『爆走・お伊勢参り選手権! 箸・中村尚裕』
2月は今まで皆さんからご希望のあった各作家さんの短編を紹介させていただく運びとなります。短編は実は紹介小説を行うにあたって非常に難しい部分があり、今まで先送りにさせて頂ていたのですが、ようやくそれをカバーできるような環境が出来上がりました^^ 当方初の短編紹介小説を今月はお楽しみくださいね!
「大友君、今日もヘルプありがとうかや!」
ブックカフェ『ふしぎのくに』の閉店作業中。店長代理の汐緒はグラスやカップを丁寧にふくヘルプのアルバイト。大友にお茶を一杯御馳走する旨を伝えていた。
「汐緒たんも大分店長っぽくなったよな」
「オーナーが全然かえってこないかや、嫌でも上手くなりんすよ」
「ふーん、じゃあさ。帰ったら姉とか妹に何か話でもしてやろうと思うからweb小説教えてくんない?」
そう言われ、汐緒は今月短編週間であるポスターを見て一つの作品を大友に話し始めた。
「快活愉快、あちきと同類。妖怪変化の物語でありんすよ『爆走・お伊勢参り選手権! 箸・中村尚裕』」
「何か聞いた事ある作者名だな」
「さすがは大友君でありんすな電脳猟兵とかの作者でありんすよ」
「あぁ、あれね。そっかぁ。俺SFあんま興味ないんだよな」
ちっちっちと汐緒は指を振る。これまた罰当たりな作品である。伊勢神宮とレースと和風人外を重ねた中々にぶっ飛んだ構想作品。SFというよりは案外スポーツ作品としての視野の方が広かったりする。
「インプか、まぁいい車だよな」
「おや、大友君は車に詳しいでありんす?」
「あぁ、免許は持ってないけどジムカーナをたまにしてるからさ、スバルはミッション車を無くすという信じられない暴挙にでたんだよな。軽自動車でもバケモンみたいないい車を作るメーカーだったんだけどさ」
「そうなんでありんす?」
「まぁ、腐っても4WD。普通に乗っても速いぜ。今の時代は三菱やマツダのマシンに一歩劣ると言わざるおえないけど、全盛期はランサーやギャランと対等したトップマシンだな」
メイド服なのに足を広げて座るのはさすがは男の子だなと思いながら汐緒は初積みの紅茶を差し出す。
「このカウンターってなにかや?」
「曲がる時とかに反動が生まれるだろ? それをあえて進行方向と逆にハンドル切って殺すんだよ。頭イカれてるやつは、車体に穴開けてウレタン流し込んだりするんだけどさ。しっかしこの作品。車運転してる奴からすれば凄い臨場感あるわな。それ故、多分一般ウケしないだろうな」
そう、大友からすれば分かり身が深い表現が多いが、正直そうでない人間からすれば何を読まされているのか分からない部分が多々ある。
それを知ってか知らずか、汐緒は可愛く微笑む。
「あちきは、あちきと同じ人外化生が普通に人間みたいにレースを必死でおこなっているこのギャップが楽しくてしかたがないでありんす」
「成程な。ある意味勿体ないよな?」
面白い事を大友は言う。和風ティスト部もレースの部分もそれぞれ独立して面白い。それ故に、これを合わせる事のオリジナリティの高さと、難易度の高さ。大きく読者を選ぶ作り。
「普通に考えてさ、妖怪とかって時速百キロとかそんな設定があるじゃん? あれって、霊体的な存在だから空気抵抗がないって事だろ?」
汐緒は千年以上生きた蜘蛛の大妖ではあるが、そんな事言われても知らない。大友の妖怪や霊に対するあまりにも科学的な考えに少し閉口する。
「人類が百年以上かけて築いてきたモータースポーツがさ、そんなのに負けるわけないんだよ。ダッシュババアだろうと、口裂け女だろうとさ、俺は絶対に負けない」
「今、大友君は全世界の人外を敵に回したでありんすよ!」
「結構だぜ。レースなら俺も相手をしてやるよ。この作品内でやたらギアを切り替えてるだろ? これは何をしてるかっていうと、本来のギアと違って使用する3速とトップ。もしかするとセコーも近いギア比にしてトルク……分かりやすく言うとパワーダウンを抑えるのと加速のパンチをきかせてんだよ」
汐緒が思っていた以上にこの作品を楽しむ大友に汐緒が一つ気になった事があった。もし大友ならどんな車でこのレースに出るのか?
「聞いていいでありんす? 大友君ならこの作品のキャラクターとレースをするのにどんな車を使うでありんす?」
「そうだなぁ、ラリーの王サマ。ランチアストラトス。日本最強のモンスターマシン。ギャランGTO。アメリカで不動の王者RX-8と色々あるけど、俺なら、軽トラックに3ロータリーエンジン積むかな。まず軽量化をする必要がない。そんで剛性はそんじょそこらのスポーツカーや4WDなんて目じゃない。フロントヘビーの安定性。タイヤが減る事もコースの距離を考えれば無視できる。んで400馬力を越えてるから、人外化生のチートとやるのに一番じゃないかな? ただし見た目はかっこ悪いけどな。勝つ事だけを意識すればこれを越える車は存在しないと言い切れる」
簡単に図説して大友は汐緒に説明する。さらに道についても補足をしていた。お伊勢さんへの道のりは少しばかり道路が狭いところが多い。その為、一般乗用車のサイズでフルスペックを出し切れないという大友の意見。
「技術でなんとでもなるのかもしれないけど、車体を小さくして間に合うならそこに神経張り巡らさなくていいだろ?」
効率厨、まさに今どきの子である事に汐緒は少しばかり閉口する。単純にインプレッサはカッコいい。ランサーかインプレッサかと言われる程にGTRに手が出ないドライバーの救世主でもあるのだ。それを大友も知らぬわけではないのだが、勝つことを考えた彼なりのロジックだったのだ。
「おっ! ランエボ出してきたな。この作者好きだなぁ」
「そうなんでありんすか?」
「この二台はライバル的に思われてる車種なんだけどさ。敵はお互いじゃないんだ。外国のレースを制する為に両者はスバルと三菱が育て上げてきた言わば異母兄弟なんだよ。で正当な評価だろうな。オチも悪くない。実際、そうなっちまうんだよな」
汐緒の説明を何一つ聞く事もなく、大友は一人で納得する。先ほど大友が軽自動車のフルチューンが最強の一手だと答えたが、それは本作の局所的環境で使い捨てをする事を考えた上での発言である。
実際のラリーであればインプレッサかランサーエボリューションの圧倒的な選択率。というか国産車の使用率は異常に高い。それだけに安心と安全と安定の車種であり、物語を作る上ではこの上なく正しい選択と言える。
大友の発言はいわば走り屋の一勝を確実に取る為の選択である。
「今はトヨタが純正車種でのレース開催してんだけどさ。あれはあれで奥が深いんだよな」
大友は紅茶のおかわりを汐緒にもらいながら、汐緒が作ったキャラメル味のロールケーキを上品に食べる。
美少女に見まごう二人、されど男の子と雄。なんだかんだで車や電車に関してはカッコいいと思ってしまう。
「今度、汐緒たん。ジムカーナの練習くる? 俺のクールなドライビングテクニックを見せてやるぜ」
汐緒は大友にそう言われてから上目遣いで少し甘えた声を出す。
「大友君、あちきに惚れてしまったでありんすか? じゃけんあちきの心も身体もオーナーの物でありんす……大友君には悪いけれんども……」
ロールケーキを食べ終わると大友は手を軽く小さく振った。
「いや、いつも言ってるけどさ。俺が女装してるのは、俺が似合うからであって、俺は女の子が好きなの。汐緒たんはトトさん大好きなど変態だけど男の子じゃんか、まず俺が好きになるとしたらこの作品の口裂け女さんとか、女性であるという事は大事だな」
汐緒はかなりショッキングな事を言われて訂正させようとする。
「ちょっお大友君。聞き捨てならないかや! まぁ、ヒロインという意味で他のキャラクターならまだしも口裂け女よりもあちきが劣るでありんすか?」
紅茶を鼻孔内で味わいながら目を瞑る。今や可憐な少女というより、大友は女性を手玉に取るようなそんな態度で汐緒に語る。
「口裂け女が可愛くないって誰が決めたんだ? 別に口が裂けてようが、俺からすればそんなのただの個性だよ。全然俺は愛せるよ」
私綺麗? と聞いて綺麗と答えたら、裂けた口を見せて、これでも? と聞いて相手を驚かせる。あるいは危害を加えてくるそんな怪異を大友は心の底から綺麗であると、愛せると言えるのだろう。
「とても悔しいかや! あちきはもっとも付き合いたい妖怪ナンバー3にはいつもランクインしてるかや」
「それ何処情報? 汐緒たんなんて妖怪聞いた事ないよ。美人妖怪ナンバー1といえば雪女でしょ? 二番目って誰だ」
「はまぐり女房かや! そしてあちき……大友君達人間にはあちきの真名はそれだけで呪いみたいなものでありんす。危ない危ない」
そう言って笑う汐緒に大友はクスりと笑ってこう言った。
「はい、嘘乙」
「違うかや! 大友君は、すばるくらい素直になった方がいいかや! そんなんじゃモテないでありんす」
次はちっちっちと大友は指を振る。
「俺がモテなかったなんて、今までの人生で一度としてなかったから、はいざーんねーん!」
汐緒をイラつかせる大友のチャラ男的発言と思考。ただただ可愛い見た目に反して大友は本当にただの高校生の男の子。
煽るのも恐ろしく上手だった。
「大友君、座敷童じゃないでありんすが、あんまり人外を馬鹿にすると痛い目を見るかや!」
汐緒の鋭い表情での警告に対して大友はまっすぐにそれを見て笑う。
「汐緒たんが、友達の俺にそんな事するわけないでしょ? いつもなんだかんだ言って守ってくれてるじゃん」
友達という響きに汐緒は、胸がきゅんと鳴る。妖怪や人外という連中は非常に単純な思考回路を持っている事を大友は知っていた。
そして……
「この作品の作者もよく妖怪ってものを考えて造形してるもんだな。汐緒たんも出してもらえば? 蜘蛛の妖怪とか需要あるんじゃない?」
汐緒にとって、一番大事な想い人はトト。そして一番大事な友人は人間でありながらいつも自分を楽しませてくれる大友。
「大友君。バナナケーキが余ってるかや、良かったらもっていくといいでありんすよ!」
「うん、ありがと。いつも姉と妹が汐緒たんの作るお菓子楽しみにしてるからな! あと、今日の作品もありがとめちゃくちゃ面白かった。また来週来るからなんか教えてくれよな」
「そうでありんすなぁ。じゃあ明日のお店の朗読。課題図書は『爆走・お伊勢参り選手権! 箸・中村尚裕』を読ませてもらうでありんす」
大友を店の外まで送ると、汐緒は煙管を取り出して外でそれを吸う。店内は禁煙。夜の闇に紛れて住まう住人達が汐緒を見ては頭を下げていく。
「伊勢神宮はそういえばおみくじが無かったでありんすな」
参拝をする事で大吉と同じであるという面白い神社。今度トトと一緒に行きたいなと頬を染めながら種火を掌に落とした。
短編作品のトップバッターは『爆走・お伊勢参り選手権! 箸・中村尚裕』となります。短編ならではの勢いで、読みながら作品内のキャラクターの関係性を考え、そして一緒にスバルのインプレッサで駆け抜けるようなそんな気持ちのいい作品です! 中村尚裕さんが書かれる作品はどれも心情表現=情景描写とシンクロさせてくれるものが多いです。是非、中村尚裕さんの他の作品も楽しんでみてくださいね!




