ダンジョン中階層:コボルト戦隊
「ハッ」
天井のシャドウスパイダーを上段で切り裂き
「我らが…
ミジットが正面のハイ・コボルトと相対する。おかげで横にできたスペースに入り込み
「攻撃を…
コボルト・モンクを横薙ぎに切り裂き、コボルトアーチャーに向かうと、横から飛び出してきたシャドウスパイダーを盾で受ける。1匹目のハイ・コボルトがミジットに倒され
「……」
やっと黙ったか
シャドウスパイダーを片付けている間に、コボルトアーチャーをミジットが始末し、残ったハイ・コボルトが斧を振ってきた。
「グワゥァー!」
斧は盾で受けたくないが、間合いが短い。軽くバックステップし、振り切った首元へ突きを放った。
「ふぅ、けが人はどうだ?」
周囲を確認し、振り返りたずねた。
「まずは礼を言わせてくれ、助かった。だが、一言言わせてくれ、戦闘では協力するべきじゃないのか?」
けが人について聞いたんだが。あ、言葉通じないタイプか。
「ミジット、問題無さそうだ。行こう」
「あ、ああ」
「道はわかる?」
「ルートに戻れたみたいだぞ」
やはり最短ルートは魔物が少ないようで、なんとか15階層のボス部屋までたどり着けた。扉は聞いていた通り6枚あり、順番待ちは無いようだが周りにいくらかのパーティがいる。こちらもさすがに少し休憩だ。
「15階層の階層主はハイ・コボルトのリーダー、アーマー、アーチャー、シーフ、モンク、ドルイドだ。これまでの様にはいかないぞ」
「うへぇ~ドルイドってのはなんだ?」
「回復術と補助魔術を使ってくる。神官のような役回りだな」
「それはキツイ」
「ここをソロで突破とはあまり聞かない話だからな」
とは言え、相手はEランクこちらはDランク冒険者。迷宮でレベルも2つ上がったし行けるか。
「今度こそ気長に待ってるから」
「遅れても怒るなよ」
さぁ!行きますか!
立ち上がり、一枚の扉に手をかけ
「待ちたまえ!」
えぇ~このタイミングで?
振り返るとさっきのパーティーのリーダーだった。
「まだ何か用か?」
「まさかソロで挑むつもりじゃないだろうな?」
ボス部屋の扉を開けて、中を見て苦笑いをした。ボス部屋が奥行きが長くなっていたんだ。これではロープが届かない。やっぱり修正入ってるんじゃないの?
仕方ない、今回は奇襲は無理か。扉を閉め…れない?
扉の外を見ると、外から扉が抑えられていた。
「待てって言ってるだろ!せめて話を聞け!」
「どんな話だ?」
「ソロで挑むなんて無謀過ぎる!幸いウチのパーティは今一人少な」
<ドカッ>
<バタン>
<ガチン>
蹴っ飛ばして扉を閉めた。それでいいならソロで挑むワケないだろうに。
扉が閉まると、奥の方で黒い靄が形作っているのが見える。現れたコボルトはすでに臨戦態勢だ。ドルイドらしきコボルトなんてもう魔法唱えてるんじゃないの?
…
…扉の前で待って見る。
あ、ドルイドの魔法の光が消えた。近づいてみるか。
ある程度近づくと、こちらに迫ってきたので、走って扉の前まで戻ると、最初に来たのはシーフだった。距離あるのに、さすが速いな。
「ガウァ!」
<ガインッ>
勢いの乗った短剣の一撃はさすがハイ・コボルトだ。だがそれでも人の大人よりはやや小さい。盾で短剣ごと殴りかえし、のけぞった腹を横薙ぎに切り裂いた。
次はモンク、その後ろにアーマーか、アーチャーは射程には入ったがまだ構えてないな。
素手のモンクは拳ではなく、鋭い爪で攻撃してくる。動きも早い、近寄らせると厄介だ。
「ハァッ!」
近寄らせる前にこちらから間合いを詰め、横薙ぎに広く剣を振るうと、剣先が顎に当たり横に吹っ飛んだ。
「ガウッ」
返す剣で棍棒を持って襲いかかって来たのはブレストプレートを着たアーマー・ハイ・コボルト。その首と腕を切り落とす。胸鎧が金属になってなんだって言うのさ。
「おっと」
<ヒュンッ>
アーマーさんの身体の死角からアーチャーが狙っていたので、しゃがんでかわすと頭上を通過する矢の音が今までと一味違う。パワーもそうだが、弓も強化されてるようだ。
ドルイドが到着して魔法の態勢に入ったな。しかし、ゴブリンもそうだけど、なんでリーダーは一番後ろで偉そうにしてるのか?ルールでもあるのか?
ドルイドに向けて全力ダッシュする。間にさえぎるコボルトはもういない。
アーチャーの射線にドルイドを挟みまっしぐらに詰めた。間に合うか?
前方に突き出した手から黒い何かが出る直前に、走る勢いをのせた逆袈裟を低い姿勢で振り切った。
血があふれ、ナナメにずれる下半身をラグビータックルで担いでアーチャーへトライ。すぐ飛び退き、黒い靄になった元ドルイドの下にいたアーチャーを大根切りに潰した。
「グルルルル」
「タイマンだな」
身を屈め、片手剣を構えるコボルトリーダーに向け剣を突き出す。
<ガンッ>
「ぐはっ」
後ろ横腹に衝撃を受け前にたたらを踏むと、リーダーが切りかかってきて咄嗟に盾ごとぶつかり込んだ。もつれる様に倒れ込み、ケモノくせぇ!飛び退いて見渡す。何が――
あ、モンク、生きてたのか。
完全に油断してた。肋骨折れたかな。剣を落としたのでショートソードを抜くと脇がズキッと痛んだ。
モンクは下あごが吹き飛んで血をだらだら流しながらも目はこちらをにらんでいる。もう吠える事もできない。
ジリッジリッと後ろに下がる。コボルトリーダーはさっき落としてしまった剣を拾い両手に剣を持ち、ニヤリと、笑った気がした。
<ザッ>
モンクが前に出て、爪を揃えて突っ込んで来る!
かかった!確かに肋骨痛いが、この程度日常茶飯事なんだよっ!手刀を盾で弾き返す。
<キン>
と音がして、空いた胸に下からショートソードを心臓目掛け突き刺した。
「グガゥッ」
ズルっとモンクの身体がずり落ちる、その背後からリーダーが両手の剣を振り降ろしてきた。
ショートソードを手放し、<トン>と後ろに退がると、上段から振り切った片手半剣の重さに振られ、剣が地面にささり、頭が前につんのめった。そんなに簡単に二刀流できる訳ないだろ。
下がった頭をハイキックで蹴り飛ばし、地面に落ちた片手半剣を拾い
<ズブリ>
仰向けから起き上がるハイ・コボルトリーダーの額に突き刺した。
「あ痛ててて」
ポーションベルトからポーションを抜いて飲み干す。
日頃痛めつけてくれる師範代共に感謝しなくては。
宝箱があらわれ、今度は盾を構え正面から開けた。
何事もなく開いた中にはズシリと重い布袋と、…ん?こ、これは!?
ま、まさか…銃か!?
明らかにグリップと思われる握りに、似合わないサイズの大きな砲身の出口は少し狭まっているようだ。魔法銃ってやつだろうか?
ゴクリ
本来ならまずは魔道具屋に鑑定に出すべきだろう。呪いの品だってあり得るんだ。
だが、金属製の銃身の重みが男の本能を刺激する。これを試さずにいられるだろうか?いや、無理だ。
充分に距離のある空間に銃口を向ける。ご丁寧についている安全装置が期待値を上げる。
そして引き金を引いた!
引き金は<カチッ>と固定され、銃身から<フオォォォォ>と音が発生!発生…して?何も起きないぞ?
恐る恐る銃口を下に向けると土が舞った。風が出ているようだ。ん?この風…温かい!?ま、まさか!
銃口に手を当てると温かい風が出ていた。
あ、うん、ドライヤーだ、これ。
ミジットにでもあげるか。
布袋には金貨がずっしり入っていた。ほうほう。
とりあえずドライヤーを袋に入れ、金貨の入った布袋を鞄に放りこんでボス部屋を出る扉を開くと、そこにあったのは通路ではなく下に降りる階段だった。
…やっぱり対策されてるんじゃないの?
疑惑は限りなく確信に近くなった。




