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ダンジョン下層:迷宮守護者



 守護者の部屋の前は今までの猛攻が嘘のように魔物が居なかった。

どうやら態勢を整えるだけの時間はもらえる様だ。


 そこに並ぶのは6枚の扉、15階層にもあったが最深部の方が豪華だ。

扉一枚につき一人しか通れない。2人通ればその扉は閉まらずに、守護者は現れない。

 ここにいるのは”双連の剣”2人と”南連山の麓”4人。ちょうど6人、

あ、前にミジットが言ってた「ちょうどいい」ってこの事か。全然考えてなかった。


 部屋の前で食事と睡眠をとる事にした。ここまできたら焦ることはない。万全の態勢で挑むのみ。


「君はわからないな」


 円座を組み食事をしていると、エジメイがそんな事を言った。そんなに簡単にわかられてもたまらないが、一応聞いておくか。


「何がだ?」


「無謀に見える挑戦をする割には、意外なほど慎重に準備と用意をする。どちらが本当なんだ?」


「段取り八分」


「ん?なんだって?」


「前にいた所でさんざん言われた言葉だ。成果の8割は準備で決まる。そういう意味だ」


 あの工場長、元気にしてるかな?あれから7年もたつ、もう定年かもな。


「なるほど、覚えておこう」


 ああ、そして立派な工場作業員を目指してくれたまえ。



 翌朝の朝食は静かな、そして張りつめた空気となった。メニューは残りわずかな、しかしできるだけの食材を使ったしっかりした物だ。どんな結末になってもこれが迷宮での最後の食事になるはずだから。

 でも、食材を使い切ったりはしない。不測の事態に備えるのは冒険者の心得だ。


「各自、役割は理解したな」


「念を押される程の事でもないだろ」


扉の前に6人で揃い、最終確認(ブリーフィング)を行う。


「しかし、本当に上手くいくのか?」


「予備作戦<プランB>はこちらの担当だ。心配する必要はない」


6人がそれぞれの扉に手をかける。


「では行くぞ」


「「「「「おう(はい)」」」」」


扉が一斉に開かれた。



 中へ入ると、一人用の通路から部屋の中で合流する。部屋の内部には柱が並び、神殿の様な造りになっているが、奥は暗くなっている。暗視をこらせば、広場になっているようだ。守護者の気配はまだないな。

 通路から出て来たミジットと合流し、柱の中程に荷物を置いた。この辺りから真っ暗だ。光の魔道具を出して辺りを照らすと、周囲50m程の今までのボス部屋よりも広い空間になっていた。天井は10mほどか。


 守護者の姿はまだないな。中央から奥よりの位置の壁近くに立ちミジットに合図する。


「構えを」


「ああ」


剣を前方に構え、大声で合図する。


「閉めろーー!!」


 遠くで扉の閉まる音がして、通路の端100m程向こうに”南連山の麓”メンバーが姿を現した。まだか…

 と、柱に据えられた一番奥の松明に火が灯る。それと同時に黒い靄が集まり出した。このタイミングか。


 奥から順番に松明が灯って行くと共に黒い靄が形を作る。ああ、この演出ね…


 中央の広場が照らされる頃には2匹の法衣を象った服を着たミノタウロスが現れ。


「グモォォォーーー!」「ガ、」



雄叫びを上げたのは一匹だけだった。



 ミノタウロス・プリーストが形を取ったと同時に背後から駆け寄り、初撃は2人同時の膝裏への突き。”ひざカックン”だ。この時、深く刺しすぎてはいけない。雄叫びを上げようとした一体のミノタウロス・プリーストは胸を起こし、<ガクン>と膝をついた。


 ――やはりな。5階層、10階層と仕様の隙をついたが、15階層以降で迷宮は何もして来なかった。砂漠の空を飛んだ魔術師は初回だから上手くいった。

 迷宮の対策は常に後手、何かをされるまで何もしてこない。「いざ」って時に切り札を切る為に、25階層のボス戦まで我慢して戦ったのだ。


 <ザン>「グモッ」


 ミジットの一撃がミノタウロス・プリーストの背中の腰上の背骨に入り、起きていた胸が更にのけ反る。剣がひるがえり、次の一撃を


<ドンッ>「グッ」


入れる前に、両手剣の一撃を背中に入れる。なんて硬い骨だ!


<ザン><ガンッ>「グ」<ガガン>


 交互の連撃が背中に入り、ミノタウロス・プリーストの肺は空気を吐き出し切ったようで声も出ない。もう一匹のミノタウロス・プリーストがこちらの様子に気が付いたようだ。


 <ザザッ><ガガッ><ドドッ><ドカッ>


 さらに回転の速度が上がる。ミジットが足を引けばそこに踏み込み、こちらが上段を切り込めばミジットは横薙ぎに振るい、身体を開けば空いたスペースに踏み込みが入る。

 お互いに型を知り、次の動作がわかっているからこそ可能な近距離での高速連撃。

 って言うと凄そうだが、要はちょっと複雑な高速餅つきだ。


 ミノタウロス・プリーストの身体が光る、回復魔法か!息が出来なくても詠唱無しとかズルい!

まぁ、こいつら「グモ」くらいしか喋れないから無理もないか。


<ガガッ><ドドッドツ><ガガッ><ズドッドッ>


 お構いなしに連続剣戟の速度を上げる。

もう一体のミノタウロス・プリーストはこちらに来ようとしたが、魔力を集める体勢を取った。味方の回復に切り替え、同時回復で一気に態勢を立て直すつもりのようだ。

 もう少しで行けそうだった背骨周りの手応えが再び硬くなった。


<ズガガガッ><ドッドドッ><ズドドッド><ガガガッ>


 思わず頬が緩む、こうも作戦通りとは。戦場で敵の戦力を削ぐには、一人を殺すより一人を傷つけた方が効果的だと言う。ましてやそれが衛生兵(メディック)ならどうだ?味方を見捨ててはいられまい。

 始めからこれはミノタウロス・プリースト2体の回復力と”双連の剣”の秒間攻撃力(DPS)との勝負なんだ!


<ガガガガガッ><ドドドドッドドツ><ガガガッ><ズドッドドッ>


 そして、俺とミジットの超攻撃型ペア”双連の剣”なら攻撃力が回復力を上回る!

 再び硬くなる背骨、攻撃されるミノタウロス・プリーストはのけ反ったまま動けない。

 それでもお構い無しにさらに速度をあげた連撃を続ける。思った通り、こいつらは弱い!ヒーラー2枚なんてパーティバランスが最初から終わってんだよ!


「「ラアァァァァァーー!」」


 背骨に手応えを感じて強撃に切り替えると、ミジットもあわせてきた。さすが!


<<ドンッ>>

<<<バキッ>>>


 凄ざましい手応えとともに、ついに背骨が砕け白目を剥いたミノタウロス・プリーストの上半身が後ろに垂れさがった。


「だりゃあぁぁぁー!」


 もはや意識のないその首筋を叩き切ると、首筋から血が噴き出し、さらにミジットの追撃が首に入ると、黒い靄へ還っていった。


「ハァ、ハァ、」


 さすがに息が切れる。


「修練が足りんぞ」


ミジットさん、あんたやっぱり鬼だ。


2人で剣を残るミノタウロス・プリーストへ突きつけた。

さぁ、あと一体!


 

 剣を揃え、睨みを利かせて一体となったミノタウロス・プリーストの前方へ一歩前に出る。


「グ、グモッ」


 ミノタウロスは姿勢を下げ、メイスを片手にジリっと退がる。

ん?事前情報では仲間がやられると怒り狂うって話だったが?


 その目に走ったの怒りではなく恐怖、そう見たのだろう、ミジットがすかさず<ザッ>と距離を詰める。

 

 あー!!出遅れた!ヤバい、あとで絶対怒られる。


「ブモォォー!」


 だが、単独で前に出たミジットに釣られたようにミノタウロスはメイスを叩きつけた。ミジットは後ろにかわしたようだが、それどころじゃない!

 棚ぼたで完全に隙だらけだ!


「ハアァァァー!」

<ズドンッ>


 両手剣を上段からメイスを持つ手に全力で切りつけ、手首を落とした。


「グモォォーッ!?」

<ドンッ>


ミノタウロスが悲鳴をあげる。その途中にミジットが腹部へ一撃を打ち込んだ。容赦ねぇ。


 ミノタウロスの開かれた目は驚愕か痛みか。

だが、それがどっちだとしても、腹部への衝撃で前にのめった首はいい的だ。


<ガンッ>


 肩口に強撃を打ち込めば、大量の血が噴き出した。


「フ、、、ゴ、、」


 声は出せないようだがまだ動けるのか!なんて生命力だ。

振り払うように腕を振ったが、今度はその腕をミジットに断ち切られ


<ズンッ>


 ついに膝をついた。下を向くその瞳にはもはや光がない。

介錯してやるべきだろう。大上段に両手剣を構え、全身の力を剣に集め、振り下ろしつつ腰を落とし、体重も乗せる。


「せやぁぁぁー!!」

<ザンッ>


全力の一撃は首に食い込み、その強固な骨を断ち切ってミノタウロス・プリーストの首を落とした。



俺たちの完全勝利だ!!



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