ダンジョン下層:役割分担
「双連の剣は2人だけでここまで潜ってきた剣士だ。本気で2人だけで迷宮を攻略するつもりのようだ。アジフ、ミジット、この4人に本来は大盾持ちのウェンレルを加えた5人”南連山の麓”でCランク昇格の為にキジフェイに来た。2人の前衛戦力を失って身動きできなくなったのは説明した通りだ」
「2人で!?なんて無茶を!それともそれ程の実力者なのか?」
「アジフとミジットは確かに強い、だが全てを圧倒する程ではないな」
しっかりとこちらを見て話すので、うなずいた。師範共やAランク冒険者のように理不尽な強さは持ち合わせていない。正確な評価だ。
「だったら、よけいに力を合わせればいいじゃない!この状況ならそれが一番いいはずよ!」
「メトレ、だったか?この状況というが、俺たちには正常な迷宮攻略の途中でしかない。パーティーが崩れた君たちとは違う。それと、勘違いしないで欲しいんだが、俺たちは前衛ではない、攻撃役だ」
「ええ?でも剣士なら前衛もできるでしょ?」
「勘違いしないでくれと言っているだろ?俺たちは君たちのパーティーに助けを求めに来た訳じゃない。このまま迷宮に戻ったって困らないんだ」
「それでは我々が困るんだが」
リーダーのエジメイが困惑して言うが、助けてくれって言うから来ただけなんだ。
「そうだ、困っているのはあなた方で、俺たちじゃない。そこはハッキリして欲しい。俺たちのパーティーが迷宮を攻略するついでなら、脱出に力をかしてもいい。いくつかの条件は付けさせてもらうが」
「条件?もちろん報酬なら払わせてもらうよ」
報酬ね、別に無くたって構わないけど、大切なのは条件だ。ミジットはなんて言うかな?
「ミジット、決めていいか?」
「ああ、まかせた」
この人はホントに、助かるよ。
「まずは、こちらの指示に必ず従う事。キジフェイの守護者の宝物は諦める事。迷宮は俺たちで攻略する。あなた方がそれに便乗してCランクに昇格するかどうかは俺たちは関わらない。脱出の報酬はあってもなくても構わない、だ」
「だから!あなた達に協力するって言ってるのよ!戦力は少しでも多い方がいいはずでしょ!」
ずいぶんと気の短い司祭さんだ。だけどわかってない。
「もちろん、戦ってくれるなら俺たちは助かる。だが戦闘に手を出せば君たちは死ぬな」
「どうしてそうなるの!」
「俺たちは後衛を守れない。俺たちのパーティーに自分の身を守れない後衛は必要ない」
そう、”双連の剣”は最前線で剣の砦を築く。それが唯一の強みの物理火力特化の脳筋2人組なのだからな!
守る者がいないからこそ機能する。それ以外の役割を期待されても困るのだよ。
「そんな…」
「わかった、条件を飲もう。ただ、守られないなら我々も危険を感じれば自分で動かざるを得ない。そこは飲んでもらいたい」
ふむ、落としどころかな。
「わかった。ただし、指示は守ってもらうぞ」
「お手並み拝見とさせてもらうさ」
エジメイの残った右手を握手を交わした。
「エジメイさん!いいんですか!?」
「冒険者なら自分達の命は自分で守れ、その代わり守りに徹していい。彼はそう言ってる。選択を選べる状況じゃない、甘えさせてもらおうじゃないか」
おお!意外に話せる人だな!
「まずは10hの休憩だ。見張りはお互いのパーティーから一人ずつ。水と食料はあるか?」
「水は出せるが、食料は少ない。俺たちに君たちを傷つけるメリットはない。扉の見張りなら一人でもいいぞ」
「干し肉を出そう。気持ちはありがたいが、冒険者なんでな」
なにしろ神さまのお墨付きだ。
「ミジット、余計な事になった。悪かったな」
「まかせると言った。それにちょうどいいさ」
なにか丁度良かったっけ?それぞれのパーティで食事を取った。
硬い魔物をさんざんぶっ叩いたので、剣の状態を確認しておいた。刃こぼれはしていないが、そろそろキツイな。
「帰ったら手入れに出すか買い替えなきゃならないな」
「こっちもそろそろだ。ここまで耐久が減ったのは初めてだぞ」
ミジットもか。刃こぼれしていないのは、別に稀代の名剣とかそういう訳ではない。魔法剣は魔力で守られているからだ。負荷がかかるほど耐久が減っていき、無くなれば破損する。
そうなればもう修理はできない。なんとか持ってくれるといいが。
「そっちの剣はまだ使えるのか?」
南連山の麓で使い手のいなくなった2本の剣がある。エジメイが使っていた両手剣と、死んでしまった大盾持ちの片手剣だ。
エジメイは両手剣を諦めて片手剣を杖にしている。
「耐久は問題ない、使うか?」
「いや、置いていくくらいなら予備で持って行って欲しい」
「わかった、必要なら言ってくれ」
「頼む。ところでメトレ」
「なによ」
ツンだな。ツン司祭だ。デレなくてもいいぞ。
「<リジェネレート>はいくらかかる?」
教会の高位の司祭…いや、司教の中でも高位の術者なら使えるはずだが、高額な寄付が必要となるはずだ。
「・・・一か所で白金貨3枚ね。とても払えないわ」
「そうか、高いな」
2ヶ所で白金貨6枚。日本円にして6000万円。先端医療はどこの世界でも高価だ。
「自分の選んだ道だ。後悔はしていない」
「そうか、」
がんばれ、とも言えない。明日は我が身でもある。
重い空気なったが、睡眠を取れば、魔物の出ない室内での休憩はかなり回復できた。
睡眠の後で食事をとれば、いよいよ出発だ。
「まずは29階層を目指す。”南連山の麓”はナビのサポートと後方の警戒を頼む」
メトレがエジメイの肩を支え、デニラが後方の警戒にあたる。大丈夫そうだな。
扉を開けて周囲を確認すると、ウッドパペットが反応してこちらに向かってきた。
即座に扉を出て距離を詰める。狭い通路で槍なんて問題にならない。
「いいぞ」
部屋に声をかける4人が出て来る。人数が増えると動きが重いな。後方からの案内に従って、ミジットと2人で前面の敵を駆逐していくと、神殿の中の大きな扉の前に出た。
事前情報で知っている。この扉の中にいるのはCランク”コカトリス”。こいつを倒せば、地上への転移水晶が使える。
ただし、この扉を開けるには30階層の守護者を倒した資格ある者だけ。つまり、この扉は迷宮を踏破した人専用の裏ボスってことだ。
と、いう訳で扉の前を通過して地下への階段へ向かう。
階段の前の広場に陣取っていたのは、ウッドパペット4体、リビングアーマー2体、ガーゴイル4体の混成部隊。多いな
先制で魔法をぶち込んだりすれば、魔術師が狙われてしまう。2人なら強行突破で階段に逃げ込む手が使えるのだが、どうするか。
「南連山の麓は手を出さないでここで待機。あいつらが片付くまでそのままだ」
階段の手前の角に隠れ指示を出す。
「ミジット、階段まで行きたい」
「わかった、先行して槍の角度を変える。一拍遅れてフォローしてくれ」
「了解だ」
ミジットの後を少し遅れて突入していくと、ウッドパペットの槍衾が並び、ガーゴイルが飛び上がる。
通路を抜け広場に入ると、ミジットは横に膨らみ角度を付けてリビングアーマーへ向かった。ウッドパペットの槍がミジットを追って横に振られる。今だ!
「おりゃぁー!」
<ザンッ>
槍がナナメを向いたウッドパペットへ切り込んだ。一体のウッドパペットを槍ごと袈裟懸けに切り倒して、頭上のガーゴイルの下をくぐり裏へ抜けた。ミジットはリビングアーマーを転ばして来たようだ。
そのまま2人で階段へ転がり込んだ。すると、魔物共は興味を失ったように元の位置に戻っていった。
「隙だらけですな」
「いい性格してるよ」
魔物が入れないエリアの前に配置する方が悪い。後方からの奇襲と階段への撤退を繰り返し、階段前の魔物の制圧は危なげなく終わった。
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