『星鳴きの森 箸・料簡』
皆さん、いきなり暖かくなりましたが、また寒い日が来るので要注意ですよぅ! 気温差があるとウィルスさんが活発になりますから、規則正しい生活と栄養のある食べ物でこのシーズンを乗り切りましょうね!
「バストさんこっち向いてくださぁい!」
そう、本来トトが作り上げてきた。女性達の楽園。全ての女性を愛で、最高の接客を耽美秀麗な男の子を持って奉仕するその店が激変していた。
「おい、大友! パスタ上がったでぇ! 3番テーブルの嬢ちゃん等にやぁ! 熱い内に持って行きぃ!」
大きな中華鍋を振るって調理するアヌ。そしてテキパキと寡黙に料理を運ぶバスト。大友は二人にその感じに呑まれそうになりながら首を横に振る。
「アヌさん! ここブックカフェ! こんな感じじゃなくて」
「かまへんかまへん! ほれ、ケーキセットにアヌさんの愛情たっぷりフルーツティーも上がったでぇ!」
「なんか作品の朗読とかぁ!」
大友の必死の声かけに、ウェイターをしながら女の子の視線を集めるバストはインカムに手をあてて話し出す。
「では、お嬢様方。ここで短編を一つ。『星鳴きの森 箸・料簡』なんていかがっすか? とうとつに物語は始まるんすよ!」
暗闇の森、洞窟そんな中で男女は何処かに向かっている。そんな興味深いシチュエーション。そしてやや低めのエロボイスで語るバストの声に耳を犯されることを楽しむ。それにアヌが少し不機嫌になりながらインカムを入れた。
「この物語の冒頭部。主人公が神秘的な場所を見つけたわけやな? 短編故に冒頭でタイトルの回収を決めよったな? 掴みは十分や、一度読み始めて止めるっちゅー事は中々ないと思うけど、期待させる作り方ってのはこういうのなんやろな? 冒頭で起承転結を一発撃ちこんで、次の起や! ここで世界観が少し分かるな? どちらかといえばここにきてるお嬢ちゃん等に興味持つ作品なんちゃう?」
バストの低音ボイスに対してアヌのやや高めの声。いい感じで女性客の心をつかむ『おべりすく』の二人の接客力と人の心をつかむカリスマ性。恐るべきだなと大友は思う。先ほどまで賑やかな街の定食屋みたいになっていたのに……今や、ブックカフェ『おべりすく』として展開してしまっている。
「おい! これ、目が見えない女の子に星を見せるって物語なのか……なんだよこれ、さすがに期待せざるおえないだろ!」
大友が読者の、そしてこの店の女性客達の気持ちを代弁する。
そう、本作は何処かの異世界の地図にかろうじて載ってそうな小さな村を舞台とした誰かに口伝される事もないような、伝説にはなりえないような物語。
「じゃあここで、一旦作品読むのやめて、オヤツの時間にしよか? ばっすんアレ持ってきたか?」
バスト紅茶を淹れ終えると頷いてピンク色の箱を大量に持ってくる。それは有名なお土産。
「えぇ、お嬢さん。ここでワシ等から少しプレゼントや。なんと! あの新大阪名物『赤福』や!」
「アヌさん。赤福はお伊勢さんのお土産っす。シア姐さんブチキレるっすよ」
意外と知られていない事実。赤福は伊勢のお土産として有名であるが、関西方面に住んでいる人間の多くは新幹線に乗る新大阪駅でこれ見よがしに売られている赤福を見て大阪のお土産だと大阪人ですら思っている人が少なくない。京都人のアヌもそう勘違い。
「まぁ、別にどっちでもええねんけどな! クソうまいから食べてってやぁ! 茶は、ワシの地元。宇治の抹茶やぁ! 日本のお茶発祥のばしょやで!」
「アヌさん、またセシャトさんと喧嘩になりますよ!」
日本お茶の発祥の地は諸説ある。これを主張すると戦争になる故オススメできない。赤福に舌鼓を打っている女性客にアヌは話しはじめる。
「じゃあ嬢ちゃん達に質問してええか? 目見えへん女の子にどうやって星見せる? 誰か何か考えあったら手あげて答えてやぁ!」
まさかの客に絡むという大技。大友が注意しようとしたが、一人、二人と手を上げる女性客。
「かっかっか! めちゃめちゃノリ気やん! じゃあ、そこの別嬪の姉さん、どうぞ!」
「プラネタリウムみたいに説明をする……とか?」
「おぉ、ええやん! 成程なぁ! 視力より聴力の方が大事や! なんて言う人もおるくらいや。他はどないや? おっ、じゃあそっちのリボンがチャーミングな姐さんは?」
アヌの何か一つ褒めるところを見つける絡みに女性客達はテンションを上げる。目の見えない少女に立体の何かを触れさせて教えるなんて話をする。
正解かどうかなんて事はどうでもいいのである。アヌは作品に興味を持てば次に読み進めるのがとても楽しい。
「おいバッすん! フルーツの盛り合わせ出したってやぁ!」
カフェにおいて一番コストがかかる食材。果物。それをこれ見よがしに出すアヌに大友が注意しようとしたが、バストがウィンクをしてから小声で言う。
「大丈夫っすよ。アヌさんは商売の天才っす」
「じゃあ、後半戦いこか!おっとその前に、トトさんと汐緒のブロマイド、今回は大友のアホとバッすんに、ワシのまであるでぇ! 一枚五百円で販売してるんで興味があったら買ってやぁ! あとチェキや!」
思いのほかに売れるブロマイド。どう考えても風営法的にアウトなレベルの物まで売り出して、チェキの写真撮影が終わると一旦場の整理をしたところで、アヌは語り始めた。
「雨が降るのが分かる。これってめっちゃ特殊能力みたいやん? でも、田舎の人とかってわりと肌で感じるらしいんや。それと同じで視覚を失った嬢ちゃんは耳で雨を感じるんやな? 雨は心にえぇ音を出すとか言われとるから、もしかしたら無意識化に雨を受け入れとるんかもしれへん。そこで主人公は考えるんや。目の見えへん嬢ちゃんに星を見せる……いや、聞かせる方法やな、さっきの話の答え合わせやでぇ! 厳密には空の星を見せる事なんてできひんから、少年は自分が星のように美しいと思った水晶洞窟に嬢ちゃんを連れてくんや」
それは少し酷な事でもあるとアヌは優しい声で語る。少年は情景としてその美しさを目の当たりにしているのに、少女はそれが分からない。
「環境音やな。カチカチなってるっちゅー事は、多分。地盤が悪いんか、あるいは他にきしみや動きがあるんか、せやけど、水晶っちゅー結構硬度の高い鉱物が柱の役目になってるんやrな? そこが壊れる事もなく、不思議な環境音が聞こえるんや。それを聞いて嬢ちゃんは鉱物をインプットしたんかもしれへん。だって、綺麗やって言うんやもんな?」
そう、普通の音にしか聞こえないハズのそれを少女は何か感じ取ったんだろう。女性客達は静かにアヌの話を聞く。
そしてアヌはライムを絞ったコーラを一口飲むとバストにウィンクをした。
やや高いアヌの声から、女性客達の感度をくすぐるバストの低音ボイス。
「ある意味では少年は星の鳴き声を聞かせてるんすよ。この世界が地球なのかどうかは分からないっすけど。空に星があるという事は、なんらかの天体に彼らは生きてるんすよね? そしてその天体の生きている音……すなわち。星の鳴き声なんす。という事でお嬢様達にも星の音を聞いてもらいたいと思うっす」
バチン!
「えっ?」
「きゃあ!」
突然暗くなる店内。ベタにプラネタリウムでもはじめるのかと大友は思っていたけど、アヌはマッチを擦るとろうそくの火を灯し、各テーブルに持って行く。
「洞窟の音なんか? 鉱物の音なんかが星の音なら、氷山が崩れる時の音もまた星の鳴き声やわな? 少し作品と同じ気持ちになれるように、少し暗くさせてもろたで! 聴覚と味覚で楽しんでいってやぁ!」
大友が見惚れている間、バストは手際よく、大き目のグラスにロックアイスを大量に乗せた物を各女性客の手元へと運んでいく。
「おべりすく特性の水出し珈琲っすよ!」
アヌとバストが用意した物は水出し珈琲。中々溶けないロックアイスを使っての少しばかり贅沢仕様である。
パキン!
氷が割れる音が聞こえる。それもあちこちで、パシパシ、カチカチと氷が割れる音。本当にただそれだけの音なのにも関わらず蝋燭の火の前だと不思議と神秘的に感じる。
「ワシ等や、お客の嬢ちゃん等は、目が見えてるからな。本当に目の見えない作品の嬢ちゃんとは違う世界かもしれへん。でも綺麗な音って言うのが、どんなんか少しは分かったやろ?」
そしてゆっくりと電気をつけ、バストは蝋燭の火を回収していく。
今までのブックカフェ『ふしぎのくに』にはないイベントに女性客達は興奮いまだ冷めやらない。
「アヌさんとバスト兄さんってマジですげぇ人だったんだな」
大友が食器を回収しながらそう独り言を口にするのでアヌは笑いながら眉間に血管を浮かべる。
「おおともぉ~! ワレはまだそないな事いいよるんかぁ!」
「うおっ! やめろやめろぉ!」
アヌが大友の身体をくすぐる、それに悶える大友。当然女性客達は男の子同士のこの絡みにスマホのカメラを向けシャッターを切る。
「さて、男の大友とちちくりあってもなんもおもんないな! 話は戻るけど、作品の少年。星の鳴き声聞かせてもたから、嬢ちゃんにえらい注文されるよな?」
アヌの質問に女性客の一人が口にする。
「……盲目の少女に色を見せる?」
「せやぁ! ナイス参加やでぇ! でも色ってまさに視覚で楽しむもんやんな? どないして色を感じさせるのか? もう次は触感とかそんなんになってくるんかもな?」
アヌは目を瞑り楽しそうに語る。語り部でありながら、自分も作品を一緒に楽しむのが西の古書店『おべりすく』の楽しみ方。
そろそろ、お店も閉店の時間が近づいてくる。
そこでアヌは言う。
『星鳴きの森 箸』
この作品をまた一緒に楽しみたかったら、西の古書店に遊びにきてほしいと、さりげなく宣伝する。
「この神保町のクソうまいカレー屋くらい美味いカレー御馳走したるさかいな!」
アヌは決まったと思ったが、やはりいいところ、面白いお兄さん止まり。
女性客はやはり、イケメンのバストのところに集まっていくのだ。
「あー知ってた。ワシ、こういうオチなんもな」
声をかけてやれない大友だったが、感づかれ、アヌに再度こねくり回され熱い息をもらす事となった。
短編作品、第四弾。『星鳴きの森 箸・料簡』本作は実に綺麗な作品です。盲目の少女と視覚無くしては分からないと思われる世界との誤差をどれだけ少年は近づけようとするのか……綺麗なものがたりですが、どこか涙腺が緩みます。本作の作者さんの作品はどれもお芝居のようで、実に赴きがあります。




