『3分後、その世界はノイズに消える 箸・n00ne』
少し、風邪を引いてしまいましたよぅ! ダンタリアンさんがお豆腐の入ったチーズフォンデュを作ってくださいました。あれは、とても身体がぽかぽかと温まり、おいしかったですねぇ!
同じフォンデュなら、私はチョコレートフォンデュの方がすきなんですけどね!
「いやぁ、パイセン手伝ってもらってあざっす」
大友が頭を下げてそう言うので、執事の服を着た。切れ長の目をした男はチッとしたうちする。
「てめぇ大友。これ終わったらラーメン奢りだからな」
「はいはい、ほらパイセン。お嬢様沢山来てますから」
さすがに毎回知り合いを呼び過ぎた。大友の顔を見るや否や逃げていく学友達。しかたがないので、大友は声優志望で大友が本来メインで働いているイメージ喫茶の先輩を引っ張ってきたのだ。
「ここでの接客もまた声優になる為の修行だと思って!」
そう言って大友はパイセンと呼ぶ男性の尻を触る。店内の女性客がそれに黄色声を上げる。
「大友、このガキてめぇ!」
「ほら行った行った。今日は俺がキッチンなんで」
パイセンはしかたがく、女性客達のオーダーを取りながら、やや年齢に対して少し高めとも思える声で囁くように朗読をはじめた。
「この世界が3分で終わってしまうのだ」
『3分後、その世界はノイズに消える 箸・n00ne』
今回の店内の課題図書として、このパイセンが選んだ作品。読み聞かせがしやすいという理由に大友は少し驚いた。この先輩はWeb小説なんて殆ど知らないのだが直感的に彼がそういうのだから、今回は声に出して読みやすいという作品を選ぶ。なんせトトも汐緒もWeb小説に詳しい人が店に出ていないので、大友には何も分からない。
その作品は、ある世界が終わる物語を坦々と語られるものだった。
「成程なぁ……この中でMMOとかプレイしているお客様はいらっしゃいますか?」
パイセンは、大友相手にはガラが悪いが、客商売をメインで行っているだけあって、接客はそれなりに丁寧だった。
何人か手を上げる女性客達に聞いてまわる。
「そちらのお嬢さんは?」
「teraをプレイしてました」
「あぁ、あれは最初課金メインだったくせに全然ログインできなくて大変でしたね」
「では、そちらは?」
テキパキと飲み物や食べ物を配膳しながら、パイセンは手を上げていた女性客達に話しかける。
「ではそちら」
「幻想神域です」
「あぁ! あれね。最初の相棒に騙されて俺も少しプレイしてたよ」
このトトが経営する古書店『ブックカフェ』の仕事の仕方として、女性客が楽しめればなんでもありという信じられない掟がある。それ故、このパイセンの仕事の仕方も間違ってはいないのだが……大友がインカムを入れる。
「パイセン。作品の朗読、朗読の続き」
「うるせぇ大友死ね!」
この大友にだけ見せるオラオラ系な態度が女性客の心を何故か掴む。そして大友の狙い通りなのだ。声優志望というだけあって、なかなか独特な声をしているパイセン。聞けば聞く程に癖になるその声でパイセンは話を続ける。
「現実の世界と思わしておいて、実際はゲームの世界でしたってか? それともこれは……ゲームの世界のNPCの発言か……どっちだろうね! お嬢様方。でもさ、一応魔王的な存在がいて、それをクリアした後のレイドボスまででてきたんだろ? MMOの終わりとしてはまぁ大分マシな終わり方じゃないか、そうは思わない?」
パイセンは、元ネトゲ廃人であった。リアルの友達との関係も家族との関係も全て断って毎日のように廃人ギルドの幹部として体感的には毎日二十八時間くらいゲームに没頭していた。だからこそ、ネトゲが終わる瞬間も沢山経験してきたのだ。
「だいたいネトゲが終わる時はふたパターンなんだよな」
ネットゲームに明るい女性客達はうんうんと頷く。大友はインカムで話を聞くだけにとどまりお茶やコーヒー、そしてフードメニューを作っていく。
「この作品。確かに少し変だな」
大友はフライパンを器用に動かしながら、ミルクパンの火加減を見る。基本フードメニューはトトか汐緒が作っていたので、感慨深くも感じていた。
「俺もやればできるんだな……ノイズか……」
本作のノイズ、3分後に世界はノイズに消えると題打ってあるのだが、パイセンが先に言った。
「ゲームが終了するときは過疎っていて、ぽつぽつと集まった知らない連中と終わりを語るか、ギルドメンバー全員で思い出話をして散り散りになるか……でもよく考えるとカウントダウンでノイズが走るなんてないよな」
ネトゲに限らずゲームのサービスが終了する瞬間は、本当に一瞬の出来事だ。そのノイズが走る。はてそれは何か……
「最期の方に二進法で文字が打ってあるんだよな……これって可能性があるとすれば、世界が終わった瞬間なわけなのかな」
パイセンの言葉に大友。そして女性客達が疑問符を頭に浮かべる。一人で勝手に解釈をしてしまったなとパイセンは笑った。
「いやぁ、お客様。なんでもないでーす!」
そう言ってパイセンは語る。
「そうそう、この作者結構いろんなゲームやってきたのかな? 大体こんな感じのテンプレートじみたあいさつ文をホームページに張り出してさようなら、なんだよね」
明らかに含みのある話に方向転換するパイセン。本作の作品において、一般的な世界が終わる、いやこれはゲームの世界の話だったんだ。そしてよくあるオンラインゲームの最期のあおりという様式美を飾る。
それだけでもおおっと驚かされる読者はいるだろう。本当にそれだけなんだろうか? 大友も他女性客もそう感じるが、パイセンは思い出したかのように笑う。
「そうそう、この二進法を翻訳すると、ほら! メッセージになるね! プレイヤーなのかな? その人物が一緒にプレイした人へのメッセージが何処かのサイトに掲載されてるなんて、余程面白くて素敵なゲームだったに違いない」
パイセンが喋れば喋るだけ、なんだか触れてはいけない気がそこにいる人々は感じている。そのなんとも言えない雰囲気の中で一人、また一人とお客が退店して行き、閉店時刻ともなれば店内は閑古鳥が鳴いている。
そこで大友はパイセンに問いただしてみる事にした。
「ぱいせん、なんかおかしかったですよ? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。多分、俺の勘違いだろうから」
それにしてはパイセンの顔色が悪い。
「どうしたんですか? もうお客さんもいないし、俺が話聞きますよ?」
普段ならこんな大友にたいして文句の一つでもいうところなのだが、どっと疲れた顔をしているので、大友はホットココアをパイセンの為に淹れる。
「砂糖はお好みでどうぞ」
「あぁ、悪いな」
さて、どんな面白い話を聞けるのかと大友は思っていると、席にそなえつけのタブレットで本作の『3分後、その世界はノイズに消える 箸・n00ne』本作の二進法で書かれている部分を指さした。
「あぁ、ここですか? これって作者さんが、デコードするサイトで開けば日本語になるって奴じゃないんですか?」
なんという事はない、そこにはゲームが楽しかったねと取れるようなメッセージが残っているだけだ。
「大友。これは俺の思い過ごしかもしれないが、かなり不気味に取れる事が三つある。俺はそれに気づいて逃げ出したくなった」
この先輩をしてこう言わしめるというのはどういう事か……?
「まず、そもそもこれがゲーム世界だとして、言語の変換ができなくなる二進法になるまでクライアントは動いてない。そこまでは演出だとしよう。ただこれが、他サイトにも掲載されているという事。どういう事か分かるか?」
大友はこのパイセンは何を言い出したのかと首を横に振る。
「もし、この二進法のままサイトに投稿しているとすれば、これは何らかの怨恨のようなメッセージかもしれない」
まさか……そんな事はないだろうと大友は静かに聞き手に回る。普段このパイセンは大友を罵るばかりだが、皆を手伝ってくれるよき先輩でもあるのだ。そんな彼がここまでビビっている事に大友はかなり興味がそそられる。
「どういう事ですか?」
「中途半端に日本語と二進法に変換されてるだろ? 半分の部分だけ、前の部分がないという事は、最初の文字を仏教用語で考えると、苦行や苦しみがない……という事になるんだけどな。その前の部分がない事で否定の意味になる。すなわち苦行、苦しみだな」
まさかそんな意味がと大友は調べてみると確かにそう解釈できるらしい。そしてパイセンは続けた。大友の背筋を少しだけ凍り付かせる言葉を……
「過去系なんだよ。という事は、そういう事だろう?」
嗚呼、聞かなければよかったと大友は思った。誰かの名もなき誰かの叫びに聞こえる。いや、これは多分パイセンの解釈の問題であり、本来は作者外の考えという奴に他ならないが、万が一そんなメッセージを残しているのであれば、これは恐ろしく何かを感じさせてくれる作りなのだ。
「いやぁ多分違うと思いますよ?」
「俺もそう思いたいよ。そう考えるとさ、最後の運営のメッセージまで怖いものに感じてきたよ。もう帰るわ、あとよろしく」
「あっ、お疲れ様っす!」
大友は店の外まで送ると、その日を境に先輩は姿を見せなくなる。何事かと大友はパイセンの家に乗り込んだ時……
「パイセン!」
インフルエンザに苦しむパイセンの姿を見て大友は可愛い呪いだなとおかゆづくりをはじめた。
『3分後、その世界はノイズに消える 箸・n00ne』
今回、おすすめする作品は、最後に不思議を残してくれる物語ですよぅ! そもそもがあっと驚く展開なのですが、最後の二進法が今回の大友さん達のように深読みしてしまうような少し不気味さを感じさせてくれます。なんでもないただのメッセージかもしれませんし・・・・・・もしかすると、皆さんはどんな風に読みますか?




