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ダンジョン下層:最下層



「なあ、ミジット。何日目だ?」


「8、いや9日目だな」


レベルの上がったステータスを見ながら話す。



  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 24

  Lv  : 27(+5)


  HP : 221/221(+50)

  MP : 72/72(+9)

  STR : 60(+8)

  VIT : 47(+7)

  INT : 26(+2)

  MND : 33(+3)

  AGI : 40(+6)

  DEX : 29(+3)

  LUK : 14(+2)



スキル

  エラルト語Lv4 リバースエイジLv4 農業Lv3 木工Lv2

  解体Lv4 採取Lv2 盾術Lv7(+1) 革細工Lv2 魔力操作Lv7

  生活魔法(水/土)剣術Lv9(+1) 暗視Lv3(+1) 開錠Lv2



称号

  大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者



 ダンジョンに入る前はレベル20でDランクの魔物を相手にするのがやっとだった。それが今では当たり前のようにDランクの魔物を相手にしている。

 今まで1年でレベルが7も上がった事はない。それがたった一週間だ。

何日も馬車や馬で移動し、やっとDランクの魔物1体を倒すような生活と、Dランクの魔物が次から次へと湧いてくる迷宮では経験値効率が圧倒的に違う。

 迷宮の下層で戦う実力があれば、だが。


 下級迷宮の踏破がCランクへの昇級条件になっているのは、おそらくその為だろう。


 だが、おかげでステータスは目も当てられない有様だ。このステータスを見れば多くの人がこう言うだろう。「両手剣が適正の物理前衛アタッカーだね」と。


 パーティの前面で前衛(タンク)をするにはVITが低い。バランスの取れた片手剣使いにはSTRが高い。魔力系統は軒並み低い。

 コツコツと魔力を訓練してきたのにどうしてこうなった。おのれ迷宮め。


 だが、それもここまでだ!当初の目標だった、”生き残る力”はもう十分じゃないだろうか?

 剣術の腕はまだまだだが、道場ならともかく、その辺の奴らにそうそう負ける事はないだろう。この先も修行だってできるし。

 そうとなれば魔法を使いたい!だってせっかくの異世界なんだぜ!?


 いずれにせよ、30階層を無事にくぐり抜け、守護者を倒して迷宮を踏破してからの話だ。

 そのためにも、まずは階段でしっかりと食事と睡眠を取る事にした。この階層まで来るのはほとんどCランクに挑む者だけなので、人は滅多にこない。もちろん見張りは立てるが。


「アジフ、ミジット、2人ともちょっといいか?」


焼きホーンドディアをかじっていると、エジメイが話かけて来た。


「なんだ?」


「今日2人の戦いを見させてもらった。ほんとにたった2人で29階層を通過してしまうとは信じられない。その強さはDランクでも頭1つ、いや2つは抜け出ているといていいと思う」


「そいつはどうも」


褒められて悪い気はしないが。


「だが、それでもキジフェイの守護者、あの2匹のツイン・ミノタウロス・プリーストに勝つには足りない様に思える。大丈夫なのか?」


 キジフェイの迷宮守護者は2匹のミノタウロス・プリースト。巨大なメイスを持ち強力な一撃を放ってくると共に、強靭でタフな肉体が傷つけばお互いに治療し傷を治しあう。コンビネーションも良く協力して攻撃してくる。長期戦を強いる一筋縄ではいかない相手だ。


他の南連山の麓メンバーも興味津々で耳を傾けてる。ミジット、お前もか。


「確かに、俺たちはそれ程強く無い。だが、あいつ等はそれよりも弱い。それだけで十分だ」


「それだけなのか?だが、君たちがやられれば我々も危ないのだぞ?」


「わかった。あなた方にはお願いしたい事もあるが、もし俺たちが危ないと思ったら、そっちの判断で行動すればいいだろう。その時は守護者の宝物を分けると約束するよ」


「いいんだな?」


「かまわない。ただし、前にも言ったように俺たちは前衛に立たない。その時はミノタウロスの前に立つ覚悟をしてくれ」


「アジフ、それで行けるのか?」


 ミジットが珍しく心配しているようだ。らしくないが、そろそろ打ち合わせをしておくか。


「俺たちなら大丈夫だって。去年の秋祭りにレイナード師範とシメンズ師範代が氷の彫刻でやった演武があっただろ?あれで行こうと思うんだよ」


「ん?一極刃か。わかった、ついてこいよ」


 一極刃は2人の剣を一つの目標に集中する型だ。まずは各個撃破を狙って一体に攻撃を集中する作戦なのだ。


 まだ日差しのある秋空の下、大きな氷を剣技で削ってグリフォンの彫刻を作る様は見事の一言だった。


 両手剣に慣れていないって問題はあるが、今日の感じなら大丈夫だろう。



翌日…時計はないがたぶん翌日、休憩を済ませ30階層の攻略へ向かった。




<ドガガッ><ドガッ>

<キキンッ>


 前方に並ぶロックキャノントードの砲列から放たれる岩弾の雨の中を、両手剣を前方に岩弾をそらすように斜に掲げ間合いを詰める。時おり身体を掠るように被弾するのは避けられない。 



 30階層に入ると、魔物の歓迎は29階層よりも熱烈なものとなった。出現する魔物は変わらないが、より数が増えている。


「今だ!」


 弾幕の切れ目を狙って、真後ろにいるはずのミジットへ合図した。


 綺麗な茶色の髪を鉢金で包み、革鎧とすっかりボロボロになったマントを纏うその姿は極めて地味だ。

だが、しなやかなケモノのように敵陣へ切り込み、舞う様に剣戟を振う姿のなんと艶やかな事か。

 迷宮の地の底に至ってなお、その輝きは増しているように思える。茶色く濁ったカエルから噴き出る体液がまるで舞台装置のようだ。


 もちろん、見とれている場合ではない。


<ドンッ>


 前方に掲げた剣を走り込む勢いのまま突き出せば、標的になったロックトードは壁にふっとばされ爆散した。次――

 そう思った時、後方から火の手が上がった。挟み撃ち(バックアッタック)か!


ちらり、とミジットを見れば向こうはあと一匹、こちらは2匹。


「ここ頼む!」


切り返し様に告げ、置き土産に剣を振るったが<ぴょん>っとかわされた。ちっ!


 後方の”南連山の麓”には前衛がいない。駆け戻れば、牙を剥くサーベルタイガーを相手にメトレが健気にメイスを振い、デニラが牽制している。ザシルは新たな詠唱に入っているようだ。


 詠唱の完成にタイミングを合わせたいが、メトレが持たないか。


<ガンッ>

「ギャウッ」


 無言で戦場に割って入り、突きを入れるが間一髪でかわされ肩口を刺すに終わった。


「ちょっと!」


 後方からいきなり割り込まれたメトレが文句を言いたげだが、わざわざ敵に知らせてやる事はないのだ。


「ガルルルル」


唸るサーベルタイガーに剣を向け対峙する。


 そこにザシルの完成した魔術が飛んだ。火の槍<ファイアジャベリン>か!

<ファイアーボール>に比べれば格段に速い速度で、サーベルタイガーに向かった。サーベルタイガーも身をよじるが、火の槍の速度にかわすまでは至らない。


<バンッ>

「ギャインッ」


 衝撃で吹き飛ばされ横に倒れたサーベルタイガーに詰め寄り、首元に剣を突き入れた。魔術の一撃があるだけでこんなにも楽なのか。


「大丈夫か?」


「回復できるわ、大丈夫よ」


 問題なさそうだ、踵を返しすでにロックキャノントードを倒し終えたミジットの所へ向かおうとすると、身体をあたたかい光が包んで岩弾に当たった痛みが消えて行く。ヒールか。


「ありがとう」


振り返って礼を言う。


「戦場で礼を言うなんて素人なの?敵を倒してもここは戦地よ。油断しないで」


怒られてしまった。


軽く手を振って、前方へ戻る。確かにメトレの言う通りだ。


 魔物の密度が増えれば、戦闘は遭遇戦から敵陣を奪って行く制圧戦へと様相を変える。すでに前進速度は遅々としている。



 それでも振るう剣が押し寄せる魔物を削り、一歩、また一歩と前に進む。


 オークナイトの腕が飛び、叩き落とされたウィンドスクイレルがミジットに踏みつぶされ、ダークローパーの体液が飛び散る。


「ミジット、行けるか?」


「当然だ、それより見ろ」


 シャドウスパイダーを突き刺したままのミジットの剣が指し示す先――




ちらりとだが確かに見えた、守護者の部屋の扉だ!



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