僕が出会った大人の男性は、作品を楽しんで読める大人だった。
4月です! かなり『ふしぎのくに』が大変な事になっていますが、まぁそれはそれですねぇ^^
この前、私一人で何作品読んだのかを聞かれ、かぶりもありましたが、古書店『ふしぎのくに』全員では2万作品近い数の作品をショートショート~長編まで読んできたわけで、驚きですね!
まだまだ読みますよぅ! そして今回は・・・・・・記憶がないですねぇ
「完全に道に迷いました……これも旅の風情でしょうか?」
個人旅行で北京に訪れていた女性は、現地の人に教わったとある魚釣り場を観光しようと思って迷子になった。それも旅の風情と、時間はお昼過ぎ、来た道をとりあえず戻ろうとした時、川の独特な香りがする方へと向かった。
「あら」
そこにはいい歳の取り方をした老人が釣りをしている。その女性は物おじせずに、老人の隣に腰掛けると挨拶をする。
「えっと……にーはお、らおたぅ。だったかな?」
「そんなかしこまらなくてもいい」
「日本語お上手」
「日本語だけじゃない、英語もフランス語も、なんならインカ帝国、バビロンの言葉だって、昔は少し寝たら覚えれたものだ」
女性は、ややこしいジジイに話しかけてしまったなと思ったが、釣り針を上げたこの老人を見てテンションが上がる。直針。そう、彼女は太公望が釣りをしたという場所を転々と観光していたのだ。そこで太公望の逸話の真似事をするジジイ。悪くない迷子だなと思う。
「その針で何が釣れますか?」
太公望はこういうのだ。大物が連れたと……後の周王との出会いのワンシーン。きっとこの爺さんは観光客を楽しませる。そんな事をしてくれるのでは……期待を込めて待つと爺さんは語った。
「何にも、昔は自分が迷子だったが、今は迷子ばかりがここに来る。さしずめ迷子は釣れるのか……ハァ」
「そこは、大物が釣れた。じゃないんですか?」
「釣れるものか、大物などな……物語でもあるまいし、どうだお嬢さん? この老害のつまらない話を聞いていくかい? お嬢さんの前に老害に出会った子供の話だ」
ふむ、このジジイ。中々に人に期待をさせてくれる。100元くらいは払ってやる価値はあるかとこの老人の話に耳を傾けた。
「喰うかい?」
差し出される桃包。老人とは何処の国に行っても食べ物をくれるのは不思議だった。それに頭を下げて女性は一つ頂く事いする。
「頂きます」
「さて、どうだったかな……」
老人は再び釣れない釣り針を川に投げて語りだした。
★
わた……僕は森の中を走っていた。いや、逃げていたのかもしれない。何から? どうして? なんで? 誰かにこの腕の中にある本を渡さなければならないという使命感だけを持って走った。そして転んだ。
「腕の中の本を渡してください」
「嫌です」
「では、力ずくで」
ぎゅっと本を守ろうとしたけど、持ちあげられ、凄い力で振り下ろされた。本を守り切る事叶わず。僕は地面に打ち付けた背中の痛みに耐えられず襲撃者の顔もろくに見る事もなく。それでも叫んだ。
「かえせぇ!」
「確かに、狙いの本を頂戴いたしました」
襲撃者は消え、そこに残されたていたのは変わりにキャンディー。僕はそれを叩きつけようとしたけど、それを集めて警察? 誰かに助けを求めようと街を探したのだ。
森を抜けると丁度馬車を見つけたので手を上げて僕は乗車する。
「ここから一番近い街、できれば大きな警察署があるところにお願いします」
「警察……駐在さんね? ううん、警察より、探偵の方がいいかもしれないね」
「なんでもいいんで優秀な人がいるところにお願いします」
「じゃあ明智さんかな」
そんな名前を聞いた後、安心したのか僕は馬車の揺れに眠気を誘われ運転手に起こされて気が付いた。そこは探偵事務所ではなく古書店。
「ここだよ」
「ありがとうございます」
「ちょっと、アンタ。お金」
「あっ、はい!」
財布がない。お金がないと分かるや否や、馬車の運転手は烈火のごとく怒り散らす。その喧噪を聞いて古書店の店員らしき男がやってきた。
「なんの騒ぎっすか?」
長身で少し眠たそうなイケメンが登場。それに馬車の運転手は事情を説明すると、古書店の店員は頭をかいてから、財布を取り出した。
「いくらっすか? 自分が立替とくっすよ」
「二十円と三十五銭!」
「ぼるっすねぇ……」
お札のお金と硬貨を差し出して馬車の運転手を帰らせると、イケメンの男性は僕の視線に合わせて優しく挨拶をする。
「大変だったっすね? とりあえず中へどうぞ」
このイケメン、顔だけじゃなくて心もイケメンだった。僕は言われるがままに店内に入る。古書のいい香りがするそこに一瞬気が持っていかれそうになったけど、僕は聞く。
「あなたが明智さんですか?」
「違うっす。古書店『おべりすく』の店員バストっす」
店員というわりには、軍服のような服を着ているバストさん。それに僕はさらに尋ねた。
「じゃあ、明智さんという探偵の方は?」
「明智さんは、借金に追われて随分前に夜逃げしたっすね」
絶望。完全にここ古書店じゃんというそんな気持ちと馬車の運転手に軽い殺意を覚えた僕の思考をぶっ飛ばしたのは店内の奥から出てきた着崩した着物を着た男性。寝ぐせなのか髪が動物の耳みたいにピンと刎ねている。
「かぁ……おいばっすん! 飯や! ソバ喰いにいこうや! なんやそのガキ? いや……客か?」
「そうっすよ!」
バストさんがそう言うや否や、着物の男性は笑って出迎えた。
「なんやなんや? 手塚治虫の古本でも買いにきたんか? それともなんや徳田とかか? まぁ、あんまりこの店。子供が読むような本あらへんで?」
僕はこの二人の前で何故か涙が出て、声を出して泣いた。
「えっ? わし、なんか泣かすような事言った?」
「しらねーっすよ」
僕は泣き止むと、本を奪われた事を着物の男性に話した。その話を聞くと着物の男性は僕を見つめてからこう言った。
「その本、タイトルなんや?」
「えっとタイトルは、『婦好戦記 著・佳穂一二三 画・マキムラシュンスケ ヒストリアノベルズ』だったかな」
それを聞いて、バストはお店のファイルを開いて調べる。そして着物の男性にこう言った。
「アヌさん、これじゃないっすか?」
「宙出版系列か、あそこコンビニ本よう出してるとこやな・・・・・・この辛気くさい古書店にあるわけはないか、まぁええわ。少年」
「一二三です」
「さよか、じゃあ一二三少年。作者と名前がかぶっとるくらいや、内容聞いたるさかい、気分が乗ったら本取り返すの手伝ったるわ」
僕は覚えていた内容を語る。実際の本が手元にないものだから、それがしっかりと伝わっているかは分からないのだけれど。
「文字を覚える事が罪ねぇ・・・・・・まぁ確かに、日本を含む、いくつかの国でも文字を使わずに口伝のみで後世に伝える文化はあるもんな」
「アイヌとかっすね。それに中国は基本代が変わると文化を殺す事がよく見られますし、あまり学を持った者を持ちたくないというのは考えとしてはあるんじゃねーすかね。ポル・ポトの虐殺なんて良い例っすよ」
僕は少し思い出した事がある。僕が持っていた本の叩き台のような作品がどこかで読む事ができた事。その叩き台は唐突に物語りが始まるのだが、あの本はそこに至るまでの部分がやや説明的に足されている。多分、誰かの意見が反映されているんじゃないかと・・・・・・
「で、そのサクっちゅー娘をえらい別嬪なあの婦好と出会うわけか、アレやな。一見歴史小説やけど、ファンタジーやな。架空戦記とまでは言わんけど」
アヌさんが目をつぶって何か考える。それをバストさんが感じ取ってから僕にゆっくりと話し出した。
「少しだけ、自分達が思うところがあるんすよ。とても、興味深いお話っすね。ただ、一二三さんの口からお話を聞いているからかもしれねーんすけど、どうにも文章が硬いと感じるっす。そのお話はもう少し、丸みを帯びた女性らしい文体の方がしっくりくるっすね・・・・・・しっかり纏まってますし、悪くはないんすよ? 校閲か編集の方も少し緊張したのか硬いのかもしれねーっすね」
そうか、これは別物だからなんだ。あの叩き台と僕が持っていた本はいわば世界線が違うものなんだけど、これを説明するのは随分骨が折れそうだ。
「まぁええやん! しかしばっすん。その婦好っちゅー姐さん、たいそう美人なんはええねんけど、なんかワシやばっすんとは相性悪そうやの!」
がっはっはと笑うアヌさん。子供みたいに笑うアヌさんは正直可愛い。なんというか、古書店で働くだけあって物語が好きなんだろうな。そんな僕にバストさんは甘い餅菓子を用意してくれる。
「あとでヤツ時の共にしようと思ってたんすけど、よければ口汚しに」
「・・・・・・いんですか?」
腹ぺこだった。いますぐに食べたいと思ったけど、ここまでしてもらう義理はない。婦好に魅入られたサクのような気分でいた僕にまたしても大笑い。
「ガキが遠慮なんかすなやぁ! 喰え喰えぇ!」
アヌさんがカッカッカと笑う。それにうんうんと頷いてくれるバストさん。世の中捨てたものじゃない。
「婦好姐さん、女色の毛があるんか、まぁ英雄色を好む言うしな。少年性癖の武将がおれば、少女性癖の女将軍がおってもおかしないか・・・・・・しかし、歴史上にはたまーに化物みたいに強かったと言われる女武将が出てきよるよな」
僕もそれに関しては思うところがある。当然伝説的な、口伝され人から人へ伝わった際に脚色された事も大いにあるだろう。だけど・・・・・・
「事実はどうあれ、その人物が凄かった、あるいはカリスマ、人気があったという事だけは間違いないんすよね」
そういう事なのだと僕も思う。時代の違いはあったとしても、人々を魅了するものは変わらないハズだ。婦好という王妃は紛れもなく、最強の人気を当時誇っていたに違いない。
何故そんな事がいえる? それは僕の中の遺伝子がそう叫んでいるからとしか言い様がないのだけれど・・・・・・
「単純に頭良かったんでしょうね。当時の戦なんて、基本戦略がないっすから、ごり押しじゃないっすか? そこで策を講じて・・・・・・サクさんの策ってひょっとすると、そこまで軍略も実際はなかった時代っすから、策という文字もかけてるのかもしれねーっすね」
僕はそれは違うと直感で思った。だけど、バストさんが言おうとしている意味をしっかり聞いておきたいとも同時に思ったのだ。
「バストさん、それってどういう意味ですか?」
「え? あぁ・・・・・・ただのシャレっすよ。サクと策。そして策という文字は、手紙や文書。偉い人に渡す物の事だったんすよ。懐刀って言葉があるんすけど、その文書版がサクさんなんすかね? ってな感じっす」
僕はこの無邪気という言葉を体現したアヌさんとバストさんと話をしていると肌が粟立つような気がしてならなかった。
あれこれと考えを語っては楽しそうにする。これはきっと読書の楽しみ方の一つなのだろう。だけど、何か少しだけ違和感を感じる。
「よっしゃあ! 掴みはまぁええな! 腹も減った事やし、一二三少年。ソバ食いにいこーや! それともうどんの方がええか?」
そう言って麺をすするフリをするアヌ。正直、どっちも好きだしどちらでもいいと伝えると、アヌさんは僕に抱きついた。
「きゃああ! 何するんですか!」
「なんやなんや! 一二三少年。乙女みたいな声さらしよって! 飯くったら、みんなで銭湯いってひとっ風呂浴びるでぇ! その後、その『婦好戦記』っちゅー本盗った奴さがしにいこかー!」
うん、これはまずい。
いや、あの本を探してくれるというのは最高の状況なんだけど・・・・・・食事の後の銭湯はまずい。うん、本気でまずいな。
まぁ・・・・・・でもなんとかなるか。おそば食べたいし、僕は帽子をかぶるアヌさんとバストさんの後ろをついて行く。
こんにちわっす。Web小説を紹介するセシャトさんに変わって、古書店『おべりすく』の末弟。バストが4月は後書きを担当するっす。今回は、書籍化版『婦好戦記』となるっす。実はWeb小説版も自分が執筆させてもらったんすよね。今回は内容というよりは、お祝いっすかね? 的な少し趣向をこらした紹介をしていくっすよ! 本当は自分と、アヌさんと一二三少年の表紙があったんすけど、色々あってお蔵入りになってるっす。そして今回の主人公は一二三少年とアヌさん。
自分は脇役っすね! ただ、自分で自分を画くのは不思議っすね!
一つここで弁解をしておくっすね。古書店『ふしぎのくに』で紹介されたから書籍化したわけじゃなくて、書籍化する可能性のある作品を古書店『ふしぎのくに』がピックアップして紹介していたのが2018年っす。さて、今回はその第一回っすね! 自分が担当できた事、そしてセシャトさんの大好きな佳穂一二三さんの作品という事で、古書店『おべりすく』は休みも報酬も返上で頑張るので、一ヶ月間、自分で我慢してくださいっす!




