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ダンジョン下層:剣鬼

※前半はミジット視点です。



 キマイラと正対しつつアジフがジリジリ退く。だが、私はここを押さえなくちゃならない。


 宙に浮かぶキマイラが口を開き炎が集まっていくが、狙いはアジフだ。あいつなら大丈夫。信頼できるパートナーだ。それよりも私を前にこちらを狙わなかったアイツに誰を無視したのか思い知らせてやる。


 炎が集まる間、ヤツは動けない。走り寄りながら腰から解体用を兼ねるショートソード抜き、火球を吐き出したキマイラの翼に向けて全力で投げつけた。


「グガゥ!」


 ショートソードは翼の被膜の一部を切り裂き、空中でバランスを崩した。ふふん、飛びながら翼をたためないようだな合成生物め。

 怒りに満ちた視線がこちらを向く。そうだ!もっとこっちを向け!

確認する間はないが、アジフは火球をかわして走っているはずだ。なんとしても持ちこたえる。


「ほらほら、魔法は打ってこないのか?」


 ヤツのMPとて無限ではないはず。打たせただけこちらが有利になる。挑発に乗らなかったのか、空中で跳ねたキマイラは真上から急降下してきた。後ろに退くが軌道を修正された、ならば!

両手でもった剣を大上段に構え、襲ってくるタイミングで後方に跳びながら振り下ろした。


「ガァウガァァ!」


 ギリギリで頭部をかわされてしまったが、肩口に達した剣の反動を、飛び退いた勢いにのせ後方に着地する。やっと降りたな!地面へ!

 片手半剣を両手で持ち、肩口から血を流すキマイラに向け連続の横薙ぎを左右から繰り出す。振る度に退かれるが、何万回と繰り返した足運びは砂地に取られる事無く剣を前に運ぶ。

 連地流の連撃の型に入った、行ける!横から縦へ、ナナメから横へ振るう剣戟がキマイラを追い詰める。


「ハアァァァー!」


 そのまま壁まで押し付けてやる!アジフが言ってたな、壁ドンって言うんだろ!?

翼を広げたな、飛ぶ気か、だがさせる訳にはいかない!


上段からの切り降ろしで上を抑えてやれば、キマイラは上ではなく後ろへ飛んだ。

剣戟の圏内から逃れ上空へ退避しようとするが


「逃-がーすーかー!!」


 上段から振りきった剣を切り返し、下段から切り上げた剣を途中で手放した。愛用の剣は空中を回転しながら飛んで行き、キマイラの翼をさらに切り裂いた。


<キン>


 近くまできていた壁に剣が跳ね返り落下する。

キマイラは<グラッ>とバランスを崩すが、空中で持ちこたえ上昇に転じようとした。


「待て!」


 その時、フック付きのロープがキマイラの翼に投げられ、先端のフックが回転し翼に絡みついた。

 ピン、とロープが張られアジフが引っ張るのが見える。来てくれたか!


<ズドン>


 仰向けになったキマイラが地面に落下し、土煙が上がる。絶好のチャンス!

迷わず駆け出してから気が付いた。武器がない!拾いに行くか?いや!

目に飛び込んだのはキマイラの腹に刺さったままのスティレット。駆け抜け気味に柄を掴み引き抜いた。


「ガアアァァァー!」


 血が噴き出してキマイラが吠える。仰向けの状態から身体をねじり身を起こした。


「グラァァァ!!」

<パチ><パシッ>


もう一度大きな咆哮を上げ、身体に雷を纏った。雷の範囲魔法か!

――それをこんな近くでさせるワケないだろうが!


 逆手に持ち替えたスティレットを半回転する足運び(ステップ)でキマイラの脳天に突き刺すのと、アジフの剣がキマイラの首を貫いたのはほぼ同時だった。ふっ、さすがだな、アジフ。


 スティレットから雷が<バチッ>とはじけ手を離すと、キマイラ地面に倒れ黒い靄へと還っていった。



 うん、今日の剣はなかなかいい剣だった。いつもこれっぽちも女扱いしないアジフもこれでちょっとは見直せばいいのだ、わ。




************************************************




 扉まで戻りロープを荷物から取り出して戻る途中に見えた戦場は、激しい風で土埃が舞い上がる光景だった。


 キマイラは風魔法まで使えたのか!そんな話は聞いた事がない!

始めに手の内をさらしたように見せかけたのも奥の手を生かす為の伏線だったのか。ミジットが危ない、早く戻らなくては。

焦る気持ちとは裏腹に砂は足を取り、まるでスローモーションのように遅く走っているように感じる。


 だが、もう少し近づいてわかったのは、風と土埃はミジットの連撃が放つ風圧だって事だった。


――剣鬼。身震いと共にそんな言葉が脳裏に浮かぶ。


その圧力にさすがのキマイラも一歩、また一歩と退いていく。うん、わかるわ、その気持ち。


 あ、翼を広げて逃げる体勢だな、気持ちは解るがそれはマズイ。ロープを回し投げる体勢を取りながら走って近づく。

 だが、後ろに飛んで剣の結界から逃れたはずのキマイラを待っていたのは鬼の追撃だった。

 回転しながらキマイラを追う剣は、まるで生き物のように身をよじっているかに見えた。


 ポカーンと見てしまったが、<キン>と壁に剣が当たる音と、空中で身をよじるキマイラが正気に戻した。

 あわてて投げつけたロープは上手く翼に絡まり、ロープを張った。キマイラもさすがの力だが、いかんせん体勢が悪い。


「どっせい!」


 ロープを肩に担ぎ背負い投げで引っ張ると、キマイラは地に落ちた。そこにミジットが突っ込んでいく。のはいいけど武器持ってないよ!?

 だが、腹に刺さっていたスティレットを取りに行ったようだった。あの一瞬でそれを狙う判断の早さ、なんて戦闘センスだ。

 

 眺めている訳にはいかない、剣を抜いてキマイラに迫る。その時、キマイラが雷の範囲魔法を発動した。

 くっ!ここから届くかどうか微妙な位置、だがスティレットを取ったミジットからでは胴体までしか届かない。魔法を止めるには頭部じゃないと――


接近戦の中で、ここしかない絶妙のタイミンでバクチを打って来やがった!これがCランクか!


この剣が届かなければミジットも魔法から逃れられない!届けーー!


 だが、その時見えたのは、まるで時間と重力を無視して逆回ししたかの様な動きでスティレットをキマイラの脳天に差し込むミジットだった。


 え、そこから間に合っちゃうんですか、そうですか。まぁ、こっちもなんとか間に合ったんですが、ええ、オマケみたいなもんで。


 満足げにうなずくミジットさんを見て、この(ひと)には逆らわないようにしよう、そう思った。




 キマイラが黒い靄へ還ると、宝箱が出現した。宝箱を後ろから開けようとすると。


「階層主の宝箱は大丈夫って言っただろ?」


苦笑いされてしまった。


「迷宮は変化するものさ」


 負け惜しみを言って蓋を開けると、中にはいっていたのは4枚の大金貨と、一枚の盾だった。おお!?盾!魔法盾きたか!?


「やったな!」


「鑑定してみるまではわからないけどな、ありがとよ」


 なお、迷宮の清算は戻って換金してからする事にした。ただ、20階層までの階層主のドロップ品は、キジフェイの物は人生で一度しかもらえないので、もらえる事になっている。


 キマイラの魔石はテニスボール程の大きさだった。で、でかい。

階層主のドロップは魔石と宝箱だけだ。どの階層主も同じで、素材をドロップすることはない。


 ボス部屋の奥の扉へと向かう。いよいよ最下層エリアだ。キマイラ戦でまた一つレベルも上がったが、魔物も強くなるだろう。気が抜けない戦いが続くはずだ。



 扉を開け、階段を降りるとそこから見えたのは森、そして城壁に囲まれた街、そして街の中央に立つ神殿だった。



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