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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』
10/90

最終話 遅すぎる初夢

さて、もう令和二年の一月が終わりますね。あと11か月しかありません。アンリファーブルはいいました。1日が24時間はみじかすぎると。私はこう思います。1年が365日の方が短すぎますね!

今年、私達。古書店『ふしぎのくに』は大きな壁にぶつかります。はたしてそれは良い方向なのか、悪い方向か気になりますねぇ!

「獅黒くん、僕はね。昔昔、人々を見下ろせるデパートの一番上で、お子様ランチを食べる事が好きだったんだ。僕の右手を握るのは、高身長で金色の長い髪をしたジンベイザメの神と自称する者。僕の左手を握るのは冬でも露出の激しい服を着る桃色髪の女がいてね。僕がピラフを食べるのを楽しそうに見つめていたよ。その後に決まって古い銭湯に連れていかれたよ。恥ずかしがる僕を女湯に入れて、好き放題してくれた……いくら探してもそんな銭湯はないし、あれは一種のかくりよだったのかもね。僕には神と悪魔の母がいた」



 突然、クリスは一人で自分語りを始める。獅黒はここではじめてクリスが注文したお子様ランチを用意した。



「お待たせしました。メインディッシュのお子様ランチです」

「お子様ランチ、祈りの門とは対極のところにある食べ物だと思わないかい?」



 獅黒はその心は? とクリスを見つめる。セシャトは分かってしまった。言いたい事を……



「お子様ランチは夢の塊です。願いの塊という事ですか?」

「御名答。さすがセシャトさんだ。お腹が一杯になるくらい、欲しい物だらけなんだ。何一つ欠けずにね。祈りの門に至れば至る程、そこにいればいる程、歪む。手が届きそうなところにある物が絶対に取れないようにね。祈りの門はまさに人間の性を形にした場所なんだよ。先ほど僕等が飲んだミックスジュースがそれを現わしている。陽介は獅黒というミックスジュースになり、もう陽介に戻る事はない。それはハストルも、他皆そうだ。絵具を全部混ぜて行けば何色になるか分かるかい?」



 子供の頃、誰もが経験した事があるだろう。美しい絵の具を全て混ぜていく。するとそれは限りなく黒に近い色と変わっていく。



「それが祈りの門の正体?」

「そうだ。人間の卑しさ、狂おしさ、そして美しさを表現している。いわばイデアそのものなのかもしれないね。おっと冷めるといけない。いただこうか? セシャトさん」



 突然名前を呼ばれてセシャトは頷く。ハンバーグにスパゲッティー、旗つきピラフとどれから食べようかとセシャトが考えていると、クリスは立ち上がった。



「逃げ出す従業員。元人間に祈りの門の門番は荷が重い。されど、人間でなければいけない。そういう事なんだろう? 座り給え、獅黒君」

「兄さん、私は……」

「食べた事がないんだろう? お子様ランチ。食べるといい。生まれてくる事が出来なかった君だ。存分に楽しむといい。ここは代償を払い、祈りを遂げる場所だ。よくよく考えれば面白い場所だ。他者の作品を妬み、光ある者を妬み、普通である者を妬み、死ねる事を妬む。そして君は生まれてきた者を妬む。命が妬ましいか? 喰らう事が、身体を交わらせられぬことが、笑う事が……命が妬ましいか?」

「違う……」

「照れなくてもいいさ。祈りの門の門番は何故クトルゥフだったのか、それは人の作りし物だからだよ。だけど、よくよく考えれば神話なんて全て人の作りしものなんだ。だけど、クトルゥフと、その他では根本的に違うところがある。分かるかい? 獅黒君。セシャトさんは気づいたようだから黙っていてくれるかな?」



 セシャトはここに来てクリスが戻ってきたと感じた。彼は自分で主導権を握り作品を読み解くのだ。クリスは核心的な話を始める。



「分からない。兄さん。教えてください」

「何も考えずに答えを聞こうとする奴を僕はあまり好きじゃない。が、まぁいいか。そもそもの神話上の神々はこと信仰の対象なんだ。人間関係の法則、引き寄せられる彼ら……それとは違う神話クトルゥフ。要するに風刺なんだよ」



 クトルゥフは何の信仰も存在しない神話とは言うが創作物でしかない。それも社会風刺などなど大いなる風刺。人間の性、あるいは彼らの妥協という物なのかもしれない。彼らは確かに祈りの門にいる事でそれなりに満たされる部分もあるのだろうが、決して彼らの願いは成就しない。特別な加護を与える場所にいながら、それらの福利厚生を永遠に受ける事が出来ないと言えばわかりやすい。



「それは……クリスさん、もしかして」

「祈りの門という場所は、労基を無視したブラック企業だと言いたいんだよ。労働に見合った報酬を受けられない。この妬みの門の門番をしていた連中を見て僕はその考えに至った。だから、そのルールを僕はくじいてみようと思うのさ。獅黒君。君が夢にまでみたお子様ランチだ。食べるといい。今は僕が疑似的に門番となろう」



 スマートフォンのような物を掲げクリスは姿を変える。と言ってもスーツ姿になっただけでなんの変化もない。

 胸ポケットから眼鏡を取り出すとそれをかけてこう言った。



「じゃあ疑似門番となった僕による、最後の考察を開始しようか! この作品は結果としてはクターに救いをもたらしている。それは物語であるが故の妥協。ない物を欲す愛。補う愛。そして傷をなめ合う愛。その表裏には哀が付いて回り、そして遭いとなり、逢う。彼らはあまりにも人間臭すぎる。いや、言葉通り、人柱。人を体現した者なのかもしれない……最期に究極の選択を強いられる」



 クリスの大いなる独り言を聞きながら獅黒はもっもっ。とお子様ランチを食べる。逆手に持つスプーンからして食器を扱った事がないのだろう。それをクリスは持ち直させ、口元をナプキンで拭く。



「クリスさん、教えてください。彼らは救われたと言えるんですか?」

「妥協。という意味では……彼らは知り過ぎたんだね。戻らない物や戻せない物。それを端的に取捨選択しながら生きるという事。それは一重に僕のような存在であるという事かな?」



 その心は? とセシャトが聞こうとした時、クリスではなく獅黒が語る。



「兄さんは、捨ててしまった。大事な物を、優しい気持ちを、何故ならそうしないと、祈りの門に至れないから」



 プリンアラモードを食べながらそう語る彼女を見てセシャトは二人の作品への同化具合が非常に稀な才能の持ち主だなと感心しつつも彼らが何を言いたいのか全く分からない。考察そのものが抽象的すぎて分かりにくい。むしろ、本作はそういう抽象的な感想を抱くものなのかもしれない。



「セシャトさん、貴女は多分。この一年で辛い事を経験するかもしれません。一月は逝く、それ故に僕達はこの歪み過ぎた妬みの門に来たのかもしれない。気が遠くなりそうな時間を人柱として番人になった彼らは神に至ったのかもしれない。だけど、心は人間のままだった。そう、だから棚田クリスという男は、心を捨てたんだろうね」



 クリスは自らを他人のように語る。獅黒はお子様ランチを食べ終わるとクリスを見つめる。そんな獅黒にクリスはこう言った。



「おいで、君も一緒に行こうか」



 こくんと頷くと獅黒はクリスの腕の中。とびきり優しい笑顔を見せるクリスはセシャトにこう言った。



「セシャトさん、自分の世界に帰る時が来たよ。僕とこの世界線で獅黒になった彼女……生まれてくる事が出来なかった。僕の妹が人柱となって元の世界に戻れる門を開こう」

「ちょっと待ってください! それではクリスさんはどのようにして帰られるんですか?」



 クリスはセシャトに背を向ける。クリスの首元には何やらバーコードのような物。



「僕は、棚田クリスを完全コピーした商品なんだ。そして棚田クリスの人間としての感情を僕が引き継いだ。彼は人間をやめてしまった」



 クリスお得意のギャグか何かだろうかとセシャトは思ったが、もしそうならこの迫真の演技は相当に凄い。

 彼は、ダメだった場合の祈りの門の門番を今や体現しようというのか……イフの世界があるのであれば、それもまたあるのかもしれない。

 そして、心を捨てた。人間を辞めたというのであればセシャトは口元に手を持っていき、ふふふのふと笑う。



「何か?」

「いえ、私は人間じゃありません」

「でしょうね」

「ですが、私は物語を読む事と甘いお菓子が好きなだけです。クリスさんがもし人間を辞めてしまったと言うのであれば、私はそんなクリスさんとWeb小説について語りたいと思います」



 セシャトは一歩前に出る。胸に手を当てて語る。人を辞めてしまったからこそ、考察できる事だってあるんじゃないかと……



「人の心を持ったクリスさんと私は今日ここで、『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』を一緒に読んで、楽しみました。ですので次は祈りの門に至ってしまったクリスさんと物語を一緒に楽しみますよぅ!」



 クリスは、驚いた。そしてもしかすると一番狂っているのはこのセシャトという女なんじゃないかとそう思った。

 彼女は片足どころか、両足どっぷり祈りの門に浸かっている。人間として色んな不要な物をそぎ落として来た彼ら門番や、人間をやめたクリスとは違い。セシャトは何の代償も掃わず、そして何かを倫理武装するわけでもなく、ただそこに在るのだ。



「そうか、金の鍵の正体を僕は気づきました……でも、それをオリジナルに教える義理はない。行こうか、〇〇」

「はい兄さん」



 二人は手を繋ぎ、セシャトを元の世界に戻した。目を開けたセシャトは日付を確認する。そして誰もいない店内で大声を上げた。



「はっひゃあああ! 凄い時間が経ってますよぅ!」



 丸々一か月時間をジャンプしてしまっていた。とりあえず開店準備をと思った時、古書店『ふしぎのくに』に来訪者が現れる。



「はーい! 只今ぁ!」



 セシャトが出迎えに行くと、そこにはケーキの箱を持った青年。棚田クリスが現れた。



「ようやくこの店に来れた。セシャトさん、僕と物語を読みませんか? 甘い、甘いお菓子でも食べながら」



 狂気的な表情をして、その瞳は死んだ魚のように生を感じない。そんなクリス相手にセシャトは満面の笑みでこう言った。



「母屋に上がってください! 今年最初のお客様は、クリスさんですよぅ! ではでは、今月の紹介作品にしようと思っていた物語、『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』を読み解きましょうか!」

「セシャトさん。ボクは長い長い初夢を見ていたようだ。君と祈りの門に至ったような。そんな夢」

『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』本日をもって一旦ご紹介を終了とさせていただきたいと思います。本作は第二部も最新の第三部も展開されておりますので、続きは本編でお楽しみくださいね!

さて、祈りの門。実はクリスさんと深い関りがあります。さぁ、なんでしょうね!


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