”ひふみ”じゃなかった。花魁も欲しがる本
前書きにアヌ兄さん登場や! 今回はな水商売しているお姉ちゃんやお兄ちゃんの店に行って、ワシとばっすんとシア姉さんで『婦好戦記~最強の女将軍と最弱の巫女軍師~ 作・佳穂一二三 画・マキムラシュンスケ』の話を聞いてみたりしたんやな。もちろん、緊急事態宣言前やで! そこで、やっぱ人を見る仕事しとるホストの兄ちゃんやラウンジの姉ちゃんの意見はおもろかった。また、ワシ等みたいに本の感想聞きにくる客も珍しすぎたみたいやけどな。とりあえずシア姐さんが、本を置いてまわるという謎の布教活動をしとるわ。
「おっ! 花魁道中やでぇ! 一二三少年、見るだけはタダやぁ! あの姉ちゃん達に酌でもしてもろたら、財産吹っ飛ぶからのぉ! カッカッカ! しゃーなしばっすんの顔見ながらビール飲んで我慢するんや」
確かに花魁の人達はとても綺麗だ。アヌさんが言っていた”婦好軍”というのもあながち間違ってはいないように思える。
「一番人気の花魁の登場やな!」
やたらと豪華な物見台のようなところから、僕達を見下ろす花魁の人。金色の瞳に人を見下したような表情で薄ら笑いを浮かべる花魁。男の人も女の人も、彼女に見られるだけでハートを射貫かれたような顔をする・・・・・・僕も目が合った。
「ほぉ、貴様等ぁ・・・・・・”腐った”良い目をしておるのぉ! 気に入った。余の座に招こう。後ほど面を見せる事を許す」
ちびりそうだった。
綺麗より、怖い。なんだろう。あの人・・・・・・
「一二三少年やるのぉ・・・・・・あら、一番人気のドロテアやないか、ワシはあーいう気の強い女は好かんやけどなぁ。アレも産れつきなんか知らんけど根っからの強者や、見下されるだけで喜ぶど変態共を大量に生み出した人類悪の一つやけどな。花魁も流行があるからの、身一つで大金作れるような奴になるには、それこそ死にものぐるいの戦略が必要やろう。サクは、弓臤の強さと傾向を分析した。そんでまんまと策に嵌めたわけやな。一応、将をする奴が舐めたらアカンっちゅーいい例やな。最終的には婦好は殷の大帝国の大半の軍を指揮する事になるわけやから、それまでにはこんな風に女であった事で舐められたみたいな事もあったかもな」
アヌさんは時折、花魁の人に手を振っては嬉しそうな顔をする。アヌさんの好きな女の子はどちらかといえばサクのような大人しそうで可愛い系の女の子なんだろう。
「要するに、婦好軍そのものが婦好の人生の振り返りにも思えるって事っすね。そういう表現だとすると、それはそれで、なんとも言えない気分になるっすね」
「それってどういう事です?」
「昔の事。なんなら100年くらい前でもええわ、よく分ってない事は当時の史物や歴史的考証の元に考えられた。後世の人物の妄想なんや。だから、サクがいないとはワシ等は言い切れへんし、逆に言えばこの婦好戦記という物語自体が、婦好の生涯を描いたものとしても悪くないわけやねんな? 婦好軍というものは、婦好の望んだ未来っちゅー比喩でな」
婦好の未来。それはなんだろう? 婦好はいずれ死ぬ。作品ではそんな描写はないかもしれない。だけど史実上存在する人物なのだ。物語とはいえ有限の時間を彼女は生きているのだ。その彼女に並び歩くサク。彼女は、もしかすると婦好の道標なのかもしれない。
僕がそんな事を考えていると、豪華な場所が僕等を出迎える。
「ドロテアの茶相手に選ばれるなんて、珍しい事もあるもんだね」
運転手の男にそう言われるも、アヌさんは「こんな男前見て腰ぬかしとるんやろ、あのクソ女わ!」と失礼な事を言っていた。お城みたいな遊郭に僕等は連れられ。そんな中でもいっとう広くて豪華な座敷に通された。そこで片膝をつき、腕のせに腕を乗せて、お饅頭なんかを頬張っている人間離れした綺麗な女性。
「面をあげろ。愚民共」
「なんや! 花魁風情がえっらそうに」
「黙れ駄犬!」
あのアヌさんを黙らせた。そしてドロテアさんは手酌で酒を酌み、そしてそれを一献。
「そこの子供、この街の人間じゃないな? 隠さなくてもよい。余は少々飽いた。暇つぶしの戯れ言を聞かせてくれれば、少し手伝ってやらん事もない。この吉原の支配者。ドロテアがな」
「うたかねです。一二三と書いて”うたかね”と」
「成る程、一二三。御詠歌か・・・・・・物語を紡ぐもの、いや語るものか? まぁよい話すがいい」
バストさんは耳打ちで教えてくれる。人形街を統べる者はこのドロテアであると。僕は語った。本を取り返したい事。
「ほぉ! 大陸の女ばかりの軍か、興だの。続きを語れ。サクは、婦好はどうなる? 裏切り者は世の常だ。さぁさ! 酒を持たせよう。そこの木偶達も楽にせよ! 一二三、余は貴様が気に入った。そして、その本。余もほしゅうなった」
そそそっとアヌさんが僕の横によってくると耳打ちする。
(あかんあかんあかん、こいつなんでも欲しがる病気やねん! とりあえず話に酔わせい! これはオリジナル読んでた一二三少年にしかできひん事やで! ワシはドロテアのアホの酌でもするさかい)
「女性の軍である事から、デリケートな問題も多く抱えます」
「月ものか、軍として戦働をするなら、用足しの際に行っておったかもの。お江戸の女のようにな」
「ドロテアぁ! お前、こんなガキの前でなんて事言うねん! 恥をしらんかい!」
「恥? 余を誰と心得る? この不夜城の主にして最上の花魁ドロテアぞ? 余も古来、戦をしたような記憶がどことなくあるの。戦は時代も国も違えど、その本質は政、そして・・・・・・命を使った最高の遊び。婦好は堅実な女だ」
ドロテアさんはキセルを吸う代わりに、おおきなドングリ飴を取り出すとそれをガリガリとかみ砕いては食べ、手酌で清酒をすする。
「貴様等も喰うか? 小江戸の菓子屋横町で買わせた物だ。酒の肴にも悪くない」
そう言って大量の飴玉が入った漆塗りの容器を差し出してくるので、僕は会釈して一つ摘まむ。
「一二三、貴様は礼儀を知らんな?」
はい?
ドロテアさんはがさっとどんぐり飴を鷲づかむと掴んだそれを僕の手の中に落とす。
「わわっ!」
こぼすまいと慌てる僕を見てドロテアさんは満足そうに笑う。
「余が飴玉を一つしかくれてやらなんだとでも風潮してまわりたいか? 見栄の世界、やると言うものは全てもらえると思え」
アヌさんにバストさんも二、三個ぽいぽいと口の中に入れてドロテアさんと同じく清酒を飲んで頷く。
「わりと合うのぉ、この喰い方身体に悪そうやけどの」
「千の命を預かる故に警戒か、余はそんな事は思わぬ。兵は皆、余の所有物。そして、二心抱くものもまた戯れ言」
「それは、ドロテアさんにとっての戦は遊び要素が強いからっすね。同じ将の器でも婦好さんとドロテアさんは対極のところにいるっす」
ドロテアさんの戦のあり方は、本人の自意識もあるかもしれないけど、この前話した古い戦の考え方なんだ。婦好さんは、コストを大事にする。進歩した考え方、粗探しをして、安全を第一にとる。
「ドロテアさん、質問してもいいですか?」
僕の問いかけにドロテアさんは、「よい、余への無礼。許す」と許可してくれたので、率直にドロテアさんに聞いてみた。
「婦好はどんな世を作ろうと思っていると思いますか?」
僕の質問にはアヌさんとバストさんも驚いたみたいだった。多分、聞いてみたいじゃないか! 同じく、王のような傲慢さと気高さを持つこのドロテアさんに・・・・・・
「知らんわ!」
えっ? 知らん?
「えっ?」
「余が、何故その物語の女将軍の事を知る由縁がある? 余なら乱世を望むが、この場合、望むのは物語の続きであろう? 違うか? 貴様等、考察だなんだとつまらぬ戯れ言と詭弁で、物語を読む目がズレておるな、なんだ? めがね職人でも呼んでやろうぞ? 本を取り戻したいのではなかったのか? 物語を読むつもりが、読まれておる。実に救いようのない連中だ。遊郭で童貞でも捨ててゆくか? 考え方もかわろうぞ?」
アハハハハと笑うドロテアさん。うん、そうなんだ。そうなんだけど・・・・・・これはきっと怒るぞ。
「このクソあまがぁ! 黙ってきいとったら! その本の行方がわからんからお前の部屋きとんやろぉが! さっさと情報ださんかい!」
ほら、アヌさんが怒った。
「一二三坊や、余と共にあるか? その本、余の力をもってすれば、この街、この国の犯罪者の雁首、この座敷に並べてやろう。こんなダメ古本屋の連中よりも効率的に取り戻せるに違いない。婦好に仕える、サクのようにな。どうだ? 悪い申し出ではなかろう?」
「ドロテアさん、婦好とサクの間にはどこか対等な関係があります。もちろん主従関係という意味では違うけど、二人は主人公であるからだと思います」
「その心は? 一二三坊や、あまり余を不快にさせるな? 余が望む答えを返せばよい。一分やろう」
ドロテアさんは水飴を次は舐め出す。長い棒に水飴を絡め、それを舐め取る。なんだか少しエロい。これを舐め取る間に僕に答えを求めているんだろう。
嗚呼・・・・・・そういう事か。
「僕は誰にも仕えません。僕は僕です。ですけど、アヌさんやバストさんみたいに、ドロテアさんにも依頼をしてもいいですか?」
バキりとドロテアさんは太くて堅そうな棒をかみ砕いてはき出した。その瞳や僕やアヌさんやバストさんを生かして返すつもりがない。アヌさんは懐から短銃を、バストさんは腰のベルトに手を当てている。ダメだ、大変な事になる。一触即発、ドロテアさんは僕を見るや・・・・・・
えっ?
甘い・・・・・・じゃない。ドロテアさんに僕は口づけをされた。
「ワレぇ! 一二三少年に何してくれとんじゃぁ!」
「黙れ駄犬。坊やに駄賃をくれてやったまでよ。一二三坊や、余は其の本を望む、坊やは本を取り戻したい。どうする?」
この状況を打破する方法はもちろん。
「さしあげます」
「ほう。取り戻したいのにか?」
「はい、すぐには難しいですけど、同じ本を必ずドロテアさんに差し上げます」
あっはっはとドロテアは笑う。そしてこう言った。
「日本橋にいかがわしい女が紛れたと、客に聞いた覚えがあるの」
日本橋、次は日本橋に! アヌさんとバストさんとそこに向かおうとした時、ドロテアさんが僕の袖を掴む。
「何か?」
「余と床に入る事を許そう。十五億用意されても、夜伽をせぬ余が、許そう。一二三坊や、余の初物くれてやろうか? それほどまでに気に入った。この国の初物味わってはみぬ・・・・・・痛っ・・・・・・何をする駄犬!」
アヌさんがドロテアさんをげんこつで殴った! そして僕をひょいとかかえると。
「行くでばっすん! その色ボケのフリした処女ともう話す事あらへん! 日本橋行くでぇ!」
ドロテアさんは面白おかしそうな顔をして僕達を見送った。
それにしても十五億って凄い金額だなぁ。
「十五億あったら何が買えるんでしょうね?」
「一二三さん、十五億は今の国家予算っすよ。ドロテアさんは、この国の総理大臣にならなかったんすよ」
え?
えぇえええ!
後書きのバストっす。
”『婦好戦記~最強の女将軍と最弱の巫女軍師~ 作・佳穂一二三 画・マキムラシュンスケ』”
古書店『ふしぎのくに』で30冊くらいもってるんすかね? で、自分思い入れがあったんでサイン本買いたかったんすけど、身元バレがアウトなんで”ふしぎのくに”で購入できない時点で全員指を咥える形になったっす。でも、逆に考えれば自分達が購入しなかった分、他の方が買えたと思えばそれはそれでいいっすよね! セシャトさんが結構、サイン本購入に関して粘ったんすけど、ダメでした。購入された方は是非大事にしてくださいっす!




