第12話 さくらの後悔①
戸張優輝を振った翌日のことだ。
事態はおかしな方向に傾いていた。
「あーあ、あいつももう終わりね。利用価値無かったわ」
さくらはその日も繁華街を遊び回っていた。
「もうちょっと、お金持ってると思ったんだけど、所詮はただの高校生ね」
「おい、さくら、これ見たか?」
不良仲間の男からスマホを向けられる。
そこにはうちの学校のクラスチャットが表示されていた。
「お前、ユーキのファンだったよな?」
そう、さくらはユーキの大ファンである。
ティックトックの動画は毎日欠かさずに見ているし、チャンネル登録して動画もアップされた当日に見ている。
グッツが発売されたら、保存用、観賞用と三つは買うほどだ。
「あの戸張優輝がユーキ様に似てるって? 冗談じゃないわよ。あんなインキャと一緒にしないでよね!」
「でも、今日のティックトックの動画見たらそんなことも言えねぇかもしれないぜ」
そういえば、18時を過ぎているが、今日の動画はまだ見ていなかった。
友達と遊ぶことに夢中になってしまっていたのだ。
さくらは急いでスマホを開いて、ユーキのティックトックを確認する。
そこには、見たことのある雰囲気のユーキ様が映っていた。
今日の動画はユーキ様がインキャのような容姿からいつものイケメンな姿に一瞬で変身するとう内容の動画だ。
「いや、そんなことないわよ。きっとただ似ているだけよ! そうに決まっているわ!」
さくらは信じたくは無かったのだ。
自分が振った相手が、憧れのユーキ様だったなんて。
しかし、疑惑は膨らんでいく。
その翌日、さくらは珍しく遅刻せずに学校へと行った。
戸張優輝の様子を探るためである。
優輝はいつもどりの、ボサボサの髪にうつむきがちに現れる。
「そうよね。やっぱり、こんなやつがユーキ様な訳ないじゃない」
それでも、その日は一日中優輝のことを見ていたと思う。
そして、昼休み。
優輝の居場所はわかっていた。
あいつはいつも同じ場所で昼食を取るからだ。
「嘘、なんで彼女が……!?」
優輝の元に近づいていく1人の女性。
そして、楽しげに何か話しているが、ここからでは会話の内容まではわからない。
優輝と話していいる女子生徒。
それは、この学校に通っていれば誰もが知っている、今をときめく人気アイドルの山川愛莉だ。
スマホを突き合わせているということは、連絡先でも交換しているのだろか。
「え、愛莉さんって異性にあんな表情向けることってあった?」
それは完全に乙女の顔を向けている。
「ということは、戸張優輝の正体は本当にあの人気TikTokerのユーキ様なの!?」
だとしたら、自分はなんてことをしてしまったのだろうか。
よりにもよって、憧れの人を振ってしまったのだ。
「でも、まだ疑惑の段階だもんね。そんな訳。あのインキャがユーキ様な訳……」
しかし、さくらの疑惑が確信へと変わるまでにそれほど時間は要しないのであった。
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