ、それならよかったです。あの子、少し過激なところがあるだぎゃ」
バレッタはニコニコと微笑みながらトトとレシェフに語りかけた。
「あと、もう少しで全部読み終えちゃうんだけど・・・・・・また今度にしましょうか? とてもとーっても楽しかったわ」
バレッタの話にトトは少しばかり自慢げに目をつぶってから語る。
「本作、『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』は元々二年前からヘカさんが注目されていたのですが、某理由。そうですねカテゴリー・エラーで中々紹介できる機会が無かったのですが、当然最高の作品ですよ!」
本当に楽しそうに、トトが自分の家族でも自慢するように話すのをバレッタは愛おしそうに見ながら頷く。
「そうね。作品もとっても素敵ね。可愛いし、切ないし、ドキドキするし、でもね? みんなで作品を読んだから楽しかったのかしら? 二人とも、帰りなさい」
バレッタは扉を開くと、二人を玄関まで案内した。人質としてここに軟禁されていたハズだった。軟禁というには実に過ごしやすい時間だった。トトとレシェフは玄関前でバレッタに頭を下げる。
「バレッタさん、実に楽しい時間でした! 是非、東京に来た際は僕のブックカフェに遊びにきてくださいね! 当方の最高のスタッフで持てなします!」
「わ、私の古書店にも遊びにきてください! 海外の児童文学を中心に集めてます」
ばっと、バレッタは二人を抱きしめた。バレッタは抱きつき癖があるらしい。でも、トトもレシェフも嫌じゃなかった。
「ほんとうに、二人ともいい子だ! さぁ、帰りなさい。君達の世界に」
バレッタはトトとレシェフにそう言うと、扉を閉める。そしてゆっくりとソファーに掛けると、トトが作ってくれていたアイスフルーツティーに口をつける。
「うぅん、トト君。もう少しシロップを入れないと、まだまだ修行が足りないわね・・・・・・いらっしゃい坊や」
バレッタが見た先には、三人の従者を連れた青年の姿。青年はその手に、『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』の疑似小説文庫を持っている。
「やぁ、バレッタ。この工房に来るのも久しぶりだ。今日はこの、ご本を一緒に読もうと思ってね!」
バレッタは青年の後ろにいる三人を見る。一人はフードで顔を隠しているが、瞬時にそれらが何者かを理解して話しかけた。バレッタはトトやレシェフに見せた穏やかな表情ではなく、キツい、恐ろしい、まさに魔女と呼べる表情。
「三人、いいえ二人と1基かしら? 特にそこの女の子、憎しみからは何も生まれないわよ?坊やの元を離れるなら今しかないわ」
指摘された少女は怒り叫んだ。
「五月蠅い! あの人間じゃない連中は、なくさなければならないの! 特に、銀髪の嘲笑する女。あの古書店の店主だけは!」
「そう、悲しいわね。機械の女の子は坊やの為に悪事を働き、そしてもう一人・・・・・・坊や、人間を作ってしまったのね?」
坊やと呼ばれた青年は疑似小説文庫を開きながら、幼い表情で、目を輝かせながら作品を読む。
「ウルフ君とシープちゃん、二人にとっての幸せは何なのか? 最大のテーマにして、最大の謎・・・・・・バレッタが逃がしたあの人ならず達にはその話はしたのかい?」
謎・・・・・・読者の多くはシープとウルフがサーカスから飛び出して旅々を繰り返しているその中に幸せを見つけるものだと思おうのだろう。
だが、青年は言う。
「サーカスに、幸せがなかっただなんて、何処にも書かれてはいないじゃないか! 二人はあそこが嫌だった。辛かっただけ、それはイコール幸せじゃなかったとは証明できないよね?」
言葉遊び、そして問答においてこの坊や程厄介な相手をバレッタは知らない。
原点に戻れば、ウルフとシープにおける幸せとは、二人が共に有る事ではないかと仮定できる。それであれば、自由か不自由かの違いはあれど、二人は最初から共にあった。それにバレッタは指摘する。
「幸せを探す”旅”じゃない坊や」
「旅とは、そもそも何処かに行く事だけじゃないよ。バレッタ。ハイデガーさ」
ウルフとシープを青年は存在の証明という言葉で語ってみせた。要するに、ウルフとシープの幸せを探す旅が何かという事よりも、二人の経験をした事実その存在そのものが・・・・・・
「旅であると言いたいの? 絶対それは、作者の」
「論理外の話である事と、作品の本質には関係がないよバレッタ。時として人の作りし物は、創造主を越えるのさ、それは今までの歴史が証明している。子供向けのゲーム機がミサイル発射システムに変わった事は有名な話さ」
攻撃的な読者。されど、作品を最大限にリスペクトするこの青年。バレッタは懐かしさと共に青年を睨み付ける。
「坊や、私は坊やのお願いを聞いてあげられないわ。処罰を受けましょう」
「ふぅん、バレッタ。君が望む物は安らかな死だったね? 僕は乳母であるバレッタの事を心底尊敬している。動く身体を与えて、また楽しく読書をしたいと思っているよ。どうだろう? 今回の事は目を瞑る。書の神を名乗る人外化生を討伐する力を貸してはくれまいか?」
青年はバレッタに優しい表情で手を差し出すが、バレッタは首を横に振った。そして青年の手を払いのける。
「お断りよ。あの子達は、物語を心から楽しめる。そこに怪物か、化物かは関係ないわ」
「ビースト!」
青年が叫ぶと共にフードの人物が飛びかかってきた。バレッタはそんなフードの人物の首を掴む。手を伸ばす人物は苦しみ、バレッタはその手の力を強めた。
「これでも世界最後の魔女よ・・・・・・その顔・・・・・・嘘、私の」
フードから覗いた顔を見てバレッタは驚く、かつて自分がお腹を痛めた子供の面影を持った少女。その少女が自分に殺意と憎悪を向け、牙をむいた。
「坊や! なんてことを、なんてことをしてくれたの!」
青年は何らかのスイッチを見せると先ほどと変わらない表情で、語る。悪びれた様子もなく、日常会話をするように・・・・・・
「僕にアリアという妹がいてね? その技術のちょっとした応用だよ。君の子供の遺伝子情報をちょちょっと僕が・・・・・・ね? ビーストは君の子供と99。9%同じ遺伝子情報を持つお人形だよ。僕を育ててくれたお礼に感動のご対面だ。そして、君はまた眠るといい。永遠に、人類史が終わるその日まで」
ブチっ。音が聞こえた。
誰も居ない病室で、再び意識のみが覚醒したバレッタは声もあげられず、目も見えず、ただそこで死ぬ事もできず・・・・・・永遠が始まった。
”トト君、レシェフちゃん。坊やと・・・・・・私の子をを救って”
以上が地下60階に眠る。
世界、最後の魔女・バレッタによる誰にも共有される事のない報告。
★
「というお話なんですよぅ!」
古書店『ふしぎのくに』でお茶を飲みながら、セシャトの話を聞いている可愛らしい少女と少年。
「セシャトさん、そのバレッタさんは本当に魔女だったのですか?」
「シープさん、そうですねぇ・・・・・・人の知らない文化、知識や力を持った人の事を、人は怪物や、化物として扱ってしまいます。迫害出来る者というのは悲しいですが、人間しかいないんですよね」
セシャトの話を聞きながら少年は珈琲を口につけてテイスティング。お菓子に手を伸ばそうとしてやめるので、セシャトはふふふのふと微笑む。
「ウルフ君はお菓子は苦手ですか?」
少し困ったような顔をする少年の頭を撫でるとセシャトは金色の鍵を取り出した。
「фотатецгннксофwолф」
全く聞き取れない言葉を述べたセシャトはトンと少年の頭に金の鍵をつける。そして優しく微笑むとこう言った。
「騙されたと思って、一口だけでも食べてみてください」
さすがに出された物を食べろと言われ少年はゆっくりとマカロンを口に運び少しだけ囓る。
「!!っ! 甘い!」
「ウルフ、味がするのですか?」
「うん、美味しいよ。セシャトさん、何したの?」
「ふふふのふ! お二人の旅した”東京という街”は色んな奇跡が起きる場所なんですよぅ! さぁ、次はどのご本を読みましょうか?」
セシャトがそう言ってタブレットの画面とにらめっこをしている中で、ウルフとシープは顔を見合わせて頷いた。
「セシャトさん、私達そろそろ」
「うん、セシャトさん、俺たちそろそろ」
セシャトは二人が言わんとしている事に気づくと、たははと笑う。そしてセシャトは二人に微笑んだ。
二人はただ休憩に来ただけなのだ。
あまり長時間二人を引き留めてはいけない。それを思い出したセシャトは、姿勢良く立ち、利き手を腹部に空いている手を背に、古書店『ふしぎのくに』における礼の姿勢で会釈した。
「旅の途中下車に、たまには私達の古書店に遊びにきてくださいね! まだまだお二人にお話してあげられる物語が、旅の行き先がございますから!」
『怪物少年と化物少女が“幸せ”を探す物語 著・北澤ゆうり』のご紹介でありますが、本日をもって一端の終了とさせていただきます。成長という意味で、子供のむらと大人のむらの項をメインにお話をさせて頂きました。本作の楽しみ方は沢山あります。その中で当方にDMでご質問頂いた方々へのご回答にもなった部分もあるんじゃないでしょうか? ただし、これは当方の感想でしかなく、皆さんは皆さんの視点で本作を読まれ、感想をお伝えしてみてはいかがでしょうか?
一ヶ月間、北澤ゆうりさん、ありがとうございました!




