表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/65

手元で回転するアレ



「することが無い」


 正確にはできる事がない、だ。迷宮講習に鎧無しで行くわけにもいかないし、依頼も受けられない。

仕方ないので、宿で素振り、魔力操作の訓練とする。

迷宮錠で鍵開けの練習もカチャカチャしているが、鍵が開く気配はない。


 時間があったので、闇の曜日に神殿に行ってみた。

初めて行った神殿はパルテノンな外側の中に木造の建屋が建てられ、中は昼だというのに窓がなく薄暗い。ぽつぽつと並ぶロウソクの明かりが幻想的だ。


 参拝の日だけあって、多くの人が列になり、メムリキア様の神像に祈りを捧げる。

メムリキア様の神像は中央の形は教会と同じだが、周囲を囲む造形が波打ち小さな球とつながるような形状になっていた。

 入り口に経典が売っていて、神像の前に跪いて読み上げる。お経の聖書版みたいな感じかな。覚えなくていいのは楽だ。

 

(メムリキア様、色々ハプニングもありますが、相変わらず異世界は最高です。イビッドレイム様、ステータスは心の支えです。いつもありがとうございます)



 参拝を終えて出口へ向かう列に続くと出口にも売り場があり、護符を売っていた。それはなるほどって程度なのだが、神職の女性の法衣が非常に気になった。

 黒一色の昔のスケバン並みに長いスカートに、リボンはないが大きめの襟はセーラー服風味に見えなくもない。頭にはふんわりとした帽子だ。

眺めていたら、見知らぬ男性に後ろから声をかけられた。


「神殿の法衣、良いですよね」


「ああ、良い」


無言で握手をして別れた。

同志に言葉はいらない




 そんな事をしても、まだ時間があった。

そしてヒマにまかせて思いついてしまった。


部屋の中で魔力操作訓練してないで、歩きながらすればいいんじゃないの?


これだ!

そして上手くすれば、体中の魔力を活性化して身体強化!なんて事になるかもしれない!これは試すしかあるまい。


まず魔力を動かす。

そのまま立ちあが…れなかった。


 これは相当な難易度だな。

立ち上がろうとした瞬間には魔力が固まっていた。


次は立ったまま魔力を動かす。

足をそ~っと…出せなかった。


 魔術師が詠唱中動かないのには理由があるという事か。

だが、彼らも微動だにしないわけではない。単に魔力操作のレベルが低いだけかもしれないが、何かあるはずだ。


 今度は手を上にあげた状態で魔力を動かす。

そのまま魔力を動かしていると、あ、だんだん手が下がって…魔力が固まった。

 なるほど。どうやら、体が動かせないのではなく、魔力を動かす意識が外れると魔力を動かせなくなってしまうようだ。


 外に出て、しばらく歩く。普段どうやって歩くかなんて意識していない。意識していなくても歩けるなら、歩きながら魔力操作に集中できないかと思ったんだ。


 歩きながら魔力を<ドンッ>


「あ、すいません」

「気をつけろッ」


 すぐ人にぶつかってしまった。この方法は問題があるな。


 次に向かったのはギルドの訓練場だ。軽めの木剣を借りて素振りを始める。


 素振りをしていると、剣に集中できずに雑念が混じる時がある。そんな時、考え事をしながらでも素振りは続けられるのだ。身にならないが。

しばらく素振りを続け、集中が途切れる頃、逆に魔力操作に集中する。


…お、ほんの少し


「おい」


…魔力操作の訓練を始めた頃のようにほんの少し


「おいっ」


<カンッ>

剣を止められ我に返る。いつの間にか下がっていた目線を上げると、目の前で剣を止めていたのは女性だった。


「剣筋がバラバラだった、それじゃどれだけ振っても上達しないぞ。」


 おお、どなたかしらないがご親切な事で。あと少しだったのに。だが、たしかに剣の修練としては見ていられないだろうし、剣筋に変な癖がついてもいけないな。


「ありがとうございます、少し思うところがあって剣を振っていました」


 茶色の髪をした、身長は170cm以上はあるだろう、女性にしては体格のいいが、切れ長の目をした美人さんに礼を言う。


 木剣を訓練場に戻し、手頃な鉄の棒を選び素振りを再開した。

女性はあきれた顔をしていたが、それ以上何も言って来なかった。

 

 それからも素振りを続けたが、やはり無意識に動いている状態なら難易度はかなり高いが、ほんの少し動かせるようだ。


 気が付くと、周囲は真っ暗になっていた。


 翌日、鎧の寸法合わせに行き、その後道具屋でペンを買ってきた。羽ペンの軸の部分を削ったり差し替えたりして使う物だ。インクは持っていないが、書くわけではないので問題ない。


 使い方はペン回し。

授業中にやって怒られるアレだ。丁度いいペンを選ぶのに苦労した。両端に重りを増やしバランスを取り、すでに字は書けない。


 素振りでもいいのだが、はっきりいって目立つ。そして昨日振り過ぎて筋肉がバキバキで今日はできそうにない。


 そこで無我の境地でペンを回しつつ魔力操作を訓練する試みだ。

まずは無心になるまでペンを回す。…なぜだろう、すごく落ち着く。


 今ならできる気がする!魔力の操作に意識を集中する。

…おお、これは!素振りよりもはるかに動かせる!


ん?楽に動かせるって事は訓練になってないって事か。


 次はMPを減らしてやって見よう。

生活魔法でMPを減らし、ペンを回しながら魔力を動かそうとした、が

魔力の動きが速くなると、指先の動きが狂ってペンを落としてしまった。これは…難しい!素振りとは別の方向で難易度が高い。


 これはこれでいい訓練になりそうだ。室内でできるし。


 翌日、ギルドの訓練場で素振りしながら魔力を動かしていると、突然に魔力が動かしやすくなった。

 ステータスを確認すると


「よしっ」


 魔力操作がLv2からLv3へ上がっていた。



 鎧の引き渡し日になったので工房を訪ねた。


 キラーアントの鎧はなんといっても軽い!叩いてみると、<カンカン>と乾いた音がする。そして革鎧ほど磨かなくていいらしい。強い打撃には革鎧より脆いらしいが、斬撃にはかなり強い。

無骨なデザインと黒い色で見た目がごつくなったが、仕方あるまい。


 早速ギルドへ行って迷宮講習の申し込みをすると、次の開催は明後日だった。



 1日空いたが、1日では依頼もこなせない。翌日に疲れを残したくなかったので、軽い素振りのみで宿へ戻った。


 その夜、ステータスを確認していてリバースエイジのリキャストタイムが明けているのに気が付いた。


「来たか――!」


 ついに来た!今のMPは43。リバースエイジはLv3で37歳なので25歳くらいまでは若返れる!

 25歳と言えばお兄さんだ!おっさん脱出だ!ひぃゃっふぅ!


 まずは王都で剣術を学ぶにしても、今までの様におっさん扱いされずに済む!その日はなかなか寝付けなかった。


 案の定、翌朝はぎりぎりに起床して、慌てて装備をととのえてギルドに走った。なんとか間に合った!

息を整えながら今日の参加者を確認した。人数は自分以外で3人。15~16くらいだろうか、とても若い。3人はパーティのようで、男3人組だ。


 こちらを見て、なにやら相談して3人で近寄ってきた。


「迷宮講習参加者です、今日はよろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


 大変礼儀正しいが、確実に勘違いしてるな。


「すまんが、オレも講習参加者だ、だがこちらこそよろしく頼む」


「「「え゛っ」」」


「ほら、なんか違うって言ったろ!」

「お前だってあんな歳の参加者いるはずないって言ってたじゃねぇか!」


「迷宮の無い土地から来たんだ。勘弁してくれ」


正確には迷宮の無い世界だが。


「お、集まってるな。今日の講習を担当するウジトだ1日の講習になるが、よろしくな」



ギルドの担当者がやっときたようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ