『一人旅 箸・むらもんた』
皆さんいかがお過ごしでしょうか? 二月は逃げるというようにもう半分終わりましたね? 1日が24時間というのがどうにも足りませんよぅ……毎日ミーティングが多くてですねぇ。積みweb小説が30作品を越えたあたりで数えるのを辞めました。そんな私は元気です!
「ぬぉおおお! お小遣いが足りぬ。たい焼き一つ買えぬわぁ」
ショッピングモール内のたい焼き屋の前でわめく金髪のちんちくりん。
周囲の目を集める彼? あるいは彼女?
そう、我らが神様。毎日千円のお小遣いをもらっているのに今日はカフェでケーキセット980円を食べた結果。
お小遣いが殆どない。二十円を握りしめて立ち尽くす神様に声をかける少女。もとい女子高の制服を着た少年。
「おぉ! 大友ではないか!」
「何してんの? みんな見てるぞ。恥ずかしい」
「貴様の恰好にだけは言われとーないの!」
今日はバイトがないので大友は一人ウィンドウショッピング。そんな中たい焼き屋の前をうろうろする神様を見つけて今に至る。
クロワッサンたい焼きを神様に奢るとベンチに座りながらタピオカドリンクで喉を潤す大友。
「どうせだから神様なんか作品の話してくれよ」
神様はさくさくとクロワッサンたい焼きを食べながら大友を見つめる。
「貴様、本当はJKリフレのバイト中ではあるまいな?」
「ちげーよ! 俺は男だよ男!」
「まぁよい。貴様家族は?」
「母ちゃんは昔死んだ。今はおやじと、姉が二人に妹が二人だ」
「ほぉ、結構な大家族だのぉ! そんな貴様に丁度良い物語は、そうだのぉ! 『一人旅 箸・むらもんた』なんてどうかの?」
スマホを出して作品を調べようとする大友の前に神様は手帳サイズの本をポンと取り出して見せた。
「ほんと神様。その手品どうやって出してんの?」
「手品ではなくてだなぁ! まぁよいわ。読んでみるといい。まぁあれだな。終活というものの回顧録のような、なんとも考えさせられる作品になっておる」
主人公は奥さんを亡くした年配の男性が、その生涯を終えるところから始まる。
恐らくは走馬灯のようなものをイメージして展開される。
主人公の男性の語りがなんとも切ない。
「まぁさ、俺とか神様とかってまだまだ人生はじまったばかりじゃんか? だから、実際に生死なんて軽々しくは語れないけどさ、これって命のバトンなんだろうな」
大友は少ししみじみした表情でそう言うので神様は買ってもらったクロワッサンたい焼きを頭から丸のみするように口を大きくあけてむしゃむしゃと食べる。
「いや、私は結構長い年月を生きておるんだがの」
ゆうに千年以上は生きているハズの神様。大友はそのあたりの事を全く信用してくれない。神様のほっぺについている餡子をペロりとなめとった。
「餡子ついてるぞ」
「貴様場合によっては犯罪だからの」
餡子をぺろりと舐めながら大友は静かに言う。
「この作品さ。Web小説でやる事か? ちょっと俺には分からないんだけど……なんていうかさ重いというか」
神様は大友に買ってもらったたい焼きの中からカスタードクリーム味の薄皮たい焼きを出すとそれを次は尻尾から齧る。
「大友貴様、心が騒いでおるのだろ? このむらもんたという作者はどちらかと言えば一般文芸向きの作者だしの。むしろ、よう短編でこんな作品を上げよった」
神様は実にうまそうに薄皮たい焼きを食べるものだから、大友は目の前のたい焼き屋に自分の分も買って戻ってくる。
「この作品の何が痛いかってさ……老人がボケるのって、だいたい怪我や病気でしばらく寝たきりになってからなんだよな……こういうリアルなのキツいわ」
何か経験があるように大友はそう言う。それにたい焼きを食べる手が止まるので神様は大友の頭を撫でてから目を瞑って語る。
「おセンチになっておるの、貴様も何か思うところがあるのだろう? web小説にはこういう心の騒がせ方もあるという事だの」
「神様、人の死ってなんだか分かるか?」
大友は作品との同化をはじめいた。しかし、これはダウナーな同化。あまり良い傾向とは思えない事を神様は知っている。
「さぁの。死の概念なんぞ決まって一つだ。土になるか、星になるか、風にさらされるように消えていくか」
「よく分かってんぢゃんか神様。昔さ、近所に何かとすぐ怒る駄菓子屋のババァがいたんだよな。まぁ万引きが多かったという事もあって、そのババアは子供を信用できなかったんだろうな? 何にもしてねぇのに俺も運悪く怒鳴り散らされた事があったんだよな。でも一度だけそのババァが俺に優しくしてくれた事があった。母ちゃんが死んだ時だ。ここは小さい街だからすぐに俺の母ちゃんが死んだことも耳に入ったんだろう」
大友は語った。失意の大友に出会った駄菓子の老婆は大友に大きな飴玉を見た事もない優しい顔でくれたのだと言う。それからある程度自由に使えるお金が出来た大友はちょくちょく駄菓子屋に顔を出していたのだが……
「ある時、昨日も会ったハズの俺を駄菓子屋のババアは初めての客として迎えてきたんだ。元々足の悪いババアだったから、駄菓子屋の店番だけで事足りてたんだろうな。俺はその時に知っちまった。人間は壊れた時が、本当の死なんだってな」
それを神様は全否定した。
「鼻で笑ってしまうの。大友。貴様はもう少し面白い奴だと思っておったが、そうでもないらしい」
神様は袋から真っ白なたい焼きを取り出す。ついこの前までは流行っていたタピオカで作られたたい焼きの人気は爆発的だったがきがつけば薄皮に負け、クロワッサンやかりんとう皮に負け、そしてタピオカに至ってはミルクティーに逃亡した。
「……神様?」
「確かに、つがいの生き物は片方が死ぬと後を追うように段々と弱っていく。オオカミなんかがいい例だの、だが人間という生き物は強く、想いを持つ者ではないかの? 貴様の母親の事、貴様は忘れてはおらんだろ?」
白いたい焼きを食べ終わると次はサクサクのかりんとう皮たい焼きを神様は取り出した。大友は自分はたい焼き一つでお腹が一杯になるのに、この小さい身体の何処に入るのだろうと思う。そして神様に言われた事を同時に考えて大友は頷いた。
「そうか、ババアは壊れた事で死んだんじゃないのか……俺が壊れてしまったババアを見て死んだという事にしてしまったのか……」
大友は気づいた。死ぬという事は実は本人は確認する術がないのだ。悪魔の証明という言葉があり、証明できないようになっている。
死の証明ができるのは死んだ人物以外の第三者にしかありえない。それはイコールとして、相手の死を決めれるのは第三者の生者なのだ。
「やっと分かったか、馬鹿者めが。この一人旅という作品タイトルがようやく最後の方で分かるわけなのだ」
大友もさすがにここまでくるとそれには頷けた。人は時の旅人であるという事。男性は奥さんと生きてきた長い時間。
「人生という旅を奥さんと二人で歩んできたんだ。そうだろう神様?」
一体このジンベイザメはプランクトン代わりにどれだけのたい焼きを喰らってしまうのか、若干大友も脅威に感じ始めている中で神様は語る。
「そう、この老人はつがいである妻を亡くし失意ではあったが、前を向き生きるという事を、妻が見れなかった明日を変わりにゆっくりと旅を続けておったんだな。時に、妻と共に在った場所を尋ね、妻が作ってくれた料理を作りとな」
不思議な事に本作はあまり悲壮感のようなものは伝わってこない。少し本作でも語られているが、男性は現世との折り合いつける為の”終活”しているようだった。昔を思い出し、それでいて今現在を生きる事を諦めずに、そして終わりが来た時はまた妻と共に次の旅の準備をと考えている。
「この爺さんの中では……妻は少し遠いところにいると言ってるんだよな?」
「さよう。当然死という概念で考えれば驚異的に遠いところになるのだが、ここは貴様の言葉を借りようかの?」
神様は紙袋に手を入れるが、そこにはもうたい焼きは入っていない。それに少し不満そうな顔こそしたが、神様はこう言った。
「年を取った人間の悟り方は、ある種神域に達しておる。大友、貴様がこれから先、生き急ぐように仕事をするかもしれん。それをこの老人は越えてきた場所におる。年の甲とは中々凄いものだの」
老人は最後に本当に必要な物を手元に残す。それは妻との思い出の数々だったんだろう。あれもこれもと欲張らずに必要最低限、老人とその妻とが思い出話に花を咲かせられるようなそれら。
「大友よ、これには少し足らんもんがあるぞ、分かるか?」
作品内のキャラクターの事なんて大友のあずかり知るところではない。それ故に首を横に振る。むしろ、神様は何を知っているというのか……
「なんだよ? 神様には何か分かるのか?」
「このクロワッサンたい焼き、いくらか知っておるかの?」
ちらりとメニュー表を見て大友は応える。
「230円?」
「そうだの。大体200円くらいかの。三途の川に行くいは六文銭を払わんといかんからな。せっかく持って行くこの荷物を没収されるかもしれん」
「あっ! そんなの分かるわけねーだろ汚ったねーな!」
神様をもみくちゃにする大友。そんな状況を少しくすぐったそうに楽しみながら神様は言う。
「この作品から感じ取れる事は家族を大事にするとか、思い出してあげてくださいとう意味合いも強いのだが……私はこうも考えておるよ。しっかりと地に足をつけ生きた証がその人間の人生という道を太く広いものにするのだなと。死を恐れるよりも、いずれくるその日を楽しみに待ちわびるというのも悪くはないかもしれんな」
男性は最期に妻がいないとどうも調子が出ないと語る。
寂しいという気持ちを代弁した言葉なのかもしれないが、読者の大半はこうも感じるんじゃないだろうか?
嗚呼、良かったなと。老人の生きてきた道は、最終的には妻へと続くものなのだ。
死を恐れずに、待ちわびる。
中々、年齢層が低いweb小説の読者には分かりにくいこともあるかもしれないが、これは一人旅が終わり、また縁が交錯し、老人と妻の新しい旅路が始まると想像すれば、なんとも心救われる。彼と彼の妻にこう言いたい。
「良い旅を、とな!」
神様が凄いいい顔で決めたところで大友は言う。
「喰った分。俺のバイトする店で働けよ? 神様サイズの制服用意しておくからな……あっ! 逃げやがった。待て神様!」
『一人旅 箸・むらもんた』。是非とも、皆さんにご紹介したい作品でして本作を読み、いつも一緒にいるお家族や、御兄弟、お友達など。身近な方へ、御礼の言葉をかけてみるのも良いかもしれません。いつまでも永遠にいられるわけではありませんからね。なんでもない今日がその方との特別な日なんです。
あまり暗い話はしませんが、私ももう二度と会えなくなってしまった方がいます。私達は短いような長いような人生という一人旅を続けているんでしょうね! 亡くなった方にはさようなら、ではなくまた会いましょうとお別れしたいですね。




