ダンジョン下層:脱出
「やったな」
「言ったろ?俺たちなら大丈夫だって」
「ああ、アジフの言う通りだった」
コツン、と拳を合わせた。
南連山の麓パーティもこちらに向かってくる。
、と
<ゴゴゴゴゴゴ>
音がして、床から宝箱がせり上がって来た。
ふ~ん、大層な演出だが罠とかないだろうな?
「やったな!見事だった!」
デニラとザシルが途中で荷物を拾ってきてくれた。
「作戦も見事だったが、まさか一撃ももらわずに倒してしまうとはな」
メトレに肩を貸され、剣をついてエジメイもきた。あんなの一撃でももらえねぇよ。
「あの作戦は次は必ず失敗する。誰かにしゃべるなとは言わないが、マネしようとして失敗したと言われても責任は取れない。あまり言いふらさないのが身の為だぞ」
「必ず?失敗するのか?」
「ああ、絶対だ。それよりデニラ、宝箱に罠がないか見てくれないか?」
「いや、階層主も迷宮の守護者も宝箱に罠はないだろ」
デニラが怪訝な顔をする。今までそんな前例はないからな。
「念の為だよ。特に台座が気になる」
「わかった、一応見てみる」
デニラが台座を調べるのを待つ間、エジメイと話をした。
「我々のパーティはCランクへ昇格しない事にしたよ」
「もうキジフェイには挑めないぞ、いいのか?」
「どうせ昇格してもCランク任務など出来ないからな。下級迷宮はキジフェイだけじゃない。隣国フィア王国にだってある。どちらにしても、俺はもう引退だ。残りのメンバーでパーティを立て直すさ」
「そうか、そうだな」
「またせたな、調べ終わったぞ」
デニラが戻ってきた。
「それで、どうだった?」
「罠かどうかわからないが、宝箱の重さでほんの少し台座が上下するようだな」
「なるほど」
宝箱に近づいて、正面から無造作に蓋を開けた。
「「あー!!」」
「なんだよいいだろ、開けても」
中には見た事ない色の白い金貨3枚と宝石、そして短杖とバスタードソードとマントが入っていた。
「そんな風に開けるならなんで調べたんだよ!」
「調べてもらった結果、大丈夫そうだったから開けたんだよ。ありがとな、助かったぜ」
宝箱の重さで作動する罠なら、中の宝物を取れば作動するのだろう。もし危険な罠なら今まで話にあがらないはずがない。危険じゃない罠なら、それはおそらくキジフェイのダンジョンマスター関連――
と、言う訳でスルーだ。面倒ごとに首を突っ込む気はない。
おそらく白金貨であろうそれと、杖と剣とマントをミジットと手分けして持つ。
「アジフ、よかったな」
「ん?なんで?」
「剣が手に入るじゃないか」
俺の為にその笑顔はうれしいが、そのつもりはないんだ。
「いや、いい物だったらミジットが使ってくれよ。それ以下なら売ってしまおう」
「守護者の宝物がその程度な訳があるまい!なぜ使わない」
「短杖欲しいからだよ、そっちをくれないか?」
首をかしげてたずねてきた。
「いや、でもお前魔法使えないだろ」
「魔法は使えないが短杖は欲しい。もちろん鑑定次第だがな。さあ、まだ終わったわけじゃない。気を緩めずにいくぞ」
”南連山の麓”が物欲しそうに見ているが、約束通りあげないからな!
「なあ、エジメイ、見ての通り俺たちは宝物を得た。この上救出した報酬をせびる程がめつくはない。ミジット、いいだろ?」
「もちろんだ。ちょうどいいって言ったじゃないか」
「ああ、人数のことか」
「そうだ、これで少女への弔いになるとは思わんがな」
少女…??
…ああ!あの!盗賊の!うんうん!わかってた、もちろんわかってたとも。
「そうだな…」
そう言って重々しくうなずいておいた。
「そっちの都合は知らないが、魔物の素材も魔石も大量に分けてもらったんだ。その上に救出報酬もいらないっていうのは申し訳ない気もするが、この身上だ、お気持ちはありがたく頂戴したい」
荷物が限界だった俺たちは、低階層と中階層の魔石と素材を丸ごと渡していた。下層の素材の方が高いから。
「気にするな、剣も返すよ」
宝箱の剣は虫よけに腰に装着しておくか。
荷造りを終え、部屋の奥にある扉へと向かった。返してもらった盾を装備し、短剣も抜いておく。
「勇気があるのか臆病なのかわからないな」
「それ、昨日も聞いた」
扉を開くと、薄暗い部屋の中央に魔法陣が描かれており、中央の台座に淡く光る水晶が置いてあった。
おお!なんていうか…いかにもそれっぽい!
部屋の周囲を見渡してみたが、壁ばかりで特に何も無いようだ。
「これが転移水晶か…」
当然、このなかでいままで見た事のある人はいない。全員初めてだ。
「触れればいいって聞いたぞ」
「さすがミジット先生」
「先生ってなんだ」
コン、と鎧を叩かれた
あ、しまった、口に出てたか。
「先に行かせてもらうぞ」
まずはミジットと2人で水晶に触れる。
水晶が輝き、眩しいって思ったら、周囲の景色が変わっていた。一階層か?見覚えはあるな。ミジットは周囲が暗くて見えていないようだ。
「ミジット」
手を引いて移動した。後続の為に場所を開けたんだ、手を繋ぎたかったわけじゃない。
ダンジョンの入り口から出口方向を見れば、外の明かりが見えた。外界は日のある時間のようだ。
薄明りでミジットがライトの魔道具を点ける。すると、入り口脇の空間が光って、”南連山の麓”が転移してきた。
「おお!暗いな!」
とは言っても、ミジットが明かりを持っているので、さっき程じゃない。エジメイは足が不自由なので大変そうだが。
階段を登り、外の受付へと向かった。
「うおお!明るい!日の光だ!」
「気持ちはわかるが受付を済ませてくれ」
怒られた。
「Dランク”双連の剣”アジフとミジットだ。入ったのは9日前くらいだ」
「お疲れさん、成果はどうだった?」
「ああ、おかげさんで踏破したよ”南連山の麓”も一緒だ」
「そうか!そいつはおめでとう!」
「”南連山の麓”エジメイ、メトレ、デニラ、ザシルだ。ウェンレルはやられた。入ったのは…12日いやもっと前か?」
「14日よ、しっかりしてよね」
「そうか…それにその手と足、辛かったな」
「よくある話だろ?気にしないでくれ」
6人で外へ向かった。迷宮街の屋台が凶悪に誘惑する。メシ…まっとうなメシ…。
「みんなダメだ!ここで止まったらもう戻れないぞ!」
はっ!エジメイの声で正気に戻った。危ないところだった。
「君たちはどうするんだ?我々はギルドに向かうが」
「ミジット、どうしたい?」
「お腹へった。眠い。ベッドで寝たい。この格好でギルドに行きたくない」
「俺たちは宿を取るよ」
「ハハハ、そのようだな。では世話になった。助けてもらった恩は忘れん。この身体だが、出来ることがあったらなんでも言ってくれ」
「ありがとう、あなた達が来てくれなかったらあそこで死んでいたわ」
「助かった。俺たちはロムイガへ戻ってパーティを立て直す。もし来ることがあったら必ず声をかけてくれ」
「俺たちは冒険者だ。また会う事があるかもしれないし、ないかもしれない。それでも君たちに救われた事は決して忘れない。君たちによい冒険があるように願っているよ」
一人一人と握手をして肩を叩き合う。
「ああ、俺たちも”南連山の麓”は忘れない。君たちにも良い冒険を」
「「「「「良い冒険を」」」」」
冒険者の別れなんてあっさりしたものだ。縁のある奴はほっといてもまた会うし、なければ会わない。
ただ…明日あたりにばったり会ったらかなり気まずいがな!




