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ダンジョン下層:石像を叩いて壊す



「力で押せ!」「え”え”!?」


 ミジットから指示が飛ぶが、金属の鎧を相手に?一体を引き受けるべく身体を滑り込ませるとリビングアーマーは手に持った剣で斬撃を放ってきた。

とりあえず指示通り、斬撃を全力のパリィで迎え打つ。


<カイィィィン>


 思いの他軽い音がして剣が跳ね上がる。隙あり!とっさに突きを放つと今度は<ガインッ>と重い手応え。どうなってるんだ?


「ハアァァッ!」


 おお、ミジットが吠えていらっしゃる。負けられない。


<ガン><ギイン>

「オラァ!」<ゴインッ>


 剣戟を交わして出来た隙に強撃を打ち込むと重い手応え。だが、相手が弱る様子はない。


<キンッ>「セイッ」

<ガイン>


斬撃を受け、払い、切りつけるも受けられ、空いた隙に打ち込む。

効いてないのか?


<ガンッ>

<ガラン>


 だが、何度目かの打ち込みを叩き込むと、リビングアーマーは唐突に崩れ落ちた。


「こいつらなんなんだ?」


 リビングアーマーを倒してミジットに尋ねると、答えたのは背後にいたデニラだった。


「リビングアーマーはアンデッドだが、ほぼ魔法生物だ。魔術攻撃かあんたらみたいにHPを削りきるかだぜ」


 ぬっ!”教えてミジットさん”のコーナーを邪魔しやがったな!


「え?なんでオレ睨まれてる?」


「何でもない、行くぞ」


「わかったよ」


リビングアーマー、めんどくさい相手だ。



 途中、数度の戦闘を挟んだが、いつもよりはるかに戦闘回数は少なかった。さすがスカウトだ。ろくな武器もなしに門までたどり着くだけの事はある。

だが神殿に近づくと、建物が減り避けられない戦闘が増えてきた。


「ギヒャァ」

<ゴン>

「痛ってー!」


 神殿を囲む塀に並ぶ石像。ガーゴイルだ。こいつらは石だけあって硬く、切りつけると手が痺れる。そしてなぜ石が空を飛ぶ。

 リビングアーマーと同じ部類の魔法生物らしいが、身体の部位を壊せば倒せる点は良心的と言えなくもない。ただし、リビングアーマーと違い中身が詰まった石なのでとても硬い。そして飛ぶ。剣で相手する魔物じゃないな。


「走るぞ!」


 囲もうとするガーゴイルを剣で打ち払いながら、間近に見える神殿を目指し走る。なにしろここは迷宮の空が高い。空を飛ばれてはどうにもしようがない。


「邪魔だぁー!」

<ガンッ>「ギヒィィ」


 神殿は周りを囲む柱は闇の神殿をほうふつとさせるが、内部は石壁に囲まれていて通路と部屋に分かれているようだ。


「あと少しだ!」

「ハァハァ、」


 後ろからガーゴイルに追われ神殿の正面に駆け込むと、木の人形が並んで槍を構えお出迎えしてくれた。ウッドパペットってやつか!このままじゃ槍衾に突っ込んでしまう。どうするー!!


 だが、ミジットは迷わず走り込み、<ダンッ>と足を止め、その勢いのままウッドパペットの頭上のシャンデリアのように大きな燭台目掛け剣を投げ飛ばした。


クルクルと回転しながら飛んで行く剣。

<ギンッ>

燭台を吊り下げる頼りない鎖に当たり、大きく揺れた後、

<<ズドン!>>

ウッドパペットの上に落下した。


「ええー!?」

剣投げるの?当たっちゃうの?


「拾う!頼む!」

「お、応!」


 燭台に剣を拾いに行くミジット。一匹も通してたまるか!

踵を返し、難を逃れたウッドパペットとガーゴイル共と正面から向かい合う。


 すぐさま突き出された槍を流し、連続で突かれた2撃を剣の腹で跳ね上げ、さらに追撃の1撃の下にもぐり下からウッドパペットを切り上げた。

4体がかりでもジリド師範代より遅い!


「ギシャァ!」

<ガン>


間髪入れず飛び掛かってきたガーゴイルの石の爪を盾で受け払い、後ろのガーゴイルへぶつける。


<ヒュッ>

<ザン>


横からの槍の一撃に退がり、突き出された槍を叩き切ると、


<ガン>


 そのまま正面から飛んで来たガーゴイルへ突きを放った。連戦の中の突きは動きが止まるが、こいつらは刺さらないから安心だ。

 視界の端にデニラが一体のウッドパペットと取っ組み合いをしてるのが見える。


 再び突き出された槍を盾で打ち払い、槍を切られて体当たりしてきたウッドパペットを袈裟切りにすると、


<ドン>

「うおりゃあー!」


 今度はドロップキックしてきたガーゴイルを盾で受け止め、弾きかえした。

最後のウッドパペットが――ミジットに切られた、来たか!


「待たせた!」

<ガンッ>


 返事をしたいが、ガーゴイル共がさせてくれない。ここはまだ天井が高い。


「こっちだ!」


 走るデニラを時折、後ろ向きで牽制しながら追うと、天井の低い通路に入った。ここなら行ける!


「ギシャシャ!」

<ゴインッ>


 高度の下がったガーゴイルに向け、正眼から体重を乗せた一撃を叩き込むと地面に落ち、崩れ去った。まず一体!


<ガンッ>

<ドン>


 その背後から飛び掛かって来た一体をしゃがんでかわし、下から突き上げるとそのまま天井にぶつかって落下した。


「ふんっ」


そこを腰を落とし叩き切ると、そのガーゴイルも崩れ去った。あと2体!


「だりゃあぁぁぁー!」

<ドガンッ>


 ミジットにたかっていた2体の背後から全力の一撃を叩きつけ、床に這いつくばらせ、さらに一撃をその背中に叩きつけると、さすがに崩れていった。


周囲を見渡せば、とりあえず片付いたようだ。ミジットと頷きあう。


「どっちだ?」


戦闘を見て驚いていたデニラに声をかけると”はっ”として


「こっちだ、近い」


 先導を再開した。さすがにここまで来る冒険者だけあって、言動が機敏だ。

案内され階段を上った先には、通路をウロウロするパペットと、今にも動き出しそうに座るガーゴイル。

デニラが一枚の扉を指さす。これは殲滅しないとダメか。


「はぁ」


 ため息をつくと、肩をポン、とミジットに叩かれた。しゃーない、もう一戦いきますか!


 巡回するウッドパペットが近づくのを待って先手必勝で切りかかり、動き出し始めのガーゴイルに一撃を入れ、通路に2人で横並びで前進し、なんとか扉の周囲を制圧した。


<コン・ココン・コン>


 デニラが扉をノックした。符丁でもあるのだろう。すると、中からガタゴト音がして、内開きに扉が開いた。


 中にいたのは3人の冒険者らしき姿。

長い黒髪に青い目をした若い女性の司祭、20歳頃と思われる金髪をぼさぼさにしたローブの青年、そしてもう少し年上と思われる革鎧装備の茶色い髪の青年の左手と右足は失われていた。血は流れていない、魔法かポーションで傷口は塞いだようだ。失った手足を戻すには”リジェネレート”の高位の回復魔法が必要だ。


「デニラ!よく戻った!」


「ああ、待たせたな」


 中に入り、扉を閉める。障害物を置いて扉を塞いでいたようだ。障害物を戻し、一息ついた。


「南連山の麓か?」


「そうだ、救援感謝する!もう物資もギリギリだったんだ」


腕と足を失った青年が対応した。


「すまないが、救援に来た訳ではない。見ての通り、2人組のDランク冒険者”双連の剣”アジフと」

「ミジットだ」


「そ、そうか、だけどこの戦力なら力を合わせれば脱出できるんじゃないか?」

「そうよ!見たところ二人とも前衛の戦士でしょ?二人前衛が居れば私たちも呪文が唱えられるわ!」


 女性司祭も同調する。


「度々すまないが、我々の目的は脱出じゃない。あくまで30階層の攻略に来たんだ。目標を変えるつもりはない」


「みんな、待ってくれ、お互いの事情を知らないと話が始まらない。俺から説明するから、まずは2人に自己紹介をしてくれ」


デニラが間を取ってくれた。こういう人、助かるね。


「確かに、名乗りもせず悪かった。Dランク” 南連山の麓”リーダーをしていた。エジメイだ」

手と足を失った戦士だ


「ザシル、魔術師だ」

金髪ローブの青年


「メトレよ。見ての通りまだ見習い司祭だわ」

黒髪の司祭さん



さて、どうしたもんだろうか。



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