時代の進ませ方を魅せる方法
おはようございますっす! バストです。現在、ふしぎのくにの運営をヘカさんに行ってもらってるんすけど、あの人も結構カリスマあるんすね。コロナ対策としては自分達はスカイプ会議なんで問題ないんすけど、アヌさんやシア姐さんと食事会がないのは少し悲しいっすね。
あと、セシャトさん。これみよがしにお取り寄せスイーツの画像をみんなのグループチャットに送ってくるっす。そして凄い速度で作品読んでるっすね。
かぽーん!
これは、銭湯の息をしている音だ・・・・・・というと純文学的だろうか。単純にタイルに桶が当たった音だよ。そして、僕は未曾有の危機に面している。
「一二三少年! 銭湯はええってか?」
「僕、ちょっと風邪気味で」
「それなら、なおさら入らなな! 今日はゆず湯の日ぃやからのぉ!」
ダメだ。アヌさんにのせられて結局一緒に入る事になってしまった。バストさん、着やせするタイプなんだ。筋肉質な身体。
それにやせ形のアヌさんはツッコミを入れている。
「なんやこのええ身体はぁ! 普段古書店の店員ちゃうんかーい! ほれほれ、一二三少年もばっすんのええ身体つついてみぃ!」
あれ? アヌさん、腕に包帯してる。
「アヌさん、怪我してるんですか?」
「これかぁ? まぁ、あれやな。これしてな風呂入られへんのや」
ばちこんとウィンクするアヌさん。銭湯は広くてそして凄い湯気であまり周囲が見えない。タオルを身体に巻いて僕は閉口しながらも銭湯へ入る。
「足下、気をつけてくださいっす」
バストさんが手を持って大浴場で連れて行ってくれるので、そこで肩まで三人でつかる。嗚呼、やっぱりお風呂は気持ちいいや。心の洗濯だよ。
そんな中でアヌさんが呟く。
「七六歩や!」
「三四歩っす!」
二人はそう言い合い、たまに長考、そして楽しそうに意味不明な言葉を続ける。そしてようやく僕は何をしているのか分った。
「ばっすん。これでトドメや! 三七成り歩」
「・・・・・・参ったっす!」
「かっかっか! ワシの勝ちやのぉ! フルーツ牛乳おごりやでぇ」
将棋。それを盤面も見ずに二人は指していた。
そんな中でバストさんが語る。
「一二三さん、サクさんは死者を出さない為に、けが人が出ない演習をはじめるんすよね。そしてそれは駒を使った軍略具も使われて行くっす。中国ならチャンシーっすね。戦争は無駄に金がかかるんすよ。いわばどれだけ、コストを削減できるのかという部分に着目した者が歴史的には戦で負けないんすよね」
そして反論するのはアヌ。
「いいや、戦は常に新しい台風の目が出てきて変わるんや! 流行っちゅーもんがあんねん。弓臤の兄ちゃんは、普通にリアルやな。一二三少年の話の中で一番リアルなキャラクターや! 可視化できる。それは良くも悪くも今も昔も現状を重んじる奴やな。悪くないねん。むしろ賢い。せやけど、歴史的に見るとそういう連中は時代の流れに負ける。前田利家とかがこのタイプやの、作品に合わせて中華キャラやと、さしずめ袁紹あたりやな」
どちらにも言える事は、昔の流行にのっとったままその姿勢崩さず結果として、時代という波についていけず失脚するんだ。そういう意味ではよく画かれている。サクが時代に一矢を投じる瞬間を二人は弓臤というキャラクターの動きを見て感動していた。
「本来なら、常務クラスの弓臤の兄ちゃんに口答えなんかできひんねんけど、社長である婦好姐さんの一言で一端は収まるわけやな! そんで羊使った会議や」
アヌさんは引き出しが凄い。そして銭湯に浸かっていると少し肌が赤くそまり、癖毛みたいな髪型が元気よくピコピコと動いてる。
「羊審判なぁ~、この作品でも扱われてるけど元々遊牧民やった連中が国をもっとるから、古代から今に至るまで羊は家畜以上の意味があったんやろうな」
どういう事だろう? そもそも羊を殺して行うなんて・・・・・残酷じゃないか。
「羊頭って言ってな。血をもってして洗礼されるみたいな事が中華系民族に伝統であるんや。それは残酷な事というより、食べても栄養高いし、なくてはならないもの。カムイの考えに近いんかもな。そもそも吉兆より、善悪を調べる裁判に使われてたんやろうな。それも魔女裁判みたいなもんや。羊の動きで善悪が決まる。シメ方である程度刑の執行が出来るっちゅーな。これ、悪い意味ちゃうで? 昔の中国人はどちらかといえば0か1かで行動する奴が多い。正義執行するためにそんな趣向をこらしてたんかもの。ただな? 羊神判って、羊を二頭使って角合わせさせて勝った方の羊の判決にするっちゅー話もあるから、実際のところどうやったかは分らんわな。婦好の大矛に羊の顔らしいレリーフがあったかとかなかったとか、トウダの事やとしたら、この羊の血をもってした羊神判が濃厚かもしれへんな」
あー成る程っすねぇとバストさんは頭にタオルをのせて少し顔を赤くする。僕は二人だけでなんだか分ってしまった感に少しだけ嫉妬してしまう。
「法は被告人を水に流すって、なんか分かり味が深いですね」
「古代中国でもメジャーな罪、流刑な。でもそれは日本の考え方やな、島流しが多いしな。本来は、二頭の羊の一匹を川に流して、被告人の罪や穢れを払うっちゅー考え方や。まぁ、実際はなんらかの罰はあったやろけどな。もしかすると、羊が家財の一つやとすれば縁起物が奪われるっちゅー事かもしれんけどな! まぁそら昔の事や。誰も真実はわからん。よっしゃ、上がってフルーツ牛乳飲むでぇ!」
僕はそう言われるやいなや、真っ先に飛び出して、水分をぬぐって着替える。アヌさんとバストさんはゆっくりと竹で汗をぬぐっているので、今のうちだ。
それにしてもサクは弓臤にまっすぐに、真っ向から立ち向かう決意をしてみせた。なら僕も、前を向きあの本を取り戻す。
「一二三少年! はよこっちこんかーい! フルーツ牛乳売り切れてまうでぇ!」
「あっ、はーい!」
「よっしゃそろたな! ほな」
”かんぱーい!”
アヌさんはとにかく酒盛りが好きな人なのだ。今回はお酒じゃなくてフルーツ牛乳だけど・・・・・・相撲の日程なんかを確認しながらアヌさんは火照った顔で語る。
「女と男、どうしても体力的、体格的な面は埋まらん。なんせ、女を守る為に女が作った新しい性が男やからな。ある意味では男は新しい人種で、かつ力仕事的な局面では優勢な生物や」
えっ? 何言ってるんだアヌさん・・・・・・ちょっと意味が分らない。それにハァとため息をつくとバストさんが話してくれた。
「アヌさん、医学書とか読むのも好きなんすよ。鶏が先か卵が先か、は分らないっすけど、人間はそもそも雌。女性から産れてそこで男性になるか女性になるかが決まるらしいんすよ。種を存続する為に、自分達を守れる自分。雄。即ち男性を作ったんすね。だから、婦好軍が真っ向から同じ力で弓臤と戦っても勝てる見込みはねーんす。婦好さんは志気と戦術、そしてそれに対応しうる戦略がいると語るんすね。逆にいえば、婦好軍に限らず、殷の大帝国の戦術。すなわちストラテジーは、軍を扱う者には一目瞭然である必要があるわけっすね」
そりゃそうだよね。同じ国の軍にいる中では弓臤はサクよりも婦好軍の事も自国の戦のあり方も知っているわけだし・・・・・・
「せやから、平手で将棋打っても意味あらへんよってな。将棋の名人が敗れる時は、新しい攻め方。タクティクスが産れるもんや。このサクと弓臤の戦争ごっこは、実は歴史が変わる瞬間でもあるんやな・・・・・・そんで、何処の世界にもおる台風の目。この作品やと婦好やな、逆に言えば婦好程の猛将が死ぬ時も時代が変わる。あるいは動くんや。婦好戦記、一体何処まで画かれるんか知らへんけど、婦好は殷の大帝国が咲き誇る時代に確かに生きとった。一二三少年の話を聞くだけども、ワシは『婦好戦記』っちゅー作品にワクワクするわ。本を取り戻したら、ワシも読んで見たい」
僕は、聞きたくなってしまった。婦好は実在した人物だ。彼女はいずれ年を取り、時代から退場する事になる。だけど、彼女がどう生きて、どう死んだのか・・・・・・アヌさんやバストさんなら・・・・・・もしや・・・・・・
「婦好はどうなるんですか?」
アヌさんとバストさんは困ったような顔をする。そりゃそうだろう。いきなり何をと・・・・・・
「そら、この作品はどうなるか知らん。せやけど、サク。この女の子は多分、婦好の分身や」
「えっ?」
一体何を言ってるんだ? いよいよ僕の理解が追いつかなくなってきた。
「婦好さんは、殷の大帝国の大半の軍を率いていながら、政治家でもあり、巫女、神官、そして占いのような事もしていたんすよ。婦好戦記ではその部分をサクさんが担っているので、多分そうだろうと自分とアヌさんは予想してるっす。そして、婦好さんの最期は多分、戦死っす。はっきりと文献に残ってるわけじゃねーんすけど、婦好さんはその扱いが、当時でも異常なレベルだったんすよね。墓も埋葬方法も、さらにいえば、その時期に戦死した女性の情報もあるんすよ。それが婦好さんだったか、というと確実にそうだとはもちろん言えねぇっすけど、その女性の死が後世に残る程の衝撃だったわけっすよね。自ずと、可能性は高くなるっすね」
婦好が、戦死? そんな、信じられない。僕がそんな目で二人を見ているとアヌさんは空になった瓶を戻してから少年のように笑う。
「えぇで、えぇで! その顔。これが歴史系小説のおもろいところやな。事実かは分らんけど、史実っちゅーヒントを読者は持って読める。でも正直、小説や。落としどころは作者が決める。ただし、読者はある程度、どうなるか予測して読んでまうわな。それをどうするんか、作者の腕の見せ所や。それにしてもサクが可愛えなって思うところは、自分の戦略で勝たな意味ない! って思うところやな。ワシなら、婦好とレイのごり押しで二戦目も取って弓臤の鼻っ柱おってまうわ」
カッカッカと笑う。アヌさん。それに僕は反論してみた。
「でもそれじゃあ、サクが言うみたいに、サクの力じゃないって認めてくれないんじゃ」
「あんな? 一二三少年。それはサクやったら言うかもしれへんけど、弓臤は絶対に言わへん。戦争でどんな方法で勝ったかなんて関係ないねん。勝った方が正義や、そういう意味では、ここで盤面のゲームをしてるんは、サクだけっちゅー事やな。当時の戦のあり方としては、将軍自ら戦陣を切る事だって珍しくはないやろ、なんせ婦好はリアルに10キロ相当の武器を振り回してた化物や、そして一番戦場を知っとる」
分ってしまった。僕はアヌさんが言いたいことの全て、婦好は全てを知った上でサクに話しているのだろう。実践演習とはいえ、死者は出ない。されど、サクはこれが本当の戦場であったならという仮定の話を多くする。
経験であると、けが人は出ても死ぬ事のないこの演習を作った時点でサクのひとまずの仕事は完了しているんだ。戦場は、肩を並べた盟友や親類、そして共に上位の職を争ったライバル達が次ぎの日には骸と化している事なんて日常茶飯事。
そういう意味では、演習訓練で死ぬという事は、それこそ無駄死にもいいところだったんだろう。サクは、そういう意味では婦好軍と弓臤軍の多くの兵を救ったのだ。
「殺す事は簡単だけど、救う事はこの時代、難しいんだ」
バストさんはちびちびフルーツ牛乳を飲みながら、僕を見て目を細める。そして、アヌさんは指をパチンとならした。
「よう気づいたな。この時代、栄養失調、病気、ありとあらゆるものから人間の横には死神がおるんか! ってくらい人が死んでたやろな。それの一つをサクは、無くして見せた。一つ、時代が進んだんやな?」
弓臤はそこに気づかなかったかもしれないが、婦好はそれに気づいている可能性が考えられる。
”これも経験だ”
”次は勝利をてにいれようぞ”
婦好が口にしたサクを激励するような台詞。明日死ぬかもしれないそんな世界でこんな言葉が出るという事は・・・・・・
「この時、時代が動いてるんだ」
「よっしゃ及第点や! もう一本フルーツ牛乳飲んだら人形街行くでぇ!」
特別編・書籍版『婦好戦記~最強の女将軍と最弱の巫女軍師~ 作・佳穂一二三 画・マキムラシュンスケ』読んどるか? 後書きにアヌ兄さん登場や! 実はな。ワシ、中華民族関係の論文出した事あんねん。歴史とはまたちゃうねんけどな? それで中国行く事もあったし、婦好墓も見に行った事あんねん。正直あれやで、閑散具合が兵共の夢のあとやな。その近くにある文字博物館は中々おもろかったで、今やったらサクを想いながら見れるかもな。コロナおさまってからやけどな。今度ばっすんと旅行行くんもええな。一二三少年、一二三姉さんにはバレたみたいやけど、ワシ等版秋文君やな。




